2009年01月24日

先生は、インフルエンザに麻黄湯を使うことについて、反対なのですか?

前回の続き

折り返し頂いたメール:先生、ご安心ください。
 先生のブログでどうこうではないと思います。

 実は先日、あるところでシブシブ当番当直したとき、あるドクターから
”今日はA型が多いけど、タミフルを止めて、麻黄湯を使ったらどうかな?”
と意見を求められ、反論したわけです。

 彼には私が言っていることがよくわからなかったらしく後日、某メーカーさんに尋ねられたのでしょう。
 気の短さをこらえながらお話しましたが、しょせん平行線ですね・・・・徒労に終わるだけでした(-_-;)

 私がもし男だったら、先生みたいにズバズバ言いたいナ。
 女だてらに口が過ぎるのは見苦しいので、辛抱しています。(笑)

 今年は例年より雪が少なく、その分、風が冷たいですね。
 こちらは腎が冷えている方が多いです。
 表証で寒邪が強いのですが、化熱もあり入裏しやすい方が多く、初期に温裏散寒+疏風清熱の組み合わせが目立っています。

 そんなわけで、麻黄附子細辛湯と銀翹散を併用する例が多いのですが、あの方たちには、理解されないどころか、”ヤブじゃないの?”と言われかねませんねっ!


御返事メール:お返事ありがとうございます。ちょっとだけ安心しました。
 そういう事情だったとは、大いに納得です。

 でも、とても興味深い話で、同じ医者でもヒゲジジイの身内には、世間のお医者さんたちよりも漢方知識は豊富なはずのその医師は、患者さんに漢方薬を要求されても、決して出さないそうです。専門家ではないからと実に謙虚です。

 漢方の弁証論治がそれほど甘くないことをよく知っていればこそのことのようですが、そいう医師こそ、可能な部分から投与して、もっともっと習熟して欲しいものですが、謙虚過ぎるにもほどがあります(苦笑。

 こちらも風邪の季節ですので、天津感冒片や涼解楽(いずれも銀翹散製剤ですが)、板藍茶や白花蛇舌草、配合比率の理想的な葛根湯製剤など異常な売れ行きを示していますが、すべて常連さんやお馴染みさんの常備薬です。異常に売れている割にはまだ誰も風邪を引いたという報告がないのです。

 そんじょそこらの専門家よりも常連さんたちの知識は豊富です。皆さん予防がうまくなって、滅多に風邪を引かないし、引いても処置が早いので、すぐに治っているようです。

 先生の地方では興味深い配合が目立つようですが、こちらでは過去の例では初期だけは葛根湯製剤に天津感冒片の適量で軽症のまま治っている人も一部におられますが、葛根湯製剤すら不要の人も多いようです。

 葛根湯に適量の銀翹散製剤についても、こそこそと批判する中医学派もどきがおられますが、先生もヒゲジジイと同類ですね(笑。

 杓子定規な教科書中医学の域から出れない人は縁なき衆生です。
posted by ヒゲジジイ at 00:27| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2009年01月22日

ストレスだらけの漢方相談

おたより:超美人の女性薬剤師

 ご無沙汰いたしております。
 ブログを拝見し、先生も高血圧から脱却されたとのこと、おめでとうございます。
 歩いたり、自然に身を任せるのは、実に爽快なことですね。

 実は私も、昨年12月・・・
 先生流に、なかなかピントが合わず微調整に苦しむ方(しかも遠方の方ばかり)が続いて、耄碌した頭を悩ませ、不眠の日が続きました。

 頭のふらつきに耐えられず、血圧を測ると、(188,110)
我が家は伝統的な卒中家系で、私は卒中のサラブレットです。
 右足の感覚が悪く、靴やスリッパが脱げて仕方がない・・・・などの微小梗塞症状が続き、”何とかせにゃ!”
 と思っておりました。

 ちょうどその頃、主人も会社のメタボ検診にひっかかり、1年以内に何とかしないと、リストラの対象になるとか・・・で大慌て。
 12月11日から、夫婦そろって万歩計を購入して、せっせと歩くようになりました。

 お正月も歩き三昧・・・。
 お陰様で体重が6キロほど減り、血圧も(120,80)まで安定してきました。
 頭のふらつきや、足の違和感も20日目くらいから消えました。

 今年はお天気が比較的良いので、自宅〜薬局まで8.5キロ歩いて出勤です。
 帰りは、主人が自宅から歩いてこちらへ向かい、途中で合流して自宅に戻る・・・と言った具合で一日17キロほど歩いています。

 不思議な物で、犬と同じで、歩きたくてたまらず、雨の日や雪の日はションボリ・・・・かわりに薬局で踊っています。(笑)

 変わったことといえば、とにかく熟睡できるようになったこと、夜中にトイレに起きなくなったこと、気の巡りがよくなったことなどです。

 この仕事は、一日中ほとんど座りっぱなしで、頭ばかり悩まさなくてはならないので、ある意味キツイですね。
先生も素晴らしいストレス解消法があり、よろしいですね。

 それにしても、あれだけよく動く鳥を、あんなにも鮮明に撮ることができて、凄い腕ですね・・・。
 普段は、遠くからしか眺めることができないので、”こんなに綺麗な生き物なんだなぁ〜”と感心してしまいます。
 これからも、楽しみにしております。

遅くなりましたが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。


お返事メール:おたよりありがとうございます。
 先生もかなり繊細なのですねっ! 繊細なのはヒゲジジイだけかと思ってました(笑。

 身体を動かすのは本当によいことです。
 こちらではデジ一のお陰で、高血圧完全治癒と思っていたら、本日ばかりは連日の多忙と、頭に来ることと、ボクチンが恋に浮かれて二日間帰ってこなかったので不眠の二晩が続き、多忙な昼間に久しぶりに160の血圧に一瞬ふらつきました。

 三日間の疲労が溜まって閉店後は夜10時まで寝込んで、以後は120レベルに戻ってほっとしています。

 連日の忙しさは、当方も毎日遠来者の新しい人が続くのと、補充注文の人達が重なるので、とうとう水曜日はぶっ倒れそうになるまで疲労が出てきました。

 頭に来たことは、昔からよく知る人物に、当方の漢方でアトピーがほとんど治っている人の処方内容を支離滅裂な中医学理論で批判されたことです。
 結果が伴ってないケースで批判されるのなら、甘んじるところですが、明らかな結果が伴っている配合に、再発させかねない六君子湯や温清飲まで奨めながら、もっとも基本になる六味丸を否定されたのには唖然とするばかり。

 中医学を指導して回る人物でもこのレベルだから、村田漢方堂薬局がいまだに潰れるどころか、千客万来にならないように、受け入れを選別しまくっている現状が納得できます(苦笑。

 そうはいっても、やはり一部の不定愁訴症候群や、焦りの強い心の問題が大きく絡む分野は、明らかに不得意だと昨今感じているところです。

 進行癌や転移癌の人達が、心が据わっている立派な態度と比べて、命に関わる病気でもない不定愁訴症候群の一部の人達の焦りようには、ついて行けないものを感じる昨今です。

 ともあれ、先生もかなり危ないところまで行っていたようですが、神経を消耗する相談業務もほどほどにっ!
 ヒゲジジイの薬局のように、もっともっとご相談者を絞り込むのも一つの健康法かも・・・とアドバイスしなくても、きっと既に実行されていてのことでしたよねっ!


おり返し頂いたメール:おはようございます。
 目の回るような、お忙しさ、お体大切になさってくださいね。

 それにしても、支離滅裂な批判には腹が立ちますね・・・・・。

 こちらも、調剤薬局や病院を回っている某漢方メーカーが突然やってきて、”先生は、インフルエンザに麻黄湯を使うことについて、反対なのですか?”

 といきなり切り出され、貴重な時間をとられて憤慨したところです。

 今日一日、気持ちの良い日であることをお祈りしております。


ヒゲジジイのお返事メール:それにしても先生のところへ「インフルエンザに麻黄湯を使うことについて、反対なのですか?」と切り出す某メーカーさんの教養レベルが疑われますねっ!

 先生がヒゲジジイだったら、さしずめ「オメ〜っ、バッカジャナイノ〜〜〜っ!」と頭ごなしに喝を入れているところでしょうねっ(笑。
 きっと同様なことをさりげなくなさったことと信じていますが(笑。

 ふっと考えてみれば、そんな質問をされるということは、当方に転載させて頂いているブログの内容から、先生がどなたかを突き止めているということなのでしょうか?

 くわばらクワバラ、今回からは地方名は記載しないことにします。
いまさら遅いかもしれませんが、申し訳ないことでした。

 でもこちらにはまだその某メーカーさんは、喧嘩を売りに来ないのですが、なぜでしょう?
 学問的なことであれば、売られた喧嘩は真っ向から買ってあげますのにっ!

 しかしながら、あの連中には弁証論治はおろか、随証治療の考えすら念頭にないように見えますので、まともな話にはならないことでしょう。
posted by ヒゲジジイ at 21:06| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年11月06日

山本巌先生の漢方医学について

性別: 女性
年齢: 30歳〜39歳
簡単なご住所 : 関西地方
具体的な御職業: 薬剤師
お問い合わせ内容 : 村田先生
 お忙しいところ恐れ入ります。質問がありますので、お願いします。

 私は、漢方薬局に勤めている??歳の薬剤師です。職場の方から先生のHPを教えていただき、とてもおもしろく、唸りながら、読ませていただいております。
 私は10年前に漢方を始めたものの楽しさを見出すことができずに挫折して西式健康法や代替医療などを探求するものの、自分の芯がないため、結局中途半端な知識で、かえって混乱するというひどい状態に陥りました。

 2年半前に中国人中医師とご縁をいただき、その偏りのない学識の深さ、人間的にも懐の深い魅力的なところ、患者さんに対する真摯な態度からとても学ぶことが大きく、自分は全く話にならない存在だと痛感いたしました。
 反面、周りの方のその先生に対する執着や嫉妬うずまく状態に、自分の胃腸が悪くなり、身をもってストレスの恐ろしさを思いました。

 夫の転勤により、また新しい漢方薬局で働き始めましたが、書物や周りのことから謙虚に学び取っていかれる方もごくたまにおられますが、良い師に恵まれるということが、私のような凡夫にとっては、どれほど重要なことかも思い知りました。
 村田先生のHPのおかげで、助かっています。

 質問は、山本巌先生の漢方医学についての村田先生のご見解を教えていただきたい、ということです。私にとっては、漢方はまさに、日暮れて道遠しで、それでも諦めきれず爪の先でぶら下がっているのですが、山本先生の書物がとてもわかりやすくて好きなのです。
 山本先生のお弟子さんである先生方は、これぞ新しい医学で、中医の理論は素晴らしい部分と妄想の部分があり、妄想のところは切り捨てねばならないとされていますが、私もまだ全然わかっていませんが、中医理論の奥深さを知った上のことか、日本人に理解しがたいからそうなるのか、本当のところがわかりません。

 確かに解剖学や病理、病態に関して想像の部分はあるにしても、そんな安直ではないような気がするのです。山本先生は、慢性疾患や難病に駆お血剤をとても上手に使われたとのことですが、痰、気滞、食積などはどうなるのでしょう?と単純に思うのです。

 といいますのは、亡くなられた断食の甲田光雄医師に夢中になった時があり、色々と物議をかもされてはいますが、生菜食で難病を克服されている方々の体験を聞くことができたからで、漢方薬の使い方も、いかに身体にダメージを与えずに要らないものを出した上で、本来の健全な身体の働きを取り戻せるかが大切なのではと愚考するのです。

 結局は、村田先生のように、西洋医学の優れた点も取り入れつつ、古典や書物から原文で自分で読み取る力をつけるべく、地道に努力するしかないと観念しています。
 中国人の先生から、10年読まなければ読んだことにならない、とか、とくに中薬学の本は、ボロボロになるまで読み込むとか、教えていただいて、基本や古典を大切にした上で新しく改良してゆくという学問に対する姿勢をみることができました。この年になって知るのも悲しいですが、それでも、知ることができて、有難かったと思っています。

 ごちゃごちゃとまとまりがなく、申し訳ありません。お忙しいことと存じますが、山本漢方医学に対してのご見解を、お聴きかせ願いたいと思いましたが、愚問でしたら、捨て置き下さい。お願い申し上げます。益々のご活躍をお祈り申し上げます。

山本巌先生の著書

お返事メール:山本巌先生の後世に残した学識は、補中益気湯が幼児のアトピー性皮膚炎に有効なケースが多いことを最初に発表された先生として強く記憶に残っています。臨床家としてもウチダ和漢薬さんなどを通じて、とても評判がよかったことを伝え聞いていました。日本人向けの漢方薬を様々に工夫考案された先生として高く評価すべきだと信じます。

 翻って中医学については、基本理念はあくまで陰陽五行学説であり、五臓六腑を中心にした蔵象学説を重要視すべきであり、構造主義科学理論としての認識が必要だと考えています。⇒ 構造主義科学としての中医漢方薬学

 ですから、中医学理論は妄想があろうとなかろうとっ!・・・中医学そのものは優れた構造主義科学理論としての認識をもちつつ、あとは臨床実践の中から自身で肉付けしていくべき問題だと思います。

 中医学の基礎理論を構造主義科学理論として学ぶには、陳潮祖先生の「中医病機治法学」こそ、最高の書籍だと思っています。

 但し、このような書籍類はあくまで教科書なのですから、あとは学習者の応用力、応用実践力は、みずから思考して複雑な病態を分析する能力を身に付けなければなりません。
 多くの症例を経験しながらでなければ、現実に存在する複雑な病態に対応した適切な方剤を考案することはなかなか難しいものだと思っています。

 ですから、愚鈍な小生ごときはまだまだ毎日が右顧左眄の日々で、ようやく一人が解決しかかったと思ったら、また今日も新たな難問をかかえた新しい御相談者に悩まされる日々が続く、その繰り返しで一生を終わらなければならない、蟻地獄のような日々を送っています(苦笑。

 なんだかぜんぜんまともなお返事になってませんが、若い頃はまずは専門書籍の乱読と臨床実践の繰り返しで泥沼にはまらなければ、なかなか方向は見えて来にくいものかもしれません。
 少なくとも断定できることは、中医学は立派な「構造主義科学理論」であり、ある部分では西洋医学よりもはるかに科学的であるということも忘れてはならないと思っています。⇒ 中医学と西洋医学━中西医結合への道

陳潮祖先生著の「中医病機治法学」および「中医治法と方剤」など

折返し頂いたメール:お問い合わせ頂いた女性薬剤師のご都合により全文削除
posted by ヒゲジジイ at 11:51| 山口 | 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年10月24日

様々な意味で、なんじゃこりゃ〜の漢方薬

おたより: 東海地方の美人女性薬剤師

 今日は、最近のこちらの様子のご報告です。
 ここ2週間ほど、柴胡桂枝湯が飛ぶように出てゆきます。
 こちらでは、少陽の病の方がとても多いです。

 通常、春先に多い症状ですが、今年の夏は暑くてクーラーで冷えた方も多く、かえってクーラーを使わないこの時期の方が、暖かい・・・つまり、冬から春へ向かってゆくような反応なのかもしれません。

 いずれにしても、通常陽〜陰へ入れ替わってゆく時期にあるせいか、体側部の病気がこちらでは多いです。
 すなわち、偏頭痛、耳鳴り、扁桃炎、耳下腺炎、三叉神経痛、肋間神経痛、坐骨神経痛・・・・など

 今日は、右耳に電気が走るような痛みが続き、痛くて眠れなかった方が来られました。

 病院で診ていただいたところ、神経痛だと言われ、ジヒデルゴット、ブルフェン、メチコバールが処方され、1週間飲んだが、全く変わらず、痛みで何もできない・・・・
と言うことでした。
 痛くてたまらず、こともあろうに湿布までしておられました。

 舌をみると、冷えと湿があります。
 昼間は暑いので、冷たい水分を摂りすぎていたところ、夜の寒さが手伝い、寒湿の邪が少陽の経絡を犯した・・・というふうに見て取れましたので、葛根湯+五苓散+柴胡桂枝湯を処方しました。

 薬局で飲んでいただき、温灸で耳を温めてから帰られたのですが、家に着いたころには痛みが全くなくなり
まさに”ナンジャコレ〜”だったようです。

 柴胡桂枝湯は、この時期、私も娘も好んで飲んでいます。
 朝、ちょっと寝冷えっぽく、体がだるく起きるのがしんどいようなとき、柴胡桂枝湯を煎じて飲むと、また一日働く気力がわきます。
 親子で体質が似ているようです。

 新型インフルエンザ対策も必要ですね・・・・。
先生のところは、まつ子先生が万全を期してご用意されているとのこと・・・・安心ですね。
 こちらは、からっけし準備していないです・・・すぐに食料も底をついて、真っ先に飢えるタイプかもしれません。

 最近では地震雲もよく出ており、何となく不気味です。

 先生のような腕はありませんし、バカチョンヘッポコカメラですが、屋根に上がって雲を撮りまくっています。(笑)


お返事メール:おたよりありがとうございます。
 柴胡桂枝湯もさることながら、当方では昨年来、加味逍遙散がやけに目立ちます。これほどありきりな処方を今年になって滅多矢鱈に販売する事態に驚いています。

 多くの人は保険漢方などで服用済みのものなのに、製剤が異なれば、これほどの違いが出るのかと驚愕しています。

 併用方剤の違いが大きく影響していることは当然のことながら、そのようなケースがあんまり続くと気味悪くなってきます。先日は難病の男性にも中心方剤として販売したほどですから・・・ストレスの多い時代とはいえ・・・ストレスと言えば、最近、こんなこともありました。

 アトピーで当方の漢方を利用されている男性が、胃の調子までよくなって喜んでおられたところ、もともと胃痛持ちだったのが、最近、再び繰り返すのでピロり菌検査でも受けるに進言し、同時に四逆散のエキス製剤を併用してもらったところ、中途半端な効き目で、やはり繰り返しています。
 検査にはなかなか行かれず、ストレスの多い職業の方だから、四逆散証に間違いないので、製剤の品質上の問題や濃度の問題も考えられるので、文字通りの「四逆散」の散剤とエキス剤を併用してもらったところ、劇的に効いて雲散霧消です。

 そのまま継続服用してもらっていますが、証が合っていても製剤の品質や製剤内容の問題は、本当に無視できない重要問題だとあらためて感じたものでした。

 ところで先生はナンと雲っ!
 雲をつかむようなと表現されるその雲が写真のターゲットですかっ!?
 趣味の世界というものは何とも不思議なものですね。

ヒゲジジイは一度狙った対象は、ハチでも蝶々でも、無駄打ち覚悟で数百枚はあらゆる角度から撮影せずにはおれません。裏庭でアカタテハを見つけた早朝には、数百枚を機関銃のように写しまくったものでした。

 雲は面白いものですか?
 雲の写真にはあまり興味は持てないのですが、惹かれる所はどのようはところか、いつかお教え願えればさいわいです。


【追記】 本日早朝の被写体は、五月を二倍する十月らしく五月蝿く五月蝿く喚き散らす ヒヨドリ 数百枚は撮りたいところだったが、数枚撮ったところで飛び去ってしまった。こちらの殺気が伝わり過ぎた。
posted by ヒゲジジイ at 15:21| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年07月30日

猫や犬にも効果があった漢方薬のおはなし

おたより:東海地方の内科医師

 いつも示唆に富むブログを拝見しています。

 個人的に興味深い患者さんとそのペットを経験しました。
 70台のご婦人ですが、再生不良性貧血のため病院の専門内科へ通院してみえるかたです。耳鳴りと頻尿があり不眠とのことで受診なさいました。

 例によって根堀り葉堀り問診をして型のごとく診察を行い、十全大補湯1包と牛車腎気丸2包を処方しました。2週目に再診されたときに、「最近よく眠れません」とおっしゃられ、娘さんいわく、「老齢の猫がいるのですが、夜になると全く寝ません。
 体がえらそうでお世話しないといけませんので。動物病院に連れていって診てもらっていますが、どうも腎臓がよくなくて末期のようです。」とのことでした。

 ダメもとと思い、高齢のご婦人に「漢方薬はご自分で飲んだあとに多少余っているのではありませんか」と伺ったところ、「すこしですが溶かした余りが湯のみの底にあります」とのことでした。
 そこで、「あまっている漢方薬を猫に飲ませてみてはいかがでしょうか」とお勧めしたところ、「一度試みてみます」とお返事でした。

 本当に猫に与えるとは思っていませんでしたが、その次の再診のとき、ご婦人いわく、「猫が眠れるようになりました。おかげで私たちも不眠から解消されて調子がいいです。漢方薬をどんどん飲んでくれました」と感謝してくださいました。

 猫の詳しい弁証は不明ですが(猫はしゃべってくれませんので)、効果があったことは明らかです。
 動物病院でも漢方薬結構いいかもしれません。いろいろ要求の多い人間と違って素直に効果が現れるかもしれないと愚考しました(笑)。


お返事メール:興味深い体験、ありがとうございます。
 漢方薬を服用する猫ちゃんは立派ですね。

 常連さんの高齢の雌犬のあらゆる病気を当方の漢方薬で治療されている方がおられます。先日も甲状腺機能低下と診断されたのに補中益気丸と牛黄+人参の配合製剤で短期間に回復したと喜んでおられました。

 足がへなへなになった冬には八味丸系列の方剤で治ったり、高齢になれば人間様と同じような処方がペットも同様に効果を示すようですね(笑
posted by ヒゲジジイ at 09:56| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月30日

鍼灸師の熟練による肺熱の手触り

おたより:北陸地方の鍼灸師

 今晩のブログ(注記:昨日のブログを指す)にありました、肺熱などの区別は触診などで判明するものでしょうかという事が書かれていましたので、私が知る範囲での鍼灸治療の判断を書かせていただきます。

 確かに相当熟練してきますと手触りで判断つくようです。師匠が生前、胸を触りながら、局所から肺熱の処理をしていました。
 しかし触診だけで断定はしていませんでした。

 症状の訴えと合わせて、直に胸を触って確認しているという感じでした。

 ただ、胸でもどこでも適当というわけではなく、特に強く感じるところに刺していました。
 ただこの処置は局所的で、それと肺熱を処理するツボもセットでやっておりました。

 私的にはいろいろな診断法で確実に裏付けした方がよいとかんがえています。
 たまたま興味のある内容だったのでメールさせていただきました。


御返事メール:貴重な情報、ありがとうございます。
 早速、近い将来のブログに転載させて頂きたく、宜しくお願い申し上げます。


【編集後記】 肺熱と肺陰虚が同居する辛夷清肺湯証の体質者が、折々に葛根湯証を呈する人に時々遭遇する。
 理論的には一見有り得ないような現象が、現実にはそれほど珍しくもないのである。

 つまり、肺熱肺陰虚の体質者でも外来因子により一時的に風寒束表を呈することがあり、逆に日頃から葛根湯証体質者が一時的な熱化により時々辛夷清肺湯証を呈することも珍しくない。

 五臓六腑のそれぞれの寒熱に流動性が顕著な人から軽度な人まで、人によって様々であるのと同様である。
posted by ヒゲジジイ at 00:03| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月24日

漢方医学の聖典「傷寒論」には理論構成が書かれなかった真の理由

おたより: 関東地方の内科医師

独り言です。

 黄耆と言えば…表血を巡らす感じ?
 加えて腎臓が後腹膜にあり表裏の中間の実質臓器。
 とすれば…虚血により起きる腎不全には可で…
 充血によるものは不可?

 または全く逆かもしれない…。

 早く本を書け!とか言われそうな?(笑
 Good Night ! (-。_)。。o〇


御返事メール:たとえ先生の独り言でも意味深長な内容ですので、今回ばかりは強引に(笑)ブログに転載させて頂きますっ!
早く本を出版されるべきですっ!!!!!!!!!!!!!!!!!
追記:黄耆の補気作用は実質的な補血をもたらす。それゆえ虚血により生じる腎不全に有効でも、充血によるものは不可では?とされる推測は妥当かもしれない。


折り返し酔っ払い先生から頂いたメール:
梅酒で良い気分で〜す。(^^)v

 ん〜傷寒論って不思議な本なんですよね。
 張仲景先生は何を思って…あんな構成にしたんでしょうかねぇ〜?
 あれだけの本を書く人なのに何で中身の理論構成を書かないのかなぁ〜?
 書こう思えば書くだけの力はあるのに何ででしょうねぇ〜?

 何かの思惑があるような…。
 自分に取っては傷寒論の最大の不思議を感じる場所なんですねぇ〜。
 とても不思議…。張仲景先生は何を考えたんでしょうねぇ〜?

 酔っぱらいの戯言でしたぁ!
 単なる酔っぱらいですから…気にしないで下さいねぇ〜(笑
 村田先生、眠れなくなったりして…(笑


ヒゲジジイの的確な御返事メール: 傷寒論医学は異病同治のお手本です。
 それ以上に深く考えないようにしています。
 それ以上のことは傷寒論を研究される学者さんたちにお任せします。学者さんの真似をいつまでもしていたら、老い先短いジジイには、目前に迫っている日々の仕事に支障を来たします(苦笑。

 実はですね〜〜〜、どうして張仲景さんが理論を書かなかったかというと、実際のところは、木簡にする資材が足らなかったからなのです。
 ご存じなかったでしょう〜〜〜〜(笑。



折り返し頂いたメール:さすが先生!

>木簡にする資材が足らなかったからなのです。
 なるほど〜!(^o^)/ハーイ

 如何に理論的な解析が出来ても臨床とは離れていますものね…。 理論解析をして思うことは…今の人達が病気の本質を知る必要があったんだろうか?
 病気と闘って泣いているのが人の姿として自然なのではないか?
とか考えてしまいます…。

 また、理論的な背景が書かれていたら傷寒論は今に残らなかったのでは…と感じます。

 明日はお休みで…クーラーが壊れたので秋葉原で買ってきますね。 
 酔っぱらいにお付き合い頂き有り難うございました。
 感謝しております。お休みなさい。
posted by ヒゲジジイ at 00:00| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月21日

肝気虚証について(五臓それぞれに気虚があり、剛臓である肝もその例外ではない)

おたより:東海地方の女性薬剤師

 梅雨の湿っぽい気候ですが、いかがお過ごしですか?
 本日は、私事で恐縮なのですが、ご報告いたします。

 先回の月経周期で、排卵を過ぎたあたりから、胸がパンパンに張り、乳頭が少し下着に触れただけでも、飛び上がるほどの痛みで、不快な日が続きました。(こんなことは若い頃以来、久々です)

 舌は淡紅ですが、舌尖、舌側はいつも赤く、歯形があります。
舌全体に薄白苔があり、奥のみ、淡黄苔 表面(特に真ん中)は湿が多く光っています。

 また、いつも気になるのですが、舌尖が、ハート型にへこんでいます。

 若い頃、肝欝でよく胸が張りましたが、ここのところ特にイライラや胸の痞えなどはありませんでした。
 それよりも、夢ばかり見て、熟睡できず、夜中に3回ほどトイレに起きる昼間、気力が萎えることがある、持病の坐骨神経痛が冷えて湿の多い日に痛む等の症状がありました。

 若い頃の胸の張りが、加味逍遥散でとれていたので、服用してみましたが、全く変化無く、柴胡疏肝散を煎じて飲んだところ、かえって張りがひどくなる始末・・・・。
 これは、肝欝でなく、肝気虚では・・・・と思い、黄耆建中湯を服用(黄耆をプラスして一日10グラム服用)したところ、半日で胸が柔らかくなって、痛みが軽減されてきました。

 そういえば、ここ2ヶ月ほど、毎週水曜に、定期便で来られる患者さんがあり、大変に気と神経を消耗する方で、決まって帰られた後に、吐き気やめまいがしてしばらくフラフラになっていました。
 あちらは元気になる。こちらはバテるという具合に・・・。
 そこで今回、来られたとたんに、黄耆建中湯を服用したところ、まったくもって大丈夫でした。

 やはり、歳とともに、虚してきているのですね・・・(淋)
 月経の方もいつになく、ショロショロで終わってしまいました。
 本格的に老化対策せねばならないようです(-_-;)


お返事メール:やっぱり流石に肝気虚証をご存知とは恐れ入りました。
 中医学を学んだ専門家でも、肝気虚や脾陰虚などに疎い先生方が多い中、実に恐るべし・・・です。

 実は、以前、「中医臨床」誌に翻訳連載していた当時、瞿岳雲先生著「中医理論弁」の連載として 中医学主要翻訳集 ここに転載している続きとして、「五臓にはいずれも気虚があり、肝も例外ではない」という原書で9頁に亘る詳細な肝気虚証の論説を翻訳する予定だったのですが、あることからプッツンして連載をやめてしまいました。当時からすでにプッツンジジイの面目躍如足るものがありました(苦笑。

 また、日本では肝気虚や脾陰虚などについて現在では廃刊?となっている「THE KANPO」に神戸中医学研究会の先生方がしばしば取り上げられていた記憶があります。

 神戸中医学研究会で思い出したのですが、2008年06月11日 活字の重複 この活字の重複をご指摘下さった先生は、当時の「中医学基礎」や一世を風靡した「漢薬の臨床応用」を翻訳されたメンバーのお一人です。

 ますます話は飛躍しますが、活字の重複をご指摘下さったものの、原因が分からず、同じIE6のブラウザでありながら、http://mkanpo.exblog.jp/3531673/ の部分、当方での視認においても印刷においても⇒ http://www.mkdy.net/ka1.html のようにすべてすっきりと字の重なりはみられませんが、ご指摘下さった先生のブラウザで見える画像は⇒ http://www.mkdy.net/ka.html であるとファックスで送って頂いたものです。

 設定をデフォルトにもどせば、すんなり解決するのでしょうが、それでは活字が小さくなるので思案しているところです。

 それはさておき、先生が肝気虚にまで陥られた心労の原因は、まさか以前、当方からお願いして面倒を見ていただいた方が原因ではないかと心配しています。

>そういえば、ここ2ヶ月ほど、毎週水曜に、定期便で来られる患者さんがあり、大変に>気と神経を消耗する方で、決まって帰られた後に、吐き気やめまいがしてしばらくフラ>フラになっていました。
>あちらは元気になる。こちらはバテるという具合に・・・。

 患者さんに精気を奪われて早死にする医療関係者も多いという変な噂を耳にしたことがありますが・・・精魂込めたお仕事もほどほどに、我が身をお大切になさって下さい。


折り返し頂いたメール:決して先生からご紹介いただいた方ではございませんので、ご安心ください。
 あの方は素直で、また意外にもユニークな方でした♪

 ガンが再発し、抗ガン剤とのいたちごっこをしているような患者さんには、
”何故、私ばかり・・・・”
”自分がこんな風になり、人は笑っているだろう・・・ああ悔しい”
というような毒を吐かれる方があり、薬局の空気も濁るほどです。
 ・・・・・・・・・・。
 こちらも徹底的に衛気を固めねば、やられる感じです。
 しかし、漢方と養生も必死で頑張っておられるので、放り出すわけにも行きません。(苦笑)

 先生は、多くの難病の患者さんの弁証をされ、精力的にお仕事なさっており、流石です。

 私はてんで、修行がたりません。
 玉屏風散製剤をもっておらず、それだけを、とることもできないようなので、煎じで頑張ってみます(笑)

 先生のブログ用ノートが2冊目に入りました。
 勉強させていただき、感謝いたしております。


ヒゲジジイのお返事:繊細な男性には漢方の腕前はもとより「美しい」先生こそうってつけだったのでしょう。ご迷惑をおかけしているのでなければ安心しました。

 つい先ほども、昨日来られた新人さんからのメールで、

>ブログで読んで想像していた『ヒゲジジイ』(失礼)さんよりも、
>実物はとても優しい先生と奥様でしたので、安心しました(^^;)

 と書かれていましたが、これからするとやはり当方のブログやサイトは、よほど頑固ジジイ丸出しであることが、あらためて再認識させられた次第でした(苦笑。


悲しい編集後記:ヒゲジジイは精力的に仕事をこなしているどころか、毎日まいにち新人さんが続くので、緊張感が取れない毎日で、虫の息吐息の状態で、へとへとの日々が続いているのだった(涙。
posted by ヒゲジジイ at 07:16| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月19日

白虎加人参湯証の貴重な御報告

おたより: 関東地方の内科医師

 今ではアトピーの治療で頻用されている白虎加人参湯なんですが…昔(もう15年以上前ですね)、これを使って著効を得たことがあります。

 熱が下がらない患者さんで…しっかりとした体格の患者さんでした。皮膚は肉厚な感じです。
 
 あらゆる治療をしても解熱せず…夕食の時にファミレスで湯本求真先生の本を読んでいたら…「白虎加人参湯の適応症は皮膚がバラ疹の様に赤みがさす」と書かれてあり、ふと患者さんのことを思い出すと…皮膚全体がピンク色をしたバラ疹の様な感じでした。

 これは行けるかもしれないと自宅にあった白虎加人参湯の錠剤を砕いて水にといてやり…吸い飲みで飲ませたところ、あれ程の発熱が一日にして解熱しました。
 と同時に、その患者さんの右腕が肘関節の所で曲がってしまって伸ばせなかったのが…「よっこいしょ」とか言って伸ばすんですね。ほんと驚きました。

 腸の熱は筋肉の緊張と関連が深いんですよね…芍薬甘草湯なども、この関連を利用した漢方薬であると感じます。

 その患者さんは、数年後に再度自分が受け持ったんですが…最後の言葉が「また…あの薬が飲みたいな」でした。心の中で泣きました。病状からして白虎加人参湯ではないのですが…別の漢方薬をあげようにも、あげられる時間もなく亡くなって行きました。

 自分の出来ることと言えば…「決して無駄にはしないから許して欲しい」と心で思うだけでした。

 白虎加人参湯の適応症はガッチリしていて皮膚の肉厚がある感じですね。白虎は陽明の主方ですから…かなり腸の熱があることが条件には違いありません。
 その条件にアトピーの患者さんが入っていれば治るのかもしれませんが…アトピーを長く患っている患者さんで、それ程の肉厚があるとも思えず、白虎加人参湯をアトピーの患者さんに使う場合、今一度考えてみる必要があるのかもしれませんね。


お返事メール:貴重な症例のご報告、ありがとうございます。
 本来なら先生の御高著に入れられるべきところを一足先?に当方のブログに転載させて頂ける事を心より感謝申し上げます。

 白虎加人参湯は、昨今、アトピー性皮膚炎に盛んに使用されていますが、この方剤による治験例がとてもご豊富な先生は、「近代漢方」を提唱された元近畿大学医学部の故遠田裕政先生のようでした。ネットで調べると遠田先生の治験例が豊富なカラー写真付きで拝見できるようです。

 しかしながら、小生の経験ではアトピーにおける白虎加人参湯証に遭遇した経験はほとんどありません。きっと鈍感で見逃しているのかもしれませんが・・・。

 また、上記の故遠田先生とは一度もお会いしたことはないのですが、月刊「和漢薬」誌にはいつもお隣同士で連載を持っていたのでとても思い出深いものがあります。
 また先生が誤解された中医学批判も展開されたのに対して、反論文を発表したこともあります(苦笑。

 その反論文を喜ばれて某大医学部の某教授から長々とお礼のお手紙を頂いたことも懐かしい思い出です。

ところで、
 
>夕食の時にファミレスで湯本求真先生の本を読んでいたら…
>「白虎加人参湯の適応症は皮膚がバラ疹の様に赤みがさす」

とありますところは「フャミレスで」というのに思わず笑ってしまいましたが、湯本求真先生の「バラ疹の様に赤みがさす」という的確な表現といい、先生の患者さんの様子が「皮膚全体がピンク色をしたバラ疹の様な」というこの「ピンク色」というニュアンスこそ貴重な白虎湯系列の重要な症候表現の一つであろうかと思われます。

 なお、白虎湯系列の方剤は陽明気分の病変としてとても有名ですが、この理論を覆そうとされる興味深い議論もありますので、御紹介申し上げます。
肺経気分の病変に対する白虎湯系列の方剤

 つまり白虎湯系列の方剤を肺経気分の病変に対するものとする比較的詳細な論説です。
これまでの陽明気分の病変とする定説と比較検討されると意味深長で興味深いものと考えます。
posted by ヒゲジジイ at 06:49| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月13日

老衰末期の段階における漢方薬の可能性

おたより: 関東地方の内科医師

 最近…経管栄養が盛んになってきて、老衰になり物が食べられなくなった方には経鼻チューブや胃瘻による治療が主流になってきました。
 このことに関しては問題点も感じざるを得ないのですが…それは機会があったときにお話することとして、そんな患者さんの末期の症状に注目したいと思います。

 体力が落ちた方に、無理矢理…食事を胃に入れると痰が多くなってくるんですね。痰が多い患者さんに限ってお腹の力が落ちていてお腹はペチャンコです。
 これは何を意味するでしょうか? 「体力が下がってくると気管支炎にかかりやすくなるんです!」なんて説明する医師も多いのでは???

 これを東洋医学的に考えてみると…胸とお腹のアンバランスに起因する症状ではないか?と推測することができます。胸は胸郭に囲まれており…痩せても、その体積を保っています。
 一方、お腹は骨に囲まれていないことから…痩せればペッチャンコになります。また…水は体の熱い部分に移動し、体全体のバランスを取ろうと動いているように見えます。

 と言うことは…胸が熱くなりお腹が冷たい時は…水が熱い部分に移動して全身のバランスを保とうとするという運動が起きることが予想されます。胸に移動した水は…「痰を出す症状」となる可能性が大きいと思います。

 次に漢方的に考えるとすれば…生脈散に注目できます。この生脈散は麦門冬、五味子、人参により成りたっています。
 麦門冬と五味子は胸以上に水を巡らせ、人参によりお腹を温めます。これは…胸とお腹のバランスを崩している症状に対して有効な処方であって、胸とお腹のバランスの大切さを教えてくれるような感じを受けます。
 加えて…胸が熱くお腹が冷たいという状況で頻脈が起きやすい(生
脈散の主症状)と言うのも、心臓の症状が全身の変化の一端として現れていることの証明になると感じております。

 体は素直ですよね。
 そんな体の素直さを裏切らない治療をしなくてはいけないと感じます。
 いつも全身を診なくてはと痛感させられます。先生を見習って頑張ります!


お返事メール:胃瘻につきましては、小生も高齢の複数の身内に関連した問題で深く感じるところがあります。

(中略)

 ともあれ、ご提示されておられる胸とお腹のバランスにおける生脈散証に関わる詳細なご見解、大変興味深く拝読致しました。ご専門がご専門だけにっ! 
 してみるとあるいは、矢数道明先生のご高著『臨床応用 漢方処方解説』の325頁に掲載される「生脈散合真武湯」が適応するような状態なのでしょうか?

 もしもこれらの漢方処方により胃瘻を免れるレベルに回復できるものなら・・・小生がそのような段階の患者さんに接する機会があるのは高齢の身内の者だけです。

その点では先生はその第一線におられるわけですから、漢方処方投与による臨床例のご報告を頂ければ幸いです。


折り返し頂いたメール: 胃瘻に関しては・・・(以下省略)
posted by ヒゲジジイ at 10:13| 山口 ☀| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月04日

整体観にもとずく審証求因について

おたより:東海地方の内科医師

 整体論にもとずく病態の理解は個人的にも興味深いです。
 患者さんの病状が改善することを一義的な目標にして診療をしていると、おそらく現代の医療を支配している西洋医学的手法に限界を覚えるのは当然と思います。さまざまな症状あるいは診断された疾患の背景について洞察することは極めて有意義と思います。

 最近経験した患者さんで大腸ポリープのかたも数多ある例のうちのひとつかもしれません。
 全身の倦怠感、ほかさまざまな症状にて受診されました。一応、その時点で自分に可能な弁証をおこない投薬しました。そして、定期健診にて大腸ファーバーを実施するときになりました。

 患者さんは癌といわれるのを心配してみえましたが(ポリープをいつも指摘され切除されていました)、今回はひとつも指摘されることなく、また、先回の検査でしてきされていた微小なポリープが消失していることが判明し担当医はびっくりしていたそうです。

 中医薬学的なアプローチは深遠です。


お返事メール:
 整体観は、陰行五行学説とともに中医学のもっともエッセンシャルな部分だと思います。

 中医学における病因論は、直接審因(疾病を生じさせた直接的な根本原因の探究)のみならず、もっとも重要で西洋医学には見られない特長がこの整体観にもとずいた「審証求因」という考え方です。

 この審証求因については、私淑する陳潮祖先生の論述がもっとも参考になると思います。以下、補足を加えた拙訳を引用して参考に供したいと存じます。村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』からの引用。

●審証求因

 先人は長期の臨床実践の経験から、一種類の原因が多種類の結果を生み、一種類の結果は多種類の原因から生じるものである、と認識していた。
 このため、中医学では因果関係の多様性と流動性を極めて重視するのである。

 つまり、疾病のあらゆる因果関係を弁証対象とし、その因果関係を弁証的に結論づけるもので、単に外因の作用から病理現象の発生・発展・変化の原因を探究するばかりでなく、臓腑機能の盛衰と基礎物質の盈虚通滞などの状況から、病理現象の発生・発展・変化における多種多様な原因の総合的解明を重視する。
 かくして中医学特有の「審証求因」という独自の観点が形成されたのである。

 この「審証求因」は、一種の間接的な審因方式で、局部的・静止的観点による分析方法とは異なり、人体を有機的な統一体であると同時に天地と相応じるものとして捉える「整体観」と人体を流動的な生体そのものとして捉える「動態観」という視点から、各種の複雑な病理現象を分析し、総合的な帰納を行って疾病が発生・発展・変化する原因を推理して結論づけるものである。

 このような病因観は病機と一体となっており、それだけに直接審因の解明の場合に比較して、それぞれの特定段階における病変実質の解明内容は、いかにも漠然としたものに見える。
 とはいえ、複雑な因果関係をなしている病理現象に対し、総合的な帰納を行って導き出す病因の推論であるから、因果関係の複雑性・多様性・弁証性を反映させることができるのである。

 このように、審証求因という弁証方法は、臨床実践を有利に導くものとして優れた威力を発揮することができるものなのである。

—月刊「和漢薬」掲載⇒村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』

 以上、整体観にもとづいた中医学特有の病因論でした。
posted by ヒゲジジイ at 11:40| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月02日

気と津液の流通ルートとしての少陽三焦について

おたより:東海地方の女性薬剤師

ご無沙汰しております。
 先生の少陽三焦論を読ませていただき、痒いところに手が届いたような気持ちになっております。
 いつも三焦について、非常に不可思議な感を覚えていたのですが、最近こんなことを考えました。

 それは、少陽三焦経とガンについてです。
 結論から申しますと、正常な細胞が、ガン細胞に変化するとき、一番深く関わっているのは、少陽三焦経なのではないか・・・?ということです。

 三焦という場所は、気精血津液の大きな通路で、外部環境をまるごと察知し、それに適応できるような内部環境を形成してゆくような感じがしています。(うまく表現できないのですが・・・)

 例えば人の体は、埃の多い処に住めば、鼻毛が伸びてくる・・・・などその環境に適応するために進化してゆくわけですが、それを司っているのは三焦なのでは・・・と考えております。

 人類は、太古の昔から、飢餓にさらされており、それに耐えられるような体に仕組まれてきました。
 ところが、ここ半世紀ほどの間に、全ての人が王様のような食事ができるようになり、血中には余分な糖や脂質がだぶついている現象が起きてきました。

 誰もが知るように、余分な糖分は、糖尿病の合併症のごとく、血管毒、神経毒となり様々な病気を引き起こしてゆきます。
 つまり、高濃度の糖は正常な細胞にとって生きにくい環境です。
それで、高濃度の糖があっても生きられる細胞、そのような条件下でどんどん繁殖できる細胞に、生き残りをかけて変化したのが、ガン細胞のように思えております。

 うちにこられる、ガン患者さんをみていますと、三焦に気滞、痰湿、おけつのいずれかをもっておられ、手少陽三焦経の中渚、外関、翳風などのツボにも、強い反応がみられます。
 三焦の衛気の力が弱まり、同時に食事やストレス等の邪により、三焦の環境が汚れてくると、ある一定のところまでくると、細胞が生き残るための緊急用スイッチが作動して、変異が起こってくるのでは・・・などと思いを巡らせています。(ガン細胞は、気滞、痰湿、おけつが大好き)

 そこで、ガンの方の場合、弁証論治をもとに、扶正と去邪のバランスを考えながら、処方していますが、少陽の引経薬を少量用いることで、もっと効果があがるのではないか?
と考えている次第です。

 まとまりのないお話をしてすみませんでした。
 あれやこれやと愚考している最中ですので・・・・。
 先生は、ガンと三焦経については、どんなふうにお考えになりますか?
 お時間ありますときに、教えていただけたら、嬉しいです。


お返事メール:少陽三焦理論については、陳潮祖先生独特のお考えがあるようで、少陽三焦は気津の流通ルートであると断言されています。

 『中医方剤と治法』を書かれた時代には、まだ一般的な少陽三焦の考え方に近く、気血津液の流通ルートであるとされていました。

 ところが、ヒゲジジイがのめり込み、翻訳書を出版する寸前まで行った『中医病機治法学』では、血の流通は脈管や経絡に譲って、気と津液の流通ルートとして血は除外されています。
 小生自身も、この方が少陽三焦の特長をよく掴んでいるものと信じています。

 『中医病機治法学』の出版競争で他に先を越された時点で、東洋学術出版社からは上述の『中医方剤と治法』の翻訳を依頼され、短期間で8割を終えた時点で、少陽三焦が気血津液三者の流通ルートとして繰り返し出て来る矛盾には、どうしても合理性および整合性の点で、ひどい自己矛盾に陥るので放り出してしまいました。

 やはり陳潮祖先生の著作では『中医病機治法学』や、その後に発行された分厚い方剤学書『中医治法与方剤』で述べられる少陽三焦理論こそ真理に近いものと確信しています。

 しかしながら、膜原と腠理(そうり)から構成され、気と津の流通ルートである少陽三焦における気滞や痰濁閉阻の問題が、血瘀と絡んで痰瘀互結(痰瘀交阻)により悪性腫瘍が発生しやすくなることは充分に考えられることだと同意します。
 癌は痰湿・瘀血・気滞が合体して生じるものであると従来から指摘されていることですが、このことに間違いはないと思います。

 ところで先ほど、と言っても昼下がりのことですが、隣県の勉強熱心な医師から電話があり、癌や代謝系疾患や腎不全で生じる腹水の問題について、補気建中湯や分消湯などの質問がありました。
 病院名だけを名乗られて、ご本人の名前までは自己紹介されないのでやや怪訝ではありましたが、以前はあれほど漢方薬を蔑ろにし、医学・薬学としても頭から否定していた多くの医師の方々が、漢方薬に目を向け始めた昨今、実に隔世の感があります。

 虚実中間証という表現には思わず言語矛盾だから中医学に目を向けるようにいらぬお節介までアドバイスしてしまいましたが、老兵(ヒゲジジイ)がそろそろ退散するに当たって、日本の多くの医師たちが、漢方薬にこれだけ関心を持ち始めたことは、実に慶賀すべきことと心から祝福しているところです。

 でも、まだまだ現状では漢方薬局で販売される弁証論治にもとづく自費の漢方こそ、ここ当分は続くだろうと感じていますが、数十年後には、どうなっているか分かりません。
 あの幼稚な日本漢方に中医学理論を導入しない限りは、当分先のことかもしれませんが・・・


折り返し頂いたメール:少陽三焦理論について、とてもわかりやすく解説していただき、本当にありがとうございました。

 本によって、気血津液の通り道とあるものと、血が除外されているものがあり、疑問を感じていたところです。(勉強不足で誠にすみません)気と津液といいますと、ますます自律神経系やリンパの働きを想像します。
 今後、三焦について、もう少し観察してゆきたいです。
 どうぞよろしくご指導くださいませ。

 また、先生がおっしゃるように、漢方に目を向ける医師がとても増えてきましたね。
 アメリカでも、漢方や鍼灸等の中医学が取り入れられてきているようですが、我が国もそのような流れになってゆくのでしょうか・・・?
そうであれば、とても喜ばしいことです。
まだまだエビデンス漢方主流の日本ですが、これでは本当の漢方の力が発揮できませんね。

 私が知っているドクターは、中医学を勉強された漢方医で、自費診療で開業されていますが、それでもいろいろな縛りがあるとのことで、”薬局さんが本当に羨ましい”と言われています。

 そうかと思えば、来年度より、登録販売士なる資格が施行されると、一般OTCの他に、漢方エキス剤も自由に販売できるようですが、何かとてつもない矛盾を感じますね。

 漢方相談といってもその実力にはピンからキリまであるわけで、このような内情をご存じない一般市民はお気の毒としか申しようがありません。
 先生、老兵などとおっしゃらず、まだまだ吠え続けなければならないような気がいたしますヨ。
 私も微力ながら頑張らねば・・・と思っております。
posted by ヒゲジジイ at 08:16| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年04月16日

急性の下痢や軟便によく効く胃苓湯(平胃散+五苓散)

お問い合わせ: 東海地方の内科医師

前略 いつも大変お世話になっています。
 先週の土曜日に下痢をしました。元来やや便秘気味ですが、それ以後軟便がでるようになり、食事をすると比較的すぐにトイレに向かいます。排ガスも多い印象です。

 現在人参湯を服薬しています。
 舌はやや淡紅で多少黄色調かなどうかな、という感じです。微妙です。
 ご助言くださいますと幸いです。診療中にはさほど頻回にトイレにはいかないで済ませたいです(笑)。


お返事メール: 一般的な下痢や軟便は、とりわけ急に最近生じたという急性的な場合は特殊な体質や事情がない限りは、ほとんど胃苓湯で速効です。
 あまり体質を考えずに急性下痢症には、水瀉性でなくともよく奏功します。病名治療を行っても良いくらいの胃苓湯です。

 某漢方薬の大国にしばしば会社を上げて出張する人達が、きまってその某国で食事をすると皆が下痢になります。
 そこで当方から錠剤の胃苓湯製剤を持って行かれて全員が速効で直ぐに治るそうです。

 だから村田漢方堂薬局では胃苓湯製剤が好評でよく売れていました。でも、最近出張が少なくなったので、販売量が減っています(苦笑)。

 毎晩晩酌でビールを多飲するために長年の下痢症状の人も、この胃苓湯製剤だけで治りました。

 下痢が止まらず死にかかっていた老犬もこれで治りました。黄連入りの胃苓湯など、胃苓湯そのものには各社特長がありますが、通常の下痢、軟便程度であれば、どのメーカーの製品でも十分に奏功するものと思います。

追伸:小生自身の胃苓湯経験談

いつになく下痢と食欲不振で胃苓湯を服用

↑こういうこともありましたっ


折り返し頂いたメール:いつもすみやかにお返事くださいましてありがとうございます。さっそく内服してみます。

 それにしても茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)はいろいろな効果があってすばらしいです。
posted by ヒゲジジイ at 12:08| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月14日

中医学における少陽三焦の解剖学的なイメージ



昨日の続き

折り返し頂いたメール: 血管系統および血液循環ということでは、心・肺・肝・腎・脾の五つの臓による協調の結果であるということは大変興味深いことです。
 もっとも以前読んだ中医学の書籍のなかに記述がなされていたことをふと思いおこしました。いかに書籍の理解が自分のものになっていないかが分かりました(苦笑)。

 そうしますと、西洋医学的な他の臓器あるいはその臓器系の働きを理解するうえで、同じようなことが当てはまるのでしょうか。ひょっとすると成書に記述されているのかもしれませんが。

 なお、全く関係ないことで恐縮です。本日の夜、横浜は熱くなっていることだと思いますが、ちょっと遠くて参加できません。TVでの観戦になります。


ヒゲジジイのお返事メール:中医学的な臓腑概念を西洋医学的な概念に当て嵌めることは、かなり無理があると思います。過去、西洋医学の解剖学的な臓器の命名に東洋医学の五臓六腑の名前を転用されたことが大きな誤解の元だと思います。

 また、中医学における五臓とは単に解剖学的な臓器そのものをいうのではなく、構造と機能を系統的に分類する考え方が大いに反映されており、同一系統における内在関係を重視するとともに、各系統間の密接な関係も重視したもので、人体を有機的な統一体としてとらえる「整体観(整体観念)」に貫かれております。
追記:この整体観(整体観念)こそ構造主義科学

 ともあれ、今回頂いた先生のお便りがきっかけで、以前、中医学における解剖学的な分析を模索していた時代を思い出しました。

少陽三焦の組織構造私見(実体が無いと言われる少陽三焦の組織構造モデル!)

 これは少陽三焦の組織構造私見ですが、この中に書いていますように、あらゆる臓腑や経絡・諸器官(気管・血管・卵管・尿管など)の実質は、膜が円形に管道を形成した無数の集合体である筋膜で構成され、精気血津液という五種の基礎物質が運行出入する通路となっている。つまり、筋膜組織内の管道中を営血が流通し、管道外の間隙を津気が流通するのである。 とありますように、愚見では臓腑や経絡・諸器官(気管・血管・卵管・尿管など)の実質は、すべて肝に属する筋膜組織で構成されているという考え方をしております。

 但し、前回のメールで追伸の前に記しましたような「筋肉を覆う膜原は確かに肝ではあっても、筋肉自体は中医学的には脾に属します」という一般論を敷衍して、臓腑も経絡も諸器官(気管・血管・卵管・尿管など)にも、当て嵌めても、問題はないように思います。
 すなわち、臓腑も経絡も諸器官も実質は脾に属し、それらはすべて肝に属する膜原に覆われているという考えです。

 このようなかなり得て勝手な妄想を巡らせるにせよ、中医学を学ぶには個人個人にとって理解しやすいオリジナルなイメージを作り上げて学習した方が、理解しやすい場合が多いように思います。
 このことはまた解剖学的な実証科学とは異なる構造主義科学としての中医学の大きな特徴でありかつ特長ではないかと思っています。  

 今夜は、まぐれでもよいから勝って欲しいものです。小生もTV観戦です。
posted by ヒゲジジイ at 00:11| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月13日

血管の平滑筋細胞の中医学的問答



お便り:東海地方の内科医師

 いつも有益なご助言を頂きましてありがとうございます。最近の内科の先生とのデイスカッション興味深く拝見しています。

 お陰さまで私の血圧はほぼ正常化しています。西洋薬プラス漢方薬(釣藤散、八味丸)にて良好なコントロールが得られています。

 ここで、個人的に興味深かったことがあります。初めは著名な血圧の専門家のご助言に従ってある高圧薬を内服開始し、その効果は緩やかでした。もちろん、事前にそのことも伺っていました。同薬の内服を継続し、ある時点で八味丸を開始しました。
 
 村田さんはご存知と思いますが、私は目の問題、といっても些細なことですが、から釣藤散も服用していました。釣藤散と高圧薬を服薬してしばらくして八味丸を併用したことになります。
 ここでは最大血圧はかなり低下していましたが、最小血圧がまだちょっとというレベルでした。ところが、数日すると最小血圧があきらかに低下し始めたのです。そして、平行して最大血圧も改善しました。それ以後結構いい感じです。

 ここで私は以前漢方の指南いただいた先生の言葉「血圧は腎への配慮が肝要です」をいまさらながらに味わっているところです。
 組織学的に西洋医学でいう腎は血管の集合体のようなものですから、血圧と腎の関連は理解できるところです。また、血圧に重大な影響を及ぼすホルモン(レニン・アンギオテンシン系)が腎などから産生されるという最近の知見はその裏づけといえるかもしれません。

 組織学の教科書を視ますと、血管はその内側から血管内皮細胞、内弾性板、平滑筋細胞、外弾性板、結合組織から出来ているとのことでした。ここででてくる血管内皮細胞は動脈硬化性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)において重要な役割を担っていますが、その由来となる細胞(血管幹細胞)は血液細胞を造る元となる幹細胞(造血幹細胞)とその起源が同じであると理解されているそうです。ごく最近(数年)の見解みたいです(個人的にはなんとかついてゆけているレベルです、笑)。

 どこかの中医の書籍で血液細胞は腎に由来するとの記述を思い出しまして、血管とその中を流れている細胞は腎で包括できるという中医的な概念が、現代の西洋医学の枠でいう組織生物学の最新知見と合致するのかもしれない、と愚考したわけです。ある意味、西洋医学の進展が中医に追いついたという感じもします。

 血管の平滑筋細胞の恒常性に働きかけることは、動脈硬化性疾患とか血管が関与する病態の治療の上で何か意味があるのではと、これまた愚考しています。

 ここで、お伺いしたい点ですが、筋肉と聞くと、単純に肝が思い浮かぶのですが、村田さんのお考えをいただければ幸いです。


お返事メール:高血圧が改善され、何よりです。小生の高血圧も地竜の大量使用と茵蔯蒿湯の大量使用、八仙丸(味麦腎気丸)、田七、丹参、釣藤散などで安定しています。また、夜の一杯の薄いコーヒーも効果的です(苦笑)。
 このたびはに関する大変興味深いお話。
 卑近な例でも塩分を控えるだけで治ってしまう高血圧患者さんも多々見受けます。

 筋肉についての小生の考えですが、筋肉を覆う膜原は確かに肝ではあっても、筋肉自体は中医学的には脾に属します。
 ただ、あらゆる筋肉組織には縦横にめぐる膜原と腠理との関連性はとても重要です。
http://mkanpo.exblog.jp/3557456/
 膜原(まくげん)は臓腑や各組織器官を包み込む膜のこと。
 腠理(そうり)とは、膜外の組織間隙のこと。
ということです。

 現代医学で言う筋肉は、中医学的には肝に属する膜原に覆われ、筋肉そのものは脾に属する肌肉というわけです。

 ところで、中国では以前から中西医結合を目標とした腎病の現代的研究が早くからなされ、様々な西洋医学的な解明が行われているようです。
 ブログには日本での翻訳された書籍を交えて画像を貼り付けておきます。

 小生も興味深くのめり込んだ時期もあるのですが、これに深入りすると却って西洋医学的な思考に引っ張られ、繊細な中医学的な細かな弁証論治を端折ってしまいがちになるので、ここ10年以上、これらの本を開くことはありません。

 中西医結合的な課題は理想ですが、ややもすると西洋医学知識に洗脳されて、逆に中医学の本質が歪められ、中国では中西医結合は失敗だという意見も多く聞かれるようです。
http://blog.livedoor.jp/cyosyu1/archives/50354832.html
ここにも報告がありますように、
中国では中医学の再評価の動きが高まり「中西医結合」は中医学の発展にあまり芳しくないことから、今後の発展方向に議論が高まっているというS先生の記事は大変興味深い。
 SARSが流行したときも「中西医結合」で育った若い世代よりも、中医学に長じた老中医が活躍したことなど、示唆に富むお話である。
とあることは象徴的です。

 (自分の不勉強の言い訳めいて恐縮ですが、愚息が学生時代に大学院に入る以前の学生時代に免疫系の研究が━略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略━。
 小生は親ながら愚息に対抗して最先端の免疫学の専門書を多数読破したこともありましたが、深入りしても中医漢方薬学にそれほど役に立たないので二度と免疫学の本を開くこともなくなりました。
 中医学的思考訓練には、通り一遍の西洋医学基礎知識で十分ではないかと、いまはやりの怠慢を「偽装!」的愚考で誤魔化しております(苦笑)。)

追伸:サッカーボケしていました。

 同じ筋肉でも血管系統は、中医学的には心に属し、構成組織自体は肝に属する筋膜で構成された組織であると考えています。

 この考えのヒントはやはり「中医病機治法学」の陳潮祖先生の書籍をヒントにしたものです。

 血の運行は、@心気の推動、A肺気の宣降・B腎気の温く・C脾気の統摂が必要で、脈中の血量の調節は肝によって行われる、というのが中医学の基礎的概念です。



【編集後記】 学問的にも医学の発展のためにも先生の追究される「血管の平滑筋細胞の恒常性に働きかけることは、動脈硬化性疾患とか血管が関与する病態の治療の上で何か意味があるのではと」される点は、中医学的に考察することは意義あることに間違いないものの、西洋医学と中医学を結合した中西医結合が却って中医学を崩壊に導いている現実を知ると、やや慎重にならざるを得ないのであった。

 本来、愚息や愚娘は中西医結合研究の最前線に立つべく、医学部に入学して医師であり医学者になったはずであるが、昨今の中国国内の事情を考えると、伝統的な中医学の崩壊の危機を迎える羽目に陥ってはまったく本末転倒である。
 幸か不幸か、二人とも多忙を極めて今のところ中西医結合どころではない状況であった(苦笑)。

 ともあれ、FIFAクラブワールドカップ準決勝を観戦しながらお返事を書くという怠慢をおかしたために、再読して慌てて追伸をお送りした醜態だった。

参考文献:腎系統の生理 腎系統の病理 五臓の病変が腎に波及するしくみ 穀精と腎精について

posted by ヒゲジジイ at 00:55| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月09日

一貫堂方や傷寒・金匱の方剤について



昨日の続き

お便り:関東地方の某内科医師

 長年に渡って漢方治療をなさっている村田先生ならではのご指導を頂き感謝しております。確かに現代医学でも治りにくい病気を漢方で治していくことも大変ですね。
 それにはお互いの信頼関係の維持が不可欠で加えて一人の患者さんが出す症状は体質から似たような症状の繰り返しですから‥先生の仰る方法が適していると思いました。有り難うございました。

 巷ではアトピーなどの漢方治療をする方が増えている様ですね。初期段階で漢方治療を受ければ治療する側としても困難さは感じないと思います。
 知人のアトピー治療をしたときは病院へ行くよりも早く自分の所に来たものですから‥まさに教科書そのものですね。こんな感じからすれば‥信頼をされるという前提が一番大切ということにつきると思います。

 一方、慢性化したアトピー患者さんは時間がかかることが予想される反面、患者さん本人は「早く治らなければ漢方は効き目が無い」とか思う方が多いのではないかと思います。これには困ったものです。慢性病の患者さんの特徴としては病気が年輪の様に作られていて‥熱を取る薬と多少暖める薬を併用していかないと治らないとの感覚を抱いています。
 充血を取る薬だけを使えば当然身体を冷やすので、一週間もすれば効き目がなくなるのが目に見えてます。早い人なら数日で効き目がなくなってもおかしくありませんよね。これからすれば、最初のムンテラが大切なのかな?とも思います。

 昨日先生の本(求道と創造の漢方)を拝見しました。そこで感じるのは、その当時では一貫堂方が多いように思われました。一貫堂方は体力がある人ならば使いやすく効き目は強いですね。ただご多分にもれず一貫堂方は身体の熱を強烈に取る薬が多いので単剤で長期に飲ませると厳しいかな?と感じます。
 多分、合方をしないと長期間飲めない患者さんが多い様な感覚を受けます。きっと、ここいら辺の感覚は先生も同じようにお考えになり‥現在の治療に至っていると感じました。

 今、息子のこじれた風邪につき合い自宅で治療していますが、経過も順調でホッと一息です。塾通いで無理をしたためか今回は一時、陽明に熱が入って石膏を使いました。
 でも、この陽明の熱は1日で取れて‥次の日は別の薬に変えました。古方は単純な分、効き目があり真剣勝負ですね。こんな感じで自宅でも医者をしているから・・・(後略)

 今日は病棟だけの仕事で‥これから病棟に上がります。どんな一日になるのでしょう?
 平穏な一日を望みます!(笑

 これからもアドバイスを頂ければ幸いです。「温病論」も自分なりに勉強してみますね。
 猪苓湯や茵蔯蒿湯などの身体における意味が余り良く分からないので‥ここいら辺もポイントですよね。頑張ってみます!


ヒゲジジイのメール: 当時は確かに一貫堂流の方剤をシバシバ使用しておりました。月刊「和漢薬」誌に当時、矢数道明先生が一貫堂の方剤を使用する先生方の統計表を発表された時にも、小生の名前が掲載されていたほどです。

 アトピー性皮膚炎にもよく使用して効果が上がるときもあれば、逆効果となることもあり、次第に一貫堂の荊芥連翹湯や柴胡清肝湯などを使用する方法論に疑問を抱くことが増えて来ました。同様な体質の御姉妹に同じ荊芥連翹湯で一人は寛解し、一人は次第に悪化するケースを経験して、ますます不安を覚えた当時が思い出されます。

 他の疾患と異なり、アトピー性皮膚炎は極めてデリケートな疾患で、一つの薬味の間違いでも効果を激減させたり、悪化させることさえあり得るようです。
 そのようなデリケートな皮膚病に、薬味の多い一貫堂の方剤を使用することが次第に怖くなってしまいました。
 現時点の方法を結論的に要約すれば、少ない薬味の方剤合方および単味生薬の加味が主体で、当時よりも格段の寛解率を得るまでになっています。

 中医学の学習途上では、中医学特有の中草薬を用いて、病人さんに対する専用の方剤を新たに処方する方法を習熟することに熱心でしたが、方剤学のみならず中薬学を一定のレベルまで学習するうちに、次第に傷寒・金匱の方剤が、少ない薬味で構成され、いかに優れた方剤であるかを再認識するに至りました。

 中医学を学ぶ多くの人が、既成方剤に頼ることを忘れて、いかにも中医学派らしい基本方剤を忘却したかのような、患者さんそれぞれに新たな方剤を処方する方向に向かわれる人が多いなか、小生の場合はお里帰りしたかのように、基本方剤の重要性に目覚め、徹底的に基本方剤の四逆散や猪苓湯や茵蔯蒿湯、あるいは八味丸から派生した六味丸など、比較的シンプルな方剤を重要視するようになりました。
 傷寒・金匱以後の方剤でも、黄連解毒湯や六味丸を含めたその系列方剤など、単味では地竜や板藍根、白花蛇舌草や金銀花、黄耆、丹参、党参など。

 仕事上では、中医学を学んだお陰で、煎じ薬を多用する必要性をほとんど感じることがなくなったのでした。この点は、他の中医学派とはまったく異なるところで、基本方剤の価値を再認識したおかげで、エキス製剤中心の仕事で十分にやっていけるどころか、むしろシンプルな基本方剤を組み合わせることで、極めて敏感なアトピー性皮膚炎も、日本漢方しか知らなかった時代よりも、寛解率が格段に向上しました。

 多数の方剤を組み合わせる事が多いのですが、一貫堂の荊芥連翹湯中の薬味の数をはるかに下回るのです。
 こうすることで不必要な薬味、とりわけ油断がならない川芎(センキュウ)や当帰などの使用を避けることができ、一貫堂の諸方剤から卒業することが出来ました。

 なんだか奇妙な思い出話になりましたが、方剤学を学ぶ上では、
日本漢方の随証治療の精神と「依法用方」 もとても参考になりました。(追記:引用文は陳潮祖教授著の拙訳)三、依法釈方〔治法にもとづいて方剤を解釈する〕における、

 四逆散を例にすると、原著では「少陰病、四逆し、その人あるいは咳し、あるいは悸し、あるいは小便不利し、あるいは腹中痛み、あるいは泄利下重するとき」に適応するとされ、四逆散の適応症を「あるいは」として五つの症状を挙げているが、これらのどの症状も各臓それぞれの病理変化が反映したものであり、肝気鬱結によって筋膜の柔和を失ったため、気血津液が失調して五臓の病変を誘発したときに本方が適応する、と解釈できる。この場合に、薬物の効能と君臣佐使だけで方意を分析すると、腹痛に対する説明はできても、その他の諸症状に対する適応を説明できそうもない。
 このように、依法釈方によってはじめて古方の神髄を把握し、選薬処方の奥義をつかみ取ることができ、また、方剤が体現する治法を知ってはじめて、治法にもとづいて方剤を選択することができるのである。 という部分は傷寒論を再学習する上でも、とても参考になる部分でした。

 なお、猪苓湯や茵蔯蒿湯は、現代社会では最も重要な方剤だと認識し、日々大量使用の毎日です。書けば際限がなくなりそうですので、非専門的に暗示させていただければ、地元の消化器内科の医師が胆石症は現代人の三分の二が一生に一度は罹患すると言われます。真偽のほどはともかく、小生の弁証論治によっても現代人の三分の二の人に茵蔯蒿湯証が確認できます。
 猪苓湯も同様ですが、尿路結石患者の多発とも相関関係がありそうに思えます。
 
 両者いずれも、地球温暖化の問題のみならず、むしろもっとも問題なのは有史始まって以来、前代未聞の飽食の時代。皆がみな、昔の王侯貴族以上の飽食の毎日であってみれば、両方剤の適応者が多発しても不思議はないように思われます。
 アトピー性皮膚炎に限らず、各種疾患にも広く応用できる方剤です。
 
 ちょっと種明かしし過ぎました(苦笑)。



【編集後記】 最後の灰色活字の部分はブログでは秘匿することを先方にお伝えしていたのだが、本ブログは医師・薬剤師・鍼灸師・臨床検査技師など医療関係者のご訪問も多いので、ご訪問者への精一杯のサービスとして、種明かしを消さずにブログにも掲載した。
 但し、茵蔯蒿湯も猪苓湯も単方使用では頑固な慢性疾患には非力な場合も多いので、誤解なきよう願います。バランスの取れた併用方剤が必要なことが多いということです。
posted by ヒゲジジイ at 00:37| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月08日

漢方処方を臨機応変に配合変化を行う方法



昨日の続き

お便り:関東地方の某内科医師

「温病論」が必要とのご指摘を頂き有難うございます。

 確かに…いざ臨床となりますと傷寒論のみでは厳しいのが現実です。傷寒論の処方の効き方は鋭い反面、投与後に体がダイナミックに変化して次の日には別の薬が必要になってきます。
 家族なら冷や汗をかきながら、殆ど毎日処方を変えることなりますが…いざ、外来となると出来ないですね。困ったことです。

 「温病論」は、今度の神田に行ってきたときに一冊分かりやすい本を購入したいと思います。「衛気営血弁証」をちらっと見てみますと確かにその通りに病気が進む様に感じます。

 自分の患者さんではなかったのですが…肺炎→(回復)→肺炎
再発→(回復)→肝炎→(回復)→腎不全→透析→死亡というケースを見た事がありました。

 このケースと比較すれば臨床ではかなり使える理論ではないかと思いました。でも自分は理論を消化するのに時間がかかりますので、ゆっくりと進みたいと思います。お付き合い頂ければ幸いです。

おやすみなさい。


お返事メール:毎日処方を変化させる、あるいは朝と晩では処方を変えるなど、外来診療では出来ないのではないか、とのご心配につきましては、小生の薬局で行っている方法がヒントになるかもしれません。

 合成医薬品のようなキツイ副作用がなく、気持ちのよい効き方をしてくれる漢方薬の素晴らしさに嵌ってしまった常連さんたちは、常備薬として急性疾患用の各種方剤を家庭に常備されておられます。

 急性疾患に罹ったときは、すぐ来られない場合は、電話相談でアドバイスです。といっても常連さんたちは、長いお付き合いの中で、ご自身の急性疾患時の対処法をほとんどマスターしておられますので、アドバイスはとてもスムーズです。臨機応変に配合変化を行うのは、常連さんともなると簡単です。

 たとえ新患さんでも、村田漢方堂薬局では理解力の無い人には御相談に乗らない方針ですので、あまり困難を覚えたことはありません。
 新しい人でも、目的とする疾患に必要となる可能性のある方剤は、順次常備してもらうようにしています。(それが出来ない人は、漢方治療困難ですので、結局はお断りせざるを得ないことになっています。)
posted by ヒゲジジイ at 00:01| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月07日

中医学と西洋医学の違い(関東地方の某内科医師の論点)

 昨日の続き

お便り:関東地方の某内科医師

 早速ご丁寧な文章の返信を頂き大変感謝しております。有難うございます。
 一つ一つ論文を拝見させて頂き…自分なりの浅はかな考えながら、自分の考えをお話いたしたいと思います。

 まず「中医漢方薬学」の提唱という論文を拝見して感じましたことは、ごく自然な考えで違和感を持ちませんでした。
 日本漢方では一つの処方があって、それには「証」と言われる症状のパターンを作り出します。しかしながら、この「証」だけの判断では処方の見分け方が至極難しく処方の判別が出来ないのが現実であるのは言うまでもありません。

 ここで最初に考えられるのが処方を作る薬草の性格に注目することが解決策の一つだということです。漢方薬は薬草により作られており、薬草の性格が分かれば処方の性質も掴むことが出来るのではないかという点です。おそらく、その為に東洞が「薬徴」を著したのではないかと思います。
 でも東洞の「薬徴」では不十分さを隠し切れないことも事実です。それに反して中医学は丁寧な薬草の性格の説明があり…一般的な医学教育を受けた方ならば中医学に解決策を求めるのも当然のことであると思います。

 また東洞の「万病一毒説」は余り良い考えではないと自分も考えております。それは「毒を取るために薬を使う」という基本的な考えが好きではないからです。
 すなわち病気を敵視し体から取り除くことを根本哲学として成り立っていることに違和感を感じるのです。
 可笑しい事に、これは今の医学の根本哲学と同じです。

 しかしながら「病気が悪である」という証拠はありません。自分が今まで多くの患者さん方を診て感じることは次のことです。「病気は、体の要求によって生まれ、常にその必然性を持っている。病人を救うには、まず始めに病気の必然性を知り、次にその必然性を消すことで病気を治療することが出来る」ということです。

 次に「医学領域における「科学」としての中医学」について拝見しました。これについても自分の意見を述べさせていただきます。
 現代医学の特徴は物質文明の進歩によって精密機械が作られるようになり、より微小なもの(ミクロ)を観察することができるようになったことで進歩してることだと思います。
 遺伝子治療や再生医療などは、このことを明瞭に物語っております。

 しかしながらミクロである遺伝子をコントロールすることでマクロである臓器や臓器間の相互運動など(構造)をコントロール出来るという証拠はどこにもありません。
 人間が進化する過程を思い浮かべますと面白い事実が分かります。進化の過程で環境の変化を最初に感じ取る場所は臓器です。
 次に、その臓器で感じ取った変化を遺伝子の変化に変えていくと考えるのが自然な考えです。

 つまりマクロがミクロをコントロールしているという事実です。

 以上のことを考え…天体運動を思い浮かべてみます。地球の自転や公転を調べようとするときに、そのミクロ的な運動である雲の動きや川の流れを解析するでしょうか?
 そんなことをすれば…笑われるのがおちです。マクロはマクロとして認識して、マクロの独立した運動を理解する以外ないからです。

 しかしながら…医学という分野では、その笑い事が当然の様に行われています。とても可笑しなことです。

 このマクロの運動の把握には簡単な理論構成である「傷寒論」が役に立つのではないかと思われてなりません。
 別の言葉では現代医学の研究対象をミクロからマクロに変える力があるのが「傷寒論」だと自分なりに感じております。
 また、ミクロとマクロを結合できた時に西洋医学と東洋医学が一つの医学となるとも思います。

 最後に、このようなことをお話できることに感謝いたします。今日は病院が忙しく暇な時間が無かったために病院で先生の本を読むことができませんでした、明日は読めれば良いなぁと思っています。
 自分は漢方での臨床経験が少ないため…分からない点などを質問させていただくことがあるかもしれません。その時はご回答頂ければ幸いです。これからもよろしくお願いいたします。


ヒゲジジイのお返事メール: 極めて鋭いご指摘、拝読するや眠気がいっぺんに吹っ飛んでしまいました!

 とても懇切丁寧な分析、どのような立場の方が読まれても説得力豊かで、皆さんが心から感服する的確ズバリなご指摘と存じます。

 ただ一点だけ気になったことは、せっかくの先生の鋭い視点であるのに、研究対象を三陰三陽の傷寒論に限られるのは、あまりに勿体無いように思われてなりません。
 熱病に対する傷寒論の論点はあまりにも脆弱すぎます。

 傷寒論の急性熱病に対する脆弱さを嘆いて「温病条弁」が生まれた中医学の歴史的事実があります。
 温病から生まれた「衛気営血弁証」や「三焦弁証」などについては、どうなのでしょうか。

 ともあれ極めて明晰な論点には、心から感服申し上げた次第です。
 お陰さまで素晴らしいブログの投稿ができます。

 今後とも、折々のご批判やご指導、楽しみです。
posted by ヒゲジジイ at 00:07| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年12月06日

故大塚敬節先生の診療を受け、故矢数道明先生のご薫陶を受けられた先生からのお便り

性別 : 男性
年齢 : 40歳〜49歳
簡単なご住所 : 関東地方
具体的な御職業 : 内科医
お問い合わせ内容 : はじめまして、◎◎で内科勤務医をしております●●と申します。

 本日、漢方書を探しに神保町を散策して村田先生の本(求道と創造の漢方)を見つけて買ってまいりました。
 他の著作の方の本と比較して、真っ直ぐに漢方のことを書かれていらっしゃるのに好感を抱きました。
 村田先生のことは前にホームページを見ておりましたので…本に書かれてありました住所の下関という地名から先生の顔写真も浮かびました。

 私の漢方の経歴はたいしたことありませんがお話致します。中学から高校にかけて体を壊し大塚敬節先生に診ていただいていました。とても優しい先生でした。
 医学部に進んでからは北里研究所のセミナーなどに参加しておりました。
 そして卒業してから…半年位の間、矢数先生の所で外来見学もさせていただきました。

 基本的に内科勤務医としての道で病院で漢方薬を使うことを許されなかったことから、病院では一般的な診療をし、自宅には150種類程度の薬草を置き家族や知人を漢方薬で治療しておりました。
 自分が開業する時になったら…漢方薬を併用して患者さんを治したいと思っております(開業は近いかもしれません…)。東洋医学会には15年ばかり入っていますが…忙しくて専門医も取らないで今に至っています。

 自分が一番興味を持つのが「病気とは何か?」ということです。医学部での授業も「病気の定義」なしに授業が進んでいきます。分からない点を調べようと教科書を読み、それでも分からなければ論文も読んで…最後にたどり着くところは、いつも「?」です。

 すなわち病気が分からずに病気を診ているのが今の医学ではないかと思います。「日本漢方を中国漢方に取り入れたい」という村田先生のお気持ちは先生のお立場からすれば、至極当然のことだと思います。

 一方、内科医としての自分の夢は「東洋医学と西洋医学を一つの医学にしたい」と思っています。偉そうなことは言えませんが、この作業に「傷寒論」が役立つ可能性が大きいと感じております。

 日本の漢方では「傷寒論」に理論的な考察を入れず、経験を重ねることによって漢方を使う医師を育ててきました。徒弟制度が一般的だった、かつての日本文化なら十分に可能な医療教育だったのかもしれません。でも、これでは漢方が説明不可能な芸術的な学問になってしまいます。

 しかしながら「傷寒論」の構成は理論的で病気の設計図を漢文で綴っている様に感じてなりません。また基本哲学は陰陽と三陰三陽だけで至極簡単です。それならば…「傷寒論」に書かれている病気の姿を理論化することが可能で、その理論的な病気の姿を参考にすれば西洋医学でも「傷寒論」を病気研究に役立てることが出来るように感じます。

 自分が尊敬する先生方は、すでに亡くなってしまわれており…今日、自分が選んだ本を書いた先生が生きていらして自分の意見を話すことが出来ることに一人感激して、ぶしつけな文面をお送りしてしまいました。すみませんでした。
 明日は村田先生の本を楽しみながら読んでみたいと思います。先生の今後の発展を陰ながらお祈りしております。


お返事メール:拝復
 お便りありがとうございます。また、拙著を入手された由、なんだかとても恥ずかしい思いです。中医学理論の必要性に目覚めかける手前の思い出深いものではあるのですが、まだまだ没理論的な日本漢方の「術としての漢方」の修業時代だったように思います。

 当時から関東とは遠く離れていても、しばしば矢数道明先生や藤平健先生ら大御所からお励ましのお便りを頂き、中医学にどんどん傾斜して行った頃にも、直接お会いする機会がなかったにもかかわらず、温かく見守って下さる旨のお便りを頂いたものでした。追記:33年前、福岡で開催された東洋医学会の会場エレベータ内で偶然、大塚敬節先生と矢数道明先生と乗り合わせ、大塚先生がしきりに小生の顔を見つめながら「橋本行生君はどうしたのかなあ。来ているのだろうかなあ」と、矢数先生に向かって呟いておられたことが今も鮮明に覚えていて、忘れられないとても懐かしい思い出がある。

 ついには強烈な日本漢方批判を主体にした拙論、
日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!) ⇒ 日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱 村田恭介著  を発表した当時にも、各地方の古方派の先生方から激しい批判が聞こえてくる中、矢数道明先生は、御みずから『漢方の臨床』誌上で、印象に残った二つの論説の内の一つとして、とても好意的に述べて下さったことを今でも大変光栄なことと思っています。

 日本では消滅しかけていた漢方医学を昭和の時代に大きく復興された大塚敬節先生や矢数道明先生の学恩を裏切るような拙論にも、大家の懐の深さをつくづく感じ入った次第でした。

 ●●先生からお便りを頂きまして、その当時、大塚先生の御著作には人一倍のめり込んで、私淑者として追悼文集の末席に置いて頂いた立場でありながら、あの拙論を発表することによって「裏切り者の烙印を押される決死の覚悟」で認めた当時を思い出してしまいました。

 先生も漢方医学を大御所にご指導を受けられ、実際のお仕事上では使用させてもらえなかったご事情は、同じ内科医の愚息や愚娘も現在、同様の嘆きを持っています。現在かなり流通しているはずの医療用漢方さえ、思うように投与できない事情は、大きな病院組織に属すると、意外に不自由極まりない事情も様々にあるようです。

 漢方医学と西洋医学の結合問題では意外に困難が多く、本場の中国でさえ、中西医結合は失敗だという批判も多く、これがために本末転倒して伝統的な中医学の危機を迎えかねない大問題ともなっているようです。
 のみならず、中医学廃止運動さえ勃発しているとか。
 中国:漢方医薬存亡の危機、激化する存続論争

 むしろアメリカやフランス・イギリスで中医学が盛んになりそうだという逆転現象も出て来ているような気配です。
 拙論にも、かなり抽象的ではありますが、中西医結合論として 中医学と西洋医学  ⇒ 中医学と西洋医学 中西医結合への道 村田恭介著 を書いています。
 マクロ的には西洋医学よりも中医学の方が科学的であるという主旨も含んでおります。

 もう既にご存知かと思いますが、我儘なブログ 漢方薬専門・村田漢方堂薬局(山口県下関市)の近況報告 を続けております。最近、マンネリ化して惰性になりかけているところを、皆様のお便りによって、何とか続けることが出来ております。
 この往復メールも恐縮ながら(もちろん匿名で)転載させて頂きますが、今後も折々に御批判、御指導賜れば、ブログの存続の励みとなりますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。
 ありがとうございました。
          

【編集後記】 ヒゲジジイのお返事メールに対して見事な論点の医学論を述べられたメールを頂いている。続けて掲載させて頂くにはあまりにも勿体無いので、明日のお楽しみとして乞うご期待!!!
posted by ヒゲジジイ at 00:08| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2007年11月08日

瀉法の重要性について

お便り:東海地方の内科医師

 先日はお休みの曜日にも関わらずご相談にのってくださいましてありがとうございました。
 おかげさまですっかりむかつき感などは改善しています。深く感謝いたします。半夏瀉心湯の威力に感服しました。

 私は漢方へ入門した当時、指南くださった先生が、補剤と温裏剤を駆使なさっていましたので、その影響を受けています。おそらく、今振り返ってみますに、そのような方剤の必要な患者さんが受診なさってみえたからと考えています。
 最近、瀉剤などの方剤がいかに有用性があるかを実感させて頂いていましてありがたいことと思っています。

 つきましては、むかつきで調子が悪くなる直前までは釣藤散を常用していましたが、半夏瀉心湯と併用してもよろしいものかどうか、半夏瀉心湯は今回だけですませてよいものか、などご助言くださいますと幸いに存じます。


お返事メール: 短期間で回復されて良かったです。血圧のほうは、しっかり降圧剤でコントロールされておられるのであれば、半夏瀉心湯を引き続き、釣藤散とともに併用されても構わないと思います。
 但し、人参や乾姜、甘草の血圧に対する影響を配慮して、煎じ薬の常用量換算で二分の一量程度のやや少な目で続けられる方が無難だと存じます。

 ところで瀉剤の重要性については、本日も偶然、更年期障害に伴う食欲不振が、知柏腎気丸製剤と茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)にオルスビー錠の三方剤併用により、僅か3日の連用で6年間続いた宿痾と共に雲散霧消し、あらゆる諸症状が消失したとの報告に訪れた方がおられました。
 僅か三日の服用で食欲も完全に回復されたそうですが、弁証論治が正確であれば、瀉剤と補剤を同時に配合する扶正去邪や攻補兼施の重要性があらためて認識されます。

 それにしても、当方でも僅か3日間でほとんどすべての諸症状が雲散霧消された喜びのお声を聞くとは、先生のむかつき感の解消といい、とても良い一日でした。
 さらには、重症の蕁麻疹患者さんに茵蔯蒿湯のみではもう一歩シャープさに欠ける点があるので、地竜(みみず!)を併用してもらっていたところ、3日目にして速攻を得て、長年持病となっていた手の主婦湿疹まで綺麗に治ってしまったとの喜びの声を薬局を閉める間際の嬉しい報告もありました。

 どちらかと言えば「寒涼派」に近い中医漢方薬学派(苦笑)ですが、現代日本社会は、補剤のみならず瀉剤の運用こそ重要な時代であると確信している次第です。
posted by ヒゲジジイ at 00:51| 山口 ☀| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする