御質問者:東海地方の内科医師
いつもお世話になっています。
本日は私のことでご相談です。1週間ほどまえにむかつき感を覚え、六君子湯を内服して一旦軽快しました。
今朝になってむかつき感が再燃しました。関係はないかもしれませんが、この数日好きなコーヒーを止めていましたが、昨日にまた飲み出しました。
ゲップがおおいこと、生唾も沢山でます。常時みぞうちから前胸部にかけての痞えた違和感があり、腹部がゴロゴロしています。以上です。
現在の常用薬は釣藤散、八味丸(大晃生薬)です。それからお恥ずかしい話ですが、すこしストレスがあります。
ご助言いただけますと幸いです。 お休みのところを恐縮です。
お返事メール:少なくとも八味丸は中止されたほうが良いです。吐き気にはマイナス効果です。
中医学的には、吐き気の原因の多くは肝胆系統で、脾胃系統が原因となることは比較的すくないものです。
しかしながら六君子湯が一時効果があったことを考えますと、寒熱にもとづいて考慮しなければなりません。寒熱が並存していれば、舌の奥に黄色味がかった苔がかかっておれば、御報告頂いた症状からはいかにも生姜瀉心湯(半夏瀉心湯の親戚)の正証に思えますが、血圧が高いことを思えば大柴胡湯や茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)の可能性が高くなります。
胸脇苦満があり、黄色い苔がかかっておれば、大柴胡湯や茵蔯蒿湯およびこれら両者の併用です。
もしも白い苔ばかりで、多少ともめまいふらつき感があれば、現在服用中の釣藤散に半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマ湯)を併用すると効果的です。
小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)という方法もありますが、上記をヒントに、やはり舌象がとても重要です。
ご報告の症状からだけみれば、いかにも生姜瀉心湯らしいのですが、人参や甘草の配合量が多いために、高血圧への悪影響が心配です。生姜瀉心湯の代用としては半夏瀉心湯エキス製剤に料理用のひね生姜を少し加えると近似します。
折り返し頂いたメール: いつも速やかにお返事くださいましてありがとうございます。
舌象ですが(ご報告がおそくなりました)、自分で鏡を見て評価しますと中央からやや奥にかけて薄い黄色調の舌苔がのっていました。
”寒熱”についてもうすこしお教えいただけませんでしょうか。勉強不足で申しわけありません。極めて基本的質問にあたるかもしれませんが。
ヒゲジジイのお返事メール:舌の奥にかかる黄色味がかった苔は中焦や下焦に熱邪が存在することを意味します。理論的には舌の奥は下焦の位置ですが、現実的には中焦の熱邪の存在を示唆することが多いものです。(
追記:消化器系統に関連する肝胆は中焦とみるべきであろう⇒肝は下焦だけでなく中焦にも属する)
消化器系疾患の場合、たとえ熱邪(胃熱や肝胆の湿熱など)が存在しても、同時に消化器能力の機能低下による中寒を伴うことが多いもので、それゆえ寒熱錯雑証としての半夏瀉心湯は、黄連や黄芩(オウゴン)によって心熱や胃熱を除去し、半夏や人参・乾燥生姜によって中焦の虚寒(機能低下)を改善します。
このような寒熱併用の配合処方である半夏瀉心湯は脾虚によって水湿の運行が正常に行われなくなった升降失調(吐き気や下痢や胃の痞えなど)の状態を改善する優れた方剤です。
半夏瀉心湯は心熱や胃熱がある場合の消化機能低下を治すものですが、その応用として小柴胡湯や柴胡桂枝湯を肝胆の熱邪に脾虚(脾虚寒)を伴うものとした発想から方意を考えることが可能です。
一方、大柴胡湯は少陽陽明の実熱に適応する胆胃実熱に適応するものですが、生姜や大棗が含まれることからも、多少の脾虚寒が伴っている状況にも十分適応します。
このため、半夏瀉心湯証(生姜瀉心湯証も含め)と大柴胡湯証は往々にして見分けにくい場合もあります。
先生の場合、血圧が高い傾向にあることから、まず大柴胡湯を服用してみられたほうがよいように感じます。飽食の時代ですが、これまで過食傾向があったとすれば、この可能性は大きいと思います。
もしもやや便秘傾向にあれば、たとえ寒がりや冷え性でも、舌の奥に黄色い苔がかかっている場合は、茵蔯蒿湯も必要な場合があります。
茵蔯蒿湯は蕁麻疹や黄疸のみならず、原因不明の吐き気で、何を服用しても、消化器内科を歴訪しても、どんな漢方薬を服用しても治らないという人に、しばしば茵蔯蒿湯単方で著効を得てきました。
いずれも舌の奥には黄色がかかっているのが絶対的な条件です。
ただ、稀には寒邪が鬱積しために黄色い苔がかかる場合がありますが、これは例外的なことのようです。
折り返し頂いたメール:早速の詳細なお返事に深く感謝いたします。
【編集後記】 むかつき感は吐き気や嘔吐に類縁する同じく昇降失調に関わる問題であるから、上記のメールではむかつき感も含めてすべて「吐き気」に総括して論じている。