2019年04月20日

補陽還五湯エキス剤を本来あるべき効果を発揮させるための工夫

 日本で製造される補陽還五湯のエキス製剤は、本来この方剤としては、かなり大量に配合されるべき黄耆が、1日量が僅かに5gというのでは、この方剤の立方趣旨から考えても、あまりに少な過ぎる。

 中国における標準的な黄耆の配合量は、1日量で30〜120gであるから、せめてそれに少しでも近づけるには、衛益顆粒(玉屏風散エキス製剤)を併用すれば、1日量に黄耆がさらに6g加わって、合計11gに増やすことができる。

 補陽還五湯は、脳溢血で急性期を過ぎて出血がしっかり止まって以後の後遺症の治療目的として創方されたものであるが、各種の脳血管障害の後遺症に効果が期待できるもので、それ以外でも頚椎症による両手のシビレなど、様々な領域にも応用が可能である。

 それゆえ、補陽還五湯だけを様々な角度から論じた書籍が中国で発売されており、極めて参考価値が高いだけに、日本語に翻訳出版が期待されるくらい重要な方剤である。

 村田漢方堂薬局では、補陽還五湯がフィットしていると思われるケースで、期待するほどの効果を発揮してくれない場合には、必ず上記の衛益顆粒など、玉屏風散エキス製剤を併用してもらうことで、ようやく効果を発揮できたというケースもある。

 但し、本来大量の黄耆が主薬だけに、気虚が明らかでない場合は、使ってはならない。

 ともあれ、漢方薬は、適切な薬用量も重要だが、多くの場合、品質問題のほうが、より大きいケースも多く、それゆえに前回のブログで、重要な参考文献として
成川一郎氏の「漢方製剤の偽装」を読んで感じたこと
というリンクを貼り付けて、薬用量以上に、製造メーカーによっては、品質問題の方が重要ではないかという実例(保険漢方で効果がなかった茵蔯五苓散+猪苓湯が、保険適用外の二分の一濃度のエキス剤で著効を得たという証人の多い実例)に注意を喚起したものであった。

 しかしながら、たとえ品質優良であっても、時に薬用量が足りないために、まったく効果を発揮していなかったというケースもあるが、これを見分けるのは比較的至難の業かもしれない。

 最近遭遇した実例では、ご高齢者の進行した肺腺癌で、進行が早く、胸水が溜まってかなり呼吸が困難になりつつあるのに、五苓散料エキス製剤の通常量では、まったく効果を発揮しなかったのが、薬剤師のご家族の提案もあって、中国で一般的に使用される四分の三量まで増量したところ、一気に胸水が減じて呼吸が楽になったという報告を得たばかり。

 日頃から定評のある五苓散料エキス製剤であったが、病状の内容によっては、品質問題のみならず、薬用量の多寡によって、無効か有効かの大きな分かれ目が生じるケースもあるのが現実である。

 翻って、日本で販売される補陽還五湯は、方剤の趣旨から考えても、黄耆の配合量が極端に少な過ぎるので、せめて衛益顆粒(玉屏風散エキス製剤)の併用するなどの工夫は考えておく必要があるだろう。

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2012年04月20日の茶トラのボクチン(もう直ぐ8歳)
2012年04月20日の茶トラのボクチン(もう直ぐ8歳) posted by (C)ヒゲジジイ

2008年10月26日

脳幹出血による後遺症の漢方薬はありますか?

性別 : 男性
年齢 : 40歳〜49歳
ご職業 : 会社役員
お問い合わせ内容 : 私は2年前に脳幹出血で倒れた●●県◎◎市に住む4?歳の男性です。毎日、リハビリに励んで降りますが左半身麻痺の状態で一向に良くなりません。

 脳の疾患に伴う治療というものはございますか。普段は4点杖で歩いています。100Mほどですが。バランスがとりづらくすぐに転びそうになります。そういったことの治療・治療薬はございますか。

 ぜひ、お聞かせください。よろしくお願い致します。


お返事メール:倒れられた後、安定期に入った段階で早ければ早いほど効果が十分に発揮しやすいと昔から言われています。もちろん漢方の世界の話です。既に二年も経っているのですから、相当の知恵と工夫が要るものと思います。

 2年も経っておれば、どの程度回復するかは、漢方専門家の知恵と工夫もさることながら、服用者の熱意と決意は当然のこととして、ほどほどの経費が必要になるケースも多々あります。

 一般処方以外にも牛黄製剤などの高貴薬と言われるやや高額な漢方系の医薬品が効果的な場合もあり得るからです。
 結果的にどの程度改善できるかは、既に二年間を経過している状況では、個人差が大きく、ピンキリです。

 あるいは日本国中のどこかに脳卒中関連の後遺症の改善を得意とされる漢方の専門家もおられるかもしれません。

2007年07月27日

脳梗塞後遺症に対する漢方薬のヒント

御質問者:東海地方の内科医師

 いつもお世話になっています。今回のご質問はちょっと重症の方です。
 59歳のご婦人ですが、胆管がんのかたで、再発に対して抗がん剤の治療を受けられ、ずいぶん消耗してしまったそうです。体重減少も著しく、最近になって食欲も回復してきたそうです。
 7/21に午後自宅の畑で収穫中に転倒(ご主人が帰宅して異常な気配を感じて周囲を探し、畑にご婦人が倒れているところを発見、5時間くらい雨天のなかでのざらしだったようです)、救急車にて近隣の病院へ搬送。

 脳梗塞と診断され、左の片麻痺と言語障害を認めるそうです。主治医からはかなり悲観的な説明を聞いてご主人も気落ちしておられます。当然のことでしょうが、普段はかなり意欲的なかたですが、ショックに陥ってみえるとのことです。ご主人も当クリニックへ通院(胃がん)しておられまして、相談を受けました。

 どこまでお役にたてるのかよくわかりませんが、中医薬学流にすこしでも出来ることがあればと思ってメールさせていただきました。この数日ご本人を拝見していませんが、過日の診察の所見としては、体格小柄、体重やや少なめ、舌:抗がん剤の副作用(血管障害)と思われる黒色の斑点・微黄色苔です。
 この患者さんは当クリニックへ通院され(漢方で体力を補いたいとの意向があり)、十全大補湯合補中益気湯を処方していました。

 個人的には瘀血(オケツ)への対応が必要と思いますが、お知恵を拝借できれば幸いに存じます。


ヒゲジジイのお返事メール:一般処方で脳梗塞後遺症を改善するには、気虚血瘀に対する中国で有名な補陽冠五湯の方意を体現できるのは、補中益気湯に芎帰調血飲第一加減に丹参エキス(あるいは粉末)を加えることでかなり効果的です。

 丹参がない場合でも、気虚血瘀に対する効果は、十全大補湯を使用するよりもはるかに効果的です。
 芎帰調血飲第一加減に丹参エキスを加えれば、小生が製品開発を提案・指導したウチダの生薬製剤二号方の成分をそのまま含有することになります。またイスクラの冠元顆粒も同様の成分です。


折り返し頂いたメール:すみやかなお返事いつもながらに感謝いたします。
 早速患者さんに手配したいと思います。


【編集後記】 ウチダ和漢薬発行の『和漢薬』誌513号(1996年2月号)の巻頭論文に、「丹参製剤 生薬製剤二号方 と題してヒゲジジイが9ページに亘って書いており、その中には脳梗塞後遺症の対処法を2ページを費やして書いている。詳細はこの記事を読んで頂いたほうが、より突っ込んだ記載がある。

 医師や薬剤師などの有資格者であれば、ウチダ和漢薬さんに直接申し込まれれば、きっと喜んで別刷りやコピー版をわけてもらえるはずである。
 それを利用していまだに、医師や薬剤師に「生薬製剤二号方」の売り込みに余念がない事実を把握しているから(苦笑)。

ラベル:脳梗塞後遺症