2020年11月30日

補中益気湯のおさらい

 前回のブログ 2020年11月28日 75%エタノールの一斗缶(15Kg)を力任せに(補中益気湯) で書いたように、補中益気湯を自身に使って即効を得たことから、いまさらながら、中医学的なおさらいである。

 過去、2012年7月に、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の中医学的分析  と題して、主として四川科学技術出版社発行の「中医方剤与治法」を参考にしながら、補中益気湯について記したブログ記事がある。

まだまだ血気盛んなエネルギッシュな時代に勢いに任せて書いているが意外に理解しやすいように思う(笑。
 脾虚気陥の病機にもとづいて考案された益気昇陥法の代表的な方剤がこの補中益気湯。 

 脾胃は中焦に位置し,気機が昇降する要衝なので、脾虚気陥を生じると,上部では息切れがして話すのも億劫になり、呼吸が苦しくなる。

 また下部では子宮脱や月経過多となり、あるいは悪露が尽きないとか、小便が終わってもいつまでもチビリチビリと少量の尿が漏れ出てしまうなど。

 さらには不正性器出血や帯下、小便の失禁があったり、あるいは逆に尿閉となるなど。

 気虚による機能低下から来る便秘が生じたり、その逆に慢性の軟便が頻繁に生じたり下痢があったり、あるいは内臓下垂による脱肛などの症状が現われる。

 いずれも中焦の気を補い下陥した陽気を昇挙して気機を正常に回復させる必要があり、配合方剤には補気健脾を土台として升麻・柴胡などの升陽薬を配合する必然性が生じる。すなわち補中益気湯である。

 補中益気湯の特徴的な作用は,下陥した清陽を昇挙するもの。

 清陽下陥により陽気が内鬱すると,身熱〔身体の熱感〕・自汗・口渇があり熱い飲物を好む・脉は大で虚などの仮熱の症候が現われる場合があるので,補中益気湯を用いて下陥した清陽を昇挙し,清陽を上昇させて陽気が外達すれば,熱象は解除される。これが「甘温除熱」のメカニズムでもある。

 また補中益気湯は不正出血や痔出血、潰瘍性大腸炎の出血など、人体の下部で生じる各種出血性疾患に応用されるが、そのメカニズムは・・・・

 人体の血液が経隧中を正常に運行して経脉から外溢しないのは,脾気の統血・摂血作用によるものである。「脾は統血を主り,気は摂血を主る」と言われように、脾虚気陥によって統血・摂血作用が失調したために人体下部から生じる各種出血性疾患に対する治療効果を発揮する。

 ところで、日本で使用される補中益気湯の配合内容は、人参、白朮 各4.0 黄耆、当帰 各3.0 陳皮、大棗 各2.0 柴胡、甘草 各1.0 乾生姜、升麻 各0.5というように黄耆(オウギ)の配合量が少ないものや、止汗作用のある白朮(ビャクジュツ)が発汗作用のある蒼朮(ソウジュツ)で代用された製剤もあるが、これらはいずれも問題なしとしない

 さらには本来、大棗や乾燥生姜は余計な配合で不要である。日本のエキス製剤はいずれも不要な大棗と乾燥生姜が配合されており、これらの配合は間違いと言っても過言ではない。

 蛇足ながら、唯一某社の製剤には人参のかわりに党参が配合され、大棗と生姜が省略されているので、アトピー性皮膚炎などでも比較的安心して使用できる。

 【補中益気湯の方意】 脾虚気弱による病変では,甘温の薬物によって脾胃を温養し中気を補益すべきであるが,本証では脾虚ばかりでなく清陽下陥を伴っているので,補中益気と昇陽挙陥の二法を同時に行う必要があり,脾気を補充して清陽を復位させる。
 清陽が復位すると陽気が内鬱しなくなって身熱が解除されるのであり,「甘温除熱」とはこのことを意味する。

 今回このブログを書くにあたって参考にした四川科学技術出版社発行の「中医方剤与治法」の補中益気湯の配合内容は、

【成分】 黄耆30g 人参10g 白朮10g 甘草6g 陳皮9g 当帰10g 升麻6g 柴胡6g

 となっており大棗と生姜が省略されている。

 日本における使用分量より遥かに大量であるが、このような真似はしないほうが無難であろう。
 かの国の水は硬水のため成分抽出効率が悪く、日本の軟水で抽出されるものと同一視できないといわれる。

 方中の黄耆は,肺気を補い,皮毛を実し,中気を益し,清陽を昇らせるものであるから主薬として配合量が多い。

 人参・甘草は補脾益気し,白朮は燥湿強脾し,これら三薬は黄耆に協力し,以上の四薬によって補中益気の効能を発揮する。

 升麻は脾気を昇発し,柴胡は肝気を疏達し,これら二薬も黄耆に協力して昇陽挙陥の効能を発揮する。

 利気醒脾の陳皮は,補気による気滞の弊害を防ぎ,養血調肝の当帰は,疏肝の柴胡による肝血の損傷を防御し,さらにまたそれぞれに一定の役割があるが,主体となる重要な役割があるわけではない。
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2009年11月30日の茶トラのボクチン(5歳)
2009年11月30日の茶トラのボクチン(5歳) posted by (C)ヒゲジジイ
ラベル:補中益気湯

2020年08月05日

補中益気湯に使用されるべき白朮が蒼朮で代用されている場合

 関西のお馴染みさんが、疲労が激しいのでクリニックで補中益気湯を投与され、服用開始後には即効があって喜んでいたら、次第に効果がなくなって来たという。

 保険漢方のツムラ製だったが、白朮であるべきところを蒼朮で代用された製剤なので、以前、当方から購入されていた正しく白朮使用ながら、2分の1濃度の補中益気湯が残っていたので、これに切り替えてみると、少しよいようだと言われる。

 それで今度はご希望により、煎じ薬濃度と同等の白朮使用の某メーカーの補中益気湯を試してもらうことになった。

 ところで、これも以前、当方から他のご家族のために購入されていた人参牛黄散を服用すると、青天の霹靂の効果を感じて別格の効き目に驚かれている。

 もしも上記の補中益気湯でも効果が不十分な場合、人参牛黄散を利用される予定で、まとめて購入されたが、製造元がいつまでも製造を再開されないので、先日、とうとう在庫が尽きてしまった。

 とはいえ、他社の類似製品があるので、問題はないものの、牛黄製剤の高騰には頭が痛い問題である。

 それはともかく、五苓散も本来は白朮が配合されるべきところをツムラ漢方などでは蒼朮が使用されているが、虚証用の補中益気湯や帰脾湯などと異なり、五苓散レベルであれば、それほど大きな効能に違いがでないだろうと思っていた。

 ところが、何年も前のことだが、常連さんの成人の息子さんで、クリニックで蒼朮で代用されたツムラの五苓散を投与され、一定の効果を感じたので、母親の依頼だったかで、当方の同じ濃度の白朮使用の五苓散と比較されたところ、効果が雲泥の差だといって、その後はこちらの五苓散に嵌っている。

参考文献:白朮を蒼朮で代用する杜撰
     白朮を蒼朮で代用する杜撰
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2012年8月6日の体調を崩して2ヶ月の茶トラのボクチン(8歳)
2012年8月6日の体調を崩して2ヶ月の茶トラのボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母
posted by ヒゲジジイ at 08:03| 山口 🌁| 補中益気湯や六君子湯中の白朮を蒼朮で代用する錯誤問題 | 更新情報をチェックする

2018年06月07日

補中丸と補中益気湯の使い分け

2010年6月7日の茶トラのボクチン(6歳)
2010年6月7日の茶トラのボクチン(6歳) posted by (C)ボクチンの母

 本来、補中益気湯は、生姜と大棗は含まれないはずが、日本の漢方薬の規定では、必ず生姜と大棗が含まれている。

 人参については、傷寒論の時代は実際には党参のことだったという説もあるくらいだから、12世紀の李東垣(りとうえん)の時代でも、党参が使用されていた可能性大であろう。

 補中丸は中国の製剤らしく、党参が使用され、生姜と大棗は含まれない。

 補中丸も補中益気湯も補剤であるから、とうぜん白朮(びゃくじゅつ)が配合されているが、保険漢方の中には実邪の排除を主とする蒼朮(そうじゅつ)で代用して、立方の趣旨をやや損なっているエキス製剤があるので、注意が必要である。

 ともあれ、上記のような理由から、村田漢方堂薬局では人参とは微妙に異なる党参の効能の特徴および特長をしっかり考慮した上で、補中丸は、腎臓疾患やアトピー、および高血圧の傾向がありながらも、補中益気湯が必要なケースに多用している。

 補中丸は、もっぱら粉末原料のみで製造された丸剤であるが、疲労回復効果などでは短期間で即効を得ることが多い。

 アトピーにおいては、人参、生姜、大棗が配合された通常の補中益気湯では、疲労回復効果が得られても、却って痒みが増すというケースでも、補中丸であれば、まったく問題なく体質改善効果が得られるケースも珍しくない。

 ところで昨日のこと、虚証の体質ながら、子宮筋腫があって疲労感および頭痛・肩こり・腰痛に悩む女性に、桂枝茯苓丸加薏苡仁+補中益気湯+雲南田七+莪朮+イオン化カルシウム(原料は牡蠣殻)の10日分を飲み切る前に、すべてにおいて即効を得たとの報告を得たばかりなので、補中益気湯ばかりでなく、配合内容の異なった補中丸の、補中益気湯にはない、優れた有用性についても、書きたくなったまで。

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2010年6月7日の茶トラのボクチン(6歳)
2010年6月7日の茶トラのボクチン(6歳) posted by (C)ボクチンの母

2015年11月17日

薬局向けの六君子湯がしっかりフィットしているのに、病院の六君子湯ではまったく効果がないという女性

2009年11月17日の茶トラのボクちん(5歳)
2009年11月17日の茶トラのボクちん(5歳) posted by (C)ボクチンの母

 たまたま、昨日 2015年11月16日 ネットで調べた漢方薬の胃薬はみんな六君子湯?! というブログを書いたその日、ヒゲジジイが漢方メーカーの人と商談している最中に、数十年来の六君子湯の愛用者のご家族が代理で補充購入に来られていた。

 長年の胃弱が村田漢方堂薬局で販売する六君子湯の常用で効果を上げているが、数年前、かかりつけの病院でツムラの六君子湯を処方されたので、それに切り替えたところ、まったく効果が得られなかったという。

 主治医の先生はとても親切なことに、貴女には漢方薬局の漢方の方がよく合っているのだから、病院の漢方を投与するのは止めましょうと言われ、再度、村田漢方堂薬局に戻るようにアドバイスされたそうである。

 その効果の違いは、おそらく配合される白朮と蒼朮の違いであろう。

 薬局向けの六君子湯のほとんどのメーカーは、正しく白朮が使用されているが、ツムラ漢方の六君子湯は蒼朮が使用されている。

 人によっては、この僅か一味の違いで、ここまで効果に雲泥の差が生じることがあるのだから、原料生薬の選定は細心の注意が必要である。

 本来、六君子湯には脾虚脾湿に適応する白朮を使用すべきところを、湿邪の実証に適応する蒼朮で代用するには、やや無理がある。
参考文献: 白朮を蒼朮で代用する杜撰

 以前も、この女性のケースをこのブログで書いた記憶があるが、たまたま昨日のブログと関連する部分もあり、また村田漢方堂薬局では滅多に遭遇しない六君子湯適応者の話でもあるので、再度取り上げた。

 生来、胃弱で少食、痩身で見るからに華奢なお身体の女性だったが、現在はかなりご高齢になって、同年齢の人に比べると、むしろお元気そうになられている。

 ともあれ、村田漢方堂薬局で六君子湯を長期間愛用されている人は、この女性くらいのもので、六君子湯を必要とする胃弱や胃腸疾患の相談を受けることは、不思議なことにかなりマレなのである。

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2009年11月17日の茶トラのボクちん(5歳)
2009年11月17日の茶トラのボクちん(5歳) posted by (C)ボクチンの母

2014年07月03日

中気下陥に間違いないのか?

2009年7月3日のボクチン(5歳)
2009年7月3日のボクチン(5歳) posted by (C)ボクチンの母

ブログへの転載の可否 : ブログへ転載を許可します
年齢 : 30歳〜39歳の女性
簡単なご住所 : 関西地方
お問い合わせ内容 :

 はじめまして。私は酷い胃アトニー・胃拡張で、胃の中に常に食べ物がパンパンに詰まっています。この状態が5年も続いています。内科の西洋薬や、保険のきく漢方薬や、自費の煎じ薬など色々試してみたのですが、ピンと来るものがなく、途方に暮れています。顔にアトピーも出ており、年々酷くなっています。

 これまでの経過は、幼少期から胃下垂でよく胃もたれし、小食で痩せていた。→中学、高校で運動部に入り食欲が増し、ジュースや菓子を大量摂取、アトピー発症。→20代前半、アトピーを治したくて食生活改善を試みるが、白砂糖・糖質依存からなかなか抜け出せない。→26歳で胃アトニーとなる、胃がお腹の底まで落ちてしまった感じ、いくら食事量を減らしても胃から排出されず、胃がからっぽになることが無くなった、どんどん痩せて体重29.8kgに。→胃は苦しくても、食べたくて、無理やり食べることを続けていたら、下がった胃がどんどん横に広がってく、伸びきっているので満腹感、満足感が全くわからない、徐々に過食傾向になり、体重は増加するが、胃拡張がどんどん酷くなっている。→現在は体重48.5kg、 常に胃がパンパンで苦しいのに、エネルギー不足になり、過食が止まらず、悪循環です。

 試した漢方薬は、ツムラの六君子湯、 人参湯、 クラシエの補中益気湯(白朮が入っているため)+六味丸、 保険外の香砂養胃湯、平胃散です。どれも2〜3週間で全く効果がなく、体質に合っていないのだったらどうしよう、と思い服用をやめてしまっています。保険の漢方を出す病院では、胃下垂だというと、皆決まって六君子湯を処方されますが、私は、六君子湯は下がったものを上に上げる作用はないと思っています。

 こちらのホームページを読み、もう一度補中益気湯を試してみようと思いました。以前、クラシエの補中益気湯を出して頂いてた先生に「私は甘いものを多食した為このような体質になった」と話すと、六味丸を追加されました。その時は3「私は頻尿も、むくみもないし、なんで?」と不信に思いました。補中益気湯をか月飲んでも胃はびくとも動かないし、補中益気湯に合わせる薬を行くたびに変えられていたので不安になり、六味丸を捨てしまいました。しかし、村田漢方堂のホームページを見て、あの組み合わせは方向性としては間違っていなかったのかも、と思いました。

 質問なのですが、白朮配合のクラシエ補中益気湯を3か月服用しても効果を感じられなかった場合、イスクラ産業の補中益気丸や、煎じ薬の補中益気湯を飲んでも大して効果は得られないでしょうか?
 服用量を少し増やしたりしたらいいでしょうか?

 漢方薬について自分でも色々調べたのですが、私は内臓全体が下垂していて中気下陥が著しいので頼れるものは補中益気湯だと感じています。この場合も、ほかの薬(ホームページにあった猪苓湯や六味丸など)を合わせて飲んだほうが効果的なのでしょうか?

 本当に胃がぶよぶよに伸びきって広がって、為すすべがなく何年も経ち困っています。長文になり、申し訳ありませんでした。どうかお返事よろしくお願いいたします。
2012年7月3日のボクチン(8歳)
2012年7月3日のボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:

 アトピー性皮膚炎で、しかも本当に中気下陥であればイスクラの補中丸が無難です。
 というのも、本物の補中益気湯には本来、生姜と大棗は含まれないものですから、一般的な補中益気湯は正しい配合とはいえません。
 さらには、アトピーでは朝鮮人参が配合された補中益気湯は人によっては敏感に反応する場合があるので、朝鮮人参の変わりに党参が配合され、しかも生姜と大棗が含まれないイスクラの補中丸の方が安心なのです。

 といっても、貴女が本当に中気下陥の補中益気湯体質であるのかどうか?
文面だけから推測するとかなり怪しいと思われます。

>。現在は体重48.5kg、 常に胃がパンパ ンで苦しいのに、エネルギー不足になり、過食が止まらず、悪循環です。

 という症状こそ、大柴胡湯や稀には半夏瀉心湯のいずれか、意外に大柴胡湯証であることが多いからです。
 そもそも補中益気湯は「常に胃がパンパ ンで苦しい」という人に適応する漢方薬ではありません。

 但し、例外もあって、食後に手足が抜けるようにだるくなって立っておれないというほどの症状を伴っておれば、大柴胡湯合補中丸ということも実際にはあり得ます。

 そもそも中気下陥の人に「常に胃がパンパ ンで苦しい」という症状は無関係です。

 中気下陥の症状は、肉体的に地球の引力が煩わしくて辛い耐えられないという症状を呈するもので、内臓の下墜感や食後に手足が抜けるようなだるさを覚えるなどです。

 といっても、メールだけのアドバスと、実際にご本人に会って舌などの状態を観察し、五臓六腑の寒熱虚実を分析してみると、メールでのアドバイスはぜんぜんピントはずれで、とんでもない体質が隠れていたということもシバシバですので、上記はあくまで、メールの文面だけでの推測です。

 そして、これからがとても大事な話ですが・・・
 これまで治療に相当に苦労されているようですが、貴女のような「アトピーが合併して胃腸に大きな問題のある」というケースでは、自己治療はほとんど不可能で、また一般の漢方の勉強不足の医師ではとうてい不可能です。

 医師であれば、漢方専門で、しかも中医学に堪能な医師でなければ、優れた配合は得られないと思います。

 といっても、保険適用漢方レベルでは品質問題だけでなく、必要な方剤も不足ですので、中医学にも堪能な漢方専門薬局で7〜10日毎に通いつめて必要な配合の微調整を、場合によれば頻繁に行ってもらう必要があると思います。

 アトピーの場合は、四季折々の変化を観察する必要がありますので、一年間を通じて同じところに通って、季節変化の傾向と対策を練ってもらう必要があります。
通う間に、運よくかなり改善することがあっても、季節変化によっては大きく崩れる場合もあるので、油断もすきもならないのがアトピー性皮膚炎の宿命です。

 また一般的な漢方薬の配合レベルでは効果が薄いケースもあり、中草薬といわれる日本漢方とは無縁のものを併用が必須となるケースもありますが・・・・

 とはいえ、貴女の場合、何よりも胃症状と過食の悩みが大きいようですので、そのほうを中心に配合を考えるにしても、意外に大柴胡湯証や半夏瀉心湯証のいずれかが、合併している可能性もないとはいえませんので、やっぱり本当の専門家を必ず通える範囲のお近くで見つけて、しっかり時間をかけて相談に乗ってもらうべきだと思います。
 短期間で改善できるとは限らないので、まずは気が合う先生にめぐり合ったら、最低でも一年間通ってみることです。

 取り急ぎ、お返事まで。
2012年7月3日のボクチン(8歳)
2012年7月3日のボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

折り返し頂いたメール:

 お返事ありがとうございます。
 初めのメールでは症状の明記が不十分だと思ったので付け加えます。

 胃がパンパンで苦しいというのは、主におへそあたりから下の方です。
 食後の眠気がひどく、すぐに横になってしまい、体が重くて動けません。手足の脱力感はあまり感じません。
 夕食後に、寝ござマットで寝てしまい、風呂にも入らず、布団にも入らず、気がつけば朝になっていることもたびたびあります。
 立っていても、内臓の重みがすごくて骨盤をすごい重力で押さえつけられている感じです。内臓の下墜感はかなりあります。横になっていても、すごい重力で床に引き付けられている感じです。
 血圧は低い方で上が100前後、下は60前後です。猫背で胸板が薄く、下腹はぽこっと出ている。胃内停食がある。
 臥床でお腹をたたくとチャプチャプ鳴る。食事と食事の間が空きすぎると、低血糖の症状になる(この時は手足の脱力感やふらつきがある。)

 胃下垂が徐々に酷くなっている途中では、少しの量ですぐに満腹になってしまい、いつも食欲がありませんでした。それが、胃が完全に落ちた、伸びきった感じがしてから数か月後、壊れたように
 いくらでも入るようになりました。空腹でなくても食べられます。その代わりに、満腹感・満足感が全くわからなくなりました。これは胃の弾力が失われてしまった為だと感じています。
 過食といっても、普通の人から見ればそれ程多い量ではないと思います。しかし、子供の時から少食で、大人になっても普通の人の半量ぐらいしか食べられなかった私が、体重29.8kgまで痩せた
 後に、突然、以前の2〜3倍ぐらい食べるようになり、さらに満腹感がないというのは異常なことです。胃が伸びきって、下腹部で広がっている感じがあるので、少しずつでも収縮させたくて
 補中益気湯を試そうと思い、先ほどの質問メールを送りました。

 お返事を読ませていただき、大柴胡湯証や、半夏瀉心湯証の可能性があるのならば、試してみようと思ったのですが、上記のような症状でも当てはまるでしょうか?

 どうかお返事よろしくお願いいたします。

2012年7月3日のボクチン(8歳)
2012年7月3日のボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:

 今回頂いたメールからは、ご指摘の通り、やっぱり明らかな中気下陥の証候に間違いないようです。
 大柴胡湯や半夏瀉心湯は不適だと思われます。
 今回のメールのようにかなり詳細・具体的な症状の表現があってこそ、はじめて理解できる部分で、それだけ漢方薬の弁証には多くの情報が必要なのです。

 ところで、
 過去の貴女の服用経験からは一般的な補中益気湯では効果が明らかでないようですので、やっぱりイスクラの補中丸を主体に、必ず適切な他方剤を併用する必要があります!
 そのためには自己治療では難しいと思いますので、信頼できる専門家を必ず地元近辺で見つけて下さい。
 相当に知識と経験のある専門家であっても、最低限一年間前後の苦労はほとんど必須だと思います。

 しっかり治るには数年くらいは覚悟されたほうが良いかもしれません。
 いずれにせよ、一つの方剤だけでは効果は弱い可能性も高いので、相談者との相性という問題もあるので、信頼できそうな専門家を見つける必要があると思います。
 取り急ぎ、お返事まで。

2012年7月3日のボクチン(8歳)
2012年7月3日のボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

折り返し頂いたメール:

 お返事ありがとうございます。ホームページを見ると、村田漢方薬局さんに通いたいと思ってしまいます。
 信頼できる専門家なのかどうかを素人の私が判断するのはとても難しそうです。しかし、相談しやすい漢方薬剤師さんは近場にいるのでしばらくはそこに通おうとおもいます。今日早速行ってきて、コタローの補中益気湯しか置いてなかったので、イスクラの補中丸取り寄せをお願いしました。

 補中丸が届くまで、これを試してはどうですか、とイスクラの晶三仙を勧められました。ただの消化薬っぽくて気休めにしかならないかもしれませんが、少しでも消化の助けになるのならと思い、短期間飲んでみることにしました。
 
 お時間を割いて相談に答えてくださり、とても感謝しています。ありがとうございました。

2012年7月3日のボクチン(8歳)
2012年7月3日のボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母



posted by ヒゲジジイ at 00:12| 山口 🌁| 補中益気湯や六君子湯中の白朮を蒼朮で代用する錯誤問題 | 更新情報をチェックする

2013年04月11日

偶然同じ漢方処方で効果に劇的な違いが生じた不定愁訴症候群

FSC_8830
FSC_8830 posted by (C)ボクチンの母

 本日は関東地方から、一昨日は四国地方から、先日は甲信越地方や東海地方から、連日のように遠方からの新しい漢方相談者が続く。
 いずれも地元の病院漢方でダメで、その後はやはり地元の漢方薬局でも効果がなく、止むを得ず遠路はるばる下関まで来られた人達である。

 ところで数年前、近畿地方から来られた不定愁訴症候群により休職して家にこもっていた女性が、地元の漢方専門クリニック?で投与された漢方薬で、一定の効果があるものの極めて不完全で、いつまでも社会復帰できない例があった。
 そこで遠路はるばる来られたわけだが、加味逍遥散エキス製剤に浮腫傾向などを考慮して猪苓湯の併用で様子をみてもらうことになった。

 ところで、帰宅される寸前になって、医療用の漢方は何を服用されていたのか確かめてみると、同じ加味逍遥散に猪苓湯だったとのこと。
 アリリッと思ったものの、例によってその加味逍遥散は白朮であるべきところが蒼朮で代用されているシロモノなので問題外。
 また、猪苓湯もどうしたことか、しばしば医療用の猪苓湯では効果が十分に発揮できなかった例にしばしば遭遇しているるので、今回も同じ処方でも各社品質競争の激しい市販される自費の漢方エキス製剤とは効果に大きな違いが出ることが予測された

 ご相談者も当方のブログ類で、メーカー間の品質の違いの問題を理解されて来られていので、偶然同様な配合を提示されても何の疑問も抱かれなかった。

 そして結果は、案の定、当方の配合では比較的速効を得て、早々に社会復帰を果たすことが出来たのであった。

 このような例を折々に経験するので、天然生薬を原料とする漢方製剤は、各処方ごとにしっかり吟味して採用しないと、これほど問題が大きいことを心得ておくべきである。

 あるメーカーの外交さんは、それはヒゲジジイの気合による効果に違いありませんよっ、と揶揄とも皮肉とも取れる冗談を言われていたが、もしかしてそんなこともあるのかも(呵々。

FSC_8863
FSC_8863 posted by (C)ボクチンの母

2012年05月05日

日本漢方の後進性の証明は医療用ツムラ漢方の補中益気湯や六君子湯中の白朮を蒼朮で代用する錯誤もその一つ

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ASC_2969 posted by (C)ヒゲジジイ

 日本漢方の統一的な教科書すら存在しないこと事態が、理論面でいかに杜撰であるかは、いまさら論ずる必要もないが、漢方製剤における配合薬の選定において、これほど杜撰であればローカルな民間療法レベルに堕すると暴論を受けてもやむを得ないことだろう。

 日本を代表する医療用漢方メーカーとあろうものが、ツムラの補中益気湯やツムラの六君子湯など補益系統の方剤中の白朮を蒼朮で代用する愚考を犯している現実。
 ツムラの五苓散も然りであるが、補中益気湯や六君子湯の蒼朮に至っては、五苓散中の蒼朮レベルとは遥かに問題が大き過ぎる。

 白朮を蒼朮で代用された方剤、その数なんと三十数処方に及ぶ。
 白朮と蒼朮は類似点は多いが中薬学上の薬効は明かに違いがある。
 脾虚脾湿に適応する白朮と、湿邪の実証に適応する蒼朮である。燥湿健脾を特長とする白朮と、袪風除湿を特長とする蒼朮である。

 白朮と蒼朮の最大の違いは、白朮は固表止汗して黄耆(オウギ)がないときの代用品になるくらいだが、蒼朮は逆に散寒解表して発汗作用があるので決して黄耆の代用とはなり得ない。
     ━白朮を蒼朮で代用する日本漢方の杜撰
 これではたして補中益気湯や六君子湯の本来の効能をフルに発揮できるといえようかっ!?

 白朮や蒼朮錯誤の問題だけではない。

 乾姜と生姜の問題も信じられない馬鹿げた問題である。詳細は日本漢方における生姜と乾姜の錯誤に譲るが、これら以外にもレベルの低さを露呈する数々の問題がある。

 ついでに言えば、昨今NHKテレビが医療用漢方の宣伝を繰り返し行わなければならないほど、現実にはジリ貧状態の日本漢方ではないのか?と疑いたくもなる。
 たとえば手術後の大建中湯、認知症に抑肝散など、ますます水は低きに流れるばかり。
 陰虚証体質や実熱証の人達が主治医に、これらの方剤を投与された結果、皮膚掻痒症が重症化した事例が後を絶たない。

参考文献:
 ※補中益気湯に白朮ではなく蒼朮を配合した医療用漢方製剤は明らかに錯誤
 ※だから言わんこっちゃない!24年前に提唱した中医学と日本漢方を合体させる「中医漢方薬学」論を忌避し続けたツケが今になって回って来ただろうがっ!

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ASC_3105 posted by (C)ヒゲジジイ

2012年03月15日

柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬は煎じ薬がよいとは限らない実例報告など

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IMGP0552 posted by (C)ボクチンの母

おたより:東海地方の美人女性薬剤師

 ここのところ、一気に春めく日と、寒の戻りが強い日があり、毎日体は揺さぶられていますね。
 特に伏痰がある方にはとても辛い季節のようです。
 暖かい日には、氷が溶けるように、カチカチにこわばった体の氷も溶けて動いてくるイメージでしょうか?

 ところが、この溶け出した体の氷が厄介で、春先特有の、たとえようのない体のだるさ、頭重感、眩暈、浮遊感、耳鳴り、吐き気等を作っているように思えます。

 腠理が開閉して汗になってでてしまえば、スッキリするのでしょうが、腠理が閉じているために出口を失い、そうしたところに夕方〜夜にかけての冷えがやってくると、中途半端はところで再び固まり始め、気血の流れを塞ぐ症状がとても目立っています。

 したがって、三焦の通りをよくする処方や、肺脾腎を強化して解表や排泄を助ける処方が主流になっています。

 春先に多い黄砂や花粉症によるアレルギー症状もこれに関連しているように思えます。

 鼻水や目の痒み等の典型的なアレルギー症状がなくても、体がだるく重く、頭がスッキリせずに、何となく微熱っぽいものも、おそらくは免疫反応のしわざによる伏痰が原因しているのではないか?と考えています。

 このような症状に悩まれている方があちこちの医療機関を転々としているわけなのですが、”体がしんどいのなら、体力をつける薬を出しておきましょう”・・・と補中益気湯などが処方されていたのですが、スッキリと効くわけはありません。

 ひどい方になると、先生が先日のブログに書いておられたように、煎じ薬でないと納得できない・・・みたいな方があって、柴胡加竜骨牡蛎湯を煎じ薬でもらっておられたようなのですが、全く効かない・・・と言われる。

 確かにその方には柴胡加竜骨牡蛎湯は適当であるように思えたので、”どのように煎じてみえますか?”

 とお聞きしたところ、パックに入れて一括で煎じるタイプのもので、なるほどこれでは竜骨や牡蛎の重たいお薬の効果が十分に反映されないことが予測された。

 そこで、当方の柴胡加竜骨牡蛎湯エキス剤を用いたところ、たちどころに効果が現れ、”こういうこともあるのですね!”と言われ、憮然とした始末・・・。

 エキス剤を侮ることなかれ!

 ましてや、さじ加減はエキス剤でないと不可能です。

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IMGP0630 posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:

 いつもとても有意義な内容でブログへご協力頂き、ありがとうございます。

 ところで、最近ず〜と、先生から頂くメールのアドレスがひどい文字化けで到着します。
 さいわい、本文には文字化けがないので安心ですが、とても不思議です。
 もしかして宇宙からの使者だったりして?!

 ところで「体がしんどいのなら、体力をつける薬を出しておきましょう」と出されるのが補中益気湯という各医療機関のワンパターンには恐れ入ります。どの病院も共通しているようです。

 本来、白朮を配合すべき補中益気湯に湿盛の実証に用いる蒼朮で代用された補中益気湯エキス製剤を投与する病院が多発しているのですから、呆れ果てるばかりです。

 湿盛の実証に用いるべき蒼朮、脾弱の虚証に用いるべき白朮。

 散寒解表する蒼朮、固表止汗する白朮。

 要約して書いてもこれだけの違いがある、蒼朮と白朮。よくもま〜補中益気湯という文字通りの補剤に白朮を配合せずに蒼朮で代用する非常識が信じられませんよ。

 袪風除湿の蒼朮、燥湿健脾の白朮。

 書けば際限がありませんね。

 煎じ薬が絶対に効き目が上だと信じ込む素人さんのみならず、そのような専門家が多いのも困ったものですが、それにしても柴胡加竜骨牡蛎湯の件はひどいものですねっ!

 当方ではしばしば遭遇するのはエキス剤での効果の違い。

 昨今しばしば遭遇するのは加味逍遥散エキス製剤を投与されていた人が、これも白朮を配合すべきものが蒼朮で代用されたものなので、正しく白朮の配合されたものに切り替えてもらうと、まともに効果を発揮する例。

 それにしても加味逍遥散レベルで、蒼朮と白朮が違ったくらいで、ここまで効果が異なるのもやや不思議な感もするのですが・・・。

 さらに書けば、飴色に蒸した煨姜(ワイキョウ)もどきの乾姜が配合された半夏瀉心湯エキスで効果がはっきりしない人には、正しく乾燥生姜が配合された半夏瀉心湯に切り替えてもらうと、やはり効果は歴然と異なる。

 猪苓湯にしても・・・書けば際限がなく続いてしまうので、これくらいでやめておきます(苦笑。

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IMGP0633 posted by (C)ボクチンの母


2009年07月17日

白朮であるべきところを蒼朮で代用したエキス剤の問題についての御質問

セイヨウニンジンボク
セイヨウニンジンボク posted by (C)ヒゲジジイ

ブログへの転載の可否 : ブログへ転載を許可します
年齢 : 40歳〜49歳の男性
簡単なご住所 : 日本の本州
具体的な御職業: 内科医師
お問い合わせ内容 : 中医学に興味を持ち、勉強し始めたばかりの者です。村田先生のサイトに興味津津。これからも楽しみにしております。

 蒼朮代用のエキス剤について、質問させてください。
 私の対象患者は老人が多いので、蒼朮で散寒解表させるような補中益気湯、真武湯では困ると考え、ツムラのMRさんに問い合わせたところ、

1.古典では蒼朮と白朮は区別して記載されておらず、大塚敬節先生らが、方剤の内容を蒼朮で良いとされた。

2.他社の白朮も、和白朮であり、本来の唐白朮は高価で使えない。

という回答でした。

 冷やしすぎる心配もないとの事ですが、どう思われますか?(自分の処方は、まだ、強い薬を使う度胸がなく、温補剤乱用かもしれません。)

 ぜひ、ご意見を伺いたく、よろしくお願い致します。

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DSC_0532 posted by (C)ボクチンの母

お返事メール: 蒼朮と白朮の問題ですが、御承知の通り日本の薬局方でさえ区別している生薬です。

 ですから、たとえ大家の大塚敬節先生が言われたからといって混同してよいはずがありません。

 日本で使用される白朮が和白朮だからといっても、あきらかに蒼朮とは原植物が異なるものです。

 成分的にもアトラクチロジンを多く含み、アトラクチロンをほとんど含まないものが蒼朮であり、白朮はアトラクチロンを主成分としてアトラクチロジンを含まないものです。
 成分的にも歴然とした違いがあり、蒼朮には白いカビのような結晶成分が特有なもので、ヒネソールやβ-オイデスモールも含まれているのが白朮とは大きな違いでもあります。

 ツムラさんの回答は極めて杜撰で投げやりとしか思えません。
 他社では蒼朮と白朮の違いを厳密に考慮しているところも少なくありません。

 本来の半夏白朮天麻湯や補気建中湯には、白朮と蒼朮の両者が配合されていますが、実際に日本で販売される半夏白朮天麻湯には白朮しか配合されてないものだらけで、実に嘆かわしい限り、日本漢方の杜撰さを証明するようなものだと思います。
(過去にどのようなメンバーで処方基準が決められたのかは知りませんが、いよいよもって日本漢方のレベルの低さを証明するものであると思います。)

 補中益気湯や真武湯には当然、補剤の範疇に入りますので白朮を蒼朮で代用してはならず、和白朮であっても白朮を使用すべきことは常識です。

 蛇足ながら、身内の◎◎内科医が赴任していた高齢の入院患者の多い病院で、ツムラのMRさんが盛んに補中益気湯の投与を奨めるので、言われるがままに投与していたら、血圧が異常に上昇する人が続出したために慌てて投与を中止した経験談を述べていましたが、当然のなりゆきだと思います。

 大企業ともなると、沢山の従業員をかかえて経営を存続するために無謀な宣伝活動をを行い勝ちのようですが、いつも被害を蒙るのは患者さんたちばかりのようです。 

 以上、とりとめのないお返事になってしまいましたが、取り急ぎお返事まで。

追記:
  参考文献
⇒ 白朮を蒼朮で代用する杜撰

つばめ
つばめ posted by (C)ヒゲジジイ

2008年09月21日

今年は加味逍遥散製剤が飛ぶように出て行く

 連日電話のお邪魔虫は相変わらず減らないが、同時に並行して真剣・真面目な御相談者が9月に入って毎日続いている。だからスタッフの少ないジジババ薬局なのでバテバテの毎日。

 少しの空き時間があって疲れを癒しに奥へ入ると、タマタマ二度目のご高齢者がやって来る。
「有名?な漢方薬局と聞いていたから、よっぽど人が並んでいるかと思ったら、いつ来ても誰もいやしないっ」
 と言われて、複雑な心境(苦笑。
 素直な人達なら例外なく、待たずに済んでさいわいな時間に遭遇したと喜ばれるのが通常だが・・・。月に何回かある土曜日や月曜日の延長戦の混雑を知らない人こそ幸いなれ。

 貴女のような人達をお断りし続けているお陰で、休憩できる空き時間が取れるのだが、その貴重な時間帯に貴女がタマタマ来られただけですよ。それにしても人が並ぶほどに混むのは月曜日か土曜日にあるかないかくらいで・・・、と嫌味や弁明をお返しするのが関の山(ますます苦笑。

 ご相談者の選別を誤った実例はこれくらいにして本題に入ると、日本古方派時代には最も販売量の多かったのが加味逍遥散(「和漢薬」誌299号には、当時、加味逍遥散合桂枝茯苓丸の拙論が掲載されているほど)だったと思うが、テレビで医療用漢方が派手に宣伝される時代に入って以降は、かなり尻つぼみに的に販売量も減っていた。

 女性の不定愁訴症候群に最も使用する機会が多いが、それ以外にも様々な領域に適応することが多く、逍遥散などは中医学世界では乳癌の肝鬱タイプの基本方剤とされているほどである。
 更年期障害や自律神経失調症のみならず、一見捉えどころの無い諸症状に適応者が多いので、いつまでも適切な方剤が見つからずに苦労を重ねていたケースでも、既に加味逍遥散は病院などで試して無効だったといわれる人にも、実際には適切な製剤に切り替えると有効性を発揮したケースが昨今顕著である。

 今年は例年に無く、古方派時代に舞い戻ったかのような販売量に増えている。かなり特徴的なことには、すでに本方を病院漢方で服用経験者が多いことである。
 白朮であるべき配合薬が蒼朮で代用された信じ難き製剤が医療用漢方で採用され、市場を席巻することの問題点を常々指摘しているところであるが、このために効果が激減しているとしたら由々しき問題であろう。

 それら白朮を蒼朮で代用した医療用の加味逍遥散の服用経験者で効果がなかった人達でも、適応証を認めれば、正しく白朮が配合された加味逍遥散製剤を販売し、同時に弁証論治に基く適切な併用方剤を加えることによっていずれも一定の効果を発揮している。

 併用方剤の効果も多いのではないかという面も完全には否定出来ないにしても、このようなことがあまりに度重なると、やっぱり白朮を蒼朮で代用してはならないこと考えざるを得ないのである。

 古方派時代以来の加味逍遥散の消費量は半端ではなくなりそうだが、やはり正しい配合がなされた自信の持てる製剤を長年過剰なまでに神経質に選別して来た実績は馬鹿にならないと自画自賛しているところである(笑。