オオタカ(幼鳥)の雄姿 posted by (C)ヒゲジジイ
あらゆる事象で必ず例外はつきものであるが、一般論から言ってアトピー性皮膚炎の乾燥部分を潤すのは、何も地黄や当帰などが専売特許というわけではない。
猪苓湯を配合処方中に加えることで皮膚が潤うケースがしばしば見られる。
その理由は、皮下の水湿が停滞しているために表皮が乾燥しているケースが多いからである。
だから猪苓湯を使用することで皮下の水湿の停滞が上皮の乾燥部分と調和して却って表皮が潤うようになる。
とりわけ凸凹状のアトピーの乾燥部分に対する猪苓湯の配合は欠かせないほどだ。
事実、この湿気が増えた時期に、一昨日も地元のアトピーの男女がそれぞれに猪苓湯をこの時期、濃度を濃くすることで痒みも含めて乾燥部分が治まり、凸凹感が減少している。
但し、この猪苓湯の作用も瀉火補腎丸などの六味丸系列の方剤の配合があってこそのバランス効果も無視できない。
もともと猪苓湯は「滋陰利水」の効能を持ち、潤す作用と湿邪を除去する作用の二面性をもっているだけに、利水方面だけが主作用というわけではない。
また、注意が必要なことは六味丸系列の方剤は、潤す作用がメインではあっても、これによって却って肌が乾燥してしまう場合がある。
六味丸系列の方剤によって体内に潤い成分を補給したのは良いが、皮膚まで到達せずに、却って内々で停滞した場合には、却って潤すはずの六味丸系列の方剤によって水湿を停滞させた結果、却って皮膚を乾燥させてしまうわけである。
このような場合は、猪苓湯によって水湿の停滞を解消してやることで皮膚が潤うようになることが多い。
それゆえ、六味丸系列の方剤と猪苓湯を併用するケースは甚だ多いということになる。
とりわけ、舌に苔がある人には猪苓湯が必要になるケースは多く、苔が乏しい人でも、掻いたところから水分が僅かでも漏出する傾向がある人にはほとんど必須に近いものである。
現実問題として、肌が乾燥する理由から、猪苓湯を省略して六味丸系列を積極的に使用すると、体質によっては却って乾燥が増す場合がシバシバ見られ、そのような時には却って猪苓湯を加えることで肌が潤ってくることがしばしばである。
皮膚表面に現れる現象は、あくまで体表での現象であり、滋潤作用や利水作用という薬効とは逆の現象が皮膚表面で生じる現象は、上記の理由から決して不思議なことではないのである。
乾燥時期には六味丸系列の方剤は、直接的に潤してくれる場合が多いが、湿気の多い季節に過剰に使用すると、体内に水質を停滞させて、却って皮膚が逆に乾燥してしまう場合があり、このようなときは、むしろ猪苓湯に重点を置かなければならないケースはよくみられるものである。
猪苓湯といえども水毒がまったくない人が使用すると皮膚まで乾燥させてしまうことがあっても不思議は無い。
また、掻き毟ったところから滲出液がまったく見られないケースでは、例外的に猪苓湯がやや邪魔になってくるケースもあり得るかもしれない。
なお、アトピーにおいて漢方薬の効果が十分に皮膚に到達してくれない場合、気滞が原因で漢方薬が皮膚に到達できない場合があり、そのようなときは伝家の宝刀的に四逆散を加えると、一気に効果が上がることも珍しくない。
ところで、乾燥時期に紫雲膏が重宝していた人たちも、湿気の多い季節になると、この季節だけはしばらく紫雲膏の強烈な保湿力が却って煩わしくなる場合があるので、そのように感じられる場合は、一時使用を休んでおくことである。
季節と情況に応じて、配合変化を微妙に行なってこそアトピーの改善を促進する。
地元では苦労の末、その機微を把握された人も多く、常に相談しながらではあるが、季節に応じて衛益顆粒(玉屏風散製剤)や補中益気丸(党参入)が必要なときと不要なとき、六味丸や猪苓湯の配合比率の変化を微妙に感じ取ってみずから操られる名人の域に達しつつある女性もいる。
茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)が必要なときと不要なとき、黄連解毒湯や地竜の巧みな竿さばき。六味丸と瀉火補腎丸を生理後と排卵日以降に巧みに使い分けるなどは朝飯前。
そうこうする内に、いつのまにか9割近い寛解を得ている。一年半近く欠かさず一週間毎に通い続けた熱心さにより、中医漢方薬学の名人になりつつある人達である。
蛇足ながら、昨年からしばしば目立つのが天津感冒片などの銀翹散製剤の少量を、風邪引きをきっかけに痒み止めの一部として利用される人が増えていることである。
最後に重要なことは、同じアトピーでも上記のことはほとんど無関係で、六味丸系列のみならず茵蔯蒿湯すら邪魔になり、猪苓湯も不要という体質の人もいる。
現実に黄連解毒湯・補中益気丸・四逆散・天津感冒片および体質改善三点セットで順調に経過しつつあり、毎日塗布していたステロイド外用薬の使用が激減している人もいる。
但し、この場合でも状況変化によってはいつ何時、六味丸や猪苓湯あるいは茵蔯蒿湯が必要になるかは断定できるものではない。
今現在が不要であり却って邪魔になるからといっても、病状自体が一定不変ではないので、状況に応じた配合変化の柔軟性が常に必要である。
飛んでるオオタカ(幼鳥) posted by (C)ヒゲジジイ
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