いつも熱烈なる中医漢方薬学論を興味深く拝見しています。先日の虚実論は大変示唆的でした。
以前私は血液の悪性疾患を治療させていただいていましたが、漢方(いわゆる日本漢方)に遭遇するまで、抗がん剤を用いた厳しい化学療法を実施していました。
当然副作用の結果、感染症とか偶発症のために治療なかばで不幸な転帰をたどるかたも少なくありませんでした。勿論たいした副作用を経験することなく回復され、がん細胞が検出されない、いわゆる寛解と称する状態に到達するかたもみえました。
ここで生じた疑問は、化学療法に耐えられるかどうかが何によって決まるのかという点でした。もしその化学療法にたいする認容性を規定する要因がすこしでも判明すれば、治療成績も改善するのではないかと愚考したわけです。
当時たまたま私の父親が喘息になり、麦門冬湯にて一夜にして著効し、そのときはほんとうに驚嘆しました(現在中医漢方薬学にて良好)。
このエピソード以降、日本漢方をある先生のもと師事し日常の診療に導入し始めました。
すると、驚いたことに、副作用のでかた、偶発症の発生頻度があきらかかに減少している印象を得ることができました。
今から振り返りますと、日本漢方的尺度で気虚・血虚を評価して方剤を選択していました。しかし、師事した先生からは、いわゆる体力を指標とした虚実の概念は強調されていませんでしたので、日本漢方的な虚実を考慮には入れていませんでした。
患者さんのなかには体力のあるかたもそうでない華奢なかたもいました。
化学療法に漢方を導入するまえの状況ですが、体力の有無とか、日本漢方的な虚実の状態が化学療法の認容性に影響をおよぼしている印象ではありませんでした。
したがって、いわゆる正気を補強する方剤を内服していただくことによって患者さんの全身状態が改善し抵抗力が回復し、ひいては化学療法の成果が向上したように愚考しています。
ここで、去邪法は化学療法が担当したことになります。
村田さんのご指摘のように、虚実に関する正確な知識が啓蒙されると患者さんの病状の改善に大きく寄与すると感じています。今後とも熱烈に中医漢方薬学を発信してください。
私ごとながら、例年5月の連休のころに風邪で寝込むことが通常となっていましたが、今年は元気に過ごすことができています。これも中医漢方薬学のおかげと思って感謝しています。
お返事メール:おたよりありがとうございます。
化学療法による去邪法に、漢方薬による扶正法というお考え方は、ご尤もだと興味深く、とても示唆に富む治療方法だと納得します。
実際の厳しい臨床に携われておられた先生でおありなだけに強い説得力を感じます。
実際の臨床時には、常に扶正と去邪というバランス感覚が必要であると実感します。
昨今、ブログでも書きましたように漢方薬を求めて来られる方の中には、勉強熱心な方もあるのはとても慶賀すべきことなのですが、多くは日本漢方の稚拙な虚実論ですので困ります。
困るといっても、実際にはその日本流の漢方で治らなかった人たちばかりですので、人の身体は一人の体の中で虚実混合(虚実挟雑)で、五臓六腑それぞれに虚実に違いがあるのだから、体力で虚実を判断するような稚拙な考えだから適切な漢方薬にめぐり合えなかったのですよ、ということで納得してもらえます。
虚実挟雑・寒熱錯雑などは日常茶飯事ですので、生命体を常に固定的に考えてはならいことを来局者には常々口を酸っぱくしてアドバイスしています。
補剤であれ瀉剤であれ同様で、アトピー性皮膚炎などでも昨年の重症時には必須であった玉屏風散 (ギョクヘイフウサン)が、8割以上の寛解に到達した頃には必要がなくなりむしろ邪魔になったり、あるいは黄連解毒湯が途中からは不要になることも日時茶飯事です。
交通事故後遺症で血行不良から生薬製剤二号方と葛根湯製剤の併用が必須でみるみる血行がよくなって喜んでいた人が回復するにつれて不要になり、現在は疎経活血湯加減方と茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)に変化しているなど、常に寒熱虚実は時に応じて判断しないことには、一定レベル以上の疾患には対応できないと思います。
実際には、五臓六腑の虚実と寒熱をしっかり把握する必要があり、しかも固定的に捉えてはならないわけで、こんな面倒な弁証論治ですから、それに比べれば日本漢方の虚実論など安気なものです。
分かりやすく安易なものほど疑ってかかるべきことも多いはずですが、体力の有無で判断する虚実論を記載した書籍類やネット情報が氾濫しているのも実に困ったものです。
さいわい当方の後継者は少なくとも同じ漢方薬局ではないので世間的な柵(シガラミ)が少なく、愛国心の強い小生とて引き続き遺言がわり日本漢方に喝を加えていきたいと存じています。
貴重なご体験のご報告とともに応援のお言葉を頂き、まことにありがとうございました。
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