2008年05月11日

虚証・実証・虚実中間証の錯誤について

 昨日の続きである。
 最近はご自身の病気を治したい一心で勉強熱心な素人さんも多いから、少しは理解しやすい虚実論をここに書いておきたい。

 皆さんの仕入れてくる漢方の知識では、体力が乏しいのが虚証、体力が充実しているのが実証という何ともあやふやな知識を仕入れて、実証用の黄連解毒湯や大柴胡湯、虚実中間用の加味逍遥散、虚証用の六君子湯などという日本漢方の錯誤した知識を得て来られるケースがほとんどである。

 こんないい加減な分類で漢方処方を運用していたら、一定レベル以上の疾患になると滅多なことで治るものではない。
 ここからがとても重要な記載である。

 一人の身体において五臓六腑それぞれに寒熱および虚実に違いがあり、しかもそれは固定的なものではなく、情況によって五臓六腑それぞれの寒熱や虚実は変化するのである。

 だから日本漢方の解説書で特に強調されて書かれているような「体力」によって虚証と実証や虚実中間に振り分けることは、ほとんどナンセンスに近い分類なのである。

 どんな人でも一人の身体で五臓六腑それぞれで美妙に寒熱も虚実も同居しているのだから、体力が無い人でも、配合バランスを考えながら、必要に応じて黄連解毒湯や大柴胡湯などがシバシバ配合されることがあっても当然なのである。

 そもそも「体力のあるのが実証」という考え方そのものが、ほとんど錯誤に違い考え方であることだけは覚えておくといい。
 体力があれば実証用の漢方薬も服用する必要なんてある筈が無いっ!

 たとえばこの仕事を始めて35年間、胆石症発作を繰り返す虚弱体質で体力の無い女性達に随分遭遇して来たが、その多くが大柴胡湯+茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)+オルスビーや牛黄製剤で即効を得る機会がしばしばであった。
 また、気力体力の喪失した人たちのストレス性疾患でも、舌先が極端に赤く、イチゴの粒粒のような赤みが顕著な華奢な女性達に随分遭遇して来たが、必要な他の漢方処方とともにバランスを取りながら、黄連解毒湯の適量を併用してもらうことで明らかな改善効果を得ることもシバシバである。

 とりわけ黄連解毒湯などは、各地の漢方専門病院や漢方薬局を歴訪して治らず、当方のところへ辿り着いて判明したことは、いわゆる虚証用の温める方剤ばかりが出されていて、清熱解毒作用のある黄連解毒湯など、その人にとって必須の配合が欠けていたために、いつまでも諸症状に困しんでおられたというケースは枚挙に暇が無いほどである。

 だからといって、黄連解毒湯のような清熱作用のある方剤を単独で乱用すべきではないことは常識で、必ず他の方剤とバランスをとりながら、氷伏(ひょうふく)を起こさせない配慮が必要である。

 それゆえ素人療法は怪我のもとだから、必ず中医学に堪能な専門家と常に相談しながら漢方薬を求めるべきなのである。

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posted by ヒゲジジイ at 10:04| 山口 ☁| 日本漢方の情けない現状と限界 | 更新情報をチェックする