それはともかく、言うもはばかられるが、五苓散製剤の原料に蒼朮(ソウジュツ)を使用している信じられない漢方製剤がこの日本に堂々と存在し、広く流通しているのだから驚愕ものである。
その製造元の漢方と漢方薬に対する学識レベルを疑わざるを得ない。
五苓散の薬味は、猪苓・沢瀉・茯苓・白朮・桂枝であると原典の傷寒論に記載されている。
なにゆえ白朮(ビャクジュツ)のかわりに蒼朮(ソウジュツ)なのか?
白朮と蒼朮は、中薬学上の薬効は明かに違いがある。類似した点も多々あるが、明かに異なる部分もある。
脾虚脾湿に適応する白朮と、湿邪の実証に適応する蒼朮である。燥湿健脾を特長とする白朮と、去風除湿を特長とする蒼朮である。
白朮と蒼朮の最も大きな違いは、白朮は固表止汗して黄耆(オウギ)がないときには一定の代用になるほどだが、蒼朮は逆に散寒解表して発汗作用がある。
たとえば玉屏風散(ギョクヘイフウサン)は黄耆・白朮・防風の三味で構成されるが、この白朮を蒼朮で代用することがあっては絶対にならない。蒼朮に入れかえられてしまうと、玉屏風散の立方の主旨である表衛不固の治療方剤(益気固表止汗)としては完全に失格してしまう。
同様に五苓散の立方主旨から考えても、明かに白朮でなければならないのである。
もともと日本漢方(漢方医学)では白朮や蒼朮の原料に対する考えかたが非常にルーズであったが、その悪しき伝統が平成の御世にまで受け継がれているらしい。
この国の漢方レベルは未だにこの程度のものであるかっ?
白朮がないときの代用として古立蒼朮(コダチソウジュツ)を止むを得ず使用するというのなら話はわかるが・・・しかしながら、白朮の流通が途絶えたという話は聞いたことがない。
実は、蒼朮を用いた五苓散エキス製剤が意外に広く日本で流通している事実を先ほど偶然知ったばかりなのである。
だから驚き過ぎて眠れず、このブログの投稿も夜中の3時(苦笑)。
実際には過去、五苓散(1)において
この五苓散ばかりは、色んな意味で、様々な応用方法があり、また、配合生薬中の「白朮(びゃくじゅつ)」が、「蒼朮(そうじゅつ)」を使用する漢方製剤があったり、「桂枝」であるべきところが、日本には腎陽・心陽・脾陽を特に温める作用の「肉桂」が使用されているなど、書こうと思えば、様々な方向から、どのようにもダラダラと書き続けてしまえるほど、話題はつきない。と述べていたが、事ここに至ってやや錯誤した製剤が広く流通するのも如何なものかと思って、敢えてここに書いた次第である。
玉屏風散(優秀な製剤は日本では衛益顆粒)の参考文献:アレルギー性鼻炎に対する玉屏風散
玉屏風散証の見分け方
【関連する記事】
- 托裏消毒飲のエキス製剤がないのは、日本の漢方レベルが低い証拠
- 各社それぞれエキス製剤の大きな問題点
- 12月に入って急に問い合わせの電話やメールが増えたが
- 錠剤や細粒剤の漢方薬の服用に使用する飲料水はコヒーや紅茶、お茶類では、問題がある..
- 漢方薬は、エキス剤よりも煎じ薬の方が効き目がよい、というのは都市伝説、というより..
- 相変わらず、病名漢方という邪道が蔓延する、日本の病院漢方や漢方薬局の現状
- 桂枝湯における肉桂配合のエキス製剤の問題
- 小曽戸丈夫先生は、排膿散及湯は 「はいのうさんおよびとう」 と読むべきだと強く主..
- 体質にフィットしてないのに、小建中湯を連用することで、実際にあり得る副作用
- 釣藤散エキス製剤の効果の優劣が、各社でかなり異なる理由は当然ながら
- 漢方薬の服用を食前や食間に限定するのは、まったくのナンセンス
- 猪苓湯でとってもスッキリしたとお礼の電話
- 寒熱の配慮がなされない医師の投与した漢方薬と調剤薬局のトンデモナイ指導
- なんと!学術論文でさえ虚偽捏造が横行しているのだから、ましてやネット上の記事こそ..
- 飲み慣れた漢方薬でも、うっかり『食前』に飲んだのが運の尽き
- 先週末の話題は、テレビ放映された『林先生の今でしょ!講座』の漢方漢の講義内容の好..
- 漢方薬は食前、食間というのはまったくの都市伝説!
- 煎じ薬の利点と欠点、エキス製剤の利点と欠点
- 誤解も甚だしい
- 前回の続き:猫ちゃんたちに漢方薬を利用される貴重なおたより