御質問者:イギリスの漢方医
御無沙汰いたしております。
○○○○で漢方医をしている●●です。以前、一度、ブログにメールを掲載させていただいた事があります。
○○○○で漢方の資格を取ってから、やっと2年目に入り、先生のブログを参考にさせていただきながら、毎日の診療に悪戦苦闘しております。
本日、メールさせていただいたのは、36歳のがん患者(◎◎◎◎◎◎◎人で奥様が日本人です)で、10日前から、漢方を服用してもらっている方について、アドバイスをお願いしたくメールを書いています。
正式の西洋医学での診断名は、Desmoplastic Round Cell Tumorです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Desmoplastic_small_round_cell_tumor
骨盤組織内にできる結合組織肉腫です。
2006年6月に発症し、8ヶ月間にわたり、化学療法を受けました。
幸い、腫瘍は縮小したのですが、3ヶ月前から、腹水が除々に溜まり始め、12月4日の時点では、腹水が約10リットル以上あったと思います。
お腹がパンパンに腫れていて、皮膚の引っ張りによる痛みがかなりありました。
12月4日に、腹水を漢方でとりたい(後で、知ったのですが、奥様が村田先生のサイトをみたことがあるらしいです。)との希望で治療にこられました。
自汗、盗汗がはげしく、特に朝の4時頃から7時にかけて、頭部からバスタオルを数回変えねばならないほどの汗がでます。
舌は、舌縁に歯痕、中央部より奥に、黄厚苔、中央部から全部は、無苔、舌先は、赤、舌体部は、暗赤色です。
脈は、数で、浮、強めに押すとかなり弱くなります。
顔色は、蒼白で、手足はやせ細っています。
漢方服用はじめてから、便秘気味になり、4日間、お通じがないとのことでしたので、潤腸丸(丸薬:こちらでは、中国製の小さな丸い粒があります)を処方し、汗をすこしでも改善したいということで麦味地黄丸(丸薬)を処方、お通じの方は、翌日から、改善、汗のほうも40%ほど減少しました。
10日間、補気建中湯 煎じ薬(経験漢方処方分量集の1.5倍量)+カワラタケのエキス20gで様子をみましたが、改善がみられなかったため、病院で腹水をとってもらうことを強く勧め、昨日、今日で10リットル、水を抜いたそうです。
梅寄生は、こちらで入手できないため、日本に注文しました。
病院の医師からは、再度、化学療法を勧められたのですが、本人がどうしても厭だという事で、月曜日に退院してくる予定です。
本人は、漢方に賭けてみたいという強い希望です。
私も、できるだけのことはしてあげたいと思っています。
托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)を模写したエキス製剤配合の併用や、牛黄製剤、分消湯などの使用も含め、アドバイスをお願いできないでしょうか?
英国では、動物性、鉱物性の中薬の使用は、正式には、認められていません。
そのため、入手するためには、日本から、取り寄せになります。
しかし、生命のかかったことですから、必要であれば、本人の承諾の元、使用したいと思っています。
以上、お忙しい中、本当にすみませんが、御助言のほど、何卒、宜しくお願いします。
ヒゲジジイのお返事メール:お久しぶりですね。
お問い合わせの件、患者さんは病院などに通える体力がある場合は、http://cyosyu.exblog.jp/i19/ ここにも書いていますように、補気建中湯を使用するほど虚証が重度ではないのかもしれません。
舌象などから推察しますと、分消湯に茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)を基本として、猪苓湯を加えるか?あるいは五苓散を加えるか? あるいは分消湯に茵蔯蒿湯の併用だけにするかのいずれかではないかと愚考します。陰虚の部分も明らかに存在するようですので、滋陰利水の猪苓湯を加えるべきか?
過去の経験でも、肝臓ガン末期の腹水の地元近辺の女性が、医師の名医といわれる各地を歴訪されて、何を出されても無効。
ようやく地元の小生のところに来る気になって、分消湯と茵蔯蒿湯だけの併用だったか、五苓散を加えたかのいずれかでしたが、パンパンに腫れた腹水も次第に消退したので、信用を得て、徐々に適切な製剤の追加を行い、その後3年間、生活の質を維持することが出来た例があります。
このように重度の腹水でも、自らの足で移動できる状況では、舌象に素直に合わせ、黄厚膩苔はインチンコウ湯証の並存こそ類推できるので、厚膩苔には分消湯で対応し、陰虚の舌象には猪苓湯中の阿膠程度で対応し、急を救うべく、2〜3種類の方剤併用のみでシンプルに行ったほうが効果が出やすいのかもしれません。
上記の方剤でも快便が得られることも多いのですが、既に使用されて排便に効果がある潤腸丸や麦味地黄丸は、ワンテンポ(1〜2日)遅らせて、必要なら再度使用するなど、綿密に臨機応変の処置が必要かもしれません。
なお、托裏消毒飲をガンや悪性腫瘍に利用できるのは、外部に露出して自壊した病巣や、体内で膿瘍となり白血球増加を見るなどで有効のようです。
なお、補気建中湯はあまり早い段階で使用しても、証候に適合しないことが多いものです。
起死回生というくらいですから、真の意味での超末期の腹水に偉効を示すことがある、ということで、補気建中湯が適応する状況では、多くは外出することも困難で、自立歩行も難儀な状態に近い段階だと愚考しています。
上記はあくまで文面による推測に過ぎませんので、専門家の●●先生の最終責任でお願いします。
【編集後記】 托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)をヒントにしたエキス製剤の組み合わせ を中心にした応用例では、癌病巣摘出時に取りこぼしがあり、放射線照射後に爛れて潰瘍となり、癌細胞も含んで外部に露出した状況で使用し、一定の効果を長年持続している例がある。肺転移などの転移病巣もありながら、一定の生活の質を保持しつつ、仕事も継続されている。
多種類の製剤を折々に配合変化を行って、既に十一年の常連さんとなられているが、托裏消毒飲の併用が必要となったのは原発巣の大きな取りこぼしが発見され、放射線照射後一定の期間が経ってからのことであった。
折り返し頂いたメール:早速のお返事深謝致します。
方向性が掴めました。
早速、私の責任の中で、試していきます。
また、経過報告致します。
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