2007年12月13日

血管の平滑筋細胞の中医学的問答



お便り:東海地方の内科医師

 いつも有益なご助言を頂きましてありがとうございます。最近の内科の先生とのデイスカッション興味深く拝見しています。

 お陰さまで私の血圧はほぼ正常化しています。西洋薬プラス漢方薬(釣藤散、八味丸)にて良好なコントロールが得られています。

 ここで、個人的に興味深かったことがあります。初めは著名な血圧の専門家のご助言に従ってある高圧薬を内服開始し、その効果は緩やかでした。もちろん、事前にそのことも伺っていました。同薬の内服を継続し、ある時点で八味丸を開始しました。
 
 村田さんはご存知と思いますが、私は目の問題、といっても些細なことですが、から釣藤散も服用していました。釣藤散と高圧薬を服薬してしばらくして八味丸を併用したことになります。
 ここでは最大血圧はかなり低下していましたが、最小血圧がまだちょっとというレベルでした。ところが、数日すると最小血圧があきらかに低下し始めたのです。そして、平行して最大血圧も改善しました。それ以後結構いい感じです。

 ここで私は以前漢方の指南いただいた先生の言葉「血圧は腎への配慮が肝要です」をいまさらながらに味わっているところです。
 組織学的に西洋医学でいう腎は血管の集合体のようなものですから、血圧と腎の関連は理解できるところです。また、血圧に重大な影響を及ぼすホルモン(レニン・アンギオテンシン系)が腎などから産生されるという最近の知見はその裏づけといえるかもしれません。

 組織学の教科書を視ますと、血管はその内側から血管内皮細胞、内弾性板、平滑筋細胞、外弾性板、結合組織から出来ているとのことでした。ここででてくる血管内皮細胞は動脈硬化性疾患(脳梗塞、心筋梗塞など)において重要な役割を担っていますが、その由来となる細胞(血管幹細胞)は血液細胞を造る元となる幹細胞(造血幹細胞)とその起源が同じであると理解されているそうです。ごく最近(数年)の見解みたいです(個人的にはなんとかついてゆけているレベルです、笑)。

 どこかの中医の書籍で血液細胞は腎に由来するとの記述を思い出しまして、血管とその中を流れている細胞は腎で包括できるという中医的な概念が、現代の西洋医学の枠でいう組織生物学の最新知見と合致するのかもしれない、と愚考したわけです。ある意味、西洋医学の進展が中医に追いついたという感じもします。

 血管の平滑筋細胞の恒常性に働きかけることは、動脈硬化性疾患とか血管が関与する病態の治療の上で何か意味があるのではと、これまた愚考しています。

 ここで、お伺いしたい点ですが、筋肉と聞くと、単純に肝が思い浮かぶのですが、村田さんのお考えをいただければ幸いです。


お返事メール:高血圧が改善され、何よりです。小生の高血圧も地竜の大量使用と茵蔯蒿湯の大量使用、八仙丸(味麦腎気丸)、田七、丹参、釣藤散などで安定しています。また、夜の一杯の薄いコーヒーも効果的です(苦笑)。
 このたびはに関する大変興味深いお話。
 卑近な例でも塩分を控えるだけで治ってしまう高血圧患者さんも多々見受けます。

 筋肉についての小生の考えですが、筋肉を覆う膜原は確かに肝ではあっても、筋肉自体は中医学的には脾に属します。
 ただ、あらゆる筋肉組織には縦横にめぐる膜原と腠理との関連性はとても重要です。
http://mkanpo.exblog.jp/3557456/
 膜原(まくげん)は臓腑や各組織器官を包み込む膜のこと。
 腠理(そうり)とは、膜外の組織間隙のこと。
ということです。

 現代医学で言う筋肉は、中医学的には肝に属する膜原に覆われ、筋肉そのものは脾に属する肌肉というわけです。

 ところで、中国では以前から中西医結合を目標とした腎病の現代的研究が早くからなされ、様々な西洋医学的な解明が行われているようです。
 ブログには日本での翻訳された書籍を交えて画像を貼り付けておきます。

 小生も興味深くのめり込んだ時期もあるのですが、これに深入りすると却って西洋医学的な思考に引っ張られ、繊細な中医学的な細かな弁証論治を端折ってしまいがちになるので、ここ10年以上、これらの本を開くことはありません。

 中西医結合的な課題は理想ですが、ややもすると西洋医学知識に洗脳されて、逆に中医学の本質が歪められ、中国では中西医結合は失敗だという意見も多く聞かれるようです。
http://blog.livedoor.jp/cyosyu1/archives/50354832.html
ここにも報告がありますように、
中国では中医学の再評価の動きが高まり「中西医結合」は中医学の発展にあまり芳しくないことから、今後の発展方向に議論が高まっているというS先生の記事は大変興味深い。
 SARSが流行したときも「中西医結合」で育った若い世代よりも、中医学に長じた老中医が活躍したことなど、示唆に富むお話である。
とあることは象徴的です。

 (自分の不勉強の言い訳めいて恐縮ですが、愚息が学生時代に大学院に入る以前の学生時代に免疫系の研究が━略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略略━。
 小生は親ながら愚息に対抗して最先端の免疫学の専門書を多数読破したこともありましたが、深入りしても中医漢方薬学にそれほど役に立たないので二度と免疫学の本を開くこともなくなりました。
 中医学的思考訓練には、通り一遍の西洋医学基礎知識で十分ではないかと、いまはやりの怠慢を「偽装!」的愚考で誤魔化しております(苦笑)。)

追伸:サッカーボケしていました。

 同じ筋肉でも血管系統は、中医学的には心に属し、構成組織自体は肝に属する筋膜で構成された組織であると考えています。

 この考えのヒントはやはり「中医病機治法学」の陳潮祖先生の書籍をヒントにしたものです。

 血の運行は、@心気の推動、A肺気の宣降・B腎気の温く・C脾気の統摂が必要で、脈中の血量の調節は肝によって行われる、というのが中医学の基礎的概念です。



【編集後記】 学問的にも医学の発展のためにも先生の追究される「血管の平滑筋細胞の恒常性に働きかけることは、動脈硬化性疾患とか血管が関与する病態の治療の上で何か意味があるのではと」される点は、中医学的に考察することは意義あることに間違いないものの、西洋医学と中医学を結合した中西医結合が却って中医学を崩壊に導いている現実を知ると、やや慎重にならざるを得ないのであった。

 本来、愚息や愚娘は中西医結合研究の最前線に立つべく、医学部に入学して医師であり医学者になったはずであるが、昨今の中国国内の事情を考えると、伝統的な中医学の崩壊の危機を迎える羽目に陥ってはまったく本末転倒である。
 幸か不幸か、二人とも多忙を極めて今のところ中西医結合どころではない状況であった(苦笑)。

 ともあれ、FIFAクラブワールドカップ準決勝を観戦しながらお返事を書くという怠慢をおかしたために、再読して慌てて追伸をお送りした醜態だった。

参考文献:腎系統の生理 腎系統の病理 五臓の病変が腎に波及するしくみ 穀精と腎精について

posted by ヒゲジジイ at 00:55| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする