昨日の続き
お便り:関東地方の某内科医師
長年に渡って漢方治療をなさっている村田先生ならではのご指導を頂き感謝しております。確かに現代医学でも治りにくい病気を漢方で治していくことも大変ですね。
それにはお互いの信頼関係の維持が不可欠で加えて一人の患者さんが出す症状は体質から似たような症状の繰り返しですから‥先生の仰る方法が適していると思いました。有り難うございました。
巷ではアトピーなどの漢方治療をする方が増えている様ですね。初期段階で漢方治療を受ければ治療する側としても困難さは感じないと思います。
知人のアトピー治療をしたときは病院へ行くよりも早く自分の所に来たものですから‥まさに教科書そのものですね。こんな感じからすれば‥信頼をされるという前提が一番大切ということにつきると思います。
一方、慢性化したアトピー患者さんは時間がかかることが予想される反面、患者さん本人は「早く治らなければ漢方は効き目が無い」とか思う方が多いのではないかと思います。これには困ったものです。慢性病の患者さんの特徴としては病気が年輪の様に作られていて‥熱を取る薬と多少暖める薬を併用していかないと治らないとの感覚を抱いています。
充血を取る薬だけを使えば当然身体を冷やすので、一週間もすれば効き目がなくなるのが目に見えてます。早い人なら数日で効き目がなくなってもおかしくありませんよね。これからすれば、最初のムンテラが大切なのかな?とも思います。
昨日先生の本(求道と創造の漢方)を拝見しました。そこで感じるのは、その当時では一貫堂方が多いように思われました。一貫堂方は体力がある人ならば使いやすく効き目は強いですね。ただご多分にもれず一貫堂方は身体の熱を強烈に取る薬が多いので単剤で長期に飲ませると厳しいかな?と感じます。
多分、合方をしないと長期間飲めない患者さんが多い様な感覚を受けます。きっと、ここいら辺の感覚は先生も同じようにお考えになり‥現在の治療に至っていると感じました。
今、息子のこじれた風邪につき合い自宅で治療していますが、経過も順調でホッと一息です。塾通いで無理をしたためか今回は一時、陽明に熱が入って石膏を使いました。
でも、この陽明の熱は1日で取れて‥次の日は別の薬に変えました。古方は単純な分、効き目があり真剣勝負ですね。こんな感じで自宅でも医者をしているから・・・(後略)
今日は病棟だけの仕事で‥これから病棟に上がります。どんな一日になるのでしょう?
平穏な一日を望みます!(笑
これからもアドバイスを頂ければ幸いです。「温病論」も自分なりに勉強してみますね。
猪苓湯や茵蔯蒿湯などの身体における意味が余り良く分からないので‥ここいら辺もポイントですよね。頑張ってみます!
ヒゲジジイのメール: 当時は確かに一貫堂流の方剤をシバシバ使用しておりました。月刊「和漢薬」誌に当時、矢数道明先生が一貫堂の方剤を使用する先生方の統計表を発表された時にも、小生の名前が掲載されていたほどです。
アトピー性皮膚炎にもよく使用して効果が上がるときもあれば、逆効果となることもあり、次第に一貫堂の荊芥連翹湯や柴胡清肝湯などを使用する方法論に疑問を抱くことが増えて来ました。同様な体質の御姉妹に同じ荊芥連翹湯で一人は寛解し、一人は次第に悪化するケースを経験して、ますます不安を覚えた当時が思い出されます。
他の疾患と異なり、アトピー性皮膚炎は極めてデリケートな疾患で、一つの薬味の間違いでも効果を激減させたり、悪化させることさえあり得るようです。
そのようなデリケートな皮膚病に、薬味の多い一貫堂の方剤を使用することが次第に怖くなってしまいました。
現時点の方法を結論的に要約すれば、少ない薬味の方剤合方および単味生薬の加味が主体で、当時よりも格段の寛解率を得るまでになっています。
中医学の学習途上では、中医学特有の中草薬を用いて、病人さんに対する専用の方剤を新たに処方する方法を習熟することに熱心でしたが、方剤学のみならず中薬学を一定のレベルまで学習するうちに、次第に傷寒・金匱の方剤が、少ない薬味で構成され、いかに優れた方剤であるかを再認識するに至りました。
中医学を学ぶ多くの人が、既成方剤に頼ることを忘れて、いかにも中医学派らしい基本方剤を忘却したかのような、患者さんそれぞれに新たな方剤を処方する方向に向かわれる人が多いなか、小生の場合はお里帰りしたかのように、基本方剤の重要性に目覚め、徹底的に基本方剤の四逆散や猪苓湯や茵蔯蒿湯、あるいは八味丸から派生した六味丸など、比較的シンプルな方剤を重要視するようになりました。
傷寒・金匱以後の方剤でも、黄連解毒湯や六味丸を含めたその系列方剤など、単味では地竜や板藍根、白花蛇舌草や金銀花、黄耆、丹参、党参など。
仕事上では、中医学を学んだお陰で、煎じ薬を多用する必要性をほとんど感じることがなくなったのでした。この点は、他の中医学派とはまったく異なるところで、基本方剤の価値を再認識したおかげで、エキス製剤中心の仕事で十分にやっていけるどころか、むしろシンプルな基本方剤を組み合わせることで、極めて敏感なアトピー性皮膚炎も、日本漢方しか知らなかった時代よりも、寛解率が格段に向上しました。
多数の方剤を組み合わせる事が多いのですが、一貫堂の荊芥連翹湯中の薬味の数をはるかに下回るのです。
こうすることで不必要な薬味、とりわけ油断がならない川芎(センキュウ)や当帰などの使用を避けることができ、一貫堂の諸方剤から卒業することが出来ました。
なんだか奇妙な思い出話になりましたが、方剤学を学ぶ上では、
日本漢方の随証治療の精神と「依法用方」 もとても参考になりました。(追記:引用文は陳潮祖教授著の拙訳))
三、依法釈方〔治法にもとづいて方剤を解釈する〕における、という部分は傷寒論を再学習する上でも、とても参考になる部分でした。
四逆散を例にすると、原著では「少陰病、四逆し、その人あるいは咳し、あるいは悸し、あるいは小便不利し、あるいは腹中痛み、あるいは泄利下重するとき」に適応するとされ、四逆散の適応症を「あるいは」として五つの症状を挙げているが、これらのどの症状も各臓それぞれの病理変化が反映したものであり、肝気鬱結によって筋膜の柔和を失ったため、気血津液が失調して五臓の病変を誘発したときに本方が適応する、と解釈できる。この場合に、薬物の効能と君臣佐使だけで方意を分析すると、腹痛に対する説明はできても、その他の諸症状に対する適応を説明できそうもない。
このように、依法釈方によってはじめて古方の神髄を把握し、選薬処方の奥義をつかみ取ることができ、また、方剤が体現する治法を知ってはじめて、治法にもとづいて方剤を選択することができるのである。
なお、猪苓湯や茵蔯蒿湯は、現代社会では最も重要な方剤だと認識し、日々大量使用の毎日です。書けば際限がなくなりそうですので、非専門的に暗示させていただければ、地元の消化器内科の医師が胆石症は現代人の三分の二が一生に一度は罹患すると言われます。真偽のほどはともかく、小生の弁証論治によっても現代人の三分の二の人に茵蔯蒿湯証が確認できます。
猪苓湯も同様ですが、尿路結石患者の多発とも相関関係がありそうに思えます。
両者いずれも、地球温暖化の問題のみならず、むしろもっとも問題なのは有史始まって以来、前代未聞の飽食の時代。皆がみな、昔の王侯貴族以上の飽食の毎日であってみれば、両方剤の適応者が多発しても不思議はないように思われます。
アトピー性皮膚炎に限らず、各種疾患にも広く応用できる方剤です。
ちょっと種明かしし過ぎました(苦笑)。
【編集後記】 最後の灰色活字の部分はブログでは秘匿することを先方にお伝えしていたのだが、本ブログは医師・薬剤師・鍼灸師・臨床検査技師など医療関係者のご訪問も多いので、ご訪問者への精一杯のサービスとして、種明かしを消さずにブログにも掲載した。
但し、茵蔯蒿湯も猪苓湯も単方使用では頑固な慢性疾患には非力な場合も多いので、誤解なきよう願います。バランスの取れた併用方剤が必要なことが多いということです。
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