以前、月刊「和漢薬」誌に拙訳で連載していた陳潮祖先生の『中医病機治法学』の「清熱法」のところで、清代の名医・葉天士の言葉として
熱病は涼薬を用いるに、すべからく活血の品を佐としてはじめて冰伏の虞(おそれ)あるを致さざるべし。けだしおよそ大寒大熱の病の後は、脈絡中に必ず推蕩不尽の瘀血あり。もし去除せずんば、新生の血は流通することあたわず、元気ついに復することあたわず、甚だしきは転じて労損となるものあらん。というのを取り上げておられたことは判明していた。
しかしながら、この葉天士の名言が引用された他の書籍や、名言集の書籍における解説文を読んだ記憶が確かにあったので、ここ数ヶ月、折々に書庫中を捜し続けていた。
若い頃から中医学書を少々は読んできた割には、出典の保存をマメに行ってこなかった怠慢は覆うべくもないが、少なくとも読んだ本の気になったところは、コヨリなどを入れていたはずだ。
また、すでに目を通した本は広島県の私設漢方薬研究所に移動させたものが多いので、もしやと思って急に思い立ち、15日〜16日にかけて行って見た。
そして発見したのが、下記の画像にもあるように清代の周学海著『読医随筆』と1992年に中国医薬科技出版から発刊された『名医名言薈蕐』であった。
この『中医名言薈蕐』には中医名言の302番目として、
熱病用涼薬、須佐以活血之品、始不致有氷伏之虞。
を掲載している。その出典として清代の周学海著『読医随筆』病後調補須兼散気破血の項において葉天士の言葉として引用されたものとされている。
解説も付されており、その解説中には
熱病に涼薬を投与するのは正しいが、涼薬を過剰に用いると血を凝滞させて瘀血を形成させたり脾胃を損傷する。「熱病が治りきらないうちに涼病が生じる」ということになりかねないので、佐薬として活血薬を加えるべきなのである。とあるが、初出の『読医随筆』に葉天士が述べた趣旨をさらに拡大した解釈がなされており、これらをヒントに、広義の氷伏と狭義の氷伏 に発展させた解釈も成り立つのではないだろうか。
ともあれ、葉天士の名言としてはじめて記載された書籍は清代の周学海著『読医随筆』であろう、という結論である。すなわち「氷伏」論の出典は周学海の『読医随筆』であるということのようである。
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