御質問者:東海地方の内科医師
いつもお世話になっています。
本日は自分の件でご教示ください。つい先日飛蚊症が悪化(視野のなかを飛ぶ蚊のサイズが巨大化)しまして眼科を受診しました。
硝子体剥離との診断を頂きました。眼科医のご説明では年齢的な生理的変化だそうです。いいかえれば、”年の成せる業”ということでしょうか(苦笑)。
そこでご相談ですが、何かお勧めのものはございませんでしょうか。診療中に眼が疲労します。
ちなみに、自分の所見としては、舌は淡紅で微黄色苔がわずかにあり、胸脇苦満、脈:弦でしょうか。
腰痛、風邪のあとに痰の絡んだ咳がでたことがありまして、炙甘草湯と八味丸を頂戴しています。
そして、通常は便秘気味かと思います。それから天候の悪化するまえには頭痛があります。しかし、五苓散は全く効きません(ある文献では有効であるとするものがあり試しましたが)。
年齢は一応自覚していますが、漢方薬のお助けで診療に耐えられるようにしたいと思っております。
ヒゲジジイのお返事メール:早朝の床の中での後頭部の重さを感じることはないでしょうか?
例の釣藤散証に関連する一連の症候の有無についてです。
胸脇苦満および弦脈を考慮すればなおさら考えられるのは釣藤散の出典である本事方・眩暈門にある「肝厥頭暈」の系列の病症ではないかと推測できるように思います。
胸脇苦満や弦脈は、柴胡剤ばかりが専売特許というわけではありません。
舌は淡紅で微黄色苔からするとますますそれらしく思われるのですが、如何でしょうか?
ところで小生も愚妻も以前から気になる飛蚊症があったのですが、二人ともに最近はほとんど意識にまったくのぼらないほどに薄らいでいます。先生のメールを頂いて、そういえばと白紙に向かって捜して、ようやく僅かに発見できるほどです。
愚妻の場合は耳鳴りや眼圧が上昇気味だったことから、釣藤散を主体に細かな弁証論治にもとづいて知柏腎気丸製剤・生薬製剤二号方・茵蔯蒿湯など等、ここに書ききれないくらいの方剤を連用していますが、釣藤散を加えるようになって、明らかに飛蚊症がほとんど消えていると言います。
小生は二ヶ月前に一時血圧が上昇したことがきっかけで釣藤散・大柴胡湯・茵蔯蒿湯・八仙丸・地竜・板藍茶・白花蛇舌草を比較的真面目に連用して血圧が正常化するのに併行して、長時間のパソコンや読書という過酷な眼精疲労を強いられているにもかかわらず、飛蚊症が全然気にならなくなっています。
また肝腎陰虚がベースにあることや、血瘀が伴っていることも多いので杞菊地黄丸などの六味丸系列の方剤や生薬製剤二号方などの活血化瘀方剤を併用すべきケースが多いようにも感じています。
過去の仕事上では、杞菊地黄丸と生薬製剤二号方の二種類の併用のみで寛解した女性や加味逍遙散と杞菊地黄丸の併用で寛解した女性などもおられました。
しかしながら20年前くらいのことですが、一例だけ慙愧の念に耐えない例として、某合成医薬品系の製薬メーカーの社長さんの重度の飛蚊症を何とかして欲しいと依頼され、真面目に通い詰められたにも拘らず、僅かの改善しか得られず、今から思えば高血圧も伴っておられただけに明らかに釣藤散や地竜が不足していたのではないかと、悔やまれる苦い思い出があります。
ともあれ、先生は八味丸を使用されておられますが、あくまで個人的な経験から言えは、附子剤というものは明らかに経絡に冷えが巣食っていたり明らかな全身的な陽虚がない限りはあまり使用しない方が良いように感じます。
注意が必要な漢方薬(肺陰を損傷しやすい漢方処方)
このページの後半部分にも書いていますように、辛燥大熱の附子はうっかり不必要に使用すると肺陰を損傷し兼ねないからです。
ですから確実な附子の証がない限りは、杞菊地黄丸あるいは六味丸の方がふさわしいのではないかと愚考します。これに適当な活血化瘀方剤があれば、生薬製剤二号方でなくとも医療用漢方では当帰芍薬散の少量を適宜利用するなどの方法もあるかもしれません。
もしも釣藤散証がおありのようでしたら、あるいはこの方剤だけでもかなり効果が出るかもしれません。また当帰芍薬散に釣藤散の合方が適応するようでしたら天候に影響される頭痛にも効果を発揮する可能性も高まると思います。
以上、もしもピンと外れの類推でしたらお許し下さい。
折り返し頂いたメール: 早速、大変詳細で親切なご助言ありがとうございます。
”早朝の床の中での後頭部の重さを”をときどき感じていましたし、本日もありました。
血圧もやや高めですので、釣藤散を試みてみます。
杞菊地黄丸はエキス製剤がありませんが、どこかご推奨のものがありましたらお教えください。
折り返しヒゲジジイのメール: あえて杞菊地黄丸を使用されなくとも医療用の六味丸でも間に合うのではないかと愚考しています。
たとえば、愚妻が使用している六味丸製剤は、飛蚊症以外の目的もあって六味丸に知母と黄柏が加わった製剤を使用しています。
小生の場合は、哲学の煙の関係から、六味丸に五味子と麦門冬が加わった味麦腎気丸製剤を使用しています。
頂いたメールのご様子では、明らかな釣藤散証がおありのようですので、これまでの八味丸のかわりに六味丸製剤に切り替えるので良いのではないかと思います。
最近、折々に感じるのは釣藤散証の人こそ、この釣藤散によって飛蚊症が寛解できるように思っていますので、是非、先生を実験台(笑)と考えられて釣藤散+六味丸から始められては如何でしょうか?
お返事メール: 実験の結果で良い成績が得られることを期待して釣藤散と六味丸で試してみます。
そういえば、つい最近の患者さんでひどい頭痛に釣藤散を中軸とした投薬で著効したかたがみえたことを思い出しました。
カルテを見ますとやはり、起床時の頭重感から頭痛に至る症状でした。そのときは意識して処方していなかったようです。いわゆるビギナーズラックというものでしょうか(笑)。今回の結果を参考として頭痛の患者さんの選択枝を増やしてゆきたいものです。
再びヒゲジジイのメール:杞菊地黄丸は六味丸に菊花と枸杞子を加えたものですので、釣藤散の配合生薬中には菊花が含まれておりますから、なおさら釣藤散を主体に配合する場合には敢えて杞菊地黄丸を使用しなくても六味丸の合方でもかなり有効性が高いように思われます。
返信メール:いつも時宜にかなったご助言に深く感謝いたします。
釣藤散と六味丸に期待します。