2007年07月02日

末期癌における腹水の問題(補気建中湯)

同業の女性薬剤師(笑♪)からのおたより: 6月28日のブログ 昨日の続き:滲出液が多いアトピーに対する漢方薬の配合中に六味丸が必要となるのはなぜか? の続き。

 先生からメ〜ルをいただいて、本当に感激しています。
 私のような若輩者が、ご意見なんてとんでもないことですが、教えていただくばかりでは失礼で、せめて自分が思っていることくらいは、お伝えせねば・・・と勇気を出してお便りしました。
 失礼をどうぞお許し下さい。
 六味丸のこと、なるほどと、とても勉強になりました。
 私ももっと勉強して、早く先生のように、自由自在に漢方薬を使えるようになりたいです。

 実は、先生には、何とかして御礼を申し上げる機会がないか・・・と思っていました。

 といいますのは、昨年の今頃、肝臓癌の末期で、腹水が溜まり、今までの方法でなかなかうまくゆかず、どうしたものか・・・という患者さんを持っていました。
 何とか良い方法がないものか・・・と、腹水&中医学を検索していて、ゆきあたったのが先生のサイトで、補気健中湯のことが書かれていました。
 そのとき、目から鱗のような感じがしました。
 度重なる抗ガン剤によって、どんどんと肺脾腎が低下している患者さんでしたので、それを助けるものと、ガンの勢いを清熱するものとを微調整しながら併用していたのですが、想像以上に脾が弱っておられたのです。

 私は、補気健中湯の名前すら知りませんでしたし、手元にもないので、五苓散と補中益気湯を何とかして飲んでいただこうと考えました。
 ところが、すでに食が細り、薬すら飲めない・・・と言われるのです。
 もはやこれまでか・・・と落胆しました。

 しかし、以前、鍼灸験方の鍼灸補中益気方を読んだことを思い出し、薬が飲めないのなら、ツボを刺激してもらえばいい・・・と考えました。
 すなわち、黄耆、党参、升麻、柴胡にあたる百会温灸
沢潟、猪苓に相当する気海に温灸し、列厥に円皮針を置く
桂枝にあたる、大椎の温灸
そして、茯苓と白朮にあたる、陰陵泉と足三里に円皮針を置いていただくよう、ご家族に根気よく説明しました。

 私は、残念ながら鍼灸師ではないので、鍼はできませんが、ツボのアドバイスくらいならできると思って・・・。
その結果、ご家族の懸命なお手当てのおかげで、少しずつラクになり、水が抜け始め、再び食事、薬がとれるようになられたのです。
そして、腹水の危機が免れ、現在も元気でおられます。

 このとき、先生のサイトに出会えなかったら、おそらくこの方は亡くなられていたと思います。
 本当に、私は先生には感謝の気持ちでいっぱいです。

 このときから、先生のファンどころか、弟子にしていただきたいと真剣に考えましたが、先生のご性格からすると、そんな煩わしいことは、まっぴらだと思われるに決まっているなぁ・・・。
 と逸る心を抑え、自分で勝手に、ヒゲセン(ヒゲ先生のこと)師匠と呼ばせていただきながら、毎朝先生のブログで、勉強させていただいている次第です。

 最近は、お客様への断り方も、やや先生の口調に似つつあります。(笑)

 お忙しいところ、長々と本当にごめんなさい。
 いつかお顔をみて御礼を申し上げたいです。
 これからもどうぞよろしくお願いいたします。
 先生のファンは全国にたくさんいると思います。
 どうか、お体無理なさらず、大切になさってくださいね。


ヒゲ薬剤師のお返事メール:ご丁寧なメールを賜り、ありがとうございました。(でも、ちょっとお世辞が過ぎますよ・・・笑)
 補気建中湯の応用のお話、大変興味深く拝見しました。鍼灸関係には暗いので、素晴らしい応用力にはまったく驚いてしまいました!

 実際には過去の経験では、超末期状態の腹水や胸水が合併している状態で、激しい嘔吐を繰り返して何も受け付けない状態でも、スプーン一杯ずつを飲める範囲で服用してもらうことで、嘔吐が止まり腹水も次第に解消し、トントン拍子に回復して、危篤状態だったはずが一ヶ月もしないうちに退院して自宅療養へと漕ぎ着けた人も稀ではありませんでした。
 起死回生の妙薬とは補気建中湯のことだろうと思うのですが、癌や悪性腫瘍となると、一般的な風潮としてブームにのって薬事法に抵触しかねない健康食品の宣伝に影響されて、昨今は医薬品である漢方薬を低く見る傾向には着いて行けなくなっています。

 どうしようもない末期におよんで、御家族の求めるのがアガリクスであったり冬虫夏草の類であったり、若い頃はそれを説得してでも補気建中湯などの適切な漢方処方を出してシバシバ効果を発揮したものです。
 しかしながら、月刊「和漢薬」誌にも一部書いことがあるのですが、超末期状態が驚くほど回復したために、その後にもろもろの問題が派生した人間社会のどす黒い部分を見かねて、超末期での相談は悉く受け付けないように努力しています。

 やはり一二年も通い詰めたお互いの気心が知れるくらいになったご家族でなければ、突然超末期でやって来られての御相談というのは、昨今はまったく苦手です。その点では、大いに堕落したヒゲジジイではあります

 末期ではなくともここ数年の癌患者さんの漢方相談では、かなり正統な中医学的弁証論治にもとずいた中医処方や漢方処方を主体に組み合わせたものをお出しするのですが、巷で宣伝される健康食品類が中心ではないことにひどく落胆される顔を拝見することが増えています。ネットの影響恐るべし、です。

 ともあれ、百発百中とはいかないまでも、かなり高確率で奏効する補気建中湯をどこかの製薬メーカーがエキス化して広く医療界で使用してほしいと思うのですが、採算を計算すると、どこの会社も二の足を踏むようで、残念この上ない話です。
 あのような超末期にも偉効を奏する可能性のある漢方処方こそ、エキス製剤にして市販されるべきだと思うのです。

 昨今、ブログを続けるのが断続的に嫌気が差すことが増えています。先生とのこの往復メールをブログ継続の道具とさせて頂くには恐縮ですが、その点、御了承下さいませ。
(ご面倒な毎朝の人気投票バナーのクリック、心から感謝しています。今、ブログ継続の唯一の楽しみが、これだけです・・・笑)。


追記:6月27日のブログ アトピー性皮膚炎に合併する手の水疱 は、猪苓湯製剤の濃度を1.5倍に上げることで手の水疱は明らかに減りつつある。
 配合処方は、猪苓湯・茵蔯蒿湯・六味丸・玉屏風散エキス製剤と大黄、微量のイオン化カルシウム。

 また各種癌転移による腹水の問題については、ブログ 漢方専門薬剤師による漢方薬方剤漫遊記 中の補気健中湯 にも書いているように、超末期ではない限りは弁証論治によって分消湯製剤や補中益気湯に五苓散あるいは茵蔯蒿湯などの有機的な活用によって解消することも多い。
 お便りを頂いた補気健中湯 をヒントに補中益気湯合五苓散を応用された鍼灸のツボの効果も参考価値が高いはずである。

追記のまた追記(笑 ⇒ 2010年頃に念願かなって、補気建中湯のエキス製剤が小太郎漢方さんから発売されたっ!!!