2007年06月30日

乳癌に対する漢方薬の考え方

おたより:内科医師

前略 いつも適切なご助言を頂きましてありがとうございます。
 先ずご報告から、
 最近になって感じたことですが、アトピーにおける清熱剤の選択についてです。白虎加人参湯を使用する機会が多かったのですが、ある症例から黄連解毒湯に変更し、猪苓湯とか茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)との合方で処方しましたところ(猪苓湯+茵蔯蒿湯+黄連解毒湯)、こちらの方が猪苓湯+茵蔯蒿湯+白虎加人参湯よりも効果が良好でした。
 以前このようなご指摘を頂いた記憶が蘇ってきましたが、あらためて確認するに至った次第です。

 今回は、乳がんの患者さんについてお教えいただけるとさいわいです。36歳の女性ですが、乳がん(浸潤性、リンパ節転移あり)の方で、幼少(1才と4歳)のお子さんをお持ちです。舌は淡紅で、体格は普通、胸脇苦満あり、腹直筋緊張あり、排便一日一回あるそうです。
 とりあえず、41と48を処方しましたが、村田さんの経験上何か示唆的なアドバイスがあればお願いいたします。


ヒゲジジイのお返事メール:アトピーに対する白虎加人参湯は、元近畿大学医学部教授の故遠田裕政先生の治験集などでは盛んに出てくるのですが、小生は白虎加人参湯証のアトピー患者さんに三十数年間、一度も遭遇したことがありません。

 今後、もしも遭遇することがあれば、使用する機会があるかと思いますが、舌先紅で黄苔がかった黄連解毒湯証にはしばしば遭遇して、現在も同方にインチンコウトウと六味丸の合方、あるいは知柏腎気丸製剤と猪苓湯の合方、あるいは補中益気丸(党参配合)と六味丸、あるいはインチンコウトウと黄連解毒湯のみの配合など、いずれも黄連解毒湯を主軸とした配合ばかりで、いずれも順調に寛解しつつありますが、いずれのケースでも白虎加人参湯の発想自体が浮かびません。

 温清飲・消風散も使用しませんし、十味敗毒湯などはもってのほかと考えているほどです。

 本題の乳癌の患者さんに関しましては、中医学的には乳房の疾患のひとつである訳ですから、疏肝解鬱作用のある薬物を主体に、例えば逍遙散や四逆散などを主軸として、適切な不正去邪の方剤を組み立てるのが一般的かと思います。(個人的な見解としては男性ホルモン様作用のある麝香を必ず加えます。)

 ご報告されておられますように、「胸脇苦満あり、腹直筋緊張」があるのであれば、なおさら柴胡・芍薬は必須であると思います。
現在投与されておられる(41)ツムラ補中益気湯には柴胡が少量含まれ、(48)ツムラ十全大補湯には芍薬も含まれますので、その点では必須薬物が配合されていることになりますが、配合分量的には明らかに柴胡の量が不足しています。

 また、医療用漢方では常識となっている(41)や(48)のような温補剤ばかりを重ねて投与されることについては、(あくまで個人的な見解ですが)些か疑義なしとしません。
 少なくとも扶正祛邪の観点から、もっと祛邪の薬物や方剤を併用しなければ、癌や悪性腫瘍に対抗することはやや困難なように思えます。

 但し、以前、先生が述べられましたように、抗癌剤や放射線を強力な去邪薬と考えれば、中医学的にも理に適ったものになるのかな〜〜〜と思っているところです。
 以上、忌憚のない個人的な見解を述べさせて頂きました。


折り返し頂いたメール: 例によって早速お返事くださいましてありがとうございます。
 村田さんのページにたどり着くまでに、温清飲・消風散・十味敗毒湯などを教科書にしたがって投薬していましたが、効果についてはパッとしなかったという印象です。

 本日も、つい最近に黄連解毒湯合猪苓湯合茵蔯蒿湯を処方したかた(児童)が再診されましたが、
「ほんとうによくなってびっくりしています。しかも、こんなに早く。唯一の難点はまずそうです。でも頑張って飲んでいますよ」
 と母親がびっくりなさっていました。

 以前、白虎加人参湯を処方していた方々も良好な効果が現れていましたが、合包の相手である猪苓湯合茵蔯蒿湯の効果による可能性があったかもしれないと愚考しています。
 いずれにしても、清熱剤は黄連解毒湯が中軸となる患者さんが多いかもしれません。村田さんの見識を確認する日々です。

 乳がんのアドバイスありがとうございます。おそらく、乳がんの担当医から、手術後の化学療法、ホルモン療法、分子標的療法などの治療の説明が成されるかすでに行われているかもしれません。おそらく、これらの治療が祛邪の薬物に相当すると思います。
 西洋医薬の副作用を軽減する作用および免疫系を賦活する効果を期待しつつ、柴胡・芍薬・麝香などを考慮して処方に活かしたいと思います。
 モヤモヤしていた頭の中が整理されてすっきりした感じです。
 いつもながらに参考となるご助言に深く感謝する次第です。