2012年01月24日の茶トラのボクチン(7歳) posted by (C)ヒゲジジイ
【 ブログへ掲載の可否 】:転載応諾(ブログへ転載させて頂く場合があります。)
【 年 代 】:30〜39歳の男性
【 地 域 】:近畿地方
【 具体的なご職業 】:漢方薬局の薬剤師
【 お問い合せ内容 】:あけましておめでとうございます。
いつも先生のブログを拝見し、勉強させていただいております。
こちらでも毎日、臨床に明け暮れておりまして、東洋医学の奥深さに日々悩む毎日を過ごしております。
最近では、例年の如く、インフルエンザになったり、感冒にかかったりする人が増え、その対応にも追われております。
先日、先生のブログに外感の予防に天津感冒片のトローチ的な使用や板藍茶の内服についての記載をみて、僕もそのような予防法を提案していかなければならないなと思いました。
漢方薬局を開業してちょうど10年目になるのですが、まだまだ分からないことが多く、自分の中で明確な答えを見いだせずに困っていることがあるのです。
それは、この季節、先ほど申し上げたようにインフルエンザや風邪を引いたり、その後、咳が止まらなかったり、蓄膿になったりするような人がチラホラと出てきた場合、いつも使用している漢方を中止するか否かについての判断基準です。
この場合、「先表後裏」の原則に従い、いつも使用している漢方薬を中止して、外感を治すための漢方に切り替えるべきか、いつも使用している漢方はそのまま服用継続し、外感を治すための漢方を加えるべきかでいつも悩んでしまいます。
これまでこのような経験は数多くあるのですが、自分の中で結局、どのように対応すればよいのか苦慮しております。
先生はこのような場合、どのように対応されていらっしゃるでしょうか?
もしよろしければ、ほんの少しのヒントでも構いませんので、臨床経験40年以上お持ちの先生のお考えを後学のためにご教授いただければ幸いです。
不躾な質問であることは重々承知しておりますが、何卒宜しくお願い致します。
2012年01月24日の茶トラのボクチン(7歳) posted by (C)ヒゲジジイ
お返事メール:新年、おめでとうございます。
お尋ねの件ですが、外感病も含めて、あらゆる急性疾患の場合、明らかな軽症の場合は常用されている漢方薬類はそのまま継続してもらうケースが多いのですが、インフルエンザや風邪の場合でも、あるいは急性腹症の場合も含めて、常用されているほとんどの漢方薬はいったん中止してもらいます。
といっても、たまたま常用されているものの中に、急性症状に利用できるものはそのまま継続してもらいます。
たとえば、1月18日のブログ『「驚くほど身体中が痛みます」 という、冷え込みの後で生じた全身の激しい疼痛が』 の50代の女性も、日ごろ常用されていた釣藤散や大柴胡湯、茵蔯蒿湯や雲南田七など、すべて中止してもらって、柴胡桂枝湯+少量の芍薬甘草湯のエキス剤だけで即効を得ています。
要するに、「先表後裏」などの原則以前の問題として、あらゆる急性疾患は、急を要さない慢性疾患などは後回しにして、文字通り、急を要する急性疾患を最優先で治療するのが大原則であり、そのことは東洋医学であれ、西洋医学であれ、まったく同様の常識であると思います。
但し、もともと心臓や腎臓、あるいは重度の糖尿病など、重大な慢性疾患があって、滅多なことで中断すべきでないものは例外で、急性疾患時も中断できないものもあると思います。例外はつきものですので。
以上、言葉足らずのところがあるかもしれませんが、少しでもご参考になれば、さいわいに存じます。
蛇足ながら、インフルエンザや風邪などがほどのど治ってきた段階で、咳が残っていたり、蓄膿症が出てきたりした場合は、明らかな外感症状をほとんど消滅した段階で、従来の慢性疾患で続けていた漢方薬類を再開してもらいながら、平行して上記のインフルエンザや風邪の後遺症?に必要な辛夷清肺湯などを併用してもらう方法を取ることが通常です。
2012年01月24日の茶トラのボクチン(7歳) posted by (C)ヒゲジジイ
折り返し頂いたメール: 早速のご返信、誠にありがとうございます。
先生のように経験が豊富な臨床家の方に、このようなスッキリとしたご回答をいただけて、本当にうれしく思います。
これまでずっとどうすればいいか悩んできたのですが、先生のお考えに則り、僕もそのようにしたいと思います。
なにぶん経験が浅く、まだまだ迷ってばかりですが、貴重なお話をしっかりと活かして精進していきたいと思います。
原則のみならず、例外についてもご教示いただき、本当にありがとうございます!下手な書物を読むよりも、この2行の文章が、臨床にどれほど役立つか・・・。
先生からのアドバイスを肝に銘じて、僕もそのように対処するようにいたします。
僕自身、東洋医学は鍼灸から学び始め、師匠について5年ほど真剣に勉強した後、漢方に目覚めて漢方薬局を開業しました。
漢方薬局も鍼灸と同じように古典を読み、いかに人の身体を診て技術を高めるかという世界なんだろうなと自分勝手に想像していたのですが、勉強すれば勉強するほど、そのような世界とは程遠い業界だということに気づかされました。
医師系漢方はもちろん、鍼灸でも学会が存在するのに、薬系漢方独自の学会は皆無。そればかりかメーカー主催の勉強会ばかりで、系統だった勉強会もほとんどない状況に驚きを隠せません。
薬系漢方がなぜこのような状況になったのかと医学史を読んでも、出てくるのは漢方医ばかりで薬系漢方の系譜を見つけるはできませんでした。
そのような経験から、薬系漢方とは個人主義であり、技術や経験の継承は後継者のみに限られる場合が多いのだと感じております。
僕は漢方薬局で修業した経験なく、勢いで独立したので、そういうことを一切知りませんでした。だからこそ自分で勉強しなければと思い、独学で勉強してきましたが、このようにまだまだ理解できていないことも多く、四苦八苦しております。
独学だからこそ、その分、臨床を通じて閃きが起こり、臨床のレベルがポンっと上がった感覚も得られるのですが、自分の学術が完成することはなく、歴代の医家の多くがそうだったように、引退するまで一生勉強が続くのだと思います。
薬系漢方業界の仕組みに翻弄されながらも、商売第一主義に没することなく、漢方家と呼ばれるように自分自身の道を追いかけて頑張っていきたいと思います。
第一線でご活躍されている先生とこうやってメールを通じてお話しさせていただけるだけで幸せです。
先生のブログやアドバイスは僕の臨床の土台になっていますので、これからもよろしくお願いいたします。
本当にありがとうございました。
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2012年01月24日の茶トラのボクチン(7歳) posted by (C)ヒゲジジイ
ラベル:先急後緩
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