2007年06月05日

アトピー性皮膚炎の難渋例の漢方薬

御質問者:内科医師

前略 アトピーの件でご教示ください。
 最近、おおくのアトピーの患者さんはそれなりに回復の方向に向かっていますが、一例は難渋しています。
 40台半ばの女性で、忙しいお仕事です。アトピー歴は長く(30年)、当然ステロイドの使用も長く、顔面には色素沈着をともなう慢性の発疹(暗赤色から紫色)があり、上肢には慢性化した発疹とかゆみにともなうビラン、背部・胸部・腹部にも同様の発疹が散在しています。

 昨年10月に受診され、さまざまな漢方薬(猪苓湯・インチンコウトウ・白虎人参湯・補中益気湯・六味丸・バクモン系など)を処方してきたのですが、一時ちょっといい感じのときが一瞬あったのみで、難渋しています。
 体格的にはやや小太り、顔面には暗赤色から紫色でやや浮腫上の発疹を認めます。ご本人は家族から顔面が悪化してむくんできた、と指摘されやや気落ちしています。
 慢性化した発疹の部分は発汗することはなく、当該部は冷感を覚え、しかし、体表には火照りを感ずるそうで、布団に入ると火照りのために不眠に悩まされているそうです。水分はそれなりにのんでいるそうですが、くらべて排尿は遠いかもとおっしゃっていました。

 なお、ステロイドも効果がないため使用はしていないそうです。最近、申し訳ないことにブシが入った八味丸を処方して全身に発赤悪化させてしまいました。
 いつも情報が少なくて恐縮ですが、ご教示いただけると幸いです。


ヒゲジジイのお返事メール: 舌象の状況が分かれば、かなりヒントになるものと思われます。舌象によって、解釈がかなり異なって来ます。

 昨今、舌象と併せて風呂上りの状況でも処方のヒントにしていますが、風呂上りに痒みが増強する場合は実熱が主体であり、風呂上りに痒みが増加しない場合は、補中益気湯証などの「陰火」が主体であることが多いようです。
 たとえば最近、後者に該当する風呂上りにはまったく痒みはなく、就寝後に痒みが酷い人で、舌先の点刺を伴った紅、舌周辺の歯型、舌質は舌先以外はすべて淡白舌というかなり矛盾した舌象のアトピーに、黄連解毒湯・補中益気丸・六味丸の併用で順調など。

 ご報告頂いた情報には、肝腎な舌象の情報が不足していますので、お送り頂いた情報による憶測だけで述べれば、ご指摘の「発疹(暗赤色から紫色)」ということから、瘀血の存在が明らかのようです。といっても、瘀血は二次的病理産物である訳ですから、駆瘀血剤を主体にすべきだと断定できる訳ではありません。
 しかしながら、もしも舌象などからも瘀血が明らかであれば、案外、桂枝茯苓丸や腸癰湯(チョウヨウトウ)などの駆瘀血剤によって意外に改善される場合も多いことと思います。便秘があり下腹部に圧迫感が強ければ大黄牡丹皮湯など。
 肝腎陰虚を伴っておれば、これらに六味丸を加えるなど。糜爛(びらん)が強ければ更に猪苓湯を加えるなど。

 これ以外の方法では、浮腫状で排尿が遠いことなどを考慮すれば、竜胆瀉肝湯を主方にすべきなのかもしれません。

 以上は、舌象の情報がなしでの憶測ですので、もしかするとピント外れの提案に過ぎないかもしれません。悪しからず御了承下さいませ。


折り返し頂いたメール: さっそくのお返事ありがとうございました。
 患者さんのお話の記憶をたどりますと、入浴するとかゆみが悪化するようでしたので、実熱がありそうです。
 そのほか、いくつか参考となる点がありましたので、次回の処方に活かしたいと思います。
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posted by ヒゲジジイ at 00:27| 山口 ☁| アトピー性皮膚炎や慢性湿疹など痒みを伴う皮膚病 | 更新情報をチェックする