2015年07月22日

芍薬甘草湯は、別名「去杖湯(きょじょうとう)」とも呼ばれ、朱氏集経方に「脚弱力なく、歩行艱難を治す」と書かれているのだが

2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳)
2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳) posted by (C)ボクチンの母

【 ブログへ掲載の可否 】:転載応諾(ブログへ転載させて頂く場合があります。)
【 年 代 】:60〜69歳の男性
【 職 業 】:専門職(医師・弁護士・会計士)
【 地 域 】:中国地方
【 具体的なご職業 】:医師
【 お問い合せ内容 】:

 こんばんは。
 突然の質問で申し訳ありません。
 ○○の◎◎◎◎病院に勤務しています、●●と申します。
 「芍薬甘草湯」についてネットで色々調べていましたら、ここのサイトに辿り着きました。
 漢方につきましては浅学の身ですので、色々と教えて頂ければ幸甚に存じます。

 若い頃より登山を趣味としています。
 最近、中高年では登山がブームのようですが中高年の登山中のトラブルの一つに行動中(特に下山時)の足の痙攣があります。
 その際によく芍薬甘草湯(ツムラの68番)が飲まれ、それなりの効果があるようです。

 ただ小生は足の痙攣は筋肉疲労による筋肉の「悲鳴」と思ってまして、芍薬甘草湯の服用はあまり他の方には勧めていなくて、休息と両下肢全体のマッサージとストレッチ、水分・塩分補給、足三里の指圧を行って、それで問題なく改善しています。

 中高年の登山者の中には「ツムラの68番」を常に携帯されて居られる方もいらっしゃいますが、小生には下記の点が良く解りませんので、お教え下さい。

1)足の痙攣に対する主作用は芍薬なのか、甘草なのか、その両方の協調作用なのか?

2)効果が5分程度で出るようですが、そんな短時間で胃から芍薬甘草湯が吸収が可能なのか?

3)作用のメカニズムは?
  ・痙攣を抑制するのか? 疼痛を抑制するのか?
  ・筋肉の細胞膜に作用するのか? 神経筋接合部に作用するのか?
   それとも別の?(「気」を変える?)

4)筋肉の弛緩作用はあるのか? 有るとしたら時間的にどの位続くのか?
 (弛緩作用があるとすれば、下山時に転倒の可能性がありますので、事故に繋がる恐れがあります。)

5)芍薬甘草湯には血清Kを低下させる副作用があるようですが、高血圧症をお持ちの中高年で、降圧剤や利尿剤をお飲みの方に服用は1包程度では問題はないのでしょうか?

 以上の点に付きましてお教え下さいませ。

2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳)
2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳) posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:

 ご質問のうち、すべてにお返事は不可能ですが、分かる部分だけ以下に簡単にお返事します。

>1)足の痙攣に対する主作用は芍薬なのか、甘草なのかその両方の協調作用なのか?

 これは明らかに両方の強調作用ですが、かといって芍薬と甘草が含まれているからといって、桂枝加芍薬湯などを服用しても芍薬甘草湯の代用にはあまりなりません。
 芍薬と甘草だけを一緒に煎じることで特有の効果を発揮しやすいようです。
 もしも桂枝加芍薬湯によって、あえて同様の効果を出そうとすれば、もっと大量の芍薬を必要とします。

>2)効果が5分程度で出るようですが、そんな短時間で胃から芍薬甘草湯が吸収が可能なのか?

 服用後に短時間で即効が得られるのは確かですので、アルコールのように胃から吸収する部分もあるのかもしれませんが、こちらでは不明です。むしろツムラさんなどに直接訊かれたほうがよいと思います。

3)作用のメカニズムは?
  ・痙攣を抑制するのか? 疼痛を抑制するのか?
  ・筋肉の細胞膜に作用するのか? 神経筋接合部に作用するのか?
   それとも別の?(「気」を変える?)

 これについては、すくなくとも痙攣を抑制する効果があるのは確かですが、そのほかについても科学的な研究がなされているかどうかはやはりツムラさんなどの漢方メーカーに問い合わせるべきかと存じます。
 少なくとも痙攣を抑制する以外にも、何らかの鎮痛効果があるのは確かで、かなり広範囲に進行した食道がんの疼痛を完全に止めることができた実例がありますので、痙攣を抑制する以外の鎮痛効果を発揮する部分もあるものと思います。

4)筋肉の弛緩作用はあるのか? 有るとしたら時間的にどの位続くのか?
 (弛緩作用があるとすれば、下山時に転倒の可能性がありますので、事故に繋がる恐れがあります。)

 痙攣を止めて歩行を楽にする作用があるのですから、痙攣を我慢して下山するほうがはるかに危険で、芍薬甘草湯を服用して痙攣性の疼痛が楽になることで、下山しやすくなるわけですので、このご質問は失礼ながら、やや愚問のように思います。

5)芍薬甘草湯には血清Kを低下させる副作用があるようですが、高血圧症をお持ちの中高年で、降圧剤や利尿剤をお飲みの方に服用は1包程度では問題はないのでしょうか?

 これこそ大きな問題ですが、ツムラさんの芍薬甘草湯は1日量(1日3包)で甘草6gは、甘草が多いのでその危険性は十分に考えられます。
 市販の良質な芍薬甘草湯では、1日量(1日3包)で甘草2gの製品を使っても男性で100kg近くの体重がある人でも、十分な即効が得られており、これくらいの甘草の量であれば、高血圧や浮腫の心配は少ないのですが、ツムラさんの製品で同様な濃度に落とした場合に、同様な効果が得られるかどうかは、生薬の品質問題が絡むだけに、疑問です。

 ただ、市販品では品質と効果の熾烈な競争で生き残っている製剤なので、どの程度の比較が可能か不明ではありますがツムラ製の芍薬甘草湯が甘草2g濃度にあわせるために、1包の3分の1量でも即効が得られるかどうかを実験されてみるとよいかと思います。
 そこまで濃度を落としても、市販品と同様の効果が得られるのであれば、血圧上昇や浮腫およぼカリウムの問題はかなり解決できると思います。

 以上、あまりお役に立てそうもありませんが、以上、取り急ぎ、お返事申し上げます。

2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳)
2010年7月22日の茶トラのボクチン(6歳) posted by (C)ボクチンの母

折り返し頂いたメール:

 早速、ご丁寧なご説明を頂きありがとうございました。
 一点、小生の言葉足らずの部分がありましたが・・・・

>痙攣を止めて歩行を楽にする作用があるのですから、痙攣を我慢して下山するほうがはるかに危険で、

 登山では下山時に事故が多発しています。
 事故の7〜8割は下山時で、とりわけ転倒や転落事故が多く発生しています。
 下山時の転倒・転落事故を如何にして減らすかが、課題です。
 とりわけ中高年は年齢的に全身の筋力が落ちている上に、長時間の歩行により筋肉が疲労しているものと想像されます。

 これに芍薬甘草湯の筋肉弛緩作用が加わると一層、転倒・転落事故の危険性が高まるのではないかと危惧致しているところです。

 勿論、足の痙攣は治めなければなりませんが、転倒・転落事故は大怪我や下手をすれば命に関わってくる問題ですので、服用される方にそのようなリスクの意識があるかどうかが問題だと思われます。

 これが一番お訊きしたかった事で、痙攣と転倒・転落のリスクを天秤に掛けたときに最低限、休息と足のマッサージで痙攣がなくなればこれにこしたことはなのではないかと考えています。

 登山の安全講習会で「山での怪我や病気」のテーマで話す機会がありますので、この部分は受講される方々にきちんと説明の必要があります。

2012年7月22日の茶トラのボクチン(8歳)
2012年7月22日の茶トラのボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:

 ご指摘の問題は、既に痙攣を起こすほどの足の疲労が出たのですから、芍薬甘草湯で即効を得たところで、実質上、百パーセントの回復はあり得ないので、下山時には要注意であることは当然のことだと愚考します。

 また、芍薬甘草湯は、別名「去杖湯(きょじょうとう)」とも言われ、朱氏集経方に「脚弱力なく、歩行艱難を治す」と記載されているとかで、この芍薬甘草湯によって足の弱りを治すことができ、杖を捨てることが可能であるといわれるくらいですから、筋弛緩による問題は少ないと思われます。(矢数道明著「臨床応用 漢方処方解説」に記載されています。)

 それ以上に、注意が必要なのは、既に痙攣を起こしてしまった足の弱りを芍薬甘草湯で一旦回復したからといって、過信できないのは当然のことだと思います。決して問題は芍薬甘草湯の薬理作用の問題には関係ない問題のように愚考します。
 でも、ご心配な向きは、やはりツムラさんなど、漢方薬メーカーに確かめて見られると安心だと存じます。

>これに芍薬甘草湯の筋肉弛緩作用が加わると一層、転倒・転落事故の危険性が高まるのではないかと危惧致しているところです。

 このご心配は、芍薬甘草湯の効能あるいは副作用によって生じるなんて、(あくまで個人的な意見ですが)、あり得ない問題で、既に痙攣を生じるほど足を疲労させたことのほうこそ、いくら芍薬甘草湯で回復したように見えても、既に疲労が蓄積しているわけですから、回復したからといって過信は禁物だということの方が重要だと存じます。

 もしも転倒したとしたら、芍薬甘草湯のせいではなく、芍薬甘草湯を必要とするほど足を酷使し過ぎたことが原因で、薬効を過信し過ぎたことの方が問題になると思います。

 合成医薬品ほどの恐ろしい副作用は滅多に生じるはずもない漢方薬ですが、念のため、漢方メーカーでしっかり確かめて見られるべきかと存じます。

 取り急ぎ、お返事まで。

2012年7月22日の茶トラのボクチン(8歳)
2012年7月22日の茶トラのボクチン(8歳) posted by (C)ボクチンの母

折り返し頂いたメール:

 おはようございます
 深夜に亘り、懇切丁寧なご説明を頂きありがとうございました。
 問題点が整理され、眼の前の霧が少し晴れたようです。

 ご指摘頂いた、今回の未解決の部分はツムラさんに問い合わせてみたいと存じます。

 登山をされる中高年の方々には、基本は充分な休憩としっかりとマッサージ+ストレッチで対応し、それでも再発するようであれば芍薬甘草湯の服用をするようにお話します。

 加えて、芍薬甘草湯の筋弛緩作用や降圧剤や利尿薬服用者には血漿電解質が変化する可能性があることも念頭に置いておくようにお話してみます。

 この度は小生の愚問に対して逐一、丁寧にご説明頂き有り難うございました。
 漢方薬を始めとした東洋医学には興味がありますので、知識を積み増して参ります。
 また、色々とお教え下さいませ。

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2009年7月23日の茶トラのボクチン(5歳)
2009年7月23日の茶トラのボクチン(5歳) posted by (C)ボクチンの母

タグ:芍薬甘草湯
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