御質問者:北陸地方の鍼灸師
前略いつもご教示ありがとうございます。今朝先生のブログを見てビックリしました。実は私も昨日の朝起きてからふらつき感があり、血圧を測ると180/110と異常に高く気分が悪い感じでおります。
偶然とはいえ何か気候的な影響もあるのかと考えております。
最近忙しく連休中も徹夜の日もあり、甘い物が異常に食べたくなったり、おなかがいっぱいにもかかわらず食べてしまったり、ちょっとの空腹感もあまり我慢できないといった感じがしばらく続いており、太っているうえに更に最近増加傾向という悪循環を招いておりました。
そこでお教えいただきたいのですが、まず舌なのですが白滑膩苔で舌質自体は赤みがないようにみえます。ただし薄く黄色味がかっております。
そこで昨日の釣藤散などが考えられると思いますが、その場合肝陽化風なら舌質に赤味がみられないといけないと思いますが、苔の黄色味などは熱の反映とみていいのか、色も薄いので日頃の運動不足や仕事がら気虚の反映とみるべきでしょうか。
そういうことから考えると単に風痰上優と考え半夏白朮天麻湯だけでいけばよいのでしょうか。 またそれに玉屏風散などをプラスして考えてもよいのでしょうか。
それとは別に黄色味を湿熱ととらえインチンコウ湯を考えればいいのでしょうか。
あと私ばかりでなくうちに来る患者さんにも最近共通して心下満や苦満がみられます。大柴胡湯も考慮してよいのでしょうか。
まだまだ貧弱な中医学もどきです。舌診もあまりじしんがありません。
ご指導よろしくおねがいいたします。
お返事メール:拝復
舌象のご報告からは、ご提案どおり半夏白朮天麻湯を主方剤として釣藤鈎を粉末で併用する程度の方が無難ではないでしょうか?
たしか、とても寒がりのようにおっしゃていたと思いますので・・・
寒がりの人の場合のわずかな黄膩苔は、上記方剤の黄柏(オウバク)や沢瀉(タクシャ)などで対応できます。
もしも、あきらかな湿熱による黄膩苔なら、茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)が効果的なことはご指摘の通りです。
胃部に痞え(ツカエ)があり、脇胸苦満があれば当然大柴胡湯が考えられます。
こちら中国・九州地方では、大柴胡湯証を用いる機会は柴胡桂枝湯証の人よりも遙かに多いものですが、どうも関西以北は、体格はよくとも見掛け倒しの虚証気味の人が多いように思いますので、どうも文面だけでは当方での繁用方剤、大柴胡湯や茵蔯蒿湯をお奨めするのは、ちょっと気が引けてしまいます。
実際、こちらでは血圧には無関係で、痩せていようが太っていようが、大柴胡湯を用いる機会は滅茶苦茶に多いのです。
但し、ご報告の朝のフラツキ症状はあきらかに肝風内動・風痰上擾的ですので、半夏白朮天麻湯に釣藤散の合方のほうが無難で、大柴胡湯を加えると疎肝の柴胡が肝風内動を抑えるのに邪魔になる可能性も高いと思います。(追記:明らかな大柴胡湯証が並存している場合は当然用いるべし)まだ茵蔯蒿湯の合方のほうが無難なように思います。
小生の場合は、大柴胡湯も併用したのはいつもこの方剤によって胃の調子が良いので併用したまでのことでした。
【編集後記】 高血圧症に用いる時の釣藤散や半夏白朮天麻湯における人参は、本来なら党参(とうじん)であるべきだ。朝鮮人参を用いると、どうしても釣藤鈎(ちょうとうこう)などの降圧作用にブレーキをかけてしまう事が歴然としている。
このような漢方製剤の規格そのものにも、日本の漢方レベルの低さが露呈している。
そもそも党参が日本薬局方にも記載されないのだから、漢方後進国と言われてもしかたがないだろう。
なお、質問中の肝陽化風と舌質の色調とは無関係の問題であろう。
なぜなら!?
肝陽化風は肝風内動の一種であり、一般的には陰津不足による肝陽偏亢から風陽上翔が生じるものを肝陽化風と呼んでおり、教科書的にもここまでで終わっていることが多い!。この場合は明らかに舌質は紅で鎮肝熄風湯(ちんかんそくふうとう)などが適応する。
しかしながら、暴飲暴食などによる脾失健運による湿聚生痰や、あるいは肝陽旺盛でそれが脾に横逆してしまい、このために脾不運湿から痰濁が生じ、少陽三焦で阻滞する結果、肝の筋膜を障害する「風痰」の病変も肝風内動の一種なのである。半夏白朮天麻湯や導痰湯などが適応するが、釣藤散もこの範疇に属するものである。
この場合には、肝風内動を引き起こす原因が脾不運湿によって生じた痰濁であることが大きなきな違いがある。それゆえこの場合は舌質は紅〜淡紅〜淡白など複合する証候によって様々である。
なお、教科書的には肝風内動は病因の違いによって肝陽化風・熱極生風・陰虚動風・血虚生風の四つに分けられている。
教科書的な肝陽化風の実体を探れば肝陽上亢の進展して生じるもので肝腎陰虚による陽の亢進の制御不能による生風を指している。
しかしながら、風は肝木が主(つかさど)るのであるから、熱極生風であれ、陰虚生風、血虚生風であれ、実質的には肝陽化風の現象には変わりないのであるから、教科書的な分類というものは、イヤハヤ!もっと上手な分類をしてくれないかと、歯がゆい思いをすることがある。
教科書的な分類のアヤフヤさをさらに指摘すれば、陰虚生風こそ代表的な肝風内動の原因であるはずが、少し前までは教科書的な分類には見られないことが多かったのである。
だから肝陽化風の中にこそ陰虚風動が含まれていた筈だが、最近ではいつの間にか肝風内動の原因の一つとして陰虚生風(動風)が堂々と記載されるようになっていた。
つまり、以前は肝風内動の分類には陰虚動風は存在せず、肝陽化風・熱極生風・血虚生風の三つだけだった!のである。
なお、半夏白朮天麻湯や釣藤散あるいは導痰湯などに関連した「風痰」、つまり脾湿生痰によって引き起こされた肝風内動の場合では、上記の教科書的な分類上では当然、肝陽化風であるはずだ。
といってもやや不自然な感も無きにしも非ずであるから、肝風内動の分類をもう一つ増やすべきではないだろうか。
つまり、五番目に風痰の病変を四字熟語でうまく表現して追加すべきではないか!?
2007年05月12日
高血圧と肝風内動(肝陽化風)
posted by ヒゲジジイ at 00:39| 山口 ☀| 高血圧
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