性別 : 男性
年齢 : 20歳〜29歳
簡単な : 関東地方
具体的な御職業 : 大学院生
ご意見やご質問をどうぞ : こんにちは、今年、韓国で韓医学科を卒業した韓国人です。
これから、新しい旅立ちを前にいろいろ悩みを抱えている日々を過ごしています。
韓国漢方は新方と言う点から中医学と類似点が多いということですが・・私の国では日本を古方派、韓国中国を新方派と定義しております・・よって、わたくは新方派ということになると思います。
ホームページを閲覧したところ、新方、古方を両方勉強されたとのことですが・
1.新方と古方の各長短所は具体的に何でしょうか?
2.また、それらを融合する意義は何でしょうか?
3.実際、両方を学習した経験から、どちらが難しかったのでしょうか?
4.日本で漢方をやっている方は約何割ぐらいが新方(もしくは中医学)をやっているのでしょうか?
5.日本では医学部での卒後研修(和漢診療学講座)において漢方教育がなされると聞きますが・・そこで教えているのは古方でしょうか? それとも古方、新方両方を教えているのでしょうか?
6.私は東洋医学の客観性、再現性向上のために証の西洋医学的分析が必要だと思いますが・・そのために古方、新方を融合した知識は役に立つのでしょうか?
以上の6点でお願いします。
ちなみに私は古方、新方、西洋医学を融合したい理想を持っています。そう言った趣旨で今回の質問をさせていただきました。
宜しくお願いします。
ヒゲジジイのお返事メール:拝復
個人的な経験からのお返事になりますが、HP上に公開している拙論を御紹介しながら、それぞれのご質問に対する小生の見解をそれぞれ簡単に示したいと思います。
>1.新方と古方の各長短所は具体的に何でしょうか?
中医学には医学体系として哲理が確立しており、論理性の点でも優れているが、日本漢方では東洋医学的な哲理に乏しく論理性の面でも虚実論など、幼稚さから脱却し切れていない。数十年前までは寒熱理論を無視されていたに近く、過去の口訣ばかりに頼った臨床報告が多い。
日本漢方の優れた点としては、過去の歴史的な基本方剤を最も重視し、中医学派の一部の先生のような基本方剤をお手本とせず、最初から方剤を自前で組み立てることはしない。
日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!)
中医学と漢方医学(村田恭介著)
の拙論にこそ、二つのご質問に対するお返事になると思います。
>3.実際、両方を学習した経験から、どちらが難しかったのでしょうか?
これについては、やはり専門用語の豊富さと論理における複雑性においても、中医学の学習の方がはるかに学習に困難を極め、実際には教科書で示される典型的な患者さんは現実にはいないに等しいわけですから、中医学理論を有機的に活用してご相談者に適切な方剤を提示することがなかなか出来ない、つまり臨床に直結した学習とはなりにくかった。
その点、日本漢方は過去の口訣に頼って、方剤運用の分かりやすいコツが示されているので、一年も真面目に学習すれば、ありきたりな病気には一定レベルの成果を挙げることが出来た。
中医漢方薬学に目覚めるまで・・・日本漢方(漢方医学)の問題点
>4.日本で漢方をやっている方は約何割ぐらいが新方(もしくは中医学)をやっているのでしょうか?
現実には中医学を学ぶ人が爆発的に増えており、おそらく漢方を真に専門的に学ぶ専門家の8割近くが中医学を中心とした学習をしていることと思われますが、日本東洋医学会などの機関誌に掲載される論文や製薬メーカー主導の各病院やクリニック等への売り込みはエビデンス漢方ばかり。
このためテレビなど各マスコミでも取り上げられるのが、どうしても日本漢方やエビデンス漢方ばかりが目立っているように思います。
問題は膨大な数を占める漢方を専門としない西洋医学専門の医師が投与される医療用漢方は製薬メーカー主導によるエビデンス漢方が主流で、このエビデンス漢方のみによる医師が爆発的に増えている現状と思われます。(医療用漢方の使われ方の実態は、小生には多くの身近な身内医師による報告から実体がつぶさに把握できています。)
これらの実体からいえば、真に専門的に中医学を学ぶ医師も薬剤師も全体からいえば、まだまだ少ないことになりそうです。
>5.日本では医学部での卒後研修(和漢診療学講座)において漢方教育がなされると聞きますが・・そこで教えているのは古方でしょうか?
古方のようです。論理的思考能力の高い日本の医学部医学科卒業者が、多くの点で論理性と科学性に欠ける日本漢方のありかたに多大なる疑問を呈することがないとは不思議と言うほかはありません。
日本漢方ナショナリズムから脱却できない一派が日本漢方の表看板を代表されている実体は、砂上の楼閣のように思えてなりません。
>6.私は東洋医学の客観性、再現性向上のために証の西洋医学的分析が必要だと思いますが・・そのために古方、新方を融合した知識は役に立つのでしょうか?
日本漢方の欠点ばかり述べるようですが、現実には臨床面において、各基本方剤の運用面で、日本漢方には過去の膨大な治験例と口訣が蓄積されており、一つの方剤の運用において、異病同治の方剤運用に優れています。中医学的に説明困難な方剤運用による著効例は過去に数多く蓄積されています。
漢方医学発展への道 (中医学と日本漢方)
この点で、日本漢方における口訣や治験例を中医学的に分析解明することは中医学発展の為にも是非必要なことだと考えています。
なお、中医学と西洋医学の比較では、
中医学と西洋医学━中西医結合への道 村田恭介著
この拙論のような西洋医学批判も必要だと考えます。
疾病の本質を病名として提示出来る中医学は、やはりある意味では西洋医学をはるかに凌ぐ優れた医学体系であると思います。
以上、少しでもご参考になれば幸いです。
頓首
村田恭介拝
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