2013年07月27日

日本の漢方はますます衰退して行く(緒方玄芳先生の思い出)

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IMGP9568 posted by (C)ボクチンの母

 一般用漢方製剤承認基準に多数の方剤が追加収載されたことはまことに慶賀すべきことであるが、ある種の慢性化膿性疾患で体虚邪実の状況下に必須の托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)が採用されないままである。

 中医学でも基本方剤として掲載される書籍もあるほどの超重要で必須の方剤が、いまだに一般用漢方製剤承認基準に採用されないというこの現実。

 逆に言えば日本の漢方レベルがその程度の認識しか持てない人達が、漢方界を牛耳っているということで、だから日本の漢方医薬学界のレベルの低さを露呈しているということに他ならないのだろう。

 既に故人となられた京都の医師、緒方芳郎(緒方玄芳)先生は、日本漢方界の中でも非伝染性感染症を得意とされて、多くの治療経験例を『漢方の臨床』誌にながく連載され、複数の書籍も出版されている。
 その中でも先生が特に採用されておられた方剤にこの托裏消毒飲や千金内托散などがある。

 ありきたりなところでは歯槽膿漏から痔瘻まで、特殊な疾患ではクローン病などでも使用機会があり得るもので、フィットすれば素晴らしい効果が得られることを再三再四紹介されておられた。

 昭和の時代にヒゲジジイが若かりし頃、直接お会いすることはなかったものの、お電話を頂いて親しく黄耆の品質問題を話し合ったり、こちらの肺膿瘍の治癒例をご紹介したり、『求道と創造の漢方』という拙著が出版されたときには出版祝いまでして頂いたり、先生のご著書も贈呈下さったり・・・という楽しくも懐かしい昭和の時代が続いていた。

 ところが昭和が終わって平成になるかならないかのころに、ヒゲジジイが(その頃はヒゲはなかった)『漢方の臨床』誌・東亜医学協会創立50周年記念特集号に『日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!)』など一連の日本漢方批判(『中医学と漢方医学』『中医漢方薬学』)を発表して以来、ぷっつりと交流が途絶えてしまった。

 交流が途絶えた理由は、ほかならない日本の漢方理論の幼稚さを激しく指摘して、中医学理論を採用すべきであるという主旨の檄文であったからであろうと思われる。

 しかしながら、ヒゲジジイとしてはいまだに日本漢方の先生方の中では学問的にも臨床的にも最大限に最も尊敬し続けている。
 西洋医学治療で抗生物質も効果がなくなり外科的処置でも再発を繰り返すなど困惑されておられる人たちの非伝染性感染症の強力なサポート方法のヒントを得るため、緒方玄芳先生の諸著作をいまだに参考にさせて頂く機会がなくなることはない。

 話しは長くなったが、その緒方芳郎先生も頻繁に愛用されて、多くの化膿性疾患を治療されてこられた托裏消毒飲を無視し続けるこの日本の漢方界の現状を、あの世からきっと先生は歯痒い思いをされておられるに違いない。

 翻って、日本では昨今、漢方薬の原料価格が異常に高騰しているというのに、製造メーカーも末端の薬局でも販売価格を上げることができずに、一昔前ほどのようには利益が得られない構造となっている。
 本来は時間をかけてピントを合わせなければなかなかフィットしない漢方薬の配合の苦労を端折って、安易な病名漢方に走って薄利多売に専念せざるを得ない状況が顕著となっている。

 ますます日本の漢方界は悪循環に陥って、従来のように西洋医学で対処できなくなった人たちをサポートする知識と経験を有する専門家が減り続けているのが現状のようである。

 日本の漢方に明日はないのかもしれない。

2006年3月2日のボクチン(1歳半)
2006年3月2日のボクチン(1歳半) posted by (C)ボクチンの母
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