2007年03月27日

子宮筋腫に対する漢方薬

御質問者:東海地方の内科医師

 ブログを拝見していますが、個人的には新鮮な話題で興味深いです。

 本日は、30台前半の女性についてお知恵を拝借できればと思いメールしました。
 十数年来の生理痛がある方です。胃腸が弱く、食事をするとすぐにお腹が一杯になってしまうそうです。舌は淡紅で、腹診としては腹直筋緊張あり、腹力中等度、胸脇苦満あり、脈は弦脈です。

 婦人科を受診して子宮筋腫を指摘されています。なお、いろいろご事情があって心療内科へ通院中です。
 婦人科の担当医からは手術の可能性について説明を受けたそうでして、できれば手術なしでなんとかしたいとの意向です。

 個人的には難易度が高いと考え、ご期待に沿えるかどうか不明である、と伝えてはあります。
 とりあえずは25番(桂枝茯苓丸)を処方しましたが、何か状況を打破するお考えがあればお教えくださいますと幸いです。


お返事メール:拝復
 拝読した瞬間、これぞまさしく柴胡桂枝湯証の典型!であると感じました。

柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)

 しかしながら、子宮筋腫があるわけですから、桂枝茯苓丸に柴胡桂枝湯をエキス剤で投与されたのでは、桂枝(実際には肉桂=辛甘・大熱)が二重になりすぎて腎陽を過剰に温め過ぎますので、桂枝茯苓湯に小柴胡湯を合方されるのが適切だと考えます。

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン) 

 すなわち小柴胡湯合桂枝茯苓丸ですが、この配合中には柴胡桂枝湯が丸ごと入っていることになりますので、古方派時代には盛んに使用して多くのひとに喜ばれてきました!
 うまくいけば子宮筋腫が小さくなることも大いにあり得ます。さらに、医療用漢方にヨクイニンがあった?と思うのですがヨクイニンも加えるとさらに効果的なようですが。但し、胃弱な人にはヨクイニンでも胃に応える場合があるようです。
 また、田七人参も加えるとよりベターだと思いますが、残念ながら日本ではナゼだか健康食品扱いで、残念です。

 また、上記の合方中に含まれる柴胡桂枝湯によって、心療内科的な疾患にもかなりな効果を発揮できる可能性も高いと思います。

 なお、難易度が高いと書かれていますが、過去の経験からは古方派時代でも子宮筋腫を手術せずに免れ閉経まで持ち込んでめでたしメデタシの人は大変多く、大の漢方ファンになられた方もおられるほでです。
 また、子宮筋腫のみならず卵巣嚢腫、子宮内膜症、チョコレート嚢胞など、これ等婦人科疾患こそ漢方ではかなりな得意分野ではないかと思ってます。過去も現在も含め、漢方治療に本気で臨んだ人の多くがそれなりの成果を得ていると思います。

 以上、簡単ながらお返事まで。
             村田恭介拝


折り返し頂いたメール:前略
 ショウサイコトウ合ケイシブクリョウガンでもし子宮筋腫が縮小するようでしたら、願ったりかなったりです。
 さっそく処方させていただきます。


【編集後記】 子宮筋腫に関しては傷寒・金匱の時代から今に到るまで桂枝茯苓丸を主体に運用すべきことが多いが、子宮内膜症やチョコレート嚢胞、あるいは卵巣嚢腫などには桂枝茯苓丸や当帰芍薬散など保険適応範囲の方剤では、体質によっては不適応の場合 も多く、保険では使用できない牛膝散製剤や折衝飲製剤を主体に運用する必要があるケースがシバシバである。

 蛇足ながら以前、中堅病院に勤務される地元の婦人科の医師に、子宮内膜症などで桂枝茯苓丸で効果がない場合にはどうすればよいかとの質問を受けましたが、てっきり折衝飲は保険収載品目だと思い込んで、
 「モルヒネの100分の1の鎮痛効果があると言われる延胡索(えんごさく)が配合された折衝飲エキス製剤を使用すればいいかもしれませんよ」
 とアドバイスしたものの、やや困った表情をされていた理由が、後になって分かったのだった。