2013年05月21日

ハラハラドキドキの不定愁訴

2005年11月12日のボクチン(1歳)
2005年11月12日のボクチン(1歳) posted by (C)ボクチンの母

おたより(症例の御報告):東海地方の某クリニック院長(内科医)

漢方薬を処方していますと、さまざまな不定愁訴を抱えて、いろいろな病院とかクリニックへかよっても改善しないということで受診される患者さんがいらっしゃいます。
 いわば症状のデパートみたいなかたがみえることがあります。

32歳の女性ですが、診察室に入ってくるや、顔が苦悶状で視線はウツロでした。
約1年半まえに胸やけ・心窩部の不快感で機能性胃腸障害と診断されています。
 自覚症状は改善せず、そのあと膀胱炎を繰り返したり、座骨神経痛になったり、していたそうです。

漢方薬を処方してくださるクリニックへ受診され、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、大建中湯、真武湯を処方され、そのあといろいろ変更を経て清暑益気湯に変更されていました。

当院へ初診された当日、「口のなかに唾液が湧いてくる感じがひどく、終日ネバネバしているのを何とかしてください。右足がしびれてどうしようもありません」という訴えでした。
以前のクリニックで温めるくすりが出ていましたので、柴胡剤の必要性を考えましたが、当帰四逆加呉茱萸生姜湯と六君子湯と桂枝加朮附湯を処方しました。

2週間して再診されました。
 「脚の痺れは感覚がもどってきました。でもゲップが悪化しました」とのことでしたので、桂枝加朮附湯を中止して、を六君子湯3包に増量しました。

2週間後に再診、「状態はよくなりつつあります」とのことでしたので、この投薬で次回の受診でかなり改善しているでしょう、と内心思い、当帰四逆加呉茱萸生姜湯と六君子湯を継続しました。

3週間後に受診、「一時良くなったときがありましたが、口が粘つき、味覚がなく、胸焼けして、食欲がなく、自律神経が乱れている感じで最悪です」と、予想とは大きくかけ離れた状態でした。
胸脇苦満もしっかりあり、加味逍遙散を追加しました。

2週間処方しましたが、5日で来院されました。
 今でになく苦悶状で悲惨な表情で診察室の入ってこられて、「加味逍遙散を飲んで2、3日ですごく調子が悪くなりました。食欲は今までにないくらい落ち、精神的にひどくイライラするようになり、些細なことで親にあたるようになり、自己嫌悪に陥ってます。職場ではなんとかコントロールしていますが、帰宅して家の中のものを壊したくなる衝動を抑えるのが大変です」とのことで、一方的にお話しになりました。

経験上、些細なこととか理由もなく怒れてきてしまうかたに抑肝散が効くことがありましたので、加味逍遙散を抑肝散に変更し、状況をみて精神科受診が必要かもしれない旨お伝えしました。

1週間して来院されました。
 診察室に入ってくるまで、こちらの方がドキドキしていましたが、お顔を見せると同時に、今でに見たことがない笑顔で、「性格が変わってしまいました。こんな自分ですごく楽です。怒ることもなくなり、食事美味しいですし、口の粘つき、味覚の異常などもすべてなくなり快調です。ありがとうございます」とおっしゃられ、こちらは胸をなでおろす感じで、思わず、「この前のお薬をもうすこし飲んでおいてください」と言って、3週間分処方しました。

どうもストレスが背景にあってさまざまな身体症状が現れていたような感じですが、とにかく抑肝散で不定愁訴が沈静化してきて良かったです。家の中の物を壊してしまうほどのイライラには抑肝散が結構いいかもしれないです。

西洋薬ですと、メジャートランキライザーを処方するしかないでしょうが、ここまでは効かないでしょうから、やはり『漢方薬恐るべし』です。
 しかし、メンタル症状が豊な患者さんの診療はドキドキしてこちらの心臓によくないです(苦笑顔1(うれしいカオ)あせあせ(飛び散る汗))。

2005年11月12日のボクチン(1歳)
2005年11月12日のボクチン(1歳) posted by (C)ボクチンの母

お返事メール:
 
 とっても興味深い症例のご報告、ありがとうございます。
 まるで推理サスペンス小説を読むように、ドキドキはらはらしながら、結末はどうなることやらと、とても面白く読ませて頂きました。

 結末は抑肝散!

 しかも加味逍遥散では逆効果だったというところでは実に考えさせられてしまいました。
 当方に来られる不定愁訴の女性達の多くは加味逍遥散が適応する人が目立ちますが、抑肝散(加陳皮半夏)を使って著効を得た例は、昨今では睡眠中に舌を噛み切りそうになる女性達2名くらいで、それ以外に必要を感じた例はありませんでした。

 おそらくへそ曲がりのヒゲジジイの流儀に合う人たちは自然に加味逍遥散タイプの女性達が集まりやすく、抑肝散がフィットするようなヒステリックな女性は無意識に避けておられるのかもしれません(苦笑。

 ともあれ、今回ばかりはとてもハラハラドキドキしなが大変楽しく拝読させて頂きました。
 いつもながら、ブログへのご協力、ありがとうございました。

2005年11月12日のボクチン(1歳)
2005年11月12日のボクチン(1歳) posted by (C)ボクチンの母

posted by ヒゲジジイ at 20:55| 山口 ☀| 更年期障害・自律神経失調症や不定愁訴症候群 | 更新情報をチェックする