2007年02月26日

慢性関節リウマチの漢方薬および乳幼児の顔面湿疹の漢方薬

御質問者:東海地方・内科医師

 当地域は花粉の季ですが、村田さんはいかがでしょうか。ご自分で漢方薬を服用してコントロールなさってみえるでしょうか。それとも花粉とは無縁でしょうか。

 まずご報告から。先日ご相談した肝膿瘍のかたですが、入院先で系統的な抗生物質の点滴投与を受け、また、ご助言に従って補剤を内服してもらっています(抗生剤をシャ剤と見なしています)。お陰さまで解熱し、CT検査で膿瘍が縮小しつつあります。ありがとうございます。

 本日の本題は、30台前半のご婦人で、リウマチの罹病歴の長いかたについてです。ご本人の期待するところは、左股関節の痛みのコントロールとできれば関節炎の進行の遅延化にあるそうです。お元気ですが、歩行は制限があります。
 舌所見は、舌質は淡紅から紅で舌苔は薄い白色に多少黄色が加わった状態で、舌下に静脈の軽度怒張を認めます。
 お顔がやや浮腫気味で、トイレが近いそうです。ステロイドの内服を長期にわたり少量継続していることもあって、腎系は少なからず影響を受けているかもしれません。
 リウマチについては専門家にきちんと診てもらっているとのことです。
 とりあえず、温裏剤と六味丸系を処方したのですが、村田さんの経験からご助言に期待しています。

 もう一つ、乳児の顔面湿疹が激しい児にたいして、インチンコウトウ+チョレイトウの合包に41を処方したのですが、3日目に一旦ほとんど発疹が消えて、その後数日で再燃してしまったとのことです。1週目に来院されたときにオウギの影響を愚考して41を外して様子をみていますが、本日、初診から2週目にお父上が写真を持参されました。お顔は綺麗になっていましたので、胸を撫で下ろしているところです。解釈についてお教え願えれば幸いです。

ヒゲジジイのお返事メール:拝復
 抗生物質の性質が中医学的に瀉剤と見なせば、多少とも遷延化した肝膿瘍では補剤の漢方処方の併用で、托裏消毒飲のような扶正去邪が行えるという解釈、なるほど!と何度もうなずいてしまいました。これまで、そのような発想をあまりしたことがありませんでしたので・・・!

 花粉症は身近な家族に関する限りは自分も含めてまったく無縁ですので大丈夫ですが、アトピーやその他の疾患に合併して花粉症がひどい方の御相談は当方でも日常茶飯事です。多くは体質改善三点セットで即効的に止まっているようですので、仕事上ではあまり苦労したことはありません。アトピーの漢方薬+自然療法

 ところで本題の慢性関節リウマチですが、わずかに黄苔がみられるということは、御本人が一番苦痛に思われている股関節には自覚的にも他覚的にも、その部分だけにほんの僅かでも熱感があるのではないでしょうか?
 当方では毎年何人ものリウマチの疼痛で悩まれる方が、いずれも直接何とか来局できるくらいで真の重症者は少ないかもしれませんが、多くの傾向として全身は冷え性で寒がりという部分が見えても、患部が多少とも熱感を帯びているタイプが非常に増えています。この場合は、以前であれば桂枝二越婢一湯加朮附湯の方意を得るために、桂枝加朮附湯製剤と越婢加朮湯製剤の併用でうまく行くことも多かったという印象が十年前々のことで、昨今では、この方剤が効いても一時に終わる例が目立ったいる為、某社の疎経活血湯を加減した便利な製剤に地竜を加えることでうまく行くケースが断然目立っています。

 関節リウマチの患者さんには不思議と六味丸を使用した経験はあまりありません。関節リウマチではない特定疾患の各種の「膠原病」に対しては六味丸を使用することも多く、リウマチ様の症状が合併している人に対しては、やはり特殊な「膠原病(全身性エリテマトーデスなど)」であっても、あくまで弁証論治で関節リウマチの人と同様な配合をお出しすることもあれば、先日遭遇した例では、まだ病名が確定していないながらも明らかな膠原病で、各所の筋肉痛と伴に結節性紅斑的な湿疹が併発して浮腫気味の人に、明らかな黄薄膩苔を目標に病名が確定するまで、茵蔯蒿湯だけをお出ししていたところ、10日も経たずして発疹様の皮膚症状は半減してしまいました。

 ここで茵蔯蒿湯の話を持ち出したのは、関節リウマチで、もしも患部だけに熱感があり、黄苔も伴う場合では、当方でしばしば行う祛風除湿の方剤に地竜を併用する方意と同様なことが、医療用漢方の範囲内で行う場合には、茵蔯蒿湯と疎経活血湯、あるいは桂枝加朮附湯などと併用することで可能かもしれない?と愚考したからです。
 茵蔯蒿(いんちんこう)自体は、当帰拈痛湯(とうきねんつうとう)などにも配合されていることもヒントになると思います。

 しかしながら、日本流の配合ではもしも患部に僅かな熱感や時に微熱を発するようなタイプでは、上述の桂枝二越婢一湯加朮附湯が多く用いられますので、この可能性もありかな?と思います。
(その点、やはり保険漢方における「エキス製剤」の範囲内での考察は、かなり手足が縛られている感じがしないでもありません。地竜のエキス剤や疎経活血湯を加減したユニークな製剤等の使用は不可能でしょうから・・・?)

 乳児の顔面湿疹の症例の方は、アトピー性皮膚炎ではなかったということでしょうか?
 乳幼児期のアトピー性皮膚炎の多くは食物アレルギーが主体となっているはずですので、多くの場合、補中益気湯証が並存していることが多いのですが、しかしながらこれはあくまで一般傾向という話だけですから、弁証論治の原則から言えば、補中益気湯を必要とする体質であれば、舌象に明らかな兆候が見えているはずです。

 舌質が少なくとも淡紅〜白で舌の弾力に勢いがないなど、どこかに明らかな気虚の証拠が出ているはずです。それゆえ、ご報告頂いた結果から解釈させて頂けば、虚証の兆候が一切なかった筈(笑)だから温補剤である41番の補中益気湯が清熱除湿目的の二方剤の効果を邪魔してしまっていたから、41番を中止することで、二方剤の清熱除湿効果がフルに発揮できて緩解したということでしょう。
 
 当方でも昨年暮れ、先生とは逆ではありますが類似した経験をしています。明らかな補中益気湯証の幼児のアトピー性皮膚炎で(舌質は白!)あるのに、補中益気湯が良く効いているようなので、うっかり微寒の性質のあることを忘れてシバシバ著効を奏する体質改善三点セットの量をこれまでより増やすように指示したところ、一気に逆戻りして面目まる潰れです。

 実熱の兆候がまったくないのに過剰に微寒の性質の生薬の量を増やした為に補中益気湯の効果を台無しにしたことは明白でした!

 直ぐにそれらを減量するよりも手っ取り早く中止してもらって現在も補中益気湯の煎じ薬だけで経過をみてもらっていますがまずまず順調で、舌にも次第に血色が出てきたとの報告が得られています。(しっかりと血色が回復して以後には、再度体質改善三点セットを使用する必要が出てくるかもません。)

 ところで、当方でも今年のアトピーの新人さんたちの半数近くが茵蔯蒿湯と猪苓湯を基本に運用して効果を得ています。もちろん大人のこじれたタイプばかりですので、この二方剤だけではやや弱い場合が多いのですが、それでも中心方剤として運用するケースが非常に増えているように思います。

 以上、散漫になりましたが、取り急ぎお返事まで。
                  頓首
        村田恭介拝


折り返し頂いたメール: 速やかにお返事くださいまして大変助かります。開業医としては何よりのヘルプで感謝しております。
 リウマチの処方ですが、インチンコウトウ、疎経活血湯、あるいは桂枝加朮附湯などとの併用、というアドバイスは大変興味深いです。患者さんの所見をきちんと把握したうえで、選択枝として活用させていただきます。


【編集後記】 そういえば乳幼児の湿疹で思い出した。
 十年以上も前のことだが、生後七ヶ月の赤ちゃんがアトピー性皮膚炎との診断で、全身ひどくて顔面は特に真っ赤な鬼瓦の様相を呈し、田舎のことだからこの子は今に死ぬのではないかと噂になっていたという。それほど重症のアトピー性皮膚炎だったが、舌先だけが赤いわりには舌質は淡紅〜白で精細がない。顔面の真っ赤な割にはやや疑問に思ったが、まずは炎症を取るべき黄連解毒湯単方を出したところ、一向に効果が見えない。
 さては〜〜と思って、これに補中益気湯を追加したところ、面白いように急転直下の速効を得て、数ヶ月もすると殆んど完治してしまった。
 こういう経験があるから、李東垣の「内外傷弁惑論」中の補中益気湯証につながる「陰火」の論を深く敬服しないわけには行かないのだった。

 ちなみに李東垣の言う「陰火」の解釈に定説はなく、現代中医学においても、もちろん日本国内においても、「内外傷弁惑論」中の陰火の論を誰もが理解できるようにスッキリと解読・説明された例はいまだに見当たらない。

posted by ヒゲジジイ at 00:33| 山口 ☀| 各種膠原病や関節リウマチやシェーグレン症候群など | 更新情報をチェックする