年齢 : 30歳〜39歳
ご職業 : 自営業
簡単なご住所 : 関西地方
具体的な御職業 : 鍼灸師
お問い合わせ内容 : はじめまして!
アトピーの患者のことでご相談があります。完治できるか自分ではわからないので、経験豊富な村田先生にアドバイスを頂けたらと思います。
患者:男性 40歳
原因:過労で8年程前にいきなり発症。虚したところにおそらく外邪に襲われたと思います。
アトピー症状:全身が乾燥性のアトピーで皮膚が赤く、粉状に皮膚が吹いています。ステロイド歴は8年ほどです。
診断:脉は数脉。緩で脾虚あり。腎虚三焦実。寝汗が多い。寝付き難い。
最初、消風散を飲んでいましたが、今ひとつ効果がなく、黄連解毒湯+六味丸に変えるとすぐに粉状の皮膚がなくなり、皮膚が潤ってきました。
痒みも少しあるがステロイドがいらない程度になっております。
しかし4ヶ月たった今も赤味が全身にあるままです。このまま飲み続けて完治できるのか不安になっています。
脉では三焦の熱はとれてきていますが、皮膚の赤味というのは中々とれないものなのでしょうか?
漢方の経験が浅い自分ですが、ぜひ治してあげたいのでお力お借りしたいです。情報が不足していれば、言って下さい。よろしくお願いいたします。
ヒゲジジイのお返事メール:拝復
黄連解毒湯+六味丸で一定レベルの緩解を得られているとのことですが、下記のかなり偏った当時の拙論、
アトピ−性皮膚炎の中医漢方薬学療法
の一つのパターンにピッタリ該当している体質の患者さんのように思われます。
ステロイドを8年も使用していたのが、あまり使用しないで済むようになったということは、十分な効果を示している証拠だと思われます。
ただ、4ヶ月経っても全身の赤味が取れない、自覚症状は良いのに見た目の赤味が取れないという原因は、数種類の可能性が考えられます。
まだ服用期間が短いために赤味がしっかり取れないのか?(この可能性も大きいと思います!)
あるいは《素問・至真要大論》に言う「諸々の痛痒瘡は、皆心に属す」の中の心に直結する火の種類の問題。
上記の拙論に、当時はまだアトピーに対して補中益気湯を使用した経験がない時代に論説した可能性として、
李東垣の「内外傷弁惑論」中の「陰火」の論が興味深い。「脾胃の気衰え元気不足すれば心火独り盛んなり。心火は陰火なり・・・・・・・・」とあり、これを例の《素問・至真要大論》の「諸の痛痒瘡は、皆心に属す」と結び付けることが出来る。心は火を主り、この火は何も「実火」に限らず、各種の「虚火」も含まれて当然である。アトピ−においては実火も虚火もあらゆる「火」は消し止めなければならないのである。と記しているように、その後実際に、黄連解毒湯のような三焦の実熱を除去する方剤のみならず甘温除熱の補中益気湯を併用する必要があった例も現実にあります。
脾肺病としてのアトピー性皮膚炎
あるいは瘀血が並存している為の問題があるのかどうか?(追加注記:ただし六味丸が適応している場合には、六味丸自体に含まれる地黄や牡丹皮のお陰でかなりなところ涼血と活血作用を期待できる。)
これらの可能性が考えられますが、ご報告のように明らかな脾虚があるのであれば、それを鍼灸師さん達の得意分野であられる脈診だけでは確証が得られないと思います。
舌象はどうなっているのでしょうか? 脈診は人によって主観が入りやすく相当な熟練が要ることと思いますが、舌象にはかなり客観的な体内の異変が視覚的に反映されるものと思います。
つまり、この舌象も併せて考察すべきだと考えるわけですが、舌象に特徴的なことはないのでしょうか?
舌先の赤味の強さの問題、舌質の赤さの度合、舌全体の大きさと歯型が付いているかいないか?(これが顕著であれば補中益気湯証を合併しているかも知れない?)
舌の苔はどうか? などなど。
もしかすると猪苓湯の配合が不足しているかもしれないなど?????
ただし、もう一つの問題は、黄連解毒湯と六味丸が現在的確に合っているようでも、このまま使用し続けると、氷伏を生じる可能性もあるかもしれない。
氷伏には広義の氷伏と、狭義の氷伏があると愚考していますが、広義の氷伏として、寒涼薬の過剰投与によって気血を凝滞させて様々な虚証を誘発するもの。
狭義の氷伏は、寒涼薬の過剰投与によって熱邪を一部に閉じ込めてしまう。
こうなるとこれまで順調に効果が得られたものが、突然のように効果を失って、前者の場合では、様々な変証が出現してしまう。後者の場合では、いくら継続服用してもまったく効果を示さずに次第に漢方薬服用以前の病状に戻っていってしまう。
いずれも小生自身が過去、現実に経験したことをもとに、広義の氷伏と狭義の氷伏というのを今、即興的に記してみましたが、いずれも寒涼薬過剰投与による気血凝滞を引き起こしたことによる問題だと考えています。
ということで、出来れば舌象のご報告が得られれば、と考えます。
ご報告の内容で、やはり少し気になるのが「脾虚」の問題です。わずかな脾虚であれば、黄連解毒湯証では、往々にして見られる「胃強脾弱」の問題として、黄連解毒湯による湿熱除去効果によって脾弱の問題は解決されることが多いはずですが、これも程度問題で、明らかな脾虚が存在する場合は、李東垣の言う「陰火」が潜んでいる可能性も捨てきれなくなりますので・・・
以上、取り急ぎお返事まで。
頓首
村田漢方堂薬局 村田恭介拝
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