2007年02月17日

肝膿瘍の漢方薬(付録:慢性骨髄炎、肺膿瘍に対する漢方薬)

御質問者:東海地方の内科医師
いつもご助言ありがとうございます。
 ・・・・・件ですが、お教えください。
 下痢と発熱で発症し入院され、CTなどで肝膿瘍と診断されているそうです。
 抗生剤の点滴投与を受けているそうです。普段からかなり日常生活に無理のあるかたです。何か免疫抵抗力を高めれればと思っていますが、定番の十全代補湯とか補中益湯でよろしいでしょうか。
 ふと茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)も浮かびましたが、いかがなものでしょうか。
 体格的にはしっかりなさっていますが、かなりガタのきている状況にあるようです。
 情報量が少ないですが、お願い申し上げます。


お返事メール:拝復
 急性炎症期であれば傷寒論医学的の柴胡剤を主体に牛黄や白花蛇舌草を加えるなどが有効性が高いと思います。(文献的にはサフランが有効とも書かれていますが、使用経験はありません。)

 ところで、急性炎症期をやや脱している時期であれば、托裏消毒飲などが適当ではないかと考えます。
 現実に、肝膿瘍ではないのですが「肺膿瘍」で繰り返し再燃して、今度風邪を引くと敗血症を起こして命が危ないといわれた危機的な状況の・・・の方に、托裏消毒飲を煎じ薬で投与して完全治癒、以後20年近く予防的に続けられ、肺膿瘍には完璧な偉効を奏した経験を持っています。

托裏消毒飲 : 漢方専門薬剤師による漢方薬方剤漫遊記

 ここでは托裏消毒飲の方意を模倣して慢性骨髄炎をほぼ完全緩解に近い状態を維持して現在も服薬継続中の方の例を記載しています。

 肺膿瘍も慢性骨髄炎も、御質問の肝膿瘍とは西洋医学的には無関係のように見えても、中医学的にはかなり共通性があると考えます。

 また問題の肝膿瘍の経験では、中国地方在住の女性で、肝膿瘍を再燃を繰り返す人が、・・・・
中国では医薬品ながら日本では健康食品扱いされる方法の為、公開不能。ちょっとおかしな日本ですよ)・・・を長期愛用され、結果的には再発しなくなった方がおられます。

 ところで、医療用漢方の範囲内で敢えて考えますと、上記の托裏消毒飲的な考えからすると、十味敗毒湯・補中益気湯・茵蔯蒿湯ですが、下痢症の様子如何だと思います。

 いずれの場合も中医学的には詳細な舌象によって臨機応変に弁証論治する必要があると思います。
 
 ところで、もしも現在急性炎症期が継続している場合であれば、ご指摘の「定番の十全代補湯とか補中益湯」につきましては、却って炎症を助長する場合があります。少なくとも去邪の生薬を十分に配合しなければなりません。

 急性期を脱している状態であれば、扶正と去邪を同時に行うべき時期に移行している筈ですので、遷延化する傾向が明らかであれば、托裏消毒飲などが適当ではないかと愚考するところです。その代用としては、医療用で行う場合に上記の「十味敗毒湯・補中益気湯・茵蔯蒿湯」三者合方などが考えられそうだ、というわけですが、やはり現実的な舌象および病期におけるタイミングの問題は重要だと思います。

 以上、取り急ぎお返事まで。
                         頓首

村田漢方堂薬局 村田恭介拝


【編集後記】 上記の当方でご相談した人の相談カードを取り出してみると、過去に胆石を繰り返し、手術も繰り返し、肝膿瘍でも手術し、その後肝内結石を繰り返し、当方に訪れるまでに肝膿瘍を合計で3度繰り返していた。何度も肝膿瘍を繰り返すので、県外から訪れた人だった。平成1年から平成14年まで続けているが、その初期には肝膿瘍でもう一度入院されていたので、合計4回は繰り返していたことになる。

 また上記の肺膿瘍と診断されていた人は、シバシバ高熱を発し、抗生物質が殆んど効くものがなくなって、今度風邪を引くと敗血症の危険性が強く危惧されている段階で、托裏消毒飲が著効を奏し、当時このことで、京都で開業されご存命だった緒方玄芳先生とシバシバ情報交換をしていた。(托裏消毒飲は、緒方先生の東亜医学協会発行の月刊『漢方の臨床』誌などで発表された御研究により、日本の漢方界でより深く認識された方剤であった。)