すこしご無沙汰しました。新規の患者さんで晩秋のころに当診療所を受診なさったかたの多くが、清熱剤+チョレイトウ+インチンコウトウの併用でかなりいい感じになってきていたのですが、一様に、ごく最近になって(11月下旬ごろから)、やや増悪している傾向にあります。
教科書的には冬季に悪化する、と記載はありますが、その説明については、乾燥程度のことしか見当たりません。それはともかくにして、当診療所にとっては増悪している患者さんや患児のかたの皮膚をよくして差し上げなければいけないわけです。
ここでご教示いただければと思うのですが、このような状況の場合、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。あまりに漠然とした質問で恐縮です。
具体的な病状についてご説明できれば、ご返答しやすいとは思っていますが、これまでの経験からアドバイスをお願いできれば幸いです。
ヒゲジジイのお返事メール:拝復
この問題こそ、小生がアトピー関連で最初に書いた拙論の最も反省させられる部分で、
アトピ−性皮膚炎の中医漢方薬学療法
この拙論の最初に反省として書いている「清熱剤の黄連解毒湯をやや乱用気味であり、すべてを鵜呑みにして使用すると、たとえ初期に即効を得たとしても、時に氷伏(ひょうふく)を生じることもあり得るので」の問題点です。この清熱剤はインチンコウトウも含めて、そのまま使用し続けると、往々にして効果が途中で突然途絶えてしまうことがありえます。
「清熱剤+チョレイトウ+インチンコウトウ」の配合には、氷伏を未然に防ぐ活血化オの薬物が大黄以外にはないことが問題のようです。できれば温性の活血薬、単純には桂枝程度でもかなり氷伏を避けることができます。
あるいは、デリケートなアトピーに対してはインチンコウトウの加方がやや強すぎるのかもしれません。
もう一つの可能性は、もしも子供さんのアトピーが多いようでしたら、食物アレルギーが顕著な例では補中益気湯が適応する場合が意外に多く、過去にも重症のアトピーの幼児で淡白舌で胖大、舌先は紅に「黄連解毒湯+補中益気湯」で速効を得て効果が途絶えることなく治癒しています。この場合、補中益気湯中の当帰などで氷伏を避けることが出来ます。
食物アレルギーの子供さんには弁証論治を正確に行えば、補中益気湯証が基礎にあることが多いように感じます。
以上、メールを拝見して感じたことを取り急ぎお返事申し上げる次第です。
頓首
折り返しの御質問:前略
いつも早速のご返事ありがとうございます。
お忙しいとは存じますが、氷伏(ひょうふく)についてもうすこしご教示ください。
本日受診なさったかたのなかに、先のメールにて質問するきっかけとなった乾燥した頑固な咳の患者さんがいらっしゃったのですが。「どうも着実に改善しています」とのことでお顔の表情も良くなっていました。
まことに有難い経験です。村田さんには感謝しています。
ヒゲジジイのお返事メール:
寒涼薬を過剰に投与すると氷伏を生じやすいということは、
シバシバ生じるのが寒涼剤による寒凝血オや腎陽の損傷で、これまでの効果が0になる。これを未然に防ぐには温性の活血薬で、その代表的なものが桂枝や桂皮だというものです。
実際に氷伏が生じた例として
アトピー性皮膚炎における去風薬配合上の問題点(『中医臨床』誌1993年3月号に発表分)(引用⇒透明な分泌物の出現と寒冷蕁麻疹の併発をみたために,黄連解毒湯・滑石茯苓湯・桂枝加黄耆湯加白朮の三者合方に変え,最終的には黄連解毒湯合桂枝加黄耆湯加茯苓白朮としてほぼ軽快するに至った症例がありましたが,これは明らかに軽症者に対する寒凉薬過剰投与による誤治によるものでした。)
および、脾肺病としてのアトピー性皮膚炎(1996年:東洋学術出版社発行『アトピー性皮膚炎の漢方治療』より) における症例1番目の考察のところで、黄連解毒湯の乱用により愚息の腎陽損傷のケースを述べています。(引用⇒以前,当時14才の愚息の流感による高熱に対し,銀翹散製剤と黄連解毒湯で即効的に治癒させたことがあるが,治癒後もだらだらと続服させていたら,夜間尿の回数が急増して困ったことがある。黄連解毒湯を中止し,腎陽を強力に温補する海馬補腎丸を飲ませて治癒させたが,黄連解毒湯などの清熱瀉火薬を連用する場合は,衛気の来源である腎陽を損傷しないように細心の注意が必要である。
『霊枢』営衛生会篇に「衛は下焦より出ず」とあるように,衛気は腎から生じる元気がもとになっており,腎陽の蒸騰気化を通じて水穀の精微から化生し,肺の宣発によって全身に散布されるので,衛気が正常に機能するには,@腎精が充足し,A脾が管轄する水穀の精微が充足し,B肺の宣発機能が正常に働く必要がある。)
濫読した当時の中医学書に
確実な資料が出てきた時にはご連絡申し上げます。
追伸: もっと的確な表現が思い浮かびました。
黄連解毒湯や石膏剤のような寒涼薬を多用すると「気血を凝滞させる」ということを「氷伏」と表現したものと思われます。
それゆえシナモン(桂枝)などは温性の優れた行気活血薬でもあるので、氷伏を防ぐ代表的な薬物と言えるのかもしれません。
ともあれ、寒涼薬を多用すると、往々にして気血凝滞を引き起こすので、その時点でそれまで有効に作用していた効果が突然途絶えてしまうようです。
村田恭介拝
折り返し頂いたメール:
”氷伏”についてお返事のメールありがとうございます。
ご説明を拝読しますと、清熱剤をはじめとした寒涼薬を投与しつづけている患者さんのなかに結構該当するかたがいることに気が付きました。寒凝血オや腎陽の損傷が疑われるケースがありそうです。
さっそく、ケイヒを加えるなどして対応して見ます。
いつも参考となるご助言ありがとうございます。これで、「成人式にはきれいな顔で出席したい」
とおっしゃってみえた若い患者さんのご意向が叶うかもしれません。
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