慢性C型肝炎の患者さんを診せていただく機会が多くなってきた最近、肝炎の記述は大変興味深く拝見いたしました。
本日は甲状腺についてお教えください。
最近、動悸を主訴として受診され、甲状腺機能亢進症(バセドー病)と診断した患者さんにたいして、シャカンゾウトウ症と評価して投薬し、メルカゾールとβ遮断剤を併用しました。
個人的経験からは甲状腺ホルモンのレベルが正常化するのには最低でも2ー3ヶ月程度は必要なのですが、シャカンゾウトウ・メルカゾール・β遮断剤の併用1ヶ月目でフォローのために検査をしましたところ、ほぼ正常化していました。ご本人さんも大変喜んでみえまして、私もシャカンゾウトウの効果に驚いた症例です(開業するまえに血液内科をしていましたので白血球減少を心配してメルカゾールを通常量の半分の量で投与)。
ここで質問ですが、甲状腺機能亢進症の弁証の裏読み、五行学説での解釈についてご教示いただければ幸いです。
教科書を自分で検索しないといけないことですが、村田さんに頼ってしまい申し訳ありません。
お返事メール: 本日(24日)もちょうど関西から高血圧を治してほしいという中年女性が、よく問いただすと10年前に甲状腺機能亢進でメルカゾールなどで一旦治癒して「根治した」と医師からは断定されている人でした。
そうそうたやすく「根治」なんていえるはずもありませんので、けっきょくは190〜100の高血圧は問題だから、必ず再度、病院で諸検査して必要な降圧剤などを貰うように強く進言しつつ、せっかく遠路はるばる来られたのだから、弁証論治によって杞菊地黄丸と地竜で様子を見てもらうことにしました。
あきらかな肝腎陰虚がみられたからです。
中医学的教科書では様々な弁証分型が提示されていますが、小生はご存じ「中医漢方薬学派」ですから、中医学基礎理論は派手に駆使しますが、きまりきった弁証分型には現実味が乏しいので、あまり参考にしていません。やはりいつものように、
五臓間における気・血・津液の生化と輸泄(生成・輸布・排泄)の連係に異常が発生し、これらの基礎物質の生化と輸泄に過不足が生じたときが病態であるから、五臓それぞれの生理機能の特性と五臓六腑に共通する「通」という性質にもとづき、病機と治法を分析する。これにより、
@病因・病位・病性の三者を総合的に解明。
A気・血・津液の昇降出入と盈虚通滞の状況を捉える。
これらによって、定位・定性・定量の三方面における病変の本質を把握する、
という基本事項を厳守し、かつ基本方剤を大切にしながら、
病性の寒熱に対応した薬物を考慮しつつ、@発病原因を除去し、A臓腑の機能を調整し、B気血津精の疏通や補充を行う。
ということになります。
御質問の「甲状腺機能亢進」に関して言えば、例えば張先生の分析では、
実際の臨床では虚実挟雑の複雑な局面のことが多く、きめ細く分析して対処する必要がある。表面上は心肝胃の虚火の症状だが、その根底は腎陰虚による陰虚火旺のことが多い。腎陰虚の補益を主体に心肝の治療を合わせたらよいと思う。と述べられています。「臨床 中医学各論」(緑書房発行)より。
タダ、小生も古方派時代が長かった分、この甲状腺機能亢進は、古方派でよく使用される炙甘草湯や柴胡加竜骨牡蠣湯、あるいは炙甘草湯合半夏厚朴湯など、的確に使用すればすぐれた効果を発揮するので、口訣漢方にも便利なところがあるようにも感じています。
(なお無関係なことですが、愚息も専門が血液腫瘍内科のようです。)
以上、あまり参考にはならないかも知れませんが、取り急ぎお返事まで。
頓首
編集後記: たとえば「甲状腺機能亢進」における中西医結合による弁証分型をいつものように提示しない理由は、臨床の実際においては意外に現実にマッチしないところも多々あるのみならず、限りなく西洋医学に近づきすぎる「同病異治」の世界である。
それゆえ、日本古方派の数少ない優れた点の大きな一つ「異病同治」の観点からは、病名は参考にはしても中西医結合的な弁証分型にはこだわらずに、基礎理論はすべて中医学理論に基づきながら、常に「異病同治」の方向を主体にしているのが「中医漢方薬学派」のアイデンティティーなのである。
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