当時の拙論に、まだ小柴胡湯と間質性肺炎問題が勃発する以前に、肝臓病に小柴胡湯を投与することの問題点を訴えた拙論がU社発行の和漢薬誌419号・1988年4月号の巻頭論文にあった。C先生の手紙を読んで再発見したところだ。
自分としてはまったく忘れていた拙論であるから、今読み直してみて驚いている。当時、よくもこれだけ書きまくったものだと我ながらあきれるくらいだ。
当時から拙論に対して、漢方界の著名なベテラン医師から、様々に応援のお手紙をもらっているが、不思議と医師ばかりで、同業の薬剤師は皆無なのが情けない。医師という立場からの余裕かもしれない。既に故人となられた方も多いが、現在も重鎮として活躍される先生方も多い。(と,ここまで書いて思い出したが、質問のお電話はシバシバ同業の薬剤師からかかっていたのだった。激励されるよりも質問され、アドバイスを求める声はとても多かったから、むしろ謙虚で勉強熱心な同業者が多かったことは間違いない。)。
故人となられた中には、C先生のように当時から御高著や、お送り頂いた手紙類の引用の全面的許可を頂いた署名入りの手紙も手元にある。
中には全文見事な日本漢方の問題点を論じて下さった名文もあるので、近々、本ブログで公開させて頂くつもりである。
当時(昭和63年4月27日)付けでC先生から頂いた手紙の全文を以下に転載する。
村田 恭介 先生上記の貴重なC先生によるアドバイスであったので、五味子の粉末をわざわざウチダ和漢薬さんに特注で製造してもらったものの、五味子の強烈な酸味にひるんで、どなたにも試してもらうことなく畑の肥やしにしてしまったのであった。
突然にお手紙を差し上げ、御無礼をお許し下さい。
実は、「和漢薬」419号の先生の「漢方経験録--小柴胡湯と肝臓病」を拝見し、非常に感銘致しました。そこで、先生の御参考にでもなればと愚見を提出したいと存じます。
1.最近の傾向として、小柴胡湯の肝臓病に対する効果が、あまりに強調されすぎる嫌いが見受けられます。小柴胡湯は確かに有効な一処方であることは間違いありませんが勿論、それだけが只一つの方法ではなく、より多くの方剤も有効な手段であることは言うまでもありません。そこには弁証がなく、短絡的に肝炎即ち柴胡剤と言う結論になるのだと思います。
2、中医学では、まず弁証して治法を論じるのは御承知の通りで、急性期では「湿熱」の問題が入りますので「」を合方し、慢性期では免疫の問題が突出してきますので「六味地黄丸」補腎を強力にしなければなりません。御説の通り、五行学説から言っても、腎(水)は肝(木)を助けるので、又、古くより「肝腎同源」「補則其母」と言われているように、慢性肝炎の治療に当たって、補腎は切って離せない存在だと確信しております。 3.その他に、近年、中国で評判になっている「五味子」の治療ですが、小生もこの数年間追試しましたところ、その効果はすばらしく、他の医師の先生方にも使用していただいた所、皆、評価は良かったとおっしゃっております。
今のところ、未だ確立された使用法がなく研究模索中です。私は、先ず五味子全部を粉末とし、一日5〜7g分二でやっております。GOT、GPTが確実に下がり始めます。
だが実際に肝炎そのものが良くなっているかどうかは未だ結論が出ていません。ただ数値そのものが下がりますので、患者さんは大変喜んでいただき、その心理的効果ははかりしれません。
4.小生の経験では、はっきり統計をまだしておりませんが、「六味地黄丸+疎肝、補肝剤」と「五味子末」で治療し、数例の慢性肝炎の患者が全く治癒しております。約3年位かかっております。五味子は煎じては効果なく、中の種ごと粉にすることが肝要です。
是非、一度お試しくだされば幸いです。
勝手な意見を遠慮なくかきならべ、重々の無礼をお許し下さい。 草々
昭和63年4月27日
C拝
なお、C先生の御意見を参考にしつつも、現在は一般のC型慢性肝炎のみならずC型B型合併の肝硬変・腎不全併発の人達に、十数年前に更に発展した?弁証論治にもとづくかなり確立したオリジナルな方法で、皆さんに喜んでもらっている。
ともあれ、上記のようなC先生からお手紙を頂くきっかけとなった拙論については、全文公開したいと考えている。(やや時代遅れの感なきにしも非ずであるが、20年近く前の漢方界の時代状況が反映される貴重な資料ともなるかもしれない。)
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