2006年11月23日

メマイ(めまい)の漢方薬 〔風痰上擾の場合〕

性別 : 男性
年齢 : 30歳〜39歳
簡単なご住所 : 北陸地方
具体的な御職業 : 鍼灸師
お問い合わせ内容 :いつも村田先生のサイトを楽しく、またいろいろ勉強させて頂いてます。
 わたくしは鍼灸院のかたわら、漢方を少しやっており、先生のサイトを見るようになってから中医学を勉強するようになりました。
 (まだ全然初心者ですが)サイトを見ていて大変お忙しそうなので、質問をためらっていたのですが、意を決して送らせ頂きました。
 何卒ご指導頂ければ幸いです。

当院に通う患者さんで年齢31歳で腰痛で通われてる方なんですが、以前からも時々あったのですが、寝不足などをすると、血圧が上がり、めまいを訴えられていたのですが、今回も4、5日前からその様な症状がでて、漢方での治療を依頼されました。
わたくしとしては、その方は太っていることもあり(165p105s堅太り)、また胸に痰を自覚的に感じており(出るわけではないです。)、舌苔が白膩で、時々便秘傾向、首筋が張った感覚があり、ソケイ部にかぶれ様の湿疹があります。

そこで、風痰上擾ではないかと思い、方剤として半夏白朮天麻湯もしくは導痰湯かと考えています。しかし、痰だけを除去するだけでなく、痰を作ってしまう病蔵にも働きかけるような方剤が必要なのではないか、また太っている事を考慮して、先生御推薦の九味半夏湯、もしくは防風通聖散(使いわけがよくわかっていませんが…)なども考えたら良いのか、はっきり言って大変迷っています。

 古方派漢方の時は、とりあえず、高血圧だからこれみたいにやっておりましたが、中医学を意識しだしてから正直方剤選びに悩んでいます。
 ましてや先程の未熟な見立もあっているのかどうなのか心配です。
 どうかご指導頂けないでしょうか。宜しくお願いいたします。

 また先生は痰やオ血などがあるかどうかは、どの様に判断されておられるのでしょうか?重ねてお願いいたします。

 ちなみに以前わたくしも師匠に寒温統一論を読むように言われたことがあり、先生と同じ様に温病勉強しなきゃいけないと、しょっちゅう言われてました。そこで温病関係の本は幾つか持っていたのですが、宝のもちぐされ状態でした。
 そこで先生のサイトを見るようになり、最近温病条弁を読んでいます。


お返事メール:拝復
 明らかな風痰上擾の兆候があれば、漢方製剤を主体に考える場合は、

日本で常用される「風痰上擾」の治療方剤『半夏白朮天麻湯』『釣藤散』について
 半夏白朮天麻湯や釣藤散あるいは導痰湯や滌痰湯が適応する「風痰上擾」は、脾不運湿によって湿聚生痰し、痰濁が少陽三焦を阻滞し膜原を障害して肝風内動を誘発し、一方では脾虚不運によって肝陰を滋補できないために肝陽が遊離して肝風を生じ、少陽三焦を通路として肝風が痰濁を伴って上擾するものである。

 脾胃論の半夏白朮天麻湯は、同名の方剤半夏白朮天麻湯(《医学心悟》【組成】 製半夏 陳皮 茯苓 甘草 白朮 天麻)に比べて薬味がかなり多く、日本で常用され、製剤化されたエキス製品も各種販売されている。補気健脾・淡滲利水・化痰熄風の効能があり、脾虚湿困・湿聚生痰・痰濁内阻・肝風内動・風痰上擾の病機に適応する。実際の臨床では、めまい・頭重・悪心・嘔吐のみならず、頑固な浮腫に、あるいは下痢や軟便傾向があり軽度の膵炎や潜在的に膵臓が弱っていると思われる者にも有効である。

 釣藤散は日本では特に常用される化痰熄風の方剤であり、平肝清熱・補気健脾の効能を併せ持ち、脾虚肝旺・痰濁上擾・肝陽化風および化火の病機に適応する。但し、風痰による痰濁上擾が顕著であれば半夏白朮天麻湯を、肝陽化風の原因として明らかな肝陰虚が認められれば杞菊地黄丸を、肝陽化火が顕著であれば黄連解毒湯などを併用する必要がある。このような二〜三方剤を併用すべきものに、高血圧症や俗に言うメニエール氏症候群などがあり、脳血管障害の前兆の場合もあるので牛黄(ゴオウ)の併用も考える。血オの兆候がわずかでもみられれば、慎重に適量の『生薬製剤二号方』を併用する。

 風痰証が遷延すると風痰証が残存したまま痰互結証に発展することが多く、脳血管障害の後遺症によくみられる。それゆえ、エキス剤を利用する場合は適宜ウチダの『生薬製剤二号方』を用い、あるいは牛黄製剤なども併用するとよい。牛黄には強力な熄風清熱および開竅と豁痰の作用もある。

 但し、釣藤散証のように肝陽偏亢や肝陽化火の傾向がある場合は、血オの徴候がみられても単独で『生薬製剤二号方』を用いてはならず、併用する場合においても過量であってはならない。もしも単独で使用したり併用量が過剰であると肝陽偏亢を助長したり、あるいは肝火を盛んにし、却って逆効果となる場合があるので、杞菊地黄丸などの滋陰剤や黄連解毒湯などを併用するなどして、配合バランスを十分配慮して投与すべきである。

 これを参考にされると良いかと存じます。

 ここに書いることは、現実の経験に基づいていますので、的確に配合すれば、比較的速やかに緩解するものと思います。
 白膩苔があれば、少なくとも痰濁はそうとうにありそうですので、まずは肥満の問題を考えるよりも先に、忠実な弁証論治にもとづいて、例えば釣藤散に半夏白朮天麻湯を合方し、諸条件によっては、たとえば腎陰虚を伴っておれば六味丸系列の方剤を追加するなど、様々な配合が考えられるはずです。

 但し、この方の眩暈症状はどの程度のものか? 天井がぐるぐる回るほどひどいものか、単にふらつく程度か、耳鳴りは伴うのか伴わないのか、悪心、嘔吐はどうなのか等、細かい点での情報不足ですので、何とも申しにくいわけです。

 ところで「痰やオ血などがあるかどうかは、どの様に判断」しているのか?との御質問については、基本的には皆さんがされていることと大同小異だと思います。
 ただ、特徴があるとすれば、根掘り葉掘りと、様々な視点から細かいところまで質問攻めで、あらゆる角度から検討しますので、かなり時間をかけたぶきっちょな漢方相談となっています。ですから病人さんは、表現力のある人、客観的な報告をする言語能力を必要とします。
 だから、よく噂される神業のように「黙って座ればピタリと当た」る世界とは、まったく無縁の薬局で、こちらの納得が行くまで質問攻めに合わせてしまいます。
 だから、本気で時間を惜しまず頑張れる人でなければ、漢方薬を販売することが出来ません。それほどブキッチョな漢方薬屋です。

 なお、釣藤散合半夏白朮天麻湯合六味丸により、一週間に三日は寝込んで眩暈・耳鳴り、嘔吐を繰り返し、ひどい眼振のあった中年女性の重度の持病が数年間の服用で根治させれた人もあります。前後10年は続服し、廃薬後も十年間、未だに再発はみられていません。
 風痰上擾による眩暈の重症例としては典型的でした。

 ところで、もしもめまいなど軽症の方であれば、仰るとおり九味半夏湯加減方の扁鵲(ヘンセキ)程度でも十分治せる可能性があると思います。しかも肥満の解消を兼ねて!

 但し、風痰上擾が明らかであれば、九味半夏湯加減方の扁鵲は、桂枝や升麻が配合されている為に風痰上擾には一切効果はなく、ましてや防風通聖散などは以ての外ということになりますので、いずれも使用すべではありません!

 風痰上擾が明らかであれば、やはり
 http://www.cyuikanpo.com/hu.html に沿った方法が無難と思います。
 風痰上擾の判定としましては、眩暈がかなりひどく悪心や嘔吐を伴えば、白膩苔があることから、この場合は明らかに風痰上擾は間違いないことになります。

 また、もしも白膩苔に黄色がかかっていれば、明らかな湿熱も同居していることになりますから、重症者の風痰上擾では、釣藤散に牛黄を加えたりする工夫も必要になるかと存じます。

 以上、簡単ながらお返事まで。
                    頓首
posted by ヒゲジジイ at 00:12| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする