年齢 : 30歳〜39歳
ご職業 : 自営業
具体的な御職業 : 漢方販売
簡単なご住所:関東地区
お問い合わせ内容 : 先生こんにちは いつもHP拝見させていただいています。
今回も図々しくも質問させていただきます。
先生の良くお使いになってる「地竜」なのですが 単味で何ヶ月にも渡って処方しても大丈夫なものなのでしょうか?
もちろん弁証によっては可能と思われますが 薬性が寒・降ということで明らかに熱症+気血の虚が無いタイプでないと 使えない感じがするのですがどうでしょうか?
自分もよく腰や膝の痛みにソカツ(疎経活血湯)や独活(独活寄生湯)に合わせて使っているのですが 単味となると経験が無いもので・・
お恥ずかしい質問なのですが 時間がある時にお返事いただければ幸いです。
お返事メール:拝復
一見なんでもないミミズのエキスがご存じ「地竜」ですが、性味が鹹・寒とはいえ、肝・腎・肺に帰経する優れものです。
ご存知のように、中医学的な効能は幅広く、清熱熄風・定驚、清肺平喘、行経通絡・利水通淋と来れば、応用範囲は多岐に渡ることが想像できると思います。
御質問には、「単味で何ヶ月にも渡って処方しても大丈夫なものなのでしょうか?」とありますが、条件が揃えば単味でも一向に連用は差し支えありません。現実にも、過去、中小企業の社長婦人が家業の作業工程でつねに右腕を酷使する為に腱鞘炎らしき熱感を伴った疼痛に悩まれていましたが、地竜単味を半年間連用し、仕事を継続しながらもほぼ根治してしまいました。
こういう単味で継続することは例外的なことですが、当方では明らかに有効で条件が揃っていると見れば、不必要な配合は避けております。
それでなくとも、個人個人によって、自覚症状や病院での診断名とは裏腹に、思いがけず複雑な配合が必要なことがあったり、逆に難病指定を受けているような難治性疾患でも、二方剤くらいの合方で十分だったりするわけですから、シンプルに行ける場合は、なるべくその方針でやりますが、地竜の使用条件はそれほど厳しいものではありません。極論すれば一人の身体において五臓六腑に連なる経絡毎に寒熱に違いがあるのですが、時に単味の地竜だけで押し通すことこそ、ピントがバッチリという人も、少数ながらおられるわけです。
常連さんでもヒドイ腱鞘炎や歩き過ぎによる足の急性炎症などに、この地竜に雲南片玉金(ウチダ和漢薬から発売のヒゲジジイの考案したもの)を加えて即効を得たり、意外に急性の熱性炎症には有効なことが多いものです。後者の場合は、短期間の服用で十分ではありますが・・・。
ところで、実際の仕事上では、地竜を使用する場合は、ほとんどの例で単味で使用することは稀です。ご存じのように補陽還五湯のように、気虚が顕著な場合でも、黄耆など気虚に対応した配合があれば、地竜を有効に使用することが出来るものです。このことは、血虚の場合も同様で、たとえ気血両虚が顕著であっても、それ相応の気血両虚に対する方剤に適量の地竜を加えることは、日常茶飯事のことです。
もっとも典型的な例が気血両虚を呈している慢性関節リウマチの人達で、シバシバというか、ほとんど全例で加える必要性を認めています。関節の部分部分に明らかな熱証が出現している例が多いからにほかなりません。
但し、これらの配合方法も、もちろん純粋日本漢方でもなく、ましてや純粋中医学派でもなく、日本漢方を信奉した時代が10年以上続いた関係もあって、基本方剤を徹底的に大事にしながら、基礎理論を中医学に置いて、結局はいつも提唱している「中医漢方薬学」という方法で、これは単なる名称だけでなく、随所でオリジナルな配合パターンが多いのではないかと思われます。
それゆえ、日本漢方派からも、中医学派からも、両者から些か怪訝がられる使用方法も見られるかもしれませんが、実際には、徹底した中医基礎理論にもとづく常と変、とりわけ変の方に眼を向けた視点から考案した方法が多いように思っています。(具体的にはインチンコウトウ・六味丸・猪苓湯を繁用することで、とりわけ猪苓湯では、どのような専門家も想像を絶する応用方法を多岐にわたって開発しているつもりです。)
長々と余計なことまで書いてしまいましたが、当方とて貴方と同様、多くの場合、地竜を他方剤や他の薬味とともに併用しているというのが現実で、タマに単味で連用してもらうことがある程度なのですから、その点では、結局は同じ考えなのではないでしょうか。
但し、地竜の月間販売量の多さは、同業者の方には想像を絶する量であるかも知れません。
以上、取り急ぎお返事まで。
村田漢方堂薬局 村田恭介
折り返し頂いた追加質問のメール:お忙しいところ 早速のご返答 誠にありがとうございます。
沢山の教えをいただきまして 本当に感動しているところです。涙
今回のご回答 分かりやすく丁寧にしていただきまして 自分なりに理解したつもりですが何度も読み返し 本当に自分のものに出来たらと思っています。
自分が解釈した感じでは 簡単に言うと炎症系の痛みに地竜を用いるということですが その炎症を見抜く力に欠けているもので 患部の発赤や熱感(本人の感じも含む)があれば炎症を判断出来るのですが それを感じない腰痛や膝痛を訴えるかたも大勢いらっしゃいます。
発火や熱感以外の症状で炎症を見抜く方法などありましたら教えていただければと思います。
また熱症を呈さない方でも 弁証により他薬と併用して地竜が有効だと思われるのですがどうでしょうか?
当店では地竜をあまり使いこなせていないもので あつかましく質問ばかり申し訳ございません。。。
あと水蛭製剤も取り扱っているのですが 地竜との使い分けについても先生のご意見をお聞かせ下さい。
何度もすみませんm__m
ヒゲ薬剤師のお返事メール:熱性炎症を見抜くには、やはり具体的な自覚症状として、根掘り葉掘り質問攻め(笑)の中から、把握することが可能だと思います。
明らかでない場合は、10日後の宿題として、もう一度、御自分の身体をよく観察してくるように、様々なヒントを提示して、熱性炎症と判断できる部分があるかどうか、じっくり御自身に、観察して報告してもらいます。
当方ではこのように、ご本人様みずからもよく考え、観察する忍耐と努力を厭わない人でなければ、相談販売を中止しますので、やっかいでトウヘンボクな薬局かもしれません。
さいわいに、当方に来られるからには努力を厭わず、真剣に受止めてくれる人達ばかりだから、最終的には具体的な熱性炎症を把握することが可能です。
その兆候がやはり感じられない場合は、地竜が適応する熱証がないものと判断できます。
また、熱性炎症がない場合でも、地竜の鎮痛効果だけを狙って応用する方法は、寒証の多かった時代には、適切な方剤とともに地竜をしばしば加えたものです。昔のことになりますが、大分以前に市場から消滅したイスクラさんの舒筋丸が存在した時代には、強烈な風寒湿痺による坐骨神経痛の人に、もう一歩、身体の芯の疼痛が消えないという人などに、熱性炎症が皆無であっても、地竜の鎮痛効果を得る目的で併用したお陰で、腰部の奥深い所の芯に存在した苦痛が除去されたという実例もかなりありました。
しかしながら、昨今は、強烈な寒証を呈する人が激減しており、せいぜい疎経活血湯レベルの寒証に留まっているように見受けます。
こちらでは、独活寄生湯を使用したくなるレベルの人も少なく、現在、膠原病の中年男性がヨク苡仁湯との合方で使用している人や、高齢の女性達が数名腰痛で使用されている程度で、残りは次に御紹介する慢性関節リウマチの女性くらいのものです。
慢性関節リウマチの人で、当方では珍しく独活寄生湯(独歩丸)に地竜を加えて、典型的な風寒湿痺と思われる体質の人に、熱性炎症は皆無とみられる人にも、5年以上の継続服用で、ほぼ完全緩解の状態を維持している人がおられます。
このような場合は、配合比率に若干の配慮が必要で、あまり地竜が勝ちすぎると、冷やす作用が前面に出ては困りますので、あくまで反佐的な配合分量でなければならないと考えています。
水蛭に関しましては、確かイスクラさんがこれを含んだ新製品として販売されているように思いましたが、今のところ必要を感じないので、一度も使用しておりません。
また、残念ながら古方派時代の煎薬に熱心だった時代にも、ほんの数回使用したことがある程度で、頭でっかちの知識だけで、ご報告できるほどの経験はありません。
以上、取り急ぎお返事まで。
頓首
村田漢方堂薬局 村田恭介
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