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九州からやって来た不定愁訴の女性。
月曜日の午後、ようやく時間が空いて、午前中の嬉しい報告(肝硬変のオジイサンの血小板がしっかり増えたので静脈瘤破列の心配が激減したことや、細菌性の気管支炎の新人さんが予定通りの効果を発揮していること、耳管炎のおばあさんが二ヶ月でかなり寛解して来たことなど)で、やたらに空腹が続くので、電子レンジで間食の用意をしかかった時に上記の人がやって来られて間食は万事休す(苦笑。
携帯で当方のHPをちょっと見ただけで安易に来局されるのは問題であり、こちらは質問攻めに合わされるので、それだけでもう次回からの漢方相談は失格である。
失格ではあるが、せっかく来られたのだから話だけは伺った。
要するに漢方専門の診療所で投与された方剤が、補中益気湯を筆頭に五種類近くの補剤が配合されている上に、越婢加朮湯加附子も配合され、すべてエキス剤でまとめて混合したものを1包ずつに分包されたもの。
一時は効果があったものの、次第に胃酸が逆流したり夜眠れなかったりで、そのことを何度訴えてもH2ブロッカーを飲めばよいとて、頑として処方を変えてくれないという。
附子や胃を害することもある越婢加朮湯を抜けばよいものの、すべてが混合されているのでそれは不可能だという。
何度も喧嘩腰で訴えても同一内容を投与され続け、埒が明かないので今度は漢方薬局に変えたところ、そこでも附子を配合され、そのほかの処方内容は薬味の一部が記載されているだけで、処方内容は教えてもらえないという。
この無表示医薬品?を購入して服用し続けて一年間、問題の不定愁訴に対して何の効果も見られない。
のみならず附子が配合されると目が冴えて眠れないので、それを訴えても附子が合わない筈はないと、これまた頑固に聞き入れてもらえないという。
これも附子だけでも抜いてみればよいものの、やはりすべてが混合されているのでそれは不可能という。
また両者の言い分(先の診療所の医師、後者の漢方薬局の薬剤師?)は、いずれも附子が合わない人はいないと言われたという。
だから、要するにもしかして附子が合わない人もいるのかどうかを確かめに、わざわざ下関までやって来た模様なのである。
これが彼女が来られた最も重要な質問事項であったらしい。
もちろん附子が合わない人は五万と存在するし、貴女も附子が合わない体質に間違いないと断定してあげるとようやく納得して帰ってもらえた。
何とも気味の悪い話で、このようなことで一時間も貴重な時間を奪われるのだから、たまったものではない。
当方に通い詰める意思など到底ありそうもなく、ただ附子が附子がと、附子の話でほとんど終始したストレンジャーさんだった。
昨今、漢方界でも過剰な温め療法が流行っているが、この温暖な西日本地方でさえも附子あるいは附子剤の乱用が目立つ。
長期間附子を投与され続けた挙句に、この女性のように紅潮上気した顔貌となり、いかにもイライラした焦燥感が漂い、慢性的な附子中毒に陥っている人が出現しても不思議はない。
中医学では(昨今ブームの火神派は別として)必要に応じて附子を初期に一時的に使用することがあっても、長期間使用しない傾向が強く、必要な効果を得たところで配合を変え、附子を抜いた方剤に切り替えることが多い。
附子を乱用すると肺熱や肺陰虚を誘発して、呼吸器系に重大な悪影響を及ぼしかねないので、何でも過ぎたるは及ばざるが如し、である。
ともあれ、こちらの漢方に賭けてしっかり通うという決意もないまま、質問攻めに会って一時間、まるで慈善事業である。
お陰で午前中の爽快感も台無しになったが、彼女にとっては附子の乱用を中止する決心がついただけでも、大きな救いになったかもしれない。
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