2011年07月15日

ネットで調べて処方を指名される客には売れない理由

ムクドリたち
ムクドリたち posted by (C)ヒゲジジイ

 いずれも電話での問い合わせ。

 先日、「ネットで調べていたら猪苓湯が自分に合っていると思うが、先生にかわってくれ」と関西から中年女性の高圧的な電話を受け取ったのは受付嬢。

 当然、電話で合ってるかどうかを判断することは困難だから、販売は出来ないこと、昨今ははじめての人に通販は出来ないことなどを説明してお断りしていた。

 そして本日は中年男性からの電話で、ネットで調べていたら冷え症に葛根湯がよいと書いていたが、お宅には置いているか?という問い合わせ。

 冷え症にも様々なタイプがあり、葛根湯がよいとは限らないし、素人判断では間違っていることがほとんどだから、販売できないことを告げてお断り。
 しかも葛根湯くらいなら、どこの薬局でも売っているから、地元の薬局でよく相談するようにと告げ、徹底的に逃げようとする受付嬢。

 これが我が薬局の徹底した方針である。

 ネットは便利になったとはいえ、シロウトが基礎知識ナシにネットで調べたくらいで適切な漢方薬が見つかるほど、漢方世界は甘くない。

 巷では開業医さんたちの漢方熱が盛んなのはよいが、高度の貧血症の人で中気下陥が明らかな体質の女性に、平気で桂枝茯苓丸を投与して自信満々の漢方知識レベルには唖然とする。

 実に日本漢方の行く末が思いやられる。

 かくいうヒゲジジイは、重症のアトピー性皮膚炎の相談者の半数はスムーズに経過しても、残りの半数は数ヶ月〜一年近くも微調整の繰り返しに四苦八苦しながら、四季折々に変化する一年間の傾向と対策をようやく把握して寛解に導けるというテイタラク。

 四十年近くも漢方だけで飯を食っている人間でもこのレベルであるのに、シロウトがネットで調べたくらいで、そうそうたやすく適切な方剤が見つかるはずもない。

 といっても、電話で漢方薬を指名する程度の人たちの疾患は、多くは軽症のお気軽相談レベルの人たちだから、実際には本人が本気で相談にくれば容易にピントの合った方剤が直ぐに見つかりそうなレベル。
実際の仕事上ではこのようなお気楽で軽症者レベルの新人さんの漢方相談は、お気楽過ぎて本気度が不足しているため無駄な時間ばかりを奪われるので最もお断りする典型例となる。)

 それゆえ、当然のことながら複雑な要素が合併していて、多くの病院を歴訪して治らず、地元の漢方専門医院や薬局で漢方治療を試みても寛解できないどころか、悪化の一途を辿っているアトピー性皮膚炎とは難易度のレベルがあまりに違い過ぎる。

 ともあれ、ネットサーフィンしていたら、しばしば遭遇するのにアトピーが根治、こんち、コンチ、根治という言葉があまりに氾濫していることに驚かされる。

 実際のところ、文字通りの根治はほとんどありえるはずも無く、9割以上の安定した寛解が得られれば最高と思うべきで、遺伝子レベルの改善が行なわれない限りは、根治ということはあり得ない

 実に安易に、根治、根治という言葉の氾濫には呆れ果てるばかりで、電話での問い合わせでも折々に遭遇する重症の「アトピーを一年で根治させてもらえますかっ?」という愚問には付き合ってられない。
 当然のことながら、打てば響くように?(苦笑、「到底無理難題ですのでお断」りさせて頂く。

 人生たかだか80〜90年、十年以上も続いた慢性疾患が、そうやすやすと文字通りの「根治」は滅多にあり得ない。
 現象的に根治したように見える安定した完全寛解に近い状態が持続することは大いにあり得るが、文字通りの根治はほとんどあり得ないと主張するのである。

 思い返せば長期間追跡調査が可能な人たちの中には、自殺まで考えた坐骨神経痛が当方の漢方薬でほとんど完全寛解して15年、再発する兆候も皆無なので、このような例をもののたとえとして根治と云えるにしても、厳密な意味ではやはり根治とは言ってはならないように思うのである。

蜂の巣
蜂の巣 posted by (C)ヒゲジジイ

 
posted by ヒゲジジイ at 23:26| 山口 ☀| 中医漢方薬学 | 更新情報をチェックする