それをあえてここで書いてしまうのは、一昨年までは販売量が激減していた加味逍遙散製剤が、昨年頃から激増しているからである。
古方でもないのに古方派が好んで使用される加味逍遙散ではあるが、それだけにヒゲジジイの古方派時代はしばしば使用したし、また当時は意味不明な症状を訴えて、いわゆる「血の道症」の女性が多く訪れていた。
ところが、中医漢方薬学に目覚めた頃から、世の中も漢方ブームに沸き立ち、テレビでは医療用の漢方が派手に宣伝される時代に至って、加味逍遙散証を呈する女性達が、漢方専門の当方では激減していたのが実情である。
もともと不定愁訴というものは、大変把握しにくいところがあるので、訴える多種類の症状の一つ一つに囚われ過ぎると、いつのまにか五里霧中に陥って、気がついてみると何のことは無い、加味逍遙散を主軸に運用すればよかったというケースが稀ではないのである。
加味逍遙散証を呈する序章としての肝気鬱結を起こすからには様々な原因や誘引が存在するが、器質的な疾患と異なって、症状を真面目に聞いていたら、時にこちらがノイローゼになりそうなほどである。
転移癌の患者さんたちが、様々な苦痛を堪えながら、ひたすら通い続けられる静かなる闘志と不屈の精神が滲み出る雰囲気と比べると、加味逍遙散証を呈する不定愁訴症候群やホットフラッシュの人達の方が、遥かに難病をかかえているような錯覚を起こすほどである。
加味逍遙散という製剤こそ、世の中には五万とあるはずなのに、昨年から当方のような漢方専門薬局に多数の人が訪れるようになった原因は、品質のよい製剤しか販売しないからという理由だけではなさそうで、それに併用すべき適切な方剤の選択がかなり的確だからかもしれない(笑。
ここで本音を言えば、一部の不定愁訴症候群の御相談は、死に病でもないのに時にはぜんぜん理屈に合わない症状の多さに閉口して、本当は決して得意分野ではなく、精神的には大いに不得意分野である ことを宣言しておきたいのであるっ(苦笑。
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