こんにちは。だんだん蒸し暑くなってきまして、湿気が関与する症状で来院するかたが多くなってきました。しかし、猪苓湯が活躍しています。
さて、今日は、●●●●についてお尋ねします。高血圧、脂質異常症があり、西洋薬と漢方を併用(漢方は好きそうです)していまして、良好なコントロールです。
ただ、年齢的に(7?歳)疲労感を覚えることが多くなり、結構休んでいる(本人曰く、さっぼている)ようです。
舌は紅で無苔、脈は弦です。性分として一度何かをやりはじめると集中してしまい、コントロールすることを知らないかたです。抑肝散加陳皮半夏をいつもおいしくのんでいます。
でも朝にくたっとしているときにカンフル剤的に補中益気湯を服用することがあるそうですが、かえって眠くなるそうです。
通院してみえるほかの患者さんにおかれましても同じようなことをおっしゃっているかたがいました。このようなことはときに生ずることでしょうか(実際起こっているのですが、苦笑)。ご教示くさいますと幸いです。
お返事メール:「舌は紅で無苔、脈は弦」という条件が揃えば、真っ先に浮かぶ処方は杞菊地黄丸です。
舌が紅で無苔は中医学でいう「陰虚証」であることが歴然としているように思います。それに弦脈といのは肝の脈であり、もしもこれに数脈が伴えば、ますますいよいよもって肝腎陰虚証の治療薬である杞菊地黄丸証である可能性がとても高くなります。
また、高血圧症患者さんに補中益気湯証を呈することは稀ではないかと愚考します。
補中益気湯にまつわる話で、高齢者ばかりが入院している病棟で、医療用漢方製薬メーカーの外交さん(ツムラ漢方)に補中益気湯エキスを使用するよう強く勧誘され、無作為に使用したところ、血圧が上昇する患者さんが頻出して困惑した話を当の担当医から直接話を聞いたことがあります。
(追記:昨今ではそのツムラ漢方の外交さんは抑肝散や抑肝散加陳皮半夏エキス顆粒製剤を使ってもらうように強く勧誘されているという。)
ところで補中益気湯服用者が却って眠くなる現象は朝鮮人参の鎮静作用が強く働いたものと考えられますが、シャキッとするところがないとなりますと、証の判定にズレがある可能性なしとしないと考えます。
でも、それが心地よく快感に近いものであれば、問題はない現象だと考えられます。
小生も、補中益気湯は比較的繁用する方剤ですが、そのほとんどは朝鮮人参の代わりに党参を用いた補中益気丸を使用していますので、そのような現象を申告されたケースは皆無です。
とここまで書いて、現在進行形の膠原病の人や仮面鬱病の人たちには、高濃度の補中益気湯(朝鮮人参入り)を使用している三十代、四十代の男女を思い出してみても、過去の補中益気湯証の人達の事例を思い出してみても、同様な申告を受けた記憶がありません。
証にずれがあるか、あるいはもしかしてツムラ漢方の補中益気湯製剤に問題なしとしないかもしれません。(補注:ツムラの補中益気湯は本来は白朮=ビャクジュツを配合すべきところ、安価な蒼朮=ソウジュツで代用されている。⇒白朮(ビャクジュツ)を蒼朮(ソウジュツ)で代用する日本漢方の杜撰)
ところで、無苔で舌質が紅のケースでも補中益気湯証が合併することもあり得ます。気虚発熱などのケースでは舌質がやや紅に傾きますが、同時に嬌嫩(きょうどん)、つまりくたびれた明太子様のような舌像を呈することが多いように思います。
折り返し頂いたメール:さっそくのお返事に感謝します。杞菊地黄丸は手持ちだと思いますので、しっかり服用するように指示します。
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