スズメさん posted by (C)ヒゲジジイ
せっかく小太郎さんが補気建中湯エキス製剤を実現してくれたので、ことのついでに分消湯のエキス製剤の実現も依頼している。
他社で既に存在してるものの、知る限りでは蒼朮と白朮が共に配合された正しい分消湯製剤は見当たらない。多くは白朮だけの配合であるから片手落ちの製剤ばかりである。白朮だけの配合でも無効というわけではないが・・・
事実、
2006年02月06日 大腸癌再発による腹膜播種で腹水の漢方薬 と
2006年02月07日 昨日のお問い合わせ:大腸癌から腹膜播種による腹水等の続き
の患者さんは結局、村田漢方堂薬局に来られ、分消湯を主体にした配合で腹水には速効を得た。
想像していたほど重症とは言えず、十分に体力を保持されていた。
通常の煎じ薬量の半量で十分に奏効したのでそれで継続するお約束だったが、ご家族の薬剤師さんの采配で煎じ薬量に増量されたので、腹水が再発してもないのに増量するのは時期早尚であると叱ったのに気を悪くされたか、次第にいつの間にか無音となられたので、以後の経過は不明である。
但し、使用した分消湯製剤に蒼朮が入らない分、それを補って余りある併用方剤の補強もあったと記憶する。
もちろん多くの腹水患者さんがシンプルな漢方製剤で軽減できるとは限らないので、虚証に補気建中湯、実証に分消湯という単純な図式化はナンセンスである。
補気建中湯の配合は明らかに扶正去邪の配合である。
分消湯を主体にした配合は、確かに日本漢方的に言えば体力が十分に残っている人に通用することが多いが、極期に使用して亡くなられた後にご家族から感謝されて戸惑ったことがある。
三十数年前のことであるが、悪性腫瘍末期の腹水が重篤で患者さんが苦しみ抜いて、入院中の医師の許可を得て漢方薬を求めて来られたのに、分消湯を服用してもらったところ超速効で腹水が軽減し、ご本人はとても喜んでまだまだ飲みたいと所望し続け、ああ楽になったラクニナッタと呟きつつ、三日目に息を引き取られたというのであった。
奥様から詳細な御報告がてら、いたく感謝された当時の複雑な気分とともに今も鮮明に思い出し、忘れられない。その当時はあるいは補気建中湯だったらもっと延命されたかもしれないと思ったのもだが、そうは問屋がおろさなかっただろうと思われる。
分消湯が適応方剤であったからこそ速効が得られたのであり、補気建中湯であれば暖簾に腕押しだった可能性が高いのである。
このように的確な方証相対が実現しても、苦痛軽減のにみ終わることもあれば、運よく短期間で急を脱してかなりなレベルまで健康を回復することもある。
臨機応変の併用方剤の運用にも関わって来るかなりデリケートな問題もあるだろう。
ともあれ、分消湯では無効なケースでも、補気建中湯こそ適応方剤であったということも珍しくはないので、両者は今後、ますます需要は高まることであろう。
両方剤を併用すべきケースもあり得るはずである。
このようなきわどい段階に使用することの多い方剤は、真の意味で中医学をしっかり勉強して、勉強しただけの机上の空論家ではなく、実際に漢方経験の長い専門家にしっかり相談して使用すべきで、素人療法は禁物である。
とりわけ重要なことは、その他にも必要な併用方剤などの指南を仰ぐべきだからである。
蛇足ながら2006年02月06日 大腸癌再発による腹膜播種で腹水の漢方薬に後日記載した「後日談」の部分のみ引用する。
【後日談】 その後、実際に村田漢方堂薬局にご本人が来られることとなり、気力、体力は想像していたよりもそれほど損耗されておらず、腹水と腹満に関する限りは分消湯エキス製剤で明らかに好転した。
実際にお会いしてみると、補気建中湯や補中益気湯合五苓散証などではなかったのである!
これによっても分かるように、ご本人に直接お会いしないままのメール相談ではあやふやなことが多く、ましてや今回のケースのように代理人を介してのご相談となると、ますますイヨイヨもって当てにならないことが多いという教訓となっている。
白長楽(しろおさらく) posted by (C)ヒゲジジイ