2008年06月22日

脊柱管狭窄症の中医漢方薬学的考え方

ご質問者: 北陸地方の鍼灸師

 最近、脊柱管狭窄症の患者さんを診ることが多いのですが、訴える症状の中で、痛む場所がその時によって違う(ただし腰から下の部位で)ということを共通して訴えられることが多いのですが、それだけをとらえれば行痺のようにも思えるのですが、季節的な事や、天候が悪くなると痛みが激しくなるということからすれば着痺とも考えられると思うのですが、もちろん瘀血(オケツ)の存在は外せないでしょうが、先生の経験などご教授をいただければ幸いです。

 私は薬は、使えませんが、薬から帰経や臓腑弁証が分かれば、該当の臓腑がわりだせますので参考になります。
 鍼灸は薬ほど細かく証をたてません。最近の中医学系の鍼灸は薬と同じように証をたて、それを最終的には臓腑弁証に転換していくのですが、かっといって日本の経絡治療と言われるものは余りにも貧弱すぎて、少し複雑な病気になると全然太刀打ちできない気がしているのですが…

 私が行う治療は、先生が書かれております、陳潮祖教授の理論と大変似ているというか、本来理論的には一緒になってきてとうぜんなのでしょうが…
 そういうことからも先生の話は大変理解しやすいのですが、時々質問者の中から鍼灸の話が出ますが、どうも基本的用語の概念とかが先生とあっているのか疑問に思うこともあるのですが、なんせ鍼灸業界もやけくそが多いのでちょっと困っています(苦笑)

 質問とは違う事をかいてしまいましたがご指導お願いいたします。


お返事メール:病名だけで弁証するのは不可能ですが、すくなくとも「通ぜざれば痛む」はあまりにも有名な中医学基礎ですが、陳潮祖先生の指摘する「通」という至上命題からは、脊柱管狭窄症という病名からも示されるとおり、気血津液の疎通がメインになることは当然だと思います。

 そして個人個人により、同じ病名でも現れる症候は微妙にことなるのですが、共通するところは痺証であることは間違いないにしても、個人個人によって着痺の要素が強かったり、行痺の要素が強かったりなどですので、痺証の分類にあまり拘泥する意味は乏しいと思います。

 むしろこれに伴う「間欠跛行(かんけつはこう)」には、腎虚を伴っていることが多いので、風寒湿あるいは風寒湿の熱化や、これにともなう瘀血や腎虚を個別的に細かく弁証する必要があると思います。

 中医学の教科書には大きな欠点もあり、どうしても同病異治はよいとしても、その異治の分類がクリアカットな分類で、初学者に理解しやすい方便が、却ってそれに縛られて応用力を養成するのを阻んでしまう傾向があるように思います。

 脊柱管狭窄症は、大事な病名は病名として参考にしながらも、個人個人の特殊性に対する弁証論治こそ重要で、パターン化してひとくくりには出来ないと思います。


折り返し頂いたメール:大変貴重なお話ありがとうございます。

先生がおっしゃられる、

>間欠跛行(かんけつはこう)」には、腎虚を伴っていることが
>多いので、風寒湿あるいは風寒湿の熱化や、これにともなう瘀血や腎虚を個別的に細かく弁証する必要があると思います

の部分が教科書では出てこないので大変参考になります。
 もう少し具体的な症状から弁証しないといけないとわかってはいるのですが…まだまだ未熟者です。
 あと後半にも書かれてましたが、

>異治の分類がクリアカットな分類で、初学者に理解しやすい方
>便が、却ってそれに縛られて応用力を養成するのを阻んでしまう傾向があるよう

は本当にその通りだと思います。

 お疲れのところありがとうございました。