整体論にもとずく病態の理解は個人的にも興味深いです。
患者さんの病状が改善することを一義的な目標にして診療をしていると、おそらく現代の医療を支配している西洋医学的手法に限界を覚えるのは当然と思います。さまざまな症状あるいは診断された疾患の背景について洞察することは極めて有意義と思います。
最近経験した患者さんで大腸ポリープのかたも数多ある例のうちのひとつかもしれません。
全身の倦怠感、ほかさまざまな症状にて受診されました。一応、その時点で自分に可能な弁証をおこない投薬しました。そして、定期健診にて大腸ファーバーを実施するときになりました。
患者さんは癌といわれるのを心配してみえましたが(ポリープをいつも指摘され切除されていました)、今回はひとつも指摘されることなく、また、先回の検査でしてきされていた微小なポリープが消失していることが判明し担当医はびっくりしていたそうです。
中医薬学的なアプローチは深遠です。
お返事メール:
整体観は、陰行五行学説とともに中医学のもっともエッセンシャルな部分だと思います。
中医学における病因論は、直接審因(疾病を生じさせた直接的な根本原因の探究)のみならず、もっとも重要で西洋医学には見られない特長がこの整体観にもとずいた「審証求因」という考え方です。
この審証求因については、私淑する陳潮祖先生の論述がもっとも参考になると思います。以下、補足を加えた拙訳を引用して参考に供したいと存じます。村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』からの引用。
以上、整体観にもとづいた中医学特有の病因論でした。●審証求因
先人は長期の臨床実践の経験から、一種類の原因が多種類の結果を生み、一種類の結果は多種類の原因から生じるものである、と認識していた。
このため、中医学では因果関係の多様性と流動性を極めて重視するのである。
つまり、疾病のあらゆる因果関係を弁証対象とし、その因果関係を弁証的に結論づけるもので、単に外因の作用から病理現象の発生・発展・変化の原因を探究するばかりでなく、臓腑機能の盛衰と基礎物質の盈虚通滞などの状況から、病理現象の発生・発展・変化における多種多様な原因の総合的解明を重視する。
かくして中医学特有の「審証求因」という独自の観点が形成されたのである。
この「審証求因」は、一種の間接的な審因方式で、局部的・静止的観点による分析方法とは異なり、人体を有機的な統一体であると同時に天地と相応じるものとして捉える「整体観」と人体を流動的な生体そのものとして捉える「動態観」という視点から、各種の複雑な病理現象を分析し、総合的な帰納を行って疾病が発生・発展・変化する原因を推理して結論づけるものである。
このような病因観は病機と一体となっており、それだけに直接審因の解明の場合に比較して、それぞれの特定段階における病変実質の解明内容は、いかにも漠然としたものに見える。
とはいえ、複雑な因果関係をなしている病理現象に対し、総合的な帰納を行って導き出す病因の推論であるから、因果関係の複雑性・多様性・弁証性を反映させることができるのである。
このように、審証求因という弁証方法は、臨床実践を有利に導くものとして優れた威力を発揮することができるものなのである。—月刊「和漢薬」掲載⇒村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』