2008年06月02日

気と津液の流通ルートとしての少陽三焦について

おたより:東海地方の女性薬剤師

ご無沙汰しております。
 先生の少陽三焦論を読ませていただき、痒いところに手が届いたような気持ちになっております。
 いつも三焦について、非常に不可思議な感を覚えていたのですが、最近こんなことを考えました。

 それは、少陽三焦経とガンについてです。
 結論から申しますと、正常な細胞が、ガン細胞に変化するとき、一番深く関わっているのは、少陽三焦経なのではないか・・・?ということです。

 三焦という場所は、気精血津液の大きな通路で、外部環境をまるごと察知し、それに適応できるような内部環境を形成してゆくような感じがしています。(うまく表現できないのですが・・・)

 例えば人の体は、埃の多い処に住めば、鼻毛が伸びてくる・・・・などその環境に適応するために進化してゆくわけですが、それを司っているのは三焦なのでは・・・と考えております。

 人類は、太古の昔から、飢餓にさらされており、それに耐えられるような体に仕組まれてきました。
 ところが、ここ半世紀ほどの間に、全ての人が王様のような食事ができるようになり、血中には余分な糖や脂質がだぶついている現象が起きてきました。

 誰もが知るように、余分な糖分は、糖尿病の合併症のごとく、血管毒、神経毒となり様々な病気を引き起こしてゆきます。
 つまり、高濃度の糖は正常な細胞にとって生きにくい環境です。
それで、高濃度の糖があっても生きられる細胞、そのような条件下でどんどん繁殖できる細胞に、生き残りをかけて変化したのが、ガン細胞のように思えております。

 うちにこられる、ガン患者さんをみていますと、三焦に気滞、痰湿、おけつのいずれかをもっておられ、手少陽三焦経の中渚、外関、翳風などのツボにも、強い反応がみられます。
 三焦の衛気の力が弱まり、同時に食事やストレス等の邪により、三焦の環境が汚れてくると、ある一定のところまでくると、細胞が生き残るための緊急用スイッチが作動して、変異が起こってくるのでは・・・などと思いを巡らせています。(ガン細胞は、気滞、痰湿、おけつが大好き)

 そこで、ガンの方の場合、弁証論治をもとに、扶正と去邪のバランスを考えながら、処方していますが、少陽の引経薬を少量用いることで、もっと効果があがるのではないか?
と考えている次第です。

 まとまりのないお話をしてすみませんでした。
 あれやこれやと愚考している最中ですので・・・・。
 先生は、ガンと三焦経については、どんなふうにお考えになりますか?
 お時間ありますときに、教えていただけたら、嬉しいです。


お返事メール:少陽三焦理論については、陳潮祖先生独特のお考えがあるようで、少陽三焦は気津の流通ルートであると断言されています。

 『中医方剤と治法』を書かれた時代には、まだ一般的な少陽三焦の考え方に近く、気血津液の流通ルートであるとされていました。

 ところが、ヒゲジジイがのめり込み、翻訳書を出版する寸前まで行った『中医病機治法学』では、血の流通は脈管や経絡に譲って、気と津液の流通ルートとして血は除外されています。
 小生自身も、この方が少陽三焦の特長をよく掴んでいるものと信じています。

 『中医病機治法学』の出版競争で他に先を越された時点で、東洋学術出版社からは上述の『中医方剤と治法』の翻訳を依頼され、短期間で8割を終えた時点で、少陽三焦が気血津液三者の流通ルートとして繰り返し出て来る矛盾には、どうしても合理性および整合性の点で、ひどい自己矛盾に陥るので放り出してしまいました。

 やはり陳潮祖先生の著作では『中医病機治法学』や、その後に発行された分厚い方剤学書『中医治法与方剤』で述べられる少陽三焦理論こそ真理に近いものと確信しています。

 しかしながら、膜原と腠理(そうり)から構成され、気と津の流通ルートである少陽三焦における気滞や痰濁閉阻の問題が、血瘀と絡んで痰瘀互結(痰瘀交阻)により悪性腫瘍が発生しやすくなることは充分に考えられることだと同意します。
 癌は痰湿・瘀血・気滞が合体して生じるものであると従来から指摘されていることですが、このことに間違いはないと思います。

 ところで先ほど、と言っても昼下がりのことですが、隣県の勉強熱心な医師から電話があり、癌や代謝系疾患や腎不全で生じる腹水の問題について、補気建中湯や分消湯などの質問がありました。
 病院名だけを名乗られて、ご本人の名前までは自己紹介されないのでやや怪訝ではありましたが、以前はあれほど漢方薬を蔑ろにし、医学・薬学としても頭から否定していた多くの医師の方々が、漢方薬に目を向け始めた昨今、実に隔世の感があります。

 虚実中間証という表現には思わず言語矛盾だから中医学に目を向けるようにいらぬお節介までアドバイスしてしまいましたが、老兵(ヒゲジジイ)がそろそろ退散するに当たって、日本の多くの医師たちが、漢方薬にこれだけ関心を持ち始めたことは、実に慶賀すべきことと心から祝福しているところです。

 でも、まだまだ現状では漢方薬局で販売される弁証論治にもとづく自費の漢方こそ、ここ当分は続くだろうと感じていますが、数十年後には、どうなっているか分かりません。
 あの幼稚な日本漢方に中医学理論を導入しない限りは、当分先のことかもしれませんが・・・


折り返し頂いたメール:少陽三焦理論について、とてもわかりやすく解説していただき、本当にありがとうございました。

 本によって、気血津液の通り道とあるものと、血が除外されているものがあり、疑問を感じていたところです。(勉強不足で誠にすみません)気と津液といいますと、ますます自律神経系やリンパの働きを想像します。
 今後、三焦について、もう少し観察してゆきたいです。
 どうぞよろしくご指導くださいませ。

 また、先生がおっしゃるように、漢方に目を向ける医師がとても増えてきましたね。
 アメリカでも、漢方や鍼灸等の中医学が取り入れられてきているようですが、我が国もそのような流れになってゆくのでしょうか・・・?
そうであれば、とても喜ばしいことです。
まだまだエビデンス漢方主流の日本ですが、これでは本当の漢方の力が発揮できませんね。

 私が知っているドクターは、中医学を勉強された漢方医で、自費診療で開業されていますが、それでもいろいろな縛りがあるとのことで、”薬局さんが本当に羨ましい”と言われています。

 そうかと思えば、来年度より、登録販売士なる資格が施行されると、一般OTCの他に、漢方エキス剤も自由に販売できるようですが、何かとてつもない矛盾を感じますね。

 漢方相談といってもその実力にはピンからキリまであるわけで、このような内情をご存じない一般市民はお気の毒としか申しようがありません。
 先生、老兵などとおっしゃらず、まだまだ吠え続けなければならないような気がいたしますヨ。
 私も微力ながら頑張らねば・・・と思っております。
posted by ヒゲジジイ at 08:16| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする