2008年06月08日

ありがたい御紹介とノーサンキュウの御紹介

 ありがた迷惑なご紹介はとても多い。紹介者の手前、渋々来られる人も多いからである。
 親切で患者さんを紹介下さるのはありがたいが、紹介されてこられる人達というのは、紹介者の手前、本当は自費の漢方など買いたくもないし、漢方薬がそれほど効果があるとは信じられないという人がほとんどである。

 最近、新しい人達が毎日続いているが、いずれもご自身みずから電話帳で調べたり、ネットで検索してトウヘンボクな内容が気に入って来られた人達ばかり。
 だから、多くは早期に効果が出て来るので、大いに喜ばれて、身内や友人を紹介したいと盛んにお世辞を言われるのだが、それこそ最も有難迷惑というもので、まだお付き合いも浅いうちから、紹介もなにもあったもんじゃない。

 みずからがまだしっかり治ったわけでもないのに、考えることが早過ぎる。
 互いに気心も知れないうちから、それこそ気軽に他の人まで紹介して欲しくない。

 紹介されてやって来られるケースの多くは、物見遊山か、あるいは御紹介者の手前シブシブ無理やり連れて来られたり、あるいは及び腰で来るケースがほとんどである。

 腰を据えて当方の漢方に賭けてみようという決心もないまま来られても、弁証論治を行う当方の気苦労なぞ皆目知る由もないだろう。
 買ってやるんだからという現代社会の悪風が漂う人が混じろうものなら、コチトラいっぺんで頭の中はフリーズである。

 稀にある喜ばしい御紹介というのは、そんなトウヘンボクで頑固な薬局なら信頼できるかもしれないので、是非紹介してほしいと、たっての願いによる紹介だけである。

 相変わらず最も忙しくなる土曜日には及び腰の電話相談依頼が絶えない。
 受付の女性薬剤師は「またかっ〜〜」とうんざり顔である。
 もっとも不快な相談は、ご相談だけでよいから直接行っても構わないかという問い合わせである。
 ネットに直接来るように書いてあるので行くには行ってやるが、薬は不要であるというのである。

 図々しいのになると直接やって来て、お話しだけでも聞いてほしいというお邪魔虫。
 慈善事業かっ!?

 結局、先週もお電話や薬局店頭でのお断りの労力に、無駄な時間を浪費されられた一週間である。
 「男は黙ってサントリー」というように、本気の人たちは男女に関係なく前宣伝などなしに直接直談判のつもりでやって来られるのだ。 だからこそ、こちらも大いに意気に感じて集中力が発揮でき、順調に経過して喜ばれるというわけである。

 蛇足ながら、一般的傾向として直接来られる以前から前宣伝が多い人ほど熱しやすく冷めやすく、忍耐力に乏しく長続きしない。
 ほどほど効果が出ると安心するのか、完全寛解まで継続する忍耐力がなく中途半端で止めてしまう。
 例外は一握りほど。

2008年06月06日

ちくわとミミズとホース談義

おたより:関東地方の内科医師

自分は「ちくわ」って美味しくて大好きなんですけど〜先生はお好きですか?(笑
 でも、この「ちくわ」って体の構造そのものを表しているような気がするんですよね…。
 先生も同じ様な感覚を持たれているのでは…?

 あの鮎川静先生の本の始めに「ちくわの図」が書かれてあって、「この先生、ただ者ではない」と感じました。確か、この先生の医院はバスで行かなくてはいけない所にあって、この先生の医院の近くの停留所でバスが止まると全員降りてしまう…とか、大塚敬節先生が話していたのを思い出します。凄い手腕の先生だったことが伺えますよね。

 この「ちくわ」ですけど…人間の体を皮膚と腸に視点を当てて考えてみれば、皮膚は口と肛門で反転して消化管となっている訳で、ここに注目すれば人間の体は「ちくわ」と同じ様な構造をしていると考えられるんですよね。

 この皮膚と腸ですけど…解剖学的に見れば、もっとも遠い位置にあるといえます。しかしながら、この「ちくわ」構造に注目すれば…皮膚と腸とは生理学的に隣にあることになります。ですから…解剖学的にみた物理学的距離感と生理学的距離感は違うと言うことになると思います。

 ここいら辺が東洋医学の素晴らしさを語っている所でもあると感じます。表裏感からすれば、表は皮膚で裏は腸ですよね。ですから…解剖学的に遠い場所でも表裏の関係を保っている皮膚と腸とは生理学的に近い距離にあると指摘することが出来ると思います。

 この「ちくわ」構造を理論数学では「トーラス」といいます。この「トーラス」は「ドーナツ型」です。すなわち一つの物体に一つの穴が開いている構造が「トーラス」なんです。これからすれば…「トーラス」=「ちくわ」です。
 ということは、東洋医学を西洋的な考え方で説明できる土台ができあがっていることを示しているとも感じます。

 最後に…皮膚と腸の距離の近さの実例を挙げたいと思います。
 アトピーで苦しみ克服した方が自分のお子さんを育てるのに如何にアトピーを起こさないで育てることができるか?と考えた…という記事を目にしたことがあります。
 その方曰く…
「夏には、しっかりと汗をかかせること」と「便通をととのえること」でした。

 やはり…病気を経験した方は医者以上のことを感じ取っていると痛感します。ですから…私たち医療従事者は、その声を無駄にすることなく患者さんに帰していくことが求められるのだと思ったりします。

でも…「ちくわ」って美味しいですよね〜(笑。


お返事メール:おたより、ありがとうございます。
 皮膚と腸管の表面は、ミミズを逆剥けすると逆転するように、地続きで一体のものであるとする考えは、以前より様々な立場から指摘されているようですね。
 ミミズと「ちくわ」では美味しさの点では比較になりませんが、ミミズの方は小生愛用の医薬品ですっ!

 鮎川静先生のご高著は、古方派時代には一時のめり込んだ時代が懐かしいです。門前市をなす盛況、大人気の名医にあやかって、当時、盛んに大柴胡湯合桂枝茯苓丸料合当帰芍薬散料など、柴胡剤と駆瘀血剤の合方を行ったものでした。
 でも、残念ながら鮎川先生の模倣をしても、閑古鳥が鳴く日の多い薬局でした(苦笑。

 ともあれ、ご指摘の「ちくわ理論」を地で行く方剤の一つが、小生の乱用する「茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)」です。

たとえば、漢方薬による子宮内膜症の強烈な疼痛・生理痛の治り方 で取り上げた女性の場合、10日毎に通われて、本日ちょうど五度目の来局で、ちょうど40日の服用ですが、ここ一週間は完璧に疼痛が消失し、病院の鎮痛剤もまったく不要になったとの報告を受けました。

 配合処方は牛膝散製剤・猪苓湯・茵蔯蒿湯・田七末の四種類です。このようなシンプル?な配合で、難治性と言われた激しい疼痛が僅か三十日でほぼ完全消失です。同時に顔面に生じていた凸凹状の吹き出物も完全消失して絶世の美人に戻ったのには皆で祝福したほどです(笑。

 このように婦人科系疾患においてさえも茵蔯蒿湯の有効性を証明したものだと自画自賛しているところです。

 この茵蔯蒿湯こそ、先生の「ちくわ理論」を証明する代表的な方剤の一つであろうかと存じる次第、是非、お試しあれっ。


折り返し頂いたメール:ちくわの肉に注目しなはれ!ということかな?
了解です!
GOOD NIGHT!(笑

肉中央部の穴ですよね。分かってきました…v(^^)v


ヒゲジジイの折り返しのメール:もちろんその穴もですが、同時に肉もですっ! 先生の洞察力は天下一品ですっ!

 一般的には、ホースのような管でたとえて、それを逆剥けにしたイメージで、皮膚と腸管表面はひと連なりで地続きと言われますが、肉質の多いミミズに喩えたほうが真実に近いように思います。

 少陽三焦理論によるイメージの世界です。
 少陽三焦は気と津液の流通ルートではありますが、血は気に乗って運ばれます。


折り返し頂いたメール:確かに「ちくわ」だと穴が大きく、ちょいとイメージから離れている感じがありますものね。では‥これからは「みみず」で行きたいと思います(笑。
 さて‥

>少陽三焦は気と津液の流通ルートではありますが、血は気に乗って運ばれます。

 ん〜これ‥というか、この感覚を大切にして自分の中で培養したいと思います!
 自分の場合はインプットして‥ばっちり感覚として捉えられるまで、時間がかかってしまいます。他の先生はリンパ系を指しているのでは? という意見もあり‥色々な側面から結びつく点を探したいと思います。これも‥時間が必要ですね(笑。

 やっと猪苓と茵蔯蒿がつかめた様な気がしたのに‥底なしですねぇ〜(笑。でも、この二つが分かったということは自分にとっては大きな進歩です。この二つが、なんとなく分かった事で‥傷寒論の全体像がはっきりしてくる感覚があります。

 自分の場合、体の中の気の流れは、しっかりと分からないんですが‥体表面の気の流れは非常にダイナミックに感じることができます。これは感覚的に分かります。体の悪い部分に気の流れの停滞(気の集中や気の低下)が起こり‥流れ方が悪くなっていることが分かります。気の停滞部分に鍼をすると10分もすれば‥気の流通の再開が始まります。(漢方的には気の停滞部分に相当する部分の臓器の充血や虚血を伴っていることが殆どです)

 自分は鍼よりも漢方主体なんですが‥気の流れも利用しています。でも‥体内は分からないんですよね。どうなっているのでしょうねぇ〜???(笑

もう一度‥解剖を調べてみようかなぁ〜とか思います。
死ぬまでに終わらないでしょうけど‥「足がかりだけでも、この世に置き土産として残したい」と言う思いで進んで行きたいと思います。ありがとうございます。


ヒゲジジイのお返事:最初からホースを持ち出すべきだったかもしれませんが、小生にはミミズの逆さ剥けの方がしっくりします。その点では、「ちくわ」はその中間で、ほどよいイメージかもしれませんが、やっぱりミミズが好きです。

 東洋医学世界の思考訓練では、先生と同様、小生も自分なりのイメージをゆっくりと構築する流儀です。まったくイマジネーションの世界で、時に適当なところで妥協しないと、矛盾地獄に陥りそうになることもあります。

 昔は、思考追及に妥協できなかったのですが、昨今は考え抜いた後、疲れが出て適当に妥協してしまいます。明らかな老化現象だな〜〜〜とがっくりくるのですが、でも、この年でHTMLやCSSを手打ちで打てるのだから、まだまだ頭の中は、まんざらではないのかも〜〜?とみずからを慰めています(苦笑。

2008年06月05日

遠方だから…っ? 遠方だからこそ…っ!!!

性別 : 男性
年齢 : 50歳〜59歳
御職業 : 会社員
簡単なご住所 : 中部地方
お問合せ・ご連絡内容 : 初めてのメールです。
 ホームページを拝見し、また村田薬局様の方針を理解しました上で、●月◎◎日(○) 午後1:30〜2:00に伺いたいと存じます。

 遠方ですのでできれば1回のご相談で処方して頂ければ幸いですが、翌日の(◎)も必要であれば2日連続でも結構です。

 病院の診断は慢性閉塞疾患です。6月4日夜まで待ちメールの無い場合は翌日電話します。


お返事メール:拝復

>遠方ですのでできれば1回のご相談で処方して頂ければ幸いですが

とありますが、遠方だからこそ何日もあったほうが望ましいのです。

 現在も関東地方から4泊5日の日程で来られている人がいます。
 これまでの最高は、やはり関東地方から10泊11日という人もおられます。
 このように熱心な人は、経過も順調です。

 ところで、慢性閉塞疾患という病名はありませんが、きっと慢性閉塞性肺疾患のことなのでしょう。昔で言う肺気種や慢性気管支炎のことですね。

後日談:上記のように、せっかくこちらからお返事しても、そのまま無音のまま来られなかったと記憶する。
 案の定といったところで、最初のメールのニュアンスから、大歓迎の言辞でも弄さない限りは、そのまま無音となって来ないだろうと予感していた通りであった。
 同様に、行くぞ行くぞと前宣伝をされる人の実に7割以上の人が、こちらの返事が少しでも気に入らなければそのまま無音となって実際には永遠に来訪されることがない。
 だからこのような前宣伝の人は、こちらでは内心「またかっ」と思っているだけである。
 前宣伝の多い人は迷っている証拠だから、ちょっとでもこちらの返事が無愛想であれば、影響に無音となるのが通例である(苦笑。

2008年06月04日

整体観にもとずく審証求因について

おたより:東海地方の内科医師

 整体論にもとずく病態の理解は個人的にも興味深いです。
 患者さんの病状が改善することを一義的な目標にして診療をしていると、おそらく現代の医療を支配している西洋医学的手法に限界を覚えるのは当然と思います。さまざまな症状あるいは診断された疾患の背景について洞察することは極めて有意義と思います。

 最近経験した患者さんで大腸ポリープのかたも数多ある例のうちのひとつかもしれません。
 全身の倦怠感、ほかさまざまな症状にて受診されました。一応、その時点で自分に可能な弁証をおこない投薬しました。そして、定期健診にて大腸ファーバーを実施するときになりました。

 患者さんは癌といわれるのを心配してみえましたが(ポリープをいつも指摘され切除されていました)、今回はひとつも指摘されることなく、また、先回の検査でしてきされていた微小なポリープが消失していることが判明し担当医はびっくりしていたそうです。

 中医薬学的なアプローチは深遠です。


お返事メール:
 整体観は、陰行五行学説とともに中医学のもっともエッセンシャルな部分だと思います。

 中医学における病因論は、直接審因(疾病を生じさせた直接的な根本原因の探究)のみならず、もっとも重要で西洋医学には見られない特長がこの整体観にもとずいた「審証求因」という考え方です。

 この審証求因については、私淑する陳潮祖先生の論述がもっとも参考になると思います。以下、補足を加えた拙訳を引用して参考に供したいと存じます。村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』からの引用。

●審証求因

 先人は長期の臨床実践の経験から、一種類の原因が多種類の結果を生み、一種類の結果は多種類の原因から生じるものである、と認識していた。
 このため、中医学では因果関係の多様性と流動性を極めて重視するのである。

 つまり、疾病のあらゆる因果関係を弁証対象とし、その因果関係を弁証的に結論づけるもので、単に外因の作用から病理現象の発生・発展・変化の原因を探究するばかりでなく、臓腑機能の盛衰と基礎物質の盈虚通滞などの状況から、病理現象の発生・発展・変化における多種多様な原因の総合的解明を重視する。
 かくして中医学特有の「審証求因」という独自の観点が形成されたのである。

 この「審証求因」は、一種の間接的な審因方式で、局部的・静止的観点による分析方法とは異なり、人体を有機的な統一体であると同時に天地と相応じるものとして捉える「整体観」と人体を流動的な生体そのものとして捉える「動態観」という視点から、各種の複雑な病理現象を分析し、総合的な帰納を行って疾病が発生・発展・変化する原因を推理して結論づけるものである。

 このような病因観は病機と一体となっており、それだけに直接審因の解明の場合に比較して、それぞれの特定段階における病変実質の解明内容は、いかにも漠然としたものに見える。
 とはいえ、複雑な因果関係をなしている病理現象に対し、総合的な帰納を行って導き出す病因の推論であるから、因果関係の複雑性・多様性・弁証性を反映させることができるのである。

 このように、審証求因という弁証方法は、臨床実践を有利に導くものとして優れた威力を発揮することができるものなのである。

—月刊「和漢薬」掲載⇒村田恭介訳注:陳潮祖著『中医病機治法学』

 以上、整体観にもとづいた中医学特有の病因論でした。
posted by ヒゲジジイ at 11:40| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月03日

臨床現場で実際に診察している内科医師による証言━整体観(整体観念)

おたより:関東地方の内科医師

こんにちは。
ん〜脳外科の開業もはやりですよね。
 CTやMRIなんかを入れて開業なさる先生方も多いと聞く、この頃です。

 じゃぁ〜CTやMRIって漢方的に考えるときに有効な手段なんだろうか?と疑ってみる必要がありますよね。
 確かにCTやMRIをすれば脳の実質の変化の繊細な情報を得ることができます。

 ですから…腫瘍などの除外診断には欠かせない検査なんですけど…問題が一つ!
 果たして脳の病気が脳だけの問題か?という点です。

 現代医学の特徴として臓器分けをして診察を行っています。もし、脳の病気が体の他の部分の変化の代償として出てきたならば…どうでしょう?

 もしそうならば…現代医学では治せません!
 自分が患者の診察をしていますと、認知症や梗塞、出血なども首から下の胴体の部分の変化の代償としてできあがった病気であると感じさせられることが多いのも事実です。

 今の常識は未来の非常識です。現代医学で今行われている治療は30年前には行われていないものが殆どなんですよね。「進歩しているからでしょ?」と思われているかもしれませんが…逆に漢方の葛根湯なんかは2000年前にできあがった処方で今も健在です。これは何を意味するのでしょうか?

 病気になったら何を信じたら良いのか?
 現代医学と漢方を始めとする他の医学をしっかり見極めて自分から選ぶことが必要なのかもしれませんよね。


 そんなことをアドバイスできる専門家を隣に置いておくことも必要なのかもしれませんよね。そうですよね…村田先生!(笑


お返事メール:
おたよりありがとうございます。
ご指摘の問題、全面的に同意しますっ!

 但し、文明の利器、CTやMRIの検査結果は弁証論治の一つの有益な材料として、現代社会では欠かせないものとなっています。

 たとえば、過去に子供さんや成人でも遭遇した経験ですが、脳圧亢進症状により受診したところ、脳内にあきらかな腫瘍が見えました。

 舌の状態から内容物が水湿の可能性が疑えます。太陽膀胱系に沿った症状、後背部から頭頂部にかけて鈍痛などもあります。このことから迷わず五苓散を主体に多種類の中草薬を併用してもらうことでいずれも次の検査までに脳圧亢進症状も含めて腫瘍が完全消失です。

 いずれのケースでも次の検査のCTやMRIの結果を見て、大声で「ないっ!?」と主治医が叫ばれます。(すべてこのようにうまく行くとは限らないでしょうが・・・)良性腫瘍であればこのようなマジックもあり得るようです。

 小生の私淑する陳潮祖先生の書籍では、眼科疾患の弁証論治に眼底検査などの文明の利器による検査結果を弁証論治の重要な材料とする必要性を強調されています。
 「実像として現れる」西洋医学的検査結果においては、中医基礎理論に基づく弁証論治の重要な根拠として利用出来るし、すべきであるということだと思います。
 あくまで弁証論治を行う上での一つの材料として・・・です。

 上記の良性脳腫瘍の例でも、太陽膀胱系および水湿の病変であったわけですから、中医学的には肺脾腎病であることに間違いありません。

 このように先生もご指摘の通り、脳の疾患を脳だけの疾患とは見ないのは、東洋医学では常識ですが、その大局を見る視点に欠ける西洋医学を中医学に吸収合併させるべきとの拙論が、「中医学と西洋医学━中西医結合への道」 という訳です(苦笑。

 葛根湯は不滅ですっ! 風邪やインフルエンザには非力でも、驚くほど広範囲な領域に繁用しています。またまた勝手な持論を披露させて頂きますと、

葛根4.0g 麻黄2.0g 桂皮1.5g 芍薬1.5g 生姜0.5g 大棗2.0g 甘草1.0g

このような葛根と麻黄、甘草の比率が4:2:1がベストだと愚考するものです。

 様々な慢性疾患にエキス錠を加減して使用してもらい、葛根湯ファンは村田漢方堂薬局には多数おられます。
 但し、常用するとは限らず、葛根湯証が勃発したときだけに使用してもらうことで、ある種の慢性疲労症候群には絶大な効果を発揮します。

 葛根湯の素晴らしさを述べたら、際限がないほどですが、使用すべきタイミングをマスターされている常連さんやお馴染みさんは多数存在します。

 ただ、一部の人で習熟してもらえないので、指導に四苦八苦することもあります。つまり、症状が治ったら一時中止すべき人と、連用すべき人とを厳密にテストしてもらうのですが、勘のいい人、悪い人・・・。

 たとえば、日頃は釣藤散証や辛夷清肺湯証を呈しながら、折々に葛根湯証が勃発する一見、矛盾した証が折々に合併する人が多数おられるのですが、葛根湯を使用するタイミングと中止すべきタイミングにおいて、要領のよい人、悪い人。

 常用すべき人では、多種類の併用方剤とともに釣藤散と葛根湯をここ二十年以上併用することで、90歳近くまでまったくボケることなく現役で活躍されている女性もおられます。

 話は大分それてしまいましたが、葛根湯は実に素晴らしい方剤ですねっ!
posted by ヒゲジジイ at 07:12| 山口 ☔| 脳腫瘍・各種悪性腫瘍による脳転移・ステージ4 | 更新情報をチェックする

2008年06月02日

気と津液の流通ルートとしての少陽三焦について

おたより:東海地方の女性薬剤師

ご無沙汰しております。
 先生の少陽三焦論を読ませていただき、痒いところに手が届いたような気持ちになっております。
 いつも三焦について、非常に不可思議な感を覚えていたのですが、最近こんなことを考えました。

 それは、少陽三焦経とガンについてです。
 結論から申しますと、正常な細胞が、ガン細胞に変化するとき、一番深く関わっているのは、少陽三焦経なのではないか・・・?ということです。

 三焦という場所は、気精血津液の大きな通路で、外部環境をまるごと察知し、それに適応できるような内部環境を形成してゆくような感じがしています。(うまく表現できないのですが・・・)

 例えば人の体は、埃の多い処に住めば、鼻毛が伸びてくる・・・・などその環境に適応するために進化してゆくわけですが、それを司っているのは三焦なのでは・・・と考えております。

 人類は、太古の昔から、飢餓にさらされており、それに耐えられるような体に仕組まれてきました。
 ところが、ここ半世紀ほどの間に、全ての人が王様のような食事ができるようになり、血中には余分な糖や脂質がだぶついている現象が起きてきました。

 誰もが知るように、余分な糖分は、糖尿病の合併症のごとく、血管毒、神経毒となり様々な病気を引き起こしてゆきます。
 つまり、高濃度の糖は正常な細胞にとって生きにくい環境です。
それで、高濃度の糖があっても生きられる細胞、そのような条件下でどんどん繁殖できる細胞に、生き残りをかけて変化したのが、ガン細胞のように思えております。

 うちにこられる、ガン患者さんをみていますと、三焦に気滞、痰湿、おけつのいずれかをもっておられ、手少陽三焦経の中渚、外関、翳風などのツボにも、強い反応がみられます。
 三焦の衛気の力が弱まり、同時に食事やストレス等の邪により、三焦の環境が汚れてくると、ある一定のところまでくると、細胞が生き残るための緊急用スイッチが作動して、変異が起こってくるのでは・・・などと思いを巡らせています。(ガン細胞は、気滞、痰湿、おけつが大好き)

 そこで、ガンの方の場合、弁証論治をもとに、扶正と去邪のバランスを考えながら、処方していますが、少陽の引経薬を少量用いることで、もっと効果があがるのではないか?
と考えている次第です。

 まとまりのないお話をしてすみませんでした。
 あれやこれやと愚考している最中ですので・・・・。
 先生は、ガンと三焦経については、どんなふうにお考えになりますか?
 お時間ありますときに、教えていただけたら、嬉しいです。


お返事メール:少陽三焦理論については、陳潮祖先生独特のお考えがあるようで、少陽三焦は気津の流通ルートであると断言されています。

 『中医方剤と治法』を書かれた時代には、まだ一般的な少陽三焦の考え方に近く、気血津液の流通ルートであるとされていました。

 ところが、ヒゲジジイがのめり込み、翻訳書を出版する寸前まで行った『中医病機治法学』では、血の流通は脈管や経絡に譲って、気と津液の流通ルートとして血は除外されています。
 小生自身も、この方が少陽三焦の特長をよく掴んでいるものと信じています。

 『中医病機治法学』の出版競争で他に先を越された時点で、東洋学術出版社からは上述の『中医方剤と治法』の翻訳を依頼され、短期間で8割を終えた時点で、少陽三焦が気血津液三者の流通ルートとして繰り返し出て来る矛盾には、どうしても合理性および整合性の点で、ひどい自己矛盾に陥るので放り出してしまいました。

 やはり陳潮祖先生の著作では『中医病機治法学』や、その後に発行された分厚い方剤学書『中医治法与方剤』で述べられる少陽三焦理論こそ真理に近いものと確信しています。

 しかしながら、膜原と腠理(そうり)から構成され、気と津の流通ルートである少陽三焦における気滞や痰濁閉阻の問題が、血瘀と絡んで痰瘀互結(痰瘀交阻)により悪性腫瘍が発生しやすくなることは充分に考えられることだと同意します。
 癌は痰湿・瘀血・気滞が合体して生じるものであると従来から指摘されていることですが、このことに間違いはないと思います。

 ところで先ほど、と言っても昼下がりのことですが、隣県の勉強熱心な医師から電話があり、癌や代謝系疾患や腎不全で生じる腹水の問題について、補気建中湯や分消湯などの質問がありました。
 病院名だけを名乗られて、ご本人の名前までは自己紹介されないのでやや怪訝ではありましたが、以前はあれほど漢方薬を蔑ろにし、医学・薬学としても頭から否定していた多くの医師の方々が、漢方薬に目を向け始めた昨今、実に隔世の感があります。

 虚実中間証という表現には思わず言語矛盾だから中医学に目を向けるようにいらぬお節介までアドバイスしてしまいましたが、老兵(ヒゲジジイ)がそろそろ退散するに当たって、日本の多くの医師たちが、漢方薬にこれだけ関心を持ち始めたことは、実に慶賀すべきことと心から祝福しているところです。

 でも、まだまだ現状では漢方薬局で販売される弁証論治にもとづく自費の漢方こそ、ここ当分は続くだろうと感じていますが、数十年後には、どうなっているか分かりません。
 あの幼稚な日本漢方に中医学理論を導入しない限りは、当分先のことかもしれませんが・・・


折り返し頂いたメール:少陽三焦理論について、とてもわかりやすく解説していただき、本当にありがとうございました。

 本によって、気血津液の通り道とあるものと、血が除外されているものがあり、疑問を感じていたところです。(勉強不足で誠にすみません)気と津液といいますと、ますます自律神経系やリンパの働きを想像します。
 今後、三焦について、もう少し観察してゆきたいです。
 どうぞよろしくご指導くださいませ。

 また、先生がおっしゃるように、漢方に目を向ける医師がとても増えてきましたね。
 アメリカでも、漢方や鍼灸等の中医学が取り入れられてきているようですが、我が国もそのような流れになってゆくのでしょうか・・・?
そうであれば、とても喜ばしいことです。
まだまだエビデンス漢方主流の日本ですが、これでは本当の漢方の力が発揮できませんね。

 私が知っているドクターは、中医学を勉強された漢方医で、自費診療で開業されていますが、それでもいろいろな縛りがあるとのことで、”薬局さんが本当に羨ましい”と言われています。

 そうかと思えば、来年度より、登録販売士なる資格が施行されると、一般OTCの他に、漢方エキス剤も自由に販売できるようですが、何かとてつもない矛盾を感じますね。

 漢方相談といってもその実力にはピンからキリまであるわけで、このような内情をご存じない一般市民はお気の毒としか申しようがありません。
 先生、老兵などとおっしゃらず、まだまだ吠え続けなければならないような気がいたしますヨ。
 私も微力ながら頑張らねば・・・と思っております。
posted by ヒゲジジイ at 08:16| 山口 ☔| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

2008年06月01日

今年の春から目立つ急性皮膚炎の御相談

性別 : 女性
年齢 : 40歳〜49歳
ご職業 : 主婦
簡単なご住所 : 西日本地方
お問い合わせ内容 : はじめまして。お忙しいと思いますが、よろしくお願いします。

 顔の湿疹についてお伺いします。4月半ば頃、急に瞼から頬にかけてかゆみと赤い湿疹がでました。
 毎年季節の変わり目には顔に何らかの皮膚トラブルがあり、困っています。

 もともと、20年前に主婦湿疹が出来たときに病院処方のステロイドを常用して7年、ステロイドが効かなくなり思い切って止めたら、顔・手・腕に膿や汁が出始め入院。
 しかし、病院の処方はやはりステロイドで、怖くて使えなかったので、出来たばかりの近所の漢方薬局にお世話になり始め、見た目はきれいになるまでに回復しました。そうなるまでに数年かかりました。

 その信頼感より、10年近くお付き合いしてきましたが、この数年患者さんが急速に増え、雇われている方(薬剤師?)が処方されるので、専門の知識があるのかもわかりませんし、処方された漢方を飲んでも一向に改善されないことや、私の症状に関係あるのか分からない薬を勧められるというような事が頻繁に続いたので、薬局を替える決心をしました。

 私は、首・背中・肩の痛みが酷く、右手足のしびれもあるため夜も寝られないといった日々が3年くらい続いています。もちろん整形外科にも、産婦人科にも、内科にも行ってみましたが全く改善されず・・・病院でもツムラの漢方薬はいただきました。

 ツムラではしびれは改善されたのですが、その他は全く改善が見られず5ヵ月が経った頃に今回の顔の湿疹です・・・が、その時、丁度県外の実家に行くことが決まっていましたから、かゆみが治まればという気持ちだけで実家の近辺の漢方薬局に駆け込んだわけですが、今のところ背中の痛みが回復した以外変わりません。

 一週間程度で治ると言われた湿疹もかゆみも一進一退です。ツムラの服用は効いていないから止める様に言われたので服用していませんが、最近また右手足のしびれが出てきました。症状は告げるのですが。あれこれ替える私が悪いのでしょうが、今までなら回復しているであろう日数を過ぎても回復の兆しが見られないので、何が原因でどうしていいのかわからないのです。

 化粧品も、17年間変えていません。紫外線には弱いので、ヘルペスがでたり顔がすぐ赤くなり痒くなります。今回も単純に紫外線のせいかなと思っていたのですが・・・


お返事メール:光化学スモッグ注意報がしばしば出されているという話を聞きます。
 春先から黄砂も混じって未だにひどい状況が続いているように聞いていますが、もともとアレルギー体質の人で皮膚の敏感な人は覿面やられているようです。

 アナタの場合、もともと皮膚が弱い体質のようですから、その当時できたばかりの漢方薬局で数年かかって治してもらっているのなら、同じ先生にご相談された方が、体質をよくご存知なはずだけに、もっとも能率的だと思います。

 今回はその先生ではなく雇われている人が出される漢方薬類では無効とのことですが、遠慮されずに以前、治してくれた先生を指名されるべきです。

 ときどき漢方薬局をハシゴされるかたに遭遇しますが、諦めも早く直ぐに去っていかれます。

 以前、治してくれた実績を頼りに、もとの薬局にもどられた方が無難なように感じるのですが、アトピー性皮膚炎と異なって、一般の湿疹類では、時に掴みどころがないために、しばらく治療薬を見つけるのに難航する場合も現実にはあります。

 文面からお困りの様子がヒシヒシと伝わって来るのですが、やはりあまり転々と薬局を変えない方が無難なように思います。通える範囲で頑張るのが一番能率がよいものです。是非、同じ先生を指名されて再度、お願いしてみられてはどうでしょうか?
以前の体質をよくご存知な分、早く適切な漢方薬を見つけてくれるように思います。

 村田漢方堂薬局でも、以前他の病気で治った人が、新らたな病気に罹患し、漢方薬ならどこも同じと思ったらしく、保険漢方や漢方薬局の無表示医薬品(漢方薬)など、転々として、結局治らず、その間に拗れ回して久しぶりにやって来られたケースでも、こちらは以前の体質を知っているので、現在の状況と比較検討した結果、早い段階で適切な漢方薬の配合をお出し出来たケースはザラにあります。

 きっと同様なことが実現するのではないかと推察します。


折り返し頂いたメール: お忙しい中、早いお返事有難うございます。

 光化学スモッグが原因かもしれないのですね。長時間外出すると、痒みを伴う発疹が現れるので、紫外線の事しか思いつきませんでした。

 私自身も先生のおっしゃる通り、本来なら近所でもありますし長年診ていただいた薬局で・・・とは思いますが、相談しようにも相談の予約が一杯との事で、直接お話すら受け付けてもらえない状況です。

 以前は、必ず薬局の専門の先生に問診なり触診なり間を縫って直接の診断で処方していただけていたのですが、手が足りないらしく、今回のような急な事ですと他の薬剤師さんがカウンターで状況を聞いて処方するという形しかとってもらえなくなりました。

 もちろん、予約を取ればいいのですが、相談予約もどうやら待ち状態のようです(針もされているので、漢方の相談と掛け持ちで一人がなさってます)。

 慢性病の処方ならどなたでも処方してくださればいいのですが、急な事の時には、やはり直接診ていただきたいのです。
 それを頼んだのですが、専門の先生に診ていただくのは無理だと言われて、やっと見つけた行き場を失ってしまったようで困ってしまったのです。
 
 先生の文面から察しますと、やんわりと先生の薬局に行っても長続きしないだろう・・・とおっしゃっているのではないかと思います(違っていたらすみません)。

 先生も真剣にお答えくださっているのはよく分かりますし、私も皮膚だけでなくこの数年思わしくない体調を正常に近づけたいと真剣に思っていますので、そちらに伺って続けられるのかよく考えます。

 その時の状態をみながら薬を替えるため、初めは極力頻繁に伺う方がいい事も十分わかっているつもりですので・・・
 お伺いしました時には宜しくお願いします。
 有難うございます。


お返事メール:
その薬局は、●●●薬局さんのことでしょうか?
だとしたら随分、発展されたということですね。
鍼灸もやっておられるから予約者が本当に詰まっているようですね。
 ところで、

> 先生の文面から察しますと、やんわりと先生の薬局に行っても長続きしないだろう・・・とおっしゃっているのではないかと思います

と書かれておられるのは、そのとおりです。

 これがお電話なら、もっときつい表現をしていることも再々です。
 電話では今日もお問い合わせが数本かかっていましたが、すべてお断り口調でお返事しています。

 そもそもお問い合わせされる段階というのは迷われている証拠だから、迷いをなるべく早く断ち切って差し上げる老婆親切です。
 親切めかして勧誘するのは、趣味に反します(苦笑。

 予告なしに一大決心で来られる人たちにこそ意気に感じて仕事が出来るという、ぐうたら老人なので、皆さんには申し訳ないことです。


 【編集後記】  上記のような常連さん?やお馴染みさんを優先的に大事にされない薬局さんというのも、やや怪訝であるが、その点では、村田漢方堂薬局では全面的に常連さんやお馴染みさんを優先的に御相談に乗っている。
 ところが、この常連さんやお馴染みさんこそ、慎ましく遠慮深い人が多いので、新しい人に時間を譲る傾向が強い。
 過去の長患いの苦しみを熟知されている人達だからこそではあろうが、村田漢方堂薬局では常連さんやお馴染みさんこそ優先しなければ罰が当たる。

 それはともかく、良い意味での確信犯の御相談メールは以下のようである。
 通常ならブログに取り上げることはあり得ないシンプルな交信であり、このようなお問い合わせばかりだったら「問答集」ブログが成立し得ないが、ヒゲジジイの漢方に賭けてみようという気迫が感じられる。(こういうケースでは寛解率が高い。)


性別: 女性
年齢 : 30歳〜39歳
ご職業 : 無職
簡単なご住所 : 西日本地方
お問い合わせ内容 : はじめまして、喘息の事でご相談がしたいので、薬局の方へお伺いしたいのですが、比較的すいてる曜日があればおしえていただけないかと思ってメールしました。お返事お待ちしています。


お返事メール:
 月曜日と土曜日以外は、多くはのんびりやってますが、思いがけないときに混雑するときがあります。


折り返し頂いたメール:
 お返事ありがとうございました。とても参考になりました。そのうち伺うと思うので、よろしくお願いいたします。


後日談(平成24年記):記憶に間違いなければ、この女性は肺熱肺陰虚に痰熱が合体した病証で、辛夷清肺湯に小陥胸湯加味製剤に天津感冒片などの併用で、速効を得てしばらく服用されていたが半年もしないうちにほとんど根治されてしまった模様。
 平成23年暮れには風邪で病院に行ったら抗生物質が出され、うっかりそれを飲んだら激しい下痢が生じて止まらなくなり、病院治療でも止まらないので下痢を治して欲しいとやって来られていた。(真武湯とイオン化カルシウムで治癒。)
posted by ヒゲジジイ at 10:02| 山口 ☁| 漢方と漢方薬関連の御質問 | 更新情報をチェックする