昨日の続き
お便り:関東地方の某内科医師
早速ご丁寧な文章の返信を頂き大変感謝しております。有難うございます。
一つ一つ論文を拝見させて頂き…自分なりの浅はかな考えながら、自分の考えをお話いたしたいと思います。
まず「中医漢方薬学」の提唱という論文を拝見して感じましたことは、ごく自然な考えで違和感を持ちませんでした。
日本漢方では一つの処方があって、それには「証」と言われる症状のパターンを作り出します。しかしながら、この「証」だけの判断では処方の見分け方が至極難しく処方の判別が出来ないのが現実であるのは言うまでもありません。
ここで最初に考えられるのが処方を作る薬草の性格に注目することが解決策の一つだということです。漢方薬は薬草により作られており、薬草の性格が分かれば処方の性質も掴むことが出来るのではないかという点です。おそらく、その為に東洞が「薬徴」を著したのではないかと思います。
でも東洞の「薬徴」では不十分さを隠し切れないことも事実です。それに反して中医学は丁寧な薬草の性格の説明があり…一般的な医学教育を受けた方ならば中医学に解決策を求めるのも当然のことであると思います。
また東洞の「万病一毒説」は余り良い考えではないと自分も考えております。それは「毒を取るために薬を使う」という基本的な考えが好きではないからです。
すなわち病気を敵視し体から取り除くことを根本哲学として成り立っていることに違和感を感じるのです。
可笑しい事に、これは今の医学の根本哲学と同じです。
しかしながら「病気が悪である」という証拠はありません。自分が今まで多くの患者さん方を診て感じることは次のことです。「病気は、体の要求によって生まれ、常にその必然性を持っている。病人を救うには、まず始めに病気の必然性を知り、次にその必然性を消すことで病気を治療することが出来る」ということです。
次に「医学領域における「科学」としての中医学」について拝見しました。これについても自分の意見を述べさせていただきます。
現代医学の特徴は物質文明の進歩によって精密機械が作られるようになり、より微小なもの(ミクロ)を観察することができるようになったことで進歩してることだと思います。
遺伝子治療や再生医療などは、このことを明瞭に物語っております。
しかしながらミクロである遺伝子をコントロールすることでマクロである臓器や臓器間の相互運動など(構造)をコントロール出来るという証拠はどこにもありません。
人間が進化する過程を思い浮かべますと面白い事実が分かります。進化の過程で環境の変化を最初に感じ取る場所は臓器です。
次に、その臓器で感じ取った変化を遺伝子の変化に変えていくと考えるのが自然な考えです。
つまりマクロがミクロをコントロールしているという事実です。
以上のことを考え…天体運動を思い浮かべてみます。地球の自転や公転を調べようとするときに、そのミクロ的な運動である雲の動きや川の流れを解析するでしょうか?
そんなことをすれば…笑われるのがおちです。マクロはマクロとして認識して、マクロの独立した運動を理解する以外ないからです。
しかしながら…医学という分野では、その笑い事が当然の様に行われています。とても可笑しなことです。
このマクロの運動の把握には簡単な理論構成である「傷寒論」が役に立つのではないかと思われてなりません。
別の言葉では現代医学の研究対象をミクロからマクロに変える力があるのが「傷寒論」だと自分なりに感じております。
また、ミクロとマクロを結合できた時に西洋医学と東洋医学が一つの医学となるとも思います。
最後に、このようなことをお話できることに感謝いたします。今日は病院が忙しく暇な時間が無かったために病院で先生の本を読むことができませんでした、明日は読めれば良いなぁと思っています。
自分は漢方での臨床経験が少ないため…分からない点などを質問させていただくことがあるかもしれません。その時はご回答頂ければ幸いです。これからもよろしくお願いいたします。
ヒゲジジイのお返事メール: 極めて鋭いご指摘、拝読するや眠気がいっぺんに吹っ飛んでしまいました!
とても懇切丁寧な分析、どのような立場の方が読まれても説得力豊かで、皆さんが心から感服する的確ズバリなご指摘と存じます。
ただ一点だけ気になったことは、せっかくの先生の鋭い視点であるのに、研究対象を三陰三陽の傷寒論に限られるのは、あまりに勿体無いように思われてなりません。
熱病に対する傷寒論の論点はあまりにも脆弱すぎます。
傷寒論の急性熱病に対する脆弱さを嘆いて「温病条弁」が生まれた中医学の歴史的事実があります。
温病から生まれた「衛気営血弁証」や「三焦弁証」などについては、どうなのでしょうか。
ともあれ極めて明晰な論点には、心から感服申し上げた次第です。
お陰さまで素晴らしいブログの投稿ができます。
今後とも、折々のご批判やご指導、楽しみです。
2007年12月07日
中医学と西洋医学の違い(関東地方の某内科医師の論点)
posted by ヒゲジジイ at 00:07| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答
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