2007年10月16日

ふたたび抗癌剤の是非について

おたより:東海地方の内科医師

 いつもお世話になっています。
 先ず最近に反省をした経験例をご報告します。??歳の胆管がんの?性です。
 手術時に進行性の病状にあることが判明し、その時点では抗がん剤による化学療法の適応はない、との担当医の評価となり経過観察となりました。

 しかし、ご本人としては何もしないで死を待つだけの日常はツライと思われて、友人の勧めで当クリニックを受診なさいました。進行したガンの患者さんがワラをもつかむ思いで受診されるよく経験するパターンです。
 漢方薬で期待できる効果について、日常の生活の質を向上すること、免疫を高めることができること、一方、進行したがん細胞への直接効果を期待するのは難しいこと、ガン細胞にたいする対策は、もしそれが有用な治療法であれば担当医と相談することをお伝えしました。

 約半年経過した時点で全身の詳細な評価がなされ、担当医から以前指摘されていた病変はほとんど消失した、と説明を受けご本人から喜びの報告を受けました。
 この間、十全大補湯+補中益気湯と霊芝をご処方し、担当医の経過観察をうけていました。

 ところが、気をよくしたせいか、日常生活が発症以前の状況に戻ってしまい、大変忙しくお過ごしになっていたそうです(・・・・・・・・・・・・・)。
 9ヶ月目ごろにお疲れの様子で、そのあとの全身検査で再発していることが明らかになりました。
 そして、担当医から抗がん剤の治療の話を聞いたそうです。ご本人からも後日相談を受けました。

 「多臓器に転移している。進行を抑えるには抗がん剤の治療しかない。しかし、その効果については不透明でやってみないと分からない。ご自分で受けるかどうか選択してください」とのお話だったそうです。治療の内容を詳細にお聞きでしたので、私も調べてみましたが、明らかに有用であると言えるデータはないようでした。

 私も以前は血液のガンの化学療法を実施していましたので、抗がん剤治療には肯定的になってしまう傾向があったものと思います。
 結局、私も明確に受けないようにご助言しませんでしたので、ご本人は3クールの治療をお受けになりました。この間は食欲はおろか全身状態は低下し、フラフラの状況でした。そして、副作用のツラサを実感なさってか4クール目以後は受けないことを明言なさいました。
 そしていくらもしないうちに脳梗塞で転倒し、実はガン細胞の転移によるとの評価になりました。

 悔やまれることとして、半年目に病変が検査の範囲で消失したときに、無理をしないように”養生”をもっと積極的に指導し、再発の時点で効果の不透明な抗がん剤治療を控えるようにご助言していれば、と愚考しています。

 最終的には難しい病状ではあっても、”正気”に悪影響を及ぼしかねない治療を避けて、正を補っていけば比較的QOLが良好な余命をお過ごしになれたかもしれないと反省しています。
 長い内容で恐縮でした。

 つぎは、自分のことですが、現在釣藤散と六味丸を内服しています。牛黄はちょっと高価ですので飲んでいません。血圧は軽いクスリを内服していてコントロールされつつあるようです。
 ただ、最近、やや寒くなってきたせいか、虚寒症状を覚えます。八味地黄丸に変更するとまずいでしょうか。


お返事メール:お返事が遅くなりました。実は3年間メチャクチャに酷使したパソコンがとうとう完全に作動しなくなり、予備パソコンは他に3台あるのですが、最も愛着のあるパソコンなので昨日昼から夜中まで、ほとんど別のパソコンを開くことも少なかったので、メールに気がつくのが夜中になっていました。(初期化したおかげで完全に回復しました。)

 ところで先生ご自身、降圧剤で血圧がコントロールされておられ、なおかつ虚寒証を感じられるようでしたら、腎陽虚が内在していると解釈されれば、仰る通り、六味丸を中断されて八味丸に戻されるべきかと存じます。

 こちら下関では、昨今、あきらかな腎陽虚を含めた虚寒証の人に遭遇することは極めて少なく、虚証ではかろうじて肺脾の虚証や中気下陥の補中益気湯証をみかけるくらいです。十全大捕湯ではたとえ癌患者さんでも熱証を助長する弊害による漢方相談があるのが目立つほどで、ご報告頂いたような肝・胆・膵系統の癌患者さんの場合は、牛黄や麝香を配合したかなり本格的な中医的方剤を複数組み合わせて対処しているのが実情です。

 それにしても半年後の経過は素晴らしいものですが、往々にして油断されるのが世の常、その後の抗癌剤は、ご指摘の通り、胆・膵系に対してクオリティ・オブ・ライフを極端に低下させる結果ばかりが目立つ昨今です。
 こちらでも、咽頭癌では最悪と言われる下咽頭癌で肺転移のある患者さんは当方の漢方薬類の服用と放射線で原発巣は完全に消失していたものの、その途中には右肺下部の小さな転移病巣を消すべく、抗癌剤点滴治療により数ヶ月間足が立てなくなる。翌年には体力の回復を見計らって、再度抗癌剤の点滴治療により、今度のダメージは大きく抗癌剤点滴後3ヶ月したら爆発的な勢いで脳転移が出現したのが漢方相談を受けて丸三年経過して以後のことでした。

 このように、何のための化学療法か?と疑問に思わざるを得ない例があるかと思えば、手術不能の肺癌(肺小細胞癌)患者さんでは、当方の漢方薬類を服用し続けるとともに、放射線および抗癌剤点滴治療により、基本的に治癒(漢方を利用されて7年以上経過)、同様に肺癌が手術なしで基本的に治癒している例が二例あるだけに、癌の化学療法も結果でしか論じれない部分を感じる昨今でもあります。

 とはいえ、肝・胆・膵系、とりわけ胆・膵系では抗癌剤は点滴であれ内服薬であれ、有効に感じられた例は稀で、むしろ一気にクオリティ・オブ・ライフの低下につながる現象ばかりに遭遇しています。

 貴重なご報告、ありがとうございました。