御質問者:東海地方の内科医師いつもお世話になっています。
一度に申し訳ありませんが、2例についてご教示ください。
1例目は、20才の大学生です。アトピー歴がそれなりに長いですが、最近は漢方薬(竜胆瀉肝湯 1包 猪苓湯 1包 インチンコウトウ 2包、補中益気湯 2包)で比較的落ち着いていましたが、普段は便秘でしたものが軟便から下痢になり、頚部および頭部がかゆい(発疹はない)そうです。舌は淡紅で胸脇苦満があります。
2例目は、ヘアースタイリストのかたで、現在は経営をしていて現場にでる頻度はすくないそうです。
両手に白斑があって受診なさいました。若いころは胃腸が強い方ではなかったそうです。舌は無苔・やや鮮紅で、皮膚は乾燥気味です。
お忙しいなかを恐縮ですが、お知恵を拝借できれば幸いです。
ヒゲ薬剤師のお返事メール:拝復
舌象からは、とりわけ淡紅であれば、竜胆瀉肝湯中の実熱に対する竜胆が腸管を冷やし過ぎているのかもしれません。竜胆瀉肝湯も茵蔯蒿湯(インチンコウトウ)も舌質が紅で黄膩苔というのが中医学的な使用条件となっていますが、現実には茵蔯蒿湯に関しましては、舌質が淡紅であっても黄膩苔がかかっておれば、適切なバランスを取る配合があれば使用することに問題はないと思います。
しかしながら、竜胆瀉肝湯に関しましては、配合薬物が黄芩(オウゴン)・山梔子(サンシシ)・竜胆など明らかに舌質が紅でなければ不適なことが多いように思います。
茵蔯蒿湯の方は、清熱の山梔子や大黄があるとは言え、主役の茵蔯蒿は微寒の性質で軽揚の葉や穂を使用するものですから、清熱の強さが異なり、茵蔯蒿湯の方が穏やかです。何時間も煮沸された大黄の瀉下作用は極めて緩和されており、すぐれた活血化瘀作用が主体になるほどだと思います。
舌には明らかな黄膩苔や微黄膩苔が存在するものと信じますが・・・どうでしょうか?
補中益気湯を使用される根拠は、舌が気虚胖大などの兆候があるからであれば、問題ないと存じますが、もしもこれが無いとしたら、もちろん使用すべきではないと思います。
また、当帰が竜胆瀉肝湯とともにダブルのも大便を緩める原因にもなります。
ところで、記載されている分量は、1日量でしょうか、それとも1回量でしょうか?
これが一回量で1日三回とすれば、分量的には多すぎるように思います。(
でも山本巌先生はエキス剤の場合は当然のように大量を使用されていましたが・・・)
また、胸脇苦満について茵蔯蒿湯でも対処できる問題だと思いますが、もしも溜息や深呼吸などやや鬱傾向があれば、四逆散の「適量」が適応してアトピーにも有効なことが多々あるようです。
結論的にも、舌質が淡紅であるということから、冬場になって竜胆瀉肝湯などの清熱作用が強く出すぎていることと思います。同時に当帰が二重になるので、温性であっても腸管を潤す作用が腸管の冷却と伴に強く発揮し始めたことが考えられると思います。
白斑は時に難治なことがあるので、大きいことは言えませんが、舌が鮮紅ではなくて暗紅だった場合は文句なしに当帰飲子に玉屏風散を合方したいところです。白斑の多くは血虚が主体の場合が多く、アトピーのように脾肺病の一種でもあり、衛気に問題を抱えていることも多いので黄耆が必要なことが多いようです。つまり、血虚に対する当帰と衛気を補う黄耆が必要であることが多いと思うのですが、舌が鮮紅となると陰虚が明らかですので、どの五臓のいずれの蔵が主体で陰虚が生じているのか(脾陰虚や肺陰虚など)を弁別して、陰虚が生じている主体の蔵に、適応する方剤、例えば脾陰虚なら参苓白朮散、肺陰虚なら養陰清肺湯などが考えられることになります。
以上、簡単ながらお返事まで。 頓首
村田漢方堂薬局 村田恭介拝
折り返し頂いたメール: さきほどは詳細かつ分かりやすくお教えくださいましてありがとうございました。
メールしました量は一日の総量です。
2例目に関してですが、玉屏風散、参苓白朮散、養陰清肺湯に対応するエキス製剤はありますでしょうか。素人的質問で申し訳ありません。
それから、「五臓のいずれの蔵が主体で陰虚が生じているのか」という点ですが、五臓、心・肺・脾・肝・腎のそれぞれの陰虚について弁別する、という解釈でよろしいでしょうか。従来、陰虚というとつい肝陰虚・腎陰虚については評価の対象として考慮してきたのですが、中医病機治法学を拝読していますと、”確かに”という思いになります。
ヒゲジジイのお返事:拝復
玉屏風散の代用はちょと考え付きませんが、単に黄耆単味を当帰飲子に加えるという方法で良いと思います。
参苓白朮散の代用は啓脾湯です。養陰清肺湯は滋陰降下湯です。
なお、五臓の陰虚はご推察の通りで、五臓にはそれぞれ陽虚もあり陰虚もあります。
ただ、中医病機治法学にもありますように、
五臓の病変が腎に波及するしくみ 五蔵の病変は遷延すると最終的には腎に波及するという点の配慮は常に重要なわけです。
以上、取り急ぎお返事まで。
村田恭介拝
追伸: 当帰飲子の中の黄耆が、当帰に比べて少なすぎるので、黄耆を増やす意味も兼ねて玉屏風散(黄耆、白朮、防風)を手っ取り早く加えるという面がありますので、その代わりに黄耆単味を別で加えるのでも良いわけです。(不可能な場合は、当帰飲子のみでも良いかもしれません?)
posted by ヒゲジジイ at 00:22| 山口 ☁|
アトピー性皮膚炎や慢性湿疹など痒みを伴う皮膚病
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