2007年01月13日

猪苓(チョレイ)および猪苓湯(チョレイトウ)における補益性について

 以前、猪苓湯中のちょれい(猪苓)には補益性が存在する専門的な論証を行った拙論をどこかに書いていたはずだがと探しまくって漸く発見したのだった。
利水滲湿薬「猪苓」の補益性について

 これはヒゲジジイ自身が以前「和漢薬」誌に陳潮祖先生の『中医病機治法学』の翻訳連載を行っていた折の編集後記に記した拙文を漢方薬は中医漢方薬学派の漢方相談専門薬局サイト中に枯れ木も山の賑わいとばかりに投入しておいたものだった。
 利水滲湿薬は水道を通利し、水湿を滲出除去(滲み出させて除去)する薬物である。淡味の薬物が多いので淡滲利湿薬とも称し、服用によって小便が通暢して排尿量が増加するので利尿薬とも呼ばれる。
 代表的な薬物に茯苓・猪苓・沢瀉・ヨクイニンなど、日本の漢方でもお馴染みの薬物が多い。
 
 これら淡滲利湿薬のなかには補益性を有するものがあり、なかでも甘淡の「白茯苓」は利水滲湿・健脾補中・寧心安神の効能があり、甘で補い、淡で滲湿し、利水滲湿と同時に補脾益心の効能がある。
 したがって、茯苓は正虚邪盛(脾虚湿盛)の病態に不可欠であり、作用の穏やかな扶正去邪の薬物として、中薬学における一般常識となっている。

 ところで、不思議なことに茯苓と同じ甘淡の「猪苓」については、補益性が否定されおり、このことは現代中薬学の大きなミステイクの一つであると愚考している。
 
 神農本草経には「久服すれば身が軽くなって老いに耐えるようになる」と述べられており、清代の名医葉天士は「猪苓の甘味は益脾する。脾は統血するので猪苓の補脾によって血が旺盛となり、老いに耐えるようになる。また猪苓の辛甘は益肺する。肺は気を主るので猪苓の補肺によって肺気が充実して身は軽くなる」と解説している。

 このように、猪苓には単なる利水滲湿の効能のみならず、茯苓と同類の脾肺を補益する効能がある訳で、近年特に注目されている抗癌作用も考えあわせれば、もっと広く活用されてしかるべき薬物である。
posted by ヒゲジジイ at 18:40| 山口 ☀| 中医漢方薬学 | 更新情報をチェックする

ストレスの五臓への影響について

御質問者:東海地方の内科医師

いつもお世話になっております。
 先日、ある美容師をなさっている患者さんですが、アトピーが年末年始のお休み中にかなり改善してみえました。
 漢方薬の効果、およびお休みに伴うストレスの解除ならびに生活習慣の改善などでアトピーが回復したのか、と愚考しています。
 患者さんから、「職場でのストレスへの対処は個人的課題であることは理解しているつもりですが、ストレスを受けたあとの体への影響を少なくする、あるいは抵抗できる体質改善みたいなことは漢方で可能でしょうか」と質問を受け、とりあえず考慮してみます、と返答しました。

 なかなか難しいご質問だと思いました。患者さんがおっしゃっている意味合いとして、メンタル的なものは”個人的課題”として受け入れていると考えられるわけです。
 一方、いわゆる身体的な外的影響としてのストレスという概念は比較的最近のものですが、五蔵への影響という点で何か参考になる考えは中医的にいかがでしょうか。
 愚問かもしれないと思いつつお尋ねします。


ヒゲジジイのお返事メール:拝復
 セリエのストレス学説など、ノーベル医学賞級の概念も、何のことはない中医学の古典(素問・霊枢等)において、早くから常識として解明されている問題として漢方と漢方薬の世界では常々言われていることだと存じます。

 要するに、五臓相関における五志(肝=怒、心=喜、脾=思、肺=悲、腎=恐)の問題に直結していると思います。
 これら五蔵間の相生、相剋、相侮などの関係などを配慮して、その方のアトピーに対するストレス状況との相関関係を分析することは、多かれ少なかれ意義あることだと存じます。

 但し、美容師さんというご職業の職場環境を推察しますと、精神的なストレス状況のみならず、環境上の物理的なストレスこそ、大いに影響している部分も感じてしまいます。
 すなわち、職場で常に使用される髪染めの薬物類、揮発性の様々な物質による刺激こそ、アトピー増悪の誘引になっているのではないかという意味です。
 つまり、物理的なストレス(職場の空気中に常に漂っている揮発性物質等)にも大いなる配慮が必要ではないかと愚考する次第です。
 ちょっと御質問の趣旨から離れた余分な推測まで書いてしまい恐縮です。
                          
posted by ヒゲジジイ at 00:22| 山口 ☁| アトピー性皮膚炎や慢性湿疹など痒みを伴う皮膚病 | 更新情報をチェックする