2006年11月26日

18年前のC先生による「中医漢方薬学論」に対する評価

 我が郷土、我が選挙区の安倍さんが首相の間に、既に故人になられたC先生からの18年前のお手紙を公開しておかねばならない(笑)
 エビデンス漢方の道をひた走る日本漢方に、一日も早く中医学理論を導入して本来あるべき道に軌道修正すべきことを訴えるために!

 C先生とは、小生の過去に書き散らした拙論を読まれている専門家の方なら、あの高名な中医学の大家であられるか!というのは直ぐに判明するはずであるが、敢えてお名前を伏せておく。
 但し、以下に転載する先生の署名入りのお手紙の内容にあるように御高著やお手紙についても引用はご承諾済みである。
 なお、先日公開を予定していたC先生にはじめてお手紙を頂くきっかけとなった拙論「漢方経験雑録━小柴胡湯と肝臓病」については、リンクしているように他サイトで公開済みである。

以下、18年前、小生の当時の拙論「日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!)」をはじめとした内容に対する評価が含まれたC先生からのお手紙である。
拝啓
 先生には過分のご評価をいただき、大変恐縮しております。私の拙文で宜しかったら御遠慮なく御引用下さってかまいません。私もライフワークとしてこの日本に一人でも多くの医療関係者が中医学に御理解を願い、その普及と向上を志しております。
 最近の先生のお書きになった論文を「和漢薬」「漢方の臨床」等の雑誌で拝見させていただきました。大変論理的でしかもきめ細かく展開しており、きっと多くの同道の志に大きなはげましになる事でしょう。
 中医学はもともと薬学から発展しており、中国では、ごく最近まで大きな薬店の主人が著名な中医師になっていました。新中国になってからはそれぞれ分業するようになりましたが、今でも大きな薬店では中医師を雇って、待合室の一角で患者さんを診ている実状です。
 又、現在の中国では、国内の少数民族の伝統医学を尊重し、その保護、育成に努めております。例えば、東医(朝鮮族)、蔵医(チベット族)、蒙医(蒙古族)等それぞれの特徴を生かした医学が発展しております。しかし、これ等は皆、中医学の理論を基礎にしている事は言うまでもありません。そういう意味では日本の古方派漢方は特異な存在と言わなければなりません。それに東洋哲学が全く無視されている不思議な存在でもあります。先生の論説には全く賛同しており、心から敬服しております。
 傷寒、金匱のみをバイブル的存在とし、あくまで方証相対にこだわるならば、そこには理論の発展もないし、学問の進歩もなくなることになります。これでは既に学問ではありえないし、自ら科学を否定しているようなものに見られます。科学には絶え間ない進歩と発見がなければならない筈です。
 これからの日本の伝統医学の発展の為には、今の漢方が東洋哲学を確立し、中医学の基礎理論を導入し、日本漢方の良いところと結合して、新しい日本の漢方医学をうちたてるべきだと信じております。
 しかし、日本の現状はなかなか厳しく、一部の派閥的な感情的な意識を持つ人にはわれわれの絶え間ない働き掛けで中医学への理解をしていただくしかないのではないかと思っております。特に若手の専門家の中にそのような人がいる事は大変残念なことです。それでも、私が10年前に予想していた以上に中医学が普及してきた事は大変喜ばしい事ですし、時代の流れをひしひしと感じます。時代の流れに逆流する人は所詮蟷螂(とうろう)の斧にすぎません。
 先生には若手の論客として非常に期待を寄せております。新事物の導入は一朝一旦には事は成りません。地味で絶え間ない努力が要求されます。私もまだ中医学については未熟ですし、勉強中の身です。まだまだ学習する事がいっぱいあります。これからも同学のよしみでお互いにガンバリましょう。
 以上、私の率直な意見を遠慮なく述べさせていただきました。もし、失礼なところがありましたらご容赦下さい。
 奥様には宜しくお伝え下さい。
                  敬白

1989年2月10日
                  C拝
 18年前には若手と言われた村田も既に56歳。年寄りゲ(笑)なイメージがあるかもしれない漢方界では、もしかしてヒゲジジイというにはまだ若いのかも?
 でも、どうしても気分的には老人のつもりでいるのは、当時漢方界でご活躍だった先生方の多くが他界されたので、こちらまで老け込んだ気分に支配されるのだろうか。
 漢方を始めた33年前は、大塚敬節先生や矢数道明先生、藤平健先生、皆さん小生の年齢とはお爺さんほどの開きがあったのは確かだが・・・今回のC先生とは21歳しか違わなかった。
posted by ヒゲジジイ at 01:50| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする

小青竜湯の興味深い配合をされる先生からのおたより

昨日の東海地区の先生からのおたより: 甲状腺機能亢進症の考え方参考にさせていただきます。
 とくに、いつも論じられている”五臓間における気・血・津液の生化と輸泄の連携の問題”について考慮にいれてみたいと思います。

 それから過日お教えいただいた処方を参考として、慢性の乾燥した咳にたいする組み合わせ、滋陰降下湯+芍薬甘草湯+五味子をいれるために小青竜湯、を処方しましたところ、「今までになく咳が楽になった」と喜んでいただけました。まことにありがとうございます。

 息子さんが血液内科に所属とのことですが、内科のいなかでは4K(苦しい、きたない、きつい、興味ぶかい)と当地域では評価されている診療科です。圧倒的に3Kが優位のところですので、くれぐれも体調にご留意くださいますよう機会がありましたらお伝えください。


ヒゲジジイのお返事メール: 乾燥咳の漢方処方、随分面白く興味深い配合で、こちらの方こそとても参考になります。小青竜湯も先生のようなバランスの取れた配合であれば、有用性が拡がるわけですね。

 ところでブログを御覧頂いたらお気づきかもしれませんが、編集後記として、

 たとえば「甲状腺機能亢進」における中西医結合による弁証分型をいつものように提示しない理由は、臨床の実際においては意外に現実にマッチしないところも多々あるのみならず、限りなく西洋医学に近づきすぎる「同病異治」の世界である。
 それゆえ、日本古方派の数少ない優れた点の大きな一つ「異病同治」の観点からは、病名は参考にはしても中西医結合的な弁証分型にはこだわらずに、基礎理論はすべて中医学理論に基づきながら、常に「異病同治」の方向を主体にしているのが「中医漢方薬学派」のアイデンティティーなのである。


 という駄文を加えておきました。

 また、愚息への貴重なアドバイス、まことにありがとうございます。滅多に愚痴を言わない子のはずですが、通りで時に弱音の雰囲気がかすかに感じられる時があったことの意味が分かりました。医師になって5年になりますので、あの雰囲気では既に泥沼?に嵌ってしまったのかも知れません(笑)
                           頓首

編集後記: 上記の「滋陰降下湯+芍薬甘草湯+五味子をいれるために小青竜湯」という配合は、うかつに初心者やシロウトが真似してよい配合ではなく、あくまで弁証論治にもとづく専門家の配慮によってなされるべき配合である。これら三処方の配合によって甘草(カンゾウ)の配合分量が膨大なものになり、これによって水滞を生じやすくなるので、適応症があってはじめて成り立つ配合である。きっと配合比率を変化させるなどその辺の配慮はきめ細かくされておられるであろうから、継続服用が可能となるのである。
posted by ヒゲジジイ at 00:11| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする