2006年11月23日

薬系漢方業界も弱肉強食時代に突入間違いなし!

 もともとこのブログは一般の方よりも、同業者の訪問が多いことは各漢方メーカーの情報から既に承知のことである。
 それだけにきっと勉強熱心な同業者(薬局経営の薬剤師)が殆どだと信じて、今後の生き残りの方策とヒントを伝授しておきたい。
 中には「村田ワールドですね」と揶揄する同業者もあるそうだが、ヒゲジジイとしては褒め言葉として受け取っているつもりである(笑)

 それでなくとも医療用漢方に圧されてジリ貧気味の薬系の漢方業界である。と言っても医療用には見られないユニークな漢方製剤がまだまだ豊富にあるので、知識と経験さえあれば、治りにくい病気でもかなり緩解に導けることは間違いない。
 ところが、昨今気がついたことに、業界内では顰蹙ものとしてヒソヒソささやかれても、あまり公然とは論じられない問題に、ヒタヒタと押し寄せるネット上での価格競争である。

 HPを持たない多くの漢方薬局も、お馴染みさんが突然みえなくなったことで次第に事の重大さに気がつき始め、たまたまネット上の医薬品類のお誘い販売サイトの価格を知って呆然とし、家業を続ける意欲をなくしてサッサと店を閉じてしまった薬局すら出てくる始末である。

 ある漢方メーカーの幹部は、今頃の若い漢方薬局の経営者は、販売のことばかり考えて、勉強熱心な先生はほとんどいない。昔は勉強熱心な薬剤師さんばかりだったのに、実に隔世の感があるように嘆いておられたが、その幹部こそ、自社製品が安売り競争の対象品になっていることに腹ではほくそ笑んでいたに違いないと思うと、どっちもどっちじゃないかっ!と慨嘆せずにはおれない自縄自縛の漢方業界である。

 事ほど左様に今や薬系の漢方業界では、ネット上における安売り販売に戦戦兢兢としているのである。
 それに対抗するには同様に価格を下げると弱小店ではあまりに薄利でやっていけない。かといって、同列の土俵に乗って厚生労働省から再三再四、自粛を要請されている医薬品のネット通販に参入する勇気もない。
 それではどうすればよいか? 

 やはり対抗措置として、価格は下げざるを得ないだろう。後は知識と技術の勝負で付加価値をつける以外に生き残る道はないのである。

 当然のことながら、かくいう村田漢方堂薬局も断然対抗措置を取り、
 我が薬局では、今はやりのメタボリックシンドロームにかなり効果のある扁鵲(へんせき)という漢方薬は、昨年まで愛用者が多かったのに、メタボリック症候群が騒がれだした途端、販売量が激減した。
 「食わずに走れ!」などと見も蓋もないアドバイスを贈っていたのが功を奏したものと思っていたが、それにしても不思議なので、ふと思いついてネット上の医薬品のお誘い販売サイトをネットサーフィンして納得した。

 知らない間にネット上では安売り合戦が始まっていたのだった。それを知って急遽どこにも負けない安価に設定し、加えて他の漢方製剤を総点検したところ、従来からどこにも負けない安価な製品も多数あったことに我ながら驚いたものの、世間並みだったものも、一律、どこにも負けない価格設定に急遽変更したのだった。

 紅顔の美少年(?)の時代にはボクサーになりたかったくらいだから、何でも負けるのは歯がゆいもの。ネット販売によるお誘い販売こそ、断じてするつもりはないが、当方のHPやブログ類を見て遠路はるばるやって来られる人が増える一方の昨今である。彼らや彼女らは、当方の腕と知識を見込んでくれたことに間違いないにしても、ネットで調べてこられるくらいだから、後々価格面で引け目を感じたくないのが人情というもの。

 我が薬局のような弱小でも、もともと日本一販売量の多い製品を複数もっているほど薬系の漢方業界というのはトテモ狭い世界である。
 だから、どこにも負けない価格設定にすれば、当然薄利になって面白くもないが、ピント合わせだけに当方の知識を利用されて、ピントが合ったからといって他の安売り店に直行されたのでは、イヨイヨもって面白くない。
 そんな不義理をされるくらいなら、どこにも負けない価格設定をしておくに限ると考えたまでのことだ。

 但し、価格ばかりを比較する本末転倒の考え方の人は、従来どおり、お断りし続ける方針に変わりはない。

 かくしていよいよ、漢方薬業界では、乱売合戦によって随証治療も弁証論治も完全に忘れ去られ、病名漢方乱立の世界に堕するのであろうか?
 医療用漢方に圧されて薬系の漢方もここまで追い込まれたということだろう。
 本末転倒の「安かろう、ピンとは合わなかろう」の世界の悪循環に陥る自縄自縛の薬系漢方業界は、もはや救いようがないのだろうか?
漢方薬・漢方専門薬局薬剤師の憂鬱より)ということである。

 きっと耳にタコが出来るほど書いてきたと思うが、漢方と漢方薬の世界は、世間一般で認識されているほど安易なものではなく、適切な方剤を選択することの困難さは、専門家であればあるほど、学問が深まれば深まるほど理解されるはずである。だから知識と技術は絶え間なく磨く必要があるのはいうまでもないことなのだが、経済原則というどうしようもない大きな壁が後ろ側に聳え立つ時代である。
 このために、往々にして本末転倒して販売側は安売りに走ってピント合わせの重大問題を閑却し、軽医療の領域はともかく、難治性や体質病、長期に亘る慢性疾患などに困惑されているはずの病人さんまでもが、価格競争の世界に目が眩んで、重大なピンと合わせの問題をいつの間にか閑却して、安く買うことばかりが主眼に摩り替わって来かねない時代の風潮である。

 たとえ一度ピントが合った、つまり適切な漢方処方が見つかったつもりでも、四季折々の変化に応じて方剤を微調整する必要が生じることは再々であり、人間様の身体も経時変化するのだから、いつまでも同一方剤の組み合わせだけで通せるものでもない。
 そういう基本的な常識を閑却して、適切な方剤が決まったからと安易に安売り店に走った為に、二度と知識と経験が豊富だった専門家のもとへ相談に駆けつけることも出来ないだろう。(でも、そんな失礼を省みない時代風潮だから、そのような不義理は平気な時代かもしれないが・・・少なくとも村田漢方堂薬局では事情によっては二度と受け付けないだろう。

 このような事態を避けるためには止むを得ず、経済原則の波に飲み込まれざるを得ないのである。だから、今後、漢方薬局の経営を目指す人達の参入には相当の覚悟がいることだろう。
 医師の世界でさえ、昔のようには簡単に開業が出来ない難しい時代である。身内の医師にも開業を計画して、様々に調査したところでアッサリ断念した者もいる。
 小学校では競争を否定するような教育がいまだに行われているようだが、現代社会の現実こそ、過当競争に近い過激な競争が待っている。

 このような現実社会にそぐわない教育がいつまで続くか知らないが、どうせヒゲジジイもいい年だし、実際には高見の見物というところだが、日本漢方に中医学理論をどうしても取り入れようとしない我が愛する日本国の不甲斐なさが歯がゆい。
 同時に漢方薬を駆使すれば、なんとか8割以上の緩解に持ち込めるのに役立てる知識と経験は多少はあるものと自負しているから、またもちろん生業でもあることから、もうすこし頑張らざるを得ないということである。

 蛇足ながら、そもそもヒゲジジイのHTMLとCSSの知識と技術をもってすれば、漢方薬や健康食品類のネット上でのお誘い販売サイトを制作するのは朝飯前である。既に所持してまだ未使用の独自ドメインも10以上はある。
 その気になれば、半日で作って見せるが、さすがに適応を誤れば効果がないばかりか、たまには問題が生じかねない医薬品(漢方薬)のお誘い販売サイトだけは制作する気になれないし、第一プライドも許さない。明らかに横取りサイトを作ることになるのだから。
 かてて加えて、あれほど厚生労働省が再三再四に亘って、医薬品のネット販売(お誘い販売)の自粛を求め、法制化してでも禁止しようという動きもあるくらいのものを到底やる気にはならない。

 しかしながら、万寿霊茸などキノコ類が20種類前後で構成されたお気に入りの健康食品やウチダ和漢薬系の健康食品類くらいは、HP制作技術を活かしてどこにも負けない価格を掲げて、ネット上のお誘い販売合戦に乱入してやろうかという悪魔のササヤキがないでもない(笑)

 ところで、悪趣味にも上記のことをすべて3サイトくらい新に作って実現したと仮定すると、日本漢方の将来「中医漢方薬学」の提唱(平成元年の提言!) を発表した当時よりも、もっと大きく漢方業界を震撼させることだろうな〜〜〜と一人想像して楽しんでいる。
posted by ヒゲジジイ at 13:22| 山口 ☁| 繊細でデリケートなヒゲジジイ | 更新情報をチェックする

メマイ(めまい)の漢方薬 〔風痰上擾の場合〕

性別 : 男性
年齢 : 30歳〜39歳
簡単なご住所 : 北陸地方
具体的な御職業 : 鍼灸師
お問い合わせ内容 :いつも村田先生のサイトを楽しく、またいろいろ勉強させて頂いてます。
 わたくしは鍼灸院のかたわら、漢方を少しやっており、先生のサイトを見るようになってから中医学を勉強するようになりました。
 (まだ全然初心者ですが)サイトを見ていて大変お忙しそうなので、質問をためらっていたのですが、意を決して送らせ頂きました。
 何卒ご指導頂ければ幸いです。

当院に通う患者さんで年齢31歳で腰痛で通われてる方なんですが、以前からも時々あったのですが、寝不足などをすると、血圧が上がり、めまいを訴えられていたのですが、今回も4、5日前からその様な症状がでて、漢方での治療を依頼されました。
わたくしとしては、その方は太っていることもあり(165p105s堅太り)、また胸に痰を自覚的に感じており(出るわけではないです。)、舌苔が白膩で、時々便秘傾向、首筋が張った感覚があり、ソケイ部にかぶれ様の湿疹があります。

そこで、風痰上擾ではないかと思い、方剤として半夏白朮天麻湯もしくは導痰湯かと考えています。しかし、痰だけを除去するだけでなく、痰を作ってしまう病蔵にも働きかけるような方剤が必要なのではないか、また太っている事を考慮して、先生御推薦の九味半夏湯、もしくは防風通聖散(使いわけがよくわかっていませんが…)なども考えたら良いのか、はっきり言って大変迷っています。

 古方派漢方の時は、とりあえず、高血圧だからこれみたいにやっておりましたが、中医学を意識しだしてから正直方剤選びに悩んでいます。
 ましてや先程の未熟な見立もあっているのかどうなのか心配です。
 どうかご指導頂けないでしょうか。宜しくお願いいたします。

 また先生は痰やオ血などがあるかどうかは、どの様に判断されておられるのでしょうか?重ねてお願いいたします。

 ちなみに以前わたくしも師匠に寒温統一論を読むように言われたことがあり、先生と同じ様に温病勉強しなきゃいけないと、しょっちゅう言われてました。そこで温病関係の本は幾つか持っていたのですが、宝のもちぐされ状態でした。
 そこで先生のサイトを見るようになり、最近温病条弁を読んでいます。


お返事メール:拝復
 明らかな風痰上擾の兆候があれば、漢方製剤を主体に考える場合は、

日本で常用される「風痰上擾」の治療方剤『半夏白朮天麻湯』『釣藤散』について
 半夏白朮天麻湯や釣藤散あるいは導痰湯や滌痰湯が適応する「風痰上擾」は、脾不運湿によって湿聚生痰し、痰濁が少陽三焦を阻滞し膜原を障害して肝風内動を誘発し、一方では脾虚不運によって肝陰を滋補できないために肝陽が遊離して肝風を生じ、少陽三焦を通路として肝風が痰濁を伴って上擾するものである。

 脾胃論の半夏白朮天麻湯は、同名の方剤半夏白朮天麻湯(《医学心悟》【組成】 製半夏 陳皮 茯苓 甘草 白朮 天麻)に比べて薬味がかなり多く、日本で常用され、製剤化されたエキス製品も各種販売されている。補気健脾・淡滲利水・化痰熄風の効能があり、脾虚湿困・湿聚生痰・痰濁内阻・肝風内動・風痰上擾の病機に適応する。実際の臨床では、めまい・頭重・悪心・嘔吐のみならず、頑固な浮腫に、あるいは下痢や軟便傾向があり軽度の膵炎や潜在的に膵臓が弱っていると思われる者にも有効である。

 釣藤散は日本では特に常用される化痰熄風の方剤であり、平肝清熱・補気健脾の効能を併せ持ち、脾虚肝旺・痰濁上擾・肝陽化風および化火の病機に適応する。但し、風痰による痰濁上擾が顕著であれば半夏白朮天麻湯を、肝陽化風の原因として明らかな肝陰虚が認められれば杞菊地黄丸を、肝陽化火が顕著であれば黄連解毒湯などを併用する必要がある。このような二〜三方剤を併用すべきものに、高血圧症や俗に言うメニエール氏症候群などがあり、脳血管障害の前兆の場合もあるので牛黄(ゴオウ)の併用も考える。血オの兆候がわずかでもみられれば、慎重に適量の『生薬製剤二号方』を併用する。

 風痰証が遷延すると風痰証が残存したまま痰互結証に発展することが多く、脳血管障害の後遺症によくみられる。それゆえ、エキス剤を利用する場合は適宜ウチダの『生薬製剤二号方』を用い、あるいは牛黄製剤なども併用するとよい。牛黄には強力な熄風清熱および開竅と豁痰の作用もある。

 但し、釣藤散証のように肝陽偏亢や肝陽化火の傾向がある場合は、血オの徴候がみられても単独で『生薬製剤二号方』を用いてはならず、併用する場合においても過量であってはならない。もしも単独で使用したり併用量が過剰であると肝陽偏亢を助長したり、あるいは肝火を盛んにし、却って逆効果となる場合があるので、杞菊地黄丸などの滋陰剤や黄連解毒湯などを併用するなどして、配合バランスを十分配慮して投与すべきである。

 これを参考にされると良いかと存じます。

 ここに書いることは、現実の経験に基づいていますので、的確に配合すれば、比較的速やかに緩解するものと思います。
 白膩苔があれば、少なくとも痰濁はそうとうにありそうですので、まずは肥満の問題を考えるよりも先に、忠実な弁証論治にもとづいて、例えば釣藤散に半夏白朮天麻湯を合方し、諸条件によっては、たとえば腎陰虚を伴っておれば六味丸系列の方剤を追加するなど、様々な配合が考えられるはずです。

 但し、この方の眩暈症状はどの程度のものか? 天井がぐるぐる回るほどひどいものか、単にふらつく程度か、耳鳴りは伴うのか伴わないのか、悪心、嘔吐はどうなのか等、細かい点での情報不足ですので、何とも申しにくいわけです。

 ところで「痰やオ血などがあるかどうかは、どの様に判断」しているのか?との御質問については、基本的には皆さんがされていることと大同小異だと思います。
 ただ、特徴があるとすれば、根掘り葉掘りと、様々な視点から細かいところまで質問攻めで、あらゆる角度から検討しますので、かなり時間をかけたぶきっちょな漢方相談となっています。ですから病人さんは、表現力のある人、客観的な報告をする言語能力を必要とします。
 だから、よく噂される神業のように「黙って座ればピタリと当た」る世界とは、まったく無縁の薬局で、こちらの納得が行くまで質問攻めに合わせてしまいます。
 だから、本気で時間を惜しまず頑張れる人でなければ、漢方薬を販売することが出来ません。それほどブキッチョな漢方薬屋です。

 なお、釣藤散合半夏白朮天麻湯合六味丸により、一週間に三日は寝込んで眩暈・耳鳴り、嘔吐を繰り返し、ひどい眼振のあった中年女性の重度の持病が数年間の服用で根治させれた人もあります。前後10年は続服し、廃薬後も十年間、未だに再発はみられていません。
 風痰上擾による眩暈の重症例としては典型的でした。

 ところで、もしもめまいなど軽症の方であれば、仰るとおり九味半夏湯加減方の扁鵲(ヘンセキ)程度でも十分治せる可能性があると思います。しかも肥満の解消を兼ねて!

 但し、風痰上擾が明らかであれば、九味半夏湯加減方の扁鵲は、桂枝や升麻が配合されている為に風痰上擾には一切効果はなく、ましてや防風通聖散などは以ての外ということになりますので、いずれも使用すべではありません!

 風痰上擾が明らかであれば、やはり
 http://www.cyuikanpo.com/hu.html に沿った方法が無難と思います。
 風痰上擾の判定としましては、眩暈がかなりひどく悪心や嘔吐を伴えば、白膩苔があることから、この場合は明らかに風痰上擾は間違いないことになります。

 また、もしも白膩苔に黄色がかかっていれば、明らかな湿熱も同居していることになりますから、重症者の風痰上擾では、釣藤散に牛黄を加えたりする工夫も必要になるかと存じます。

 以上、簡単ながらお返事まで。
                    頓首
posted by ヒゲジジイ at 00:12| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする