ご質問者:東海地区の内科医師
前略 本日の診療で、アトピー性皮膚炎の患者さんが数名受診されました。そのうちに、最近になって推奨の3点セットの趣旨に従って投薬を始めたかたは一様に改善が目立ちます。
当診療所に受診なさるかたは、ステロイドを使用したくない、あるいは、控えたいという意向のかたがほとんどです。
したがってその是非はともかくステロイド外用剤は重症のかた以外には使用していません。
このような状況での効果の発現は正直いって驚きです。ひょっとすると他の疾患、とくにアレルギー性のもの、喘息とか蕁麻疹などにもあてはまるのかもしれないと思います。
ちょっと面白くなってきました。
ありがとうございます。
前置きが長くなりましたが、本日ご教示いただきたい患者さんは、50台後半で、・・・・・・・・をなさっているかたです。数年来の慢性の乾性の咳を訴えとしたかたです。
さまざまな病院、漢方を扱う医院(当地域ではかなり有名)を受診しても軽快しないとのことで来院なさいました。
職業の関係から喋る機会が多いそうですが、そのようなときにきまって咳き込み、なかなか止まらないそうです。顔面は紅潮し、舌は紅、脈尋常、腹部は常時みぞうちに冷感、臍下虚を観察しています。
わたしのような・・・の中医弁証(自分の場合、和漢的評価とチャンポンになっていると思います)として、肺陰虚・腎虚・裏寒を考え、これまでにエキス剤、ツムラ29麦門冬湯、64炙甘草湯、7八味地黄丸、93滋陰降下湯、119苓甘姜味辛夏仁湯などを処方しましたが、残念ながら患者さんに満足のゆく改善は得られていません。
とりあえず頭に浮かんだ患者さんの病像です。まだ通っていらっしゃるところから、期待を寄せていると思い申し訳ないです。
なにか、ヒントを教示いただけますと幸いです。
ヒゲジジイのお返事メール:拝復
慢性乾燥性の咳嗽の方には、いかにもそれらしい方剤を使用されているのに、効果がないというのが不思議です。麦門冬湯や滋陰降下湯で効いていても良さそうに思うのですが、無苔であれば、ますます滋陰降下湯などで、少なくとも五割くらいは緩解してもよさそうに思いますが不思議ですね。
「常時みぞおちの冷感」とありましたが、これ自覚的なことでしょか?もしも他覚的なことなら、あまりあてにならないと愚考します。脂肪などが多ければなおさらです(笑)。
とは言え、腎陰虚があって慢性咳嗽とくれば、中医学的には明らかに麦味腎気丸(六味丸+麦門冬、五味子)を投与すべきだと思います。それも気長くつづけるつもりで。
医療用にはこれが見当たりませんので、まだ使用されていない(92)滋陰至宝湯と六味丸の併用というのも可能性があるかもしれません。92番にはさいわい麦門冬も入っていますので。
これでも駄目なら西洋医学的発想も行って気管支の痙攣を止めるつもりで、芍薬甘草湯に六味丸の併用です。
(但し、専門誌時代から書いていることですが、ブログ類にも書いていますように、日本の芍薬甘草湯の配合比率には常に疑義があります。甘草と芍薬が同量というのはいかにも芸が無さ過ぎると愚考します。甘草と芍薬の比率は1:3くらいであるべきではないでしょうか。)
ところでアトピーの「三点セット」と言われるのは、黄連解毒湯と六味丸、猪苓湯のことでしょうか?
村田漢方堂薬局には、「三点セット」と名の付くものは他にも複数あり(笑)、昨今のアトピー性皮膚炎に対する「三点セット」は、上記のものとは異なり、すでに医療用漢方をやりつくした人が多いため、黄連解毒湯を含まない三点セット(残念ながら医療用にはない漢方系医薬品が主体で、直接の来局者だけに伝授しています。アトピー性皮膚炎の漢方薬+自然療法)が主流となっています。
この方法を主体にしても3割くらいの人には、はっきりとした効果が出るのに数ヶ月かかる場合がありますが、重症者が多いので仕方がないかな、と思っています。(でも7割の人は10日以内に明らかな効果が出ます。)
以上、簡単ながらお返事まで。
村田恭介拝
折り返し頂いたメール: いつも早速のお返事ありがとうございます。 明日からの診療の助けになります。
麦味腎気丸(六味丸+麦門冬、五味子)、(92)滋陰至宝湯と六味丸の併用は試みたことがありませんので、考慮してみたいと思います。
気管支の痙攣を止めるための、芍薬甘草湯に六味丸の併用というのは興味深いです。
アトピーの「三点セット」ですが、当診療所では、清熱剤として以前黄連解毒湯を使用していましたが、現在は白虎加人参湯を使う症例が多いです。猪苓湯はほぼ全例に処方しています。
加えて脾虚のかたがいまのところ多く、そのようなかたには六君子湯、人参湯を処方しています。当診療所に来院のかたは比較的近隣であるということ、漢方を手ほどきくださった先生の教え、「漢方薬はちゃんと選択して差し上げれば数日で効果発現を確認できますよ」に従って初診の患者さんは1週間以内には評価しています。
さいわい、数日で効果は確認できています。 もちろん、全身にわたって系統的に改善するのにはそれなりに時間を要すると思っていますが。
「脾臓肺病」というコンセプトは新鮮でした。
編集後記: 下線は編集者によるものだが、その「脾臓肺病」はおそらく、
脾肺病としてのアトピー性皮膚炎 と思われる。
2006年11月11日
慢性乾燥性の咳嗽に対する漢方薬の御質問
posted by ヒゲジジイ at 23:16| 山口 ☁| 中医漢方薬学問答
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