2006年10月07日

中医学上の基礎的な御質問

性別 : 男性
ご職業 : 医療・福祉関係
具体的な御職業 : 薬剤師
簡単なご住所 :関東地方
お問い合わせ内容 :
 気虚による経早による場合経量は脾の統血作用低下と考えると増加すると思うのですが脾陽不足と考えると血の生成ができないので減少すると思うのですがどちらなのでしょうか。

 肝うつによる経乱はなぜ生理が来ると痛みが軽減するのでしょうか。

 腎虚の為衝任脈が空虚となり陰血に対する調節機能が失調すると経乱が起こる。とはどういう事なんでしょうか。

 基本的な質問で申し訳ありませんが現状ではいくら考えても解りません。よろしくお願いします。


お返事メール:拝復

 肝鬱云々の問題は「通ぜざれば痛む」というのが中医学の常識であり、したがって通ずれば疼痛が軽減することは、中医学上の基本中の基本です。

 このレベルの問題に疑問を呈されることは、まともな基礎中医学の教科書の通読がなされていない証拠です。

 したがって、脾気虚・脾陰虚・脾陽虚の違いを説明しても無駄でしょう。このレベルの問題は基本的な中医学教科書にはすべて書かれているはずです。

 肺脾に関連深い「気虚」という広域の概念にしても、脾だけにしぼれば脾気虚ということになりなますが、教科書的に言えば、脾気虚と脾陽虚は明らかに異なる概念です。
 重複することはあっても、脾気虚はあくまで脾気虚であって、脾陽虚とはあきらかに概念上の違いがあるということです。

 もっと基礎中医学を繰り返し読まれる必要があります。基本中の基本概念に対する理解を徹底的に繰り返されるべきです。

 たとえば、参苓白朮散(ジンレイビャクジュツサン)の適応証は脾気虚と脾陰虚の合併した脾気陰両虚であり、脾陽虚に対応する要素はほとんどありません。

 ひるかえって単に「気虚」という表現をするからには、通常は「脾肺の気虚」を意味するかなり広義の気虚であるのですが、しかしながら、その後に続く説明によってどの臓腑の気虚を指して述べているのか判明するはずです。

 腎虚にしてもそうです。腎虚にも腎気虚・腎陰虚・腎陽虚・腎の陰陽両虚とさまざまにあるわけですから、前後の文章から「腎虚」の意味するところを把握して理解しなければならないのですが、貴方の疑問を呈される「腎虚の為衝任脈が空虚となり陰血に対する調節機能が失調すると経乱が起こる。」については、すべて回答はこの引用された文章の中に書かれているではありませんか!

つまり結局は、「腎虚のために衝任脈が空虚となれば、陰血に対する調節機能が失調するので、このために月経不順となる」

 ということですから、何の疑問を呈するところがあるのでしょうか?
 
 疑問に思われること自体が不思議なくらいですが、上記のように小生が書き換えた日本語を暗記してしまうことです。それ以外に理解する方法はないでしょう。

 以上、ややキツイことを申し上げましたが、ヒゲジジイの毒舌にめげず、頑張って下さい。
                         頓首

村田漢方堂薬局 村田恭介


追加で届いたメール:最近中医学を独学で勉強し始めたもんで愚問ですいません。


ヒゲジジイ補足メール:拝復

脾虚にからんで、たとえば脾湿の問題だけを取り上げて考察すれば、

脾湿についての考察

 これだけの複雑な違いがあるのです。

 しかしながら、現実的な漢方処方の有機的な応用は、このような地道な基礎理論の修得により、常道からはじまって、変則的なもの、裏読み的な応用力を養わなければ、まったく実用的な知識とはならないのです。

 基礎理論はトテモ大切で、徹底的に学ぶ必要がありますが、現実には教科書的な病人さんというのは(極端に言えば)ほとんど存在しないと言ってもよいくらいで、教科書通りの病人さんがいるものと信じて処方運用をしても、なかなかピントがあうものではないわけです。

 かといって基礎理論の修得をおろそかにしていれば、永遠に漢方処方を理解して、漢方相談において、常にピンとはずれな、あてずっぽうの処方ばかりを奨めてしまうことになりかねません。

昨今、当方には全国各地から、地元でトンデモナイ処方を投与され、却って逆効果の方剤により困り果ててやって来られる人が、信じられないくらい増加中です。(本日も関東から予告ナシに突然来局された方がありましたが、過去三ヶ所の医療機関で、保険漢方を長い間、継続してきて、ほとんど無効だった方でした。

 自分の腕の悪さを棚に上げて云うのもなんですが、ピントの合った方剤を推奨できる能力を養うことは、並大抵の努力ではなかなか困難なもののようです。すくなくともピンとはずれの方剤を奨めることのないよう、基礎理論は徹底的に学ぶ必要があります。

以上、追伸的にお返事まで。

村田漢方堂薬局 村田恭介


重ねて念押しの質問メール: 気虚による経早の経量は多くなるのか少なくなるのかどちらなんでしょうか。肝鬱による月経痛はなぜ来潮すると軽減するのでしょうか。


ヒゲ薬剤師の最終回答:正解は、気虚による早経とあるように、単に気虚と表現されるからには主として肺脾の気虚を指すものであり、「気不摂血」による月経過多が生じやすいものです。

この「気不摂血」という熟語も、基礎中医学の基本中の基本です。

そもそも、気虚とあるのに、わざわざ気をきかせて脾気虚や脾陽虚を持ち出す必要はないのです。

単に気虚といわれる時は、主として肺脾の気虚を意味するものです。

肝鬱云々については、すでに最初にお答えしたとおりです。
                           不悉
posted by ヒゲジジイ at 00:34| 山口 ☀| 漢方と漢方薬関連の御質問 | 更新情報をチェックする