2006年09月20日

補中益気湯プラス六味丸は万能処方たり得るか?

性別 : 男性
年齢 : 40歳〜49歳
簡単なご住所 : 関東地区
ご職業 : 医療・福祉関係
具体的な御職業 : 薬剤師
お問い合わせ内容: 中医学の初心者なのですが入門書を読んでいて思ったのですが補中益気湯プラス六味丸で気。血。津液すべてが整う万能処方ではないか思うのですが正しいでしょうか。

 かなりの患者さんの本治法に使えると思うのですが。補法で。

 基本的で大変申し訳ないのですがこういう処方と抑肝散などの肝のそせつ.条達作用を整える処方とは併用するもんなんでしょうか。

 ストレス社会向きの処方だと思うのですが。虚実きょう雑向け処方で考えていいんでしょうか。


ヒゲ薬剤師のお返事メール: 拝復

 補中益気湯プラス六味丸は、たしかにとても良い処方で、当方でも繁用しています。現実には全身性エリテマトーデスの人に、このタイプの人があり、抗核抗体の640から一年も経たずに80まで下がり、頑固な微熱と倦怠感も解消して既に継続数年以上になる人や、やはりこのタイプの人で、潰瘍性大腸炎を緩解に導いたりしています。
 適応するタイプであれば、かなり広い領域の疾患に応用出来るのは確かです。

 しかしながら、万能処方というには明かに言い過ぎですし、ましてや「気。血。津液すべてが整う」という表現は、まったく意味不明であり、仰る意図を汲み取ることすら出来ません。

 第一、個人個人の体質によって五臓六腑の機能失調の状況や、体内を流通する気・血・津液・精の盈虚通滞(量的に過剰か不足か、流通が過剰が停滞かなど)は、それぞれに異なるものなのですから、中医学的観点からは万能薬などというものはあり得ないはずです。

 単純に言っても、個人の体質と病気の性質は、各種各様ですので、万能処方などというものは、理論的にも現実的にも決してあり得るものではないでしょう。

 多くの人に有益なものであるという観点から言えば、それは特定の漢方処方などではなく、必須アミノ酸や微量ミネラル類など、人間が生きる基本的な栄養素としての全人類共通万般の栄養素ということは当然ですが、漢方処方においてはこれに類したものはあり得るはずがありません。

 個人個人の特殊性に対する中医学の弁証論治の方法論において、万能処方は絶対にあり得ないということです。

 また、教科書的には本治法といわれる解釈は間違いではないのですが、ある種の体質と病状の人にとっては、補中益気湯プラス六味丸は、標本同治する方剤でもあるのです。
 六味丸自体を考えてみても、松浦薬業の漢方製剤の一つとしてヒゲ薬剤師自身がアドバイスした「中薬 三補三瀉湯」という名で販売していた時代もあったほどです。六味丸を別名、三補三瀉湯と名付けたのも、地黄・山薬・サンシュユの三種類の補薬と、沢瀉・茯苓・牡丹皮の三種類の去邪薬としての瀉薬として、昔からこのように表現されているからです。(正確には、茯苓は去邪薬でもあり補益薬でもある両面性のある生薬ですが・・・)

 補中益気湯にしても、黄耆や人参の補益薬のほかにも去邪薬である柴胡や升麻があるなど、個別的に見ても、補益方剤とされる方剤であっても、多くは一つの方剤で、多かれ少なかれ「扶正と去邪」を兼ね備えているものなのです。

 ですから、先の全身性エリテマトーデスの人にとっては、最初から補中益気湯プラス六味丸で対処したわけですから、本治法だけで押し通したと言うよりも、正確にはこの配合によって、標本同治・扶正去邪を行ったのである、と表現すべきであると思います。

 また、最後の御質問、

「抑肝散などの肝の疏泄.条達作用を整える処方とは併用するもんなんでしょうか」

 という点については、弁証論治の結果によってはあり得ないことではないでしょうが、ちょっと不細工(笑)な配合に見えるのは確かで、そのような弁証結果が出た場合は、もっと上手な他の配合があるのではないかと思います。
 でも、臨床の現実には、不細工も何も言っておれないので、本当に必要とあればあり得ることだということです。
 
 なぜなら、弁証論治によって配合処方を考える時には、方剤単位の検討だけで判断すべきではなく、各処方に配合されている各薬味一つ一つの配合分量と、それぞれの薬味ごとの薬性・効能といったものこそ検討対象にして各方剤を応用すべきときがあるからです。
 つまり、方剤単位の効能は二の次にしなければならないことも多々あり得ることだし、またそのような応用力がなければ、現実の様々な疾患には対処することが出来ないからです。

 以上、簡単ながらお返事まで。
                            頓首

村田漢方堂薬局 村田恭介

追伸

 虚実挟雑についてのコメントを忘れていましたが、厳密に考察検討すれば、殆どすべての方剤が(虚と実の比率の違いこそアレ)虚実挟雑に対処する方剤となっています!

 この深意が本当に理解できるようになれば、中医学の本質がかなり把握できたことになると思います。
posted by ヒゲジジイ at 19:19| 山口 | 中医漢方薬学問答 | 更新情報をチェックする